そんなお困りごとありますか?
実はそれ、速いパッセージの音楽的意味を知らずに、または無視して速さだけを追求しているからかもしれませんよ。
カチカチやってさえいればテンポは上がる?
楽器練習の相棒、メトロノーム。
メトロノームと一緒に練習することで、音の長さ、リズム、時間の掛け方などを能率的に身につけていくことができます。テンポアップをする際にもメトロノームを使う方が多いと思います。
しかし、メトロノームは速度を上げるための道具ではありません。あくまでも、時間の長さについて知るものだと私は考えています。
テンポtempoもイタリア語の意味は【時間】。「速さ」という意味ではありません。
どんなに速いパッセージや連符でも、それを構成する各音符が持っているのは長さです。長さの違いがリズムを生みます。
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さて、毎日1メモリずつメトロノームを速くすれば指定テンポで演奏できる!と考えがちなのですが、果たしてそれだけで良いのでしょうか?
どこかで引っかかったり、ある程度速くなってから一向に進まなかったり、あるいは演奏できているようだけど心がドキドキしたり不安になったりしていませんか?
どんな音楽家を知ると突破口が開ける
例えば♩=126と指定されている箇所について、なぜ作曲者はそのようにわざわざ書いたのでしょうか?
どのようなコントラストがそのテンポ指定の前後にあるでしょうか?どんな音楽的意図があるのでしょうか?
仮にマーチでAllegro♩=126と指定されているとします。
Allegroはイタリア語では「快活」「陽気」「楽しい」という意味です。「速く」という意味はありません。(なので発想記号は速さ記号ではないのです)
そして♩=126とありますが、さて、どんな人や動物やモノがどんな風に歩いている様子なのでしょうか?
同じテンポでも、子供がチョコチョコ歩くのと、脚の長い大人が歩くのでは随分印象が違います。人間じゃなくて動物かもしれないし、空想の中の生き物や、現実世界では歩かない何かだったりするかも。
こういった音楽の意図をタイトルや作曲の背景などから探り、想像してみましょう。そうすると「本番でどういう風に耳に届いたらいいか」が見えてきます。ゆっくり練習の時点からその通りに演奏していくのが大変に能率的です。
数字だけを追いかけるよりも、より自然な演奏の手助けになります。
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指が回ってないのじゃなくて、ぼんやり覚えているだけかもよ〜〜
『マカラ』による具体例
わたしが『マカラ』(西村朗作曲)という作品に取り組んでいたときの体験をお話します。
作品後半にScherzando Prestissimo (very fast!)と発想記号が書かれてある箇所があります。拍子は16分の9。作品の動機である半音の動きが様々に出てきます。
譜読み開始当初から様々に分析と想像をしながら練習を進めていました。
最近になって、この場面は聖なる怪魚であり大河と大海の水を自由に操るマカラが、水の渦をあちこちに起こし、その中に愚かでよく深い人間が飲み込まれているイメージが湧いてきました。
Scherzandoが人間の滑稽さと愚かさ、 Prestissimoは渦そのものと、素早く飲み込まれ消えていく人間の体の一部分に思えてきました。
Prestissimoについては、マカラの半魚である下半身の動きと鱗のギラツキにも思えます。
なーんてことを想像していたら、テンポの目標をどのくらいにするか決めることができました。
そうしていたら、テンポアップの過程がよりスムーズに進み始めました。音楽的意図を知ることで小さなブレイクスルーが起こり、熟達がグっと進んだのです。
ちなみに、わたしがここを表現するために選んだ速度は動画の1.3倍くらいになります。
速くするより自然と速くなるような練習が吉
そのためには【その一連の動きが自分にとって簡単な状態になっている】という状態を作ればよいです。
簡単な状態とは、そのやり方を知っていてスムーズに動作が可能ということです。
脳内の情報が整理されていて、スムーズに伝達され、動作としてアウトプットが実現する状態です。
[やり方]の詳しい内容は、息の量、長さや圧力のバランス、強弱のバランスや変化のタイミング、音のまとまり、楽曲内での役割、運指、運指のつなげ方、そのための体の使い方、メンタルの持ち方などです。
そしてこれらがコーディネーションされ、マルチタスクで働くことが演奏するということ。連符や速いパッセージなるとこれらの情報処理速度が非常にスムーズであることが必要です。
これが【自分にとって簡単な状態】です。
ちょっと難しく書いてしまいましたが、シンプルに言い換えると、どんなに速く演奏できても不安でドキドキしたり、パニックになったり、秋田弁で言うところの「ハカハカ」している状態は、そのパッセージが自分にとって簡単にはなっていないと言うことです。
こうなると本番のステージが心地悪い場所になります。なぜなら、不安なままだから。そうすると脳が警報を出し、体を必要以上に固めたり縮めたりします。これは演奏に有効な緊張とはまた違うものです。
テンポを上げるために必要なのは、無理やり時間内(テンポ内)に音を詰め込むのではなく、自分にとってそれが簡単な状態にしていくために期間を使って毎日マイナーアップデートをしていくこと、すなわちこれが練習です。
「そんなんじゃ、間に合わないよ!」
という声が聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか?
あなたの音楽的望みは「間に合わせること」ですか?それとも本番でスムーズにパッセージを演奏し音楽表現を実現することですか?
本番で「これ、難しいんです!」という様子で演奏することが美徳とされる傾向が日本にはあると思いますが、本当にそれでいいのでしょうか?
演奏者が心身ともにダメージなく、自然に、健康で豊かな演奏をするのが最も美しいことだと私は考えます。
なので、カチカチならして無理やり音符を詰めるのではなく、自然にスラスラ出てくる状態を作る。そのために脳の仕組みを利用して自分に教えてあげるようにジワジワ練習するのが吉です!
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まとめ
いかがでしたか?
- 速度指定がどのような音楽的意図を持っているか考えたり想像する
- 自分にとってそのフレーズが簡単になったらテンポアップを始める
- 無理な詰め込み練習は止める
- テンポアップ練習は一箇所あたり最大5分まで
- 無理矢理でなく、自然にスラスラ奏でられることを目指す。
- じわじわ練習
もしあなたがテンポアップについてお困りでしたら、参考になさってください。
Kodály Zoltán@Kodaly_botいちど、楽器を扱う手のアクションに結びついてしまった音の想像をもって歌うことになると、歌による音の想像を第一義的なものにすることに、なんといっても困難が生じる。
2021年04月16日 14:13
いちど、楽器を扱う手のアクションに結びついてしまった音の想像をもって歌うことになると、歌による音の想像を第一義的なものにすることに、なんといっても困難が生じる。ーKodály Zoltán
私も実際の練習で、“運動先にありきで器楽演奏する”のはダメだなぁ、と再発見しました。特にスケールやアルペッジオで気づくことが多いです。
実は私もずっと速いパッセージは苦手でした。メトロノームをカチカチしさえすれば指定テンポに到達すると考えていました。
しかし、いつもあと2割のところで熟達が停止。どうしてだろう?とずっと考えいろいろ実験していました。しかし、前出の練習動画の通り速いパッセージも演奏できるようになってきました。
そんな私の研究成果を余すところなくお伝えする講座がこちらです。
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