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マングースの尻尾 著:笹本稜平

105円読書-マングースの尻尾 マングースの尻尾

笹本稜平:著
徳間書店 ISBN:4-19-862115-2
2006年2月発行 定価1,680円(税込)









日本人の武器商人が活躍する笹本稜平のミステリー…マングースという渾名のフランス工作員が裏稼業に手を染めていて、縄張り争いを繰り広げるみたいなお話。長編っぽさも感じるけど、実際は連作短編の形式。

元商社員で、パリで服役経験もある戸崎真人は、釈放後…パリに居残り、武器商人の道へ。ある日、真人のパートナー、ラファエル・ポランスキーが何者かに惨殺された。ポランスキーの娘からその事実を伝えられた真人が、犯人調査に乗り出すと…事件のバックにマングースと呼ばれるフランス対外保安局の大物工作員が関わっていることが判明…マングースに復讐を果たすための激しい戦いが切って落とされた!

連作なのでトータルな感想…007(小説の方の)的な、スパイ小説でも読んでいるような…ライバルとの頭脳線。狡猾な仇敵マングースが、非常に回りくどく、手の込んだ罠で、毎回のように戸崎をピンチに陥れる。後半で反撃に出るまでは、何回、騙されてんねんと(警戒してるのに、いつも巻き込まれる事件の陰にマングースが!)…ツッコミも入れたくなるがお約束なので我慢。

国際情勢を背景に、いろいろな刺客、はたまた味方となるパートナーが出てくるのが魅力的で、それなりに面白いのだが、連作短編なので、それぞれの事件があんがいスケールが小さかったりして、各エピソードのラストでの盛り上がりに欠けてしまう。

中盤以降、良き助っ人となる日本人傭兵が登場してからは…話もようやくスケールがでてきて、ああ、今まではやっぱり最終話に向かっての、前フリだったんだなぁって感じ…短編として1話、1話ととらえるよりも、1本の長編として接した方がやっぱりよさそうだ。ラストで面白さを挽回してくれたし…マングースとの最終対決あたりも、けっこうヒヤリとした。

亡きパートナーの忘れ形見、ジャンヌとの…恋の行方も気になるところだが、真人の年齢がちょっとつかみにくいなぁ。ジャンヌは年齢がちゃんと描かれてるんだけど、真人はパリ在住9年目で、離婚歴ありとしか書かれてない。まぁ、ひと回り以上の年齢差はありそうな感じだけど…。






個人的採点:65点






ソロモンの犬 著:道尾秀介

105円読書-ソロモンの犬 ソロモンの犬

道尾秀介:著
文芸春秋 ISBN:978-4-16-326220-8
2007年8月発行 定価1,400円(税込)









最近は、このミスなんかでも話題になっている道尾秀介のミステリー。自分は「背の眼」と「向日葵の咲かない夏」を過去に読んだことがある。今回は「向日葵の咲かない夏」ほどではなかったが、やはり読者をひっかけるような仕掛けが…。

大学生の秋内静は、意中のガールフレンド・羽住知佳に告白もできず、自転車便のバイトにいそしむ毎日。そんなある日、知り合いの小学生が交通事故死した現場に遭遇。事故の直前に、小学生が連れていた飼い犬が起こした奇妙な行動から、死の原因を究明しようとし、やはり現場近くに居合わせた友人の友江京也が何か知っているのではないかという答えを導きだすのだが…。 

知り合いの小学生が何故、死ななければならなかったのか?というのを探りつつ…奥手な童貞主人公が、自分の恋に悩み、他人の恋に首をつっこみという感じの青春ミステリー風。親友やガールフレンドの怪しげな行動を目の当たりにして、事件もそうだし、色恋の方でも、「何か隠しているんではないだろうか?」と疑心暗鬼になって悩みまくる。

読者をひっかけるため、違和感のあるわざとらしい会話のやりとりで、隠してひっぱろうとしているのが目に見えていて、肝心などんでん返しが、素直に驚けない感じがする。何かあるというのを悟らせないで、あのオチにもっていってくれたらもっとベターだった。

いくら奥手だからって、ひと昔前のラブコメみたいな学生描写がちょっと嘘くさくて、ミステリーを楽しむ前に、そっちの方をもう少しなんとかならなかったのな?

また、平塚という実際の地名を出したわりに、描写がでたらめもいいところ…地元民としては、大石圭のようなご当地ミステリーとして楽しめるのでは?と期待してしまったが、まるで駄目。そんなんだったら、もっと地名などはぼかしてくれた方が良かったのにね。何で、平塚なんて選んだの?って感じ…。

読者を驚かす奇抜なアイデアは評価するが…全体的な雰囲気作りが、過去の作品に比べると、かなり凡庸だった。やっぱ、売れてくると手抜きになっちゃうのかな?






個人的採点:60点






ブラスレイター ジャッジメント 著:百瀬千代 原作:GONZO × ニトロプラス

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著:百瀬千代
原作:GONZO×ニトロプラス
角川書店 ISBN:978-4-04-473701-6
2008年7月発行 定価600円(税込)








昨年、TVで放映されていたアニメ「ブラスレイター」のノベライズ小説…自分も毎週欠かさず見ていた作品なので、なかなか興味深く読めた。ノベライズを担当した作家は、著者自身のあとがきによると、新人だそうです。


近未来のドイツ…突如死体がデモニアック、融合体と呼ばれる怪物に変身し、人々を襲う時代…ジョセフは事の元凶であるザーギンという男を捜し求め倒しながら旅を続けていた。おのれ自身も、融合体の一種である、ブラスレイターの力を使いながら。一方、融合体を討伐するための組織、XATに新しく配属されたアマンダ…交通機動隊時代の相棒で、一足先にXATのメンバーとして活躍していたヘルマンと再びコンビを組み、融合体退治の任務にあたるのだが…。

登場人物は同じに、TVシリーズ放送以前の、前日談的なオリジナルストーリーが描かれている。アニメにつながっていく話とは言え、そこまでの過程は知らないことが多いので、アニメのノベライズといえど、それなりの内容濃度を感じる読み物になっていた。

アニメのエピソードをなぞっただけのノベライズなど、下手な作家が書くと、それこそシナリオを読まされているようなそっけなさを感じてしまう事があるが…キャラの心情などはよく描かれているし、アニメの裏設定的な事柄も、読み解くことができる。

ただ、主人公のジョセフは、なんか微妙にキャラのイメージが違うかな?TVでも、後半ではかなりのメインキャラに昇格していたアマンダが、ジョセフと共にメインに描かれていた。また、メディアミックス展開され、コミック版も存在するが…アニメで唐突に出てきた“スノウ”の事なんかも、これから描かれるみたい。

ジョセフもアマンダもピンチになったところで終ってしまった…続刊あり。2008年10月に2巻目が出たようで、それで小説版の方は完結になるみたい。今のところ、まだ100円コーナーではGETできず…。






個人的採点:60点






サクリファイス 著:近藤史恵

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著:近藤史恵
新潮社 ISBN:978-4-10-305251-7
2007年8月発行 定価1,575円(税込)









日本での認知度は低い、自転車競技、ロードレースを題材にした青春ミステリー…大藪晴彦賞受賞のほか、本屋大賞なんかでも話題になった作品。近藤史恵のミステリーは過去にも何冊か読んでいる。

チーム・オッジに所属する新人の白石誓…ベテランで、エースを務める岩尾豪のアシスト役が、現在のチーム内での役割。ある日、出場した大会で誓に大きなチャンスが巡ってきたのだが…それと同時に、岩尾に睨まれると選手としてつぶされてしまうという噂を耳にする。実際に3年前に、チームメイトを半身不随に追い込んだ事故を岩尾は故意に起こしたというのだが…。

DVDで「シャカリキ!」っていう、やはりロードレースを題材にした映画(原作は漫画)を見たばかりなので、試合中の細かいエピソードなんかは、酷似するものがあり。題材が同じだとやはり似てしまうのか?ただ、そのおかげで、ロードレース特有のルールや選手の感情なんかにはすんなり入り込めた。

推理ものとして捉えると物足りなさはあるが、思った以上に、人間関係などがミステリアス…スポーツという見た目爽やかな世界にも、一歩踏み込むと、嫉妬の渦が渦巻いているのがよくわかる。

チームのベテラン選手が、チームメイトを巻き込んで起こした過去の事故が実は故意ではないか?という疑問を植え付けられた主人公が、疑心暗鬼になり、葛藤する姿がよく描けていて、疑惑の人物との会話などに…サスペンス的な怖さを感じる。

目次を見ると、後半部分に“惨劇”なんてタイトルの章があるので、何かが起きるに違いないとは思っていたんだけど…かなりこちらの予想を覆す展開が。そこから先で、ようやく過去の事件なども含めて真相がわかっていくんだけど…二転三転。

悲劇は起き、切ないながらも…真相がわかったことで、スポーツの奥深さが伝わってきて、なかなか感動的なラスト。ミステリにこだわらず、スポーツ小説、青春小説としても充分にお薦めできる内容。評判になっているだけあり、けっこう面白かった。文章も読みやすく、一気読みに最適。






個人的採点:70点






ネクロダイバー 潜死能力者 著:牧野修

105円読書-ネクロダイバー 潜死能力者 ネクロダイバー 潜死能力者

牧野修:著
角川書店 ISBN:978-4-04-352210-1
2007年11月発行 定価620円(税込)









角川ホラー文庫の牧野修作品…携帯読書サイトにてネット配信されたものを、加筆・訂正して書籍化したものだそうで…比較的、サクサクと読みやすい文章。悪く言っちゃうと、多少の物足りなさを感じるか?

物部聖は、女性が暴漢に襲われている現場に遭遇…そしてその矛先が自分に向けられた時に“死”を直感するのだが…気がつくと、病院のような場所の診察台の上に寝かされていた。そこには、クラヴィクルという男が一人…彼から人の死に自由に潜り込める“ネクロダイバー”についての存在と役割の説明とを受けた聖は、自らがネクロダイバーとなり、死んだ後も現世に残り、モンスターのように暴走する人の想いを駆除するための戦いに、否が応でも巻き込まれていく…。

ネクロダイバーというタイトルからして、その存在自体はちょっとアニメの「キスダム」を彷彿とさせるが、死んでるのか生きているのかあやふやな存在であり、死者のモンスター化した怨念を成仏させるなんてところは、「屍姫」みたいな内容だね。でもって、死者の世界へダイブするっていうのは、「RD 潜脳調査室」の電脳世界みたいなんだけど、こちらの小説の方が発表時期が早いから、「攻殻機動隊」あたりの電脳の解釈が元ネタかな?

純然たるホラーというよりは、牧野節が効いたダークヒーローものといった感じ…そのネクロダイバーが活躍する連作短編っぽい構成になってるんだけど、各話のプロローグ、事件のきっかけになる出来事がつづられるあたりの描写は、けっこうグロくて、キモかったりしてなかなかいいです。誕生編みたいな感じで、これからいくらでも続編が書けそうな感じだけど、今現在はこれ1冊どまり。

ネクロダイバーのアシストをする此岸要員と呼ばれる普通の人間が出てくるんだけど、聖の捜査の相棒になる女性此岸要員が、なんだか知らないけどオタクという設定。頭に肉って書いてみたり(どうやらコスプレも趣味のようで)、昔のアニメのヒーローの決め台詞とか言ったりするのが、場違いで可笑しい。小説だから良かったけど、もし映像になったら、このキャラ使えないんじゃないの?と、心の中で歩く著作権侵害キャラと呼んでました(笑)






個人的採点:65点






TOKAGE トカゲ 特殊遊撃捜査隊 著:今野敏

105円読書-TOKAGE トカゲ 特殊遊撃捜査隊 TOKAGE トカゲ 特殊遊撃捜査隊

今野敏:著
朝日新聞出版 ISBN:978-4-02-250387-9
2008年1月発行 定価1,575円(税込)









今野敏の警察ミステリー…誘拐事件を担当する特殊班“SIT”の話。タイトルの“トカゲ”は、事態が進展した時に瞬時に行動できるバイク部隊の覆面捜査官のことで、特殊班以外の刑事も召集される…主人公的なSITの捜査官二人がトカゲのメンバーということらしい。

大手銀行、ひので銀行の行員が同時に3人誘拐された。犯人の要求は十億円。連絡を受けた特殊犯捜査係、通称“SIT”の捜査員がさっそく行動を開始、犯人との交渉にあたる。特殊班、第一係の上野数馬は、同僚の白石涼子と共にバイク部隊、トカゲとして捜査に参加するのだが…。

話は大胆でけっこう面白い…最近の警察ミステリーは、警察内部の不祥事というパターンが増えてきたが(特に自分が読んだもの)、今回は銀行の暗部が事件の核心部分に関わってくる。警察の方は、お決まりの縄張り争いといったところか…。

ただ、タイトルで“トカゲ”を使っているわりに、その実際のトカゲの活躍が少ないような…刑事ドラマやハリウッド映画のスーパー刑事とは違い、目立たない隠密行動を主とし、他の捜査官たちのやりとりを横目に見ながら、いつでも事態の進展に適応できるよう、待機任務に耐えるというのは、リアルであるんだと思うけど。事件の背景を語るのに、トカゲが動けない時は、新聞記者を登場させ間をつなぐ。

犯人とのやりとりや捜査の過程は面白いのだが、ラストのどんでん返しは弱いか?SIT内部でも、最初の方から事件に違和感を唱える者がいたりして…かなり早い段階から犯人の目星はついてしまったのがもったいない。捜査方針で対立する、無能なキャリア監理官のおかげで、読者の方が“真相に近づいている”と感じ、優越感めいた気分を味わえるのは著者の配慮だろう(笑)






個人的採点:70点






ブランク 空白に棲むもの 著:倉阪鬼一郎

105円読書-ブランク 空白に棲むもの ブランク 空白に棲むもの 

倉阪鬼一郎:著
理論社 ISBN:978-4-652-08616-2
2007年12月発行 定価1,575円(税込)









倉阪鬼一郎が、理論社のミステリーYA!で発表した、一応ホラー要素の作品なんだけど、本格推理小説のように“読者への挑戦”があったり、著者のゴーストハンターシリーズのようなコミカルな語り口とキャラクター描写。

身体が揺れだし、髪の毛が瞬く間に真っ白になる、最終的には頭部が破裂して死に至るという、連続怪死事件が発生。その謎に挑戦するのは、超能力探偵の井筒志門。その父親で警察庁・迷宮課の掃部、モデルの妹・詩音、さらに天才将棋少年・かがみが加わり、人智を超えた邪悪な存在と対峙する!

最初こそ、吸血鬼のような部屋とか、黒猫なんて言葉が飛び出すので、吸血鬼探偵のゴーストハンターシリーズかと思ってしまったら、別キャラクター。でも、特殊能力を持っている探偵が主人公というのは、似た設定だね。もう一人の主人公ともいえる天才将棋少年のかがみ君って、竹本健治の牧場智久のパクリ(パロディ)か?

ホラー的な超常現象事件、「ウルトラQ」とか「怪奇大作戦」みたいな事件を、他人に視えないモノが視えちゃう超能力探偵が本格推理小説のように、謎ときをしていくというのは…ちょっと前に読んだ三津田信三の「十三の呪 死相学探偵1」とも雰囲気が似ていたけど…壮絶な“死”の描写が出てくるわりに、ギャグっぽい読みもので、怖さは感じない。

作品の中盤で“読者への挑戦”が挿入され、わりと早い段階で怪死事件の真相には到達するんだけれど、そっから先が、いつもの倉阪節とでもいいましょうか、“文字”のデザインや羅列で恐怖感を出しながら、あっちの世界へ飛んでっちゃって、ひっちゃかめっちゃかになってしまうという最終バトル。ああ、またかよと思いながらも…読んでる方も、こういうのは嫌いじゃないんだけどね(笑)






個人的採点:65点






グッドバイ 叔父殺人事件 著:折原一

105円読書-グッドバイ―叔父殺人事件 グッドバイ 叔父殺人事件

著:折原一
原書房 ISBN:4-562-03966-3
2005年11月発行 定価1,995円(税込)









倒錯シリーズなど、叙述トリックの騙される爽快感が病みつきになり、昔はよく読み漁った折原一を久々に読んでみた。ここ数年のヤツもいくつか100円で買って積読の中にあるんだけどなぁ。集団自殺がテーマの作品…自分は原書房、ミステリーリーグのハードカバー版を読んだが、2008年11月に講談社で文庫化されている模様。

練炭を使って集団自殺を図った男女4人の中に叔父がいた…叔父の四郎をはじめ3人は死亡したが、自殺者を募った主催者の女だけが奇跡的に助かったという。しかし、その女は意識不明の重体で現在は入院中。僕は、殺人事件ではないかと疑う叔母(叔父の腹違いの姉)の依頼で、自殺者たちを調べ始めるのだが…。

自殺志願者や自殺者の家族との会話から、事件の核心へと迫っていく。僕とは別に、集団自殺を調べるルポライターなども登場、自殺前と自殺後…つまり現在と過去が錯綜するような形で、状況によって、それらの人達の視点も変えられて、物語は語られていく。

明らかに不自然な構成や思わせぶりな表現がいっぱい…疑ってくださいといわんばかりなんだけど、まぁ、折原一だからドッキリが仕掛けられてるだろうと、承知で読み進めていると、作品の真ん中あたりでひとつめのどんでん返し。違和感の正体はそれだったかと…とりあえず納得しながらも、まだまだ事件の真相は語られない。

後半に入ってからは、僕が意外なことになり、さらに自殺者の決行直前の描写なんかも挿入されてきて、いよいよ事件の真相に近づき始めるという段取り。

叔父は自殺なのか殺されたのか?もし殺人だったら犯人はいったい誰?どういう方法で殺したのか?ということになるんだけれども…そこはある程度、予想通り。一応、折原一らしいトリッキーな仕掛けはあったが、昔みたいにすっかり騙されたという気分とはちょっと程遠い。また、ルポライターの正体は誰?というあたりも、にらんだ通り。

自殺者たちの不条理な心理面はよく描けていると思うのだが、昔のようにやられたぜという驚きはかなり低かった。



文庫版 叔父殺人事件―グッドバイ
講談社 2008年11月発行 定価730円(税込)






個人的採点:60点






警察庁から来た男 著:佐々木譲

105円読書-警察庁から来た男 警察庁から来た男

佐々木譲:著
角川春樹事務所
ISBN:978-4-7584-3339-6
2008年5月発行 定価660円(税込)








「笑う警官」に続き、佐々木譲の道警シリーズを読んでみた…前作に登場した刑事たちがまとも道警内の不祥事に立ち向かう。2006年にハードカバーで出たものの文庫化。

北海道警に、警察庁から監査が入った…生活安全課内で組織的に不正が行われているのではないかという疑惑が浮上したのだ。監査官の藤川は、かつて裏金問題で証言し、現在は警察学校へ左遷されている身の津久井刑事に監査の協力を要請する。一方、大通署、盗犯係の佐伯と新宮は、ホテルの部屋荒らしの捜査を担当するが、それが過去に風俗店で起きた、会社員の転落死亡事故の再捜査に発展する…。

前作に比べると、全体の物語はスケールダウンした印象も受けるが…前作からの続投キャラである、うたった刑事津久井と、大通署の佐伯・新宮コンビがそれぞれ別方向から事件を追いかけていき、だんだんと接点が出てくるあたりのリズムはなかなかである。

また、そうした前作の刑事たちの、その後を知ることができるのも良かった。新米だった新宮が、わりと生意気になってたり、佐伯と小島婦警の微妙な関係だったり…。肩身の狭そうな津久井が、やっとこ刑事らしい活躍もしてたね。

さらには佐伯、津久井に関係するもうひとつの過去にも進展があるなど、シリーズものとして安定した面白さが感じられる。活躍する刑事の数は減ったものの、今回登場の警察庁のキャリア監察官も…一癖も二癖もあるキャラで、魅力的。

今まであまり読んだことはなかったけど、ちょっとこれからは佐々木譲の警察ミステリーをチェックしてみよう。あと1冊、このシリーズではないんだけど「ユニット」という作品を100円でGETしてある。






個人的採点:70点






笑う警官 著:佐々木譲

105円読書-笑う警官  笑う警官 

佐々木譲:著
角川春樹事務所
ISBN:978-4-7584-3286-3
2007年5月発行 定価720円(税込)








角川春樹監督により映画化も決定、撮影もすでに終了し、年内公開予定だという…佐々木譲の「笑う警官」。ハードカバーの「うたう警官」を文庫化時に改題したものだそうで、中身の改稿などはないようだ。

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見…その身元がなんと道警の婦警であり、発見場所の部屋は警察官がアジトとして使用していた部屋だった。捜査上に、被害者と同じ部署の同僚で、交際が噂されている津久井巡査部長の名前があがり、やがて津久井に射殺命令まで下される。捜査から外された所轄の一部の刑事たちはこの対応に不審がるのだが、その直後、盗犯係の佐伯警部補の元へ津久井から連絡が入り…。

組織や同僚からもやっかまれる警官が殺人事件の容疑者にされてしまうが、何かがおかしいと感じ取った所轄の刑事たちが、汚名を晴らしてやろうと行動を開始する。道警の不祥事や権力争い、キャリア官僚などいろいろな問題を抱えながら正義を貫こうとする警官…大沢在昌の「新宿鮫」だったり、堂場瞬一の「鳴沢了」なんかにも似た雰囲気の作品だが…個性のある刑事が、チームワークで捜査を進めていくのがなかなか面白い。

特に、メインの佐伯本人は、司令塔となり…頭脳プレーで、仲間を動かし、敵の裏をかいていくのがなかなか良かった。津久井の事件が起きる前は、そんなイメージの刑事に見えなかったんだけど、意外な感じで面白かったな。作品のテンポと、リアルな雰囲気の相性がよく…一気に読破。確かに映画になったら、和製「24」みたいで、面白いかもしれないね、コレ。

佐々木譲は初めてだったんだけど、いくつか100円で見つけてあるので、続けて道警シリーズと呼ばれているこの作品の続編?「警察庁から来た男」を読んでみるつもりだ。






個人的採点:75点