白菊 著:藤岡真

藤岡真:著
東京創元社 ISBN:4-488-43602-1
2006年3月発行 定価700円(税込)

画商でありながら、インチキの超能力探偵としてTVで活躍する相良蒼司…実際は興信所などで調べた調査結果をもとに抜群の勘で推理力を発揮しているだけなのだが、そんな彼の元へ、大学助教授の男が訪れ、「白菊」という謎めいた絵画のオリジナルを探すよう依頼をする。興味を持った相良は、絵の調査を始めるのだが、その矢先に依頼人が失踪し、さらに何者かが相良の命を狙い始め…。
インチキ超能力探偵という如何わしさ…絵画の秘密探り、さらに主人公は何者かに命を狙われ…と、風呂敷を広げつつ、途中で、叙述トリックめいた小技も挿みこんでくるんだけど(でも、けっこう見抜ける)、一見、バラバラに見えたもんのが、どんな真相にたどり着くのかと期待していたら、複合的な結果が多く、少しテンションが下がってしまった。
事件の核心部分よりも、そこに至るまでの余計な枝葉の部分の方が魅力的…大黒屋光太夫が登場するプロローグとか、主人公のインチキ超能力の数々。まぁ、最後に明かされる秘密あたりは、ご愛敬…といったところか、それなりに伏線はバラまけれてたけど、あの最後のオチをもっと引き立てるには、あのキャラの出番がもう少しあっても良かったかなと思う。
美術、歴史から陰陽道なんかの知識までがいっぱいつめこまれているので、雑学が豊富にある人だともっと面白く読めるのかもしれませんね。個人的には推理小説として及第点な感じでした。
個人的採点:65点
女奴隷は夢を見ない 著:大石圭

大石圭:著
光文社 ISBN:978-4-334-74420-5
2008年5月発行 定価700円(税込)

父親の使いで横浜にある“ヨコハマ・スター・トレーディング”を訪れた女子大生の川上春菜…彼女はそこで、自分が家族に売られたという真実を伝えられる。そこには、他にも人身売買の被害女性が多数囲われていた…。一方、母から仕事を継ぎバイヤーを務める高野は、普段、感情を表すことが苦手なのだが…、新しく仕入れたサラという盲目の少女に興味を抱き…。
著者のあとがきでも触れられていたが、和製「トゥモロー・ワールド」な小説、大石圭の初期作品「出生率0」にも登場した人身売買のお話がメインに描かれる。あちらは近未来SF的な設定があったけど、こちらは特に記述はないので、普通に現代劇ということでいいのだろう…特にリンクなどはしておらず、セルフリメイク的なことだと解釈。
奴隷として売り買いされる女性たちのとんでもない現実と悲劇を、いかにも大石圭らしい変態チック、フェチっぽい性描写で描く一方で…仕事と割り切り、冷静に人身売買する主人公や仲間たちの日常が描かれていく。それぞれのバイヤーが女性や、女を買う変態野郎と接するうちに、感情の変化がおとずれという具合。
変態小説なのに、どことなく、純愛ラブストーリー風な流れになったりもして、読者に色々と期待させるんだけど、“これが現実だ!”というどん底に 突き落としてくれるのはさすがかな。いきなりこの作品を読むとびっくりするかもしれないけど、自分の場合は「出生率0」を読んでいたので、意外とテーマ自体は冷静に受け止めちゃった。
個人的採点:70点
人を殺す、という仕事 著:大石圭

大石圭:著
光文社 ISBN:978-4-334-74304-8
2007年9月発行 定価700円(税込)

子供時代のある日を境に届き始めた“C”と名乗る人物からの手紙…その手紙の指示通りに物事を実行したおかげで、順調に人生を歩んできた橘洋介…しかしいつしか「殺し」を命ぜられるようになってから、歯車が狂いだす。手紙に逆らったことから、母親と妻を失った洋介…可愛い2人の娘を守るために、“C”からの命令通りに次々と殺しに手を染めるのだが…。
“C”の正体が、きっと主人公の妄想か何かだろう、二重人格でした的なオチに間違いないと疑いながらも…ひっかかりながら読み続ける。まぁ、このあたりの解釈に関しては…読んだ人にゆだねるような感じなのかな?ホラーといいながらも、リアルな犯罪の延長での出来事が多い大石作品だが、今回はあえて、いわゆるホラーものっぽさを感じさせるつくりにしてきたのかなと好意的に受け止めてみたり。微妙な読後感がクセになる。
最近は、主人公の住んでる場所が、漠然と湘南と語られることが多く、前ほどあまり明確に表現されてない事もあるのだが、久々にきました…途中で、大磯が詳しく出てきた時に、たぶん…そうじゃないかなぁと、もう半分くらいはご当地もの気分で読んでたんですけど、最終ミッションでついに!
あの最終ミッション…去年の秋葉事件をちょっと彷彿させるが、この小説の方はそれ以前に書かれているわけで…相変わらず、ヤバいなぁと思いながら読んでしまう。家族を守るために、人殺しをする、本当は殺しなんてしたくないんだぁと悩んだりするのも、いつもほど変態チックじゃないんだけど…そういう形でロリータ変態ネタを入れてきますか!
人殺しなくせに、わりと常識人な主人公の日常に…敵対する変態が(どちらかというと、こっちがいつもなら主人公になりそうだが)!普通の作品だったらあそこまでいかないけど、大石圭はあそこまでやっちゃうんですね。あの変態も、敵にまわした相手が悪かったんだなぁ…なんせ相手はシリアルキラーだったんだから。
個人的採点:75点
飾られた記号 The Last Object 著:佐竹彬

佐竹彬:著
メディアワークス ISBN:4-8402-3061-7
2005年6月発行 定価620円(税込)

電撃文庫のライトノベル…殺人事件を扱ったミステリーっぽいものだというので、何か気になって、何冊かこのシリーズを集めてみたんだけど、予想以上に曲者だった…。
あらゆる物質は情報を持ち、情報は場としと存在するという概念が発見されて約半世紀…驚異の能力“情報学”を学ぶ唯一の教育機関パスカルに入学した朝倉渚は、ミステリアスなクラスメイト日阪道理に興味を惹かれる。ある日、パスカル内の図書館で殺人事件が発生し、渚は第一発見者に!しかし警察の捜査の過程で、渚の証言と食い違いが生じてしまう…。さらに道理も容疑者の一人として警察にマークされているようで…。
情報場だとか情報学ていうのが、イマイチ、ピンっとこないんだけど…勝手に、攻殻機動隊の電脳みたいなものを想像してみたよ。テレパシーみたいなので、物質を制御して、何でもできちゃうってことらしい。
話の筋としては、殺人事件に遭遇した主人公が、事件に首をつっこみ、容疑者に聞きこみをしていく過程で、矛盾点が見つかり、読者も犯人を推理できるというオーソドックスなミステリー展開。ただ、トリックなんかが、それこそ攻殻機動隊っぽいネタの組み合わせ技って感じだったな。
あとがきで、森博嗣の影響を受けたと自ら吐露していた著者だが、印象的には士郎正宗チックな近未来の世界や設定で、かなり古臭い本格ミステリーっぽいことをやっているというアンバランスさといったところか…ラノベ読者層には新鮮に映ったようだが、個人的には微妙だった。
小難しい講釈で煙に巻いてるけど、ミステリーとしてはイマイチ魅力不足。振り返ってみると、そういった講釈の中に、犯人の動機なんかもちゃんと伏線として隠されているなど、計算高さは窺えるんだけど、語り手の主人公や、探偵役のミステリアスな同級生も、やたらと感情が冷めてて(こういうところも、攻殻機動隊の素子なんかの影響かななんて邪推してしまう)、なんだか面白みに欠ける。
SFとして読めば、設定や描写を楽しめなくもないんだろうけど…森博嗣を真似たと言われると、一緒にすんな!と言いたくなるかも。これが著者のデビュー作みたいです。いずれは、続編も読んでみようと思うけど、続けて読むほどハマれなかったですね。
個人的採点:60点
回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲイター 著:小川一水

ジュエルボックス・ナビゲイター
小川一水:著
角川春樹事務所 ISBN:4-89456-753-9
2000年9月発行 定価756円(税込)

航空会社でフライトアテンダントになることを夢見ていた夏川伊吹…本命のシルバーウィングを含めことごとく不採用。養成学校の同期で、シルバーウィングの面接を突破した一宮令子の勧めで、新聞広告で見たJBNという会社の面接を受けることになったのだが、なんとそこは、社員がたった2名の弱小ヘリ会社だった。令子に対する意地もあり渋々、そこでアルバイトをはじめる伊吹だったが、来る日来る日も、雑用ばかりおしつけられ…。
スッチーの厳しい現実を伝える作品は、小説や映像作品でも色々あったけど、そのスタート地点にさえ立つこともできなかったヒロインが、代替えに選んだ仕事で…社会の厳しさや、人間関係、仕事の意味を学んで成長していく。文章も読みやすく、ハラハラドキドキし、エンターテイメントとして面白い読み物に仕上がっている。
基本的には人命救助の現場に接して、成長していくんだけど…映画やドラマのヒーローもののように、ただかっこいい部分だけが描かれるわけじゃない。簡単に人命救助といっても、法律や役所との兼ね合いだとか色々と障害があって、大変なんだよと。実際に過去の災害なんかでも、お役所仕事な縄張り争いみたいなのをしているうちに、救える人命が救えなかったりと言う失敗が数多くあったわけで、そういう部分を皮肉ったりもしている。
登場人物の過去などが上手に絡み合い、最終的にはパニック小説的な醍醐味も味わえるスケールの大きい話につながっていくあたりはなかなか鮮やか。実写映画にもなった漫画、アニメの「レスキュー・ウィングス」との連動で、その小説版も手掛けている著者。同じように積読の中にあり、自分はまだ読んでないんだけど…漫画、アニメ、映画は知っているので、題材的には近いものがあるのかな?と想像してみる。
個人的採点:70点
枯葉色グッドバイ 著:樋口有介

樋口有介:著
文藝春秋 ISBN:4-16-753104-6
2006年10月発行 定価790円(税込)

羽田で起きた親子三人の惨殺事件…半年経っても事件の目途が立たず縮小された捜査本部で、刑事の吹石夕子は、一人生き残った被害者家族の長女・美亜に疑いの目を向けていた。そんな時、代々木で女子高生が殺される事件が発生。その被害者は、羽田の事件で美亜のアリバイ証明に関わった女友達だった!二つの事件に関連があるのではないか?と考える夕子…事件現場で、警察学校時代に世話になった元刑事の椎葉がホームレスになっているのを偶然発見し、アルバイト代を払い、捜査を手伝わせることに…。
某タレントの嘘くさいホームレス話なんか読むより、よっぽど面白い…ホームレス探偵の大活躍(笑)事件は陰惨、ドロドロとした人間関係なんかも出てくるんだけれども…相変わらず皮肉屋のキャラクター、しかホームレスなのに、モテまくってしまうという樋口作品らしいキャラクターのアプローチが読んでいて楽しい。
「刺青白書」に似ていると書いたけど、コギャルが被害者だったりして、そこに、現代社会の批判めいたメッセージが込められたりしているのは、コギャルの連続暴行事件を描いた「ともだち」って作品にも通じるかななんて思ってみたり。
ということで、色々な情報で事件の行方を揺さぶるも、最後のオチは今風で、妙にリアルな結末…トリックやら動機という面で推理小説的なカタルシスを味わいたいような人には不向きな結末かもしれないが、そういうのを樋口作品に求めてはナンセンスだろう。500ページ近い作品を、キャラの魅力で最後まで飽きさせせない、語りの巧さは、さすがといいたいところ。
個人的採点:70点
闇の守護者 ロスト・ゾーン 著:樋口明雄

樋口明雄:著
角川書店 ISBN:978-4-04-391501-9
2008年9月発行 定価580円(税込)

角川のホラー文庫から出ている樋口明雄のアクションホラー…オカルトとホラー要素が強くなった「ターミネーター」といった感じの作品?いや、別にサイボーグ出てくるわけじゃないんだけど、主人公(表紙の人)が、なんかターミネーターみたい。
オカルト雑誌の記者・深町彩乃は、巷で続発する記憶喪失症疾患者の謎を追い、実家のある信州へ。その途中で、ミチルという少年と出会うのだが、ミチルは自分の帰る街が消えてしまったと不思議な事を言う。自分の追う、記憶喪失事件に関わりがあるのでは?と考える彩乃だったが、彼女たちの前に不気味な神父が現れた。どうやらミチルを狙っているようなのだが?逃げる二人の前に次々と怪異が立ちふさがるのだが…そこへミチルの守護者と名乗る男が現れた!
女記者が男の子を助けるんだけど、次々と化け物が襲ってきて、そこに…ちょっと野蛮で、不死身の男が颯爽と現れるんだけど、本当に味方なんだかどうだか怪しい。と…そんなことを繰り返していくお話。菊池秀行の妖獣都市とかにも雰囲気が似ているか?
現在でのテンポの良い異形とのバトルと並行するように、ミチルが体験してきた恐ろしい出来事を、回想みたいな感じで振り返っていくんだけど、ミチルの過去のパートは、なかなかホラーテイストがよく出てて不気味です。自分の住んでいる日常が、少しずつ変化していってしまうという、ウルトラQチックな雰囲気がよくでてて、なかなか面白い。
クライマックスは怒涛の急展開で、えっっという驚きもあったのだが、急に駆け足になり、さらに続編でもありそうな気配の中途半端な終わり方で、やや消化不良。今現在は特に続編などは発表されていないようだが…シリーズ化する目論見があるのかどうかだけでもはっきりしていただきたいなぁと。広げた風呂敷、全然、畳んでませんので、そういうのが苦手な人は読まない方がいいかも。
個人的採点:65点
許さざる者 著:笹本稜平

笹本稜平:著
幻冬舎 ISBN:978-4-344-01435-0
2007年12月発行 定価1,680円(税込)

先月読んだ、「マングースの尻尾」がわりと面白かったので、最近になって入手した同じ笹本稜平のこの作品を先に読んでみることに。あらすじなども調べなかったので、
アウトドア関係の取材で生計を立てているライターの深沢章人の前に、突然、楠田という弁護士が現れた。楠田の言い分によると、6年前に自殺した兄の死に不審な点があるという。その背景には兄弟と確執があった父親ととその後妻である義母が関係あるらしい…。さらに、自分には知らされていなかった兄の妻子の存在。章人は幼い頃に交わした兄との約束を果たすため、行動を開始するのだが…。
田舎の権力者である父親との確執と疑惑…兄の自殺が保険金殺人ではなかったのか?というところから、家族にまつわる忌まわしい過去と対峙していく主人公。幼い頃の山歩きで、偶然見つけ、隠しておいた拳銃を引っ張り出してくるなんてところは、今すぐ派手なドンパチが起こるんじゃないかと期待させられるが、最初はあくまで護身用であり、兄との絆を再確認するための小道具的な扱い。
前半は、怪しいヤツをふるいに掛ける心理戦的な展開が続く…疑惑の目は父親に向けてるけど、弁護士だって、存在すら知らなかった兄の嫁さんだって、どこか胡散臭い…ってな感じで、そういうのをひとつひとつつぶしながら、また新たな疑惑や容疑者へ向かっていくというな感じ。
ある程度、事件のからくりがみえはじめる後半…複雑に絡んでいた謎が明らかになり、幼少の頃の思い出、アウトドア的な前フリが見事に作用し、話は急展開を見せるが、こと最終章に至っては、いままで丁寧に、着実に積み上げてきたのに…単なる山岳アクションでお茶を濁された感が強い。途中までサスペンスミステリー的にグイグイ惹きこまれただけに、そこになだれ込むまでのプロセスをもう少ししっかりと読ませてほしかったと思わずにはいられない。
後半ではアクション要素もあるが、基本的には、二時間ドラマの原作にでもなりそうな、推理小説的な味わい。結末に直接つながってくるだろう、冒頭1章目のプロローグ的な描写なんかを読むと、もっと壮大な感じがしたんだけどななぁ、いい意味で想像以上に地味な作品だった。
個人的採点:65点
子守り首 著:福谷修

福谷修:著
幻冬舎 ISBN:4-344-40857-8
2006年10月発行 定価630円(税込)

ホラー映画の監督、脚本家としても知られている著者の小説作品…映画で見た「こわい童謡」に似てるなぁと思ったら、やっぱりその姉妹編として書かれた作品だそうです。
映画業界の人が書いた作品って、下手な人が書くと…シナリオみたいな味気ないものになっちゃうことが多々あるけど、この著者のものは、そんなことはなかったです。ちゃんと小説として読み応えのある内容にはなってます。ホラーとして、雰囲気は出ていました。
人間が野獣化してしまうあたりは頭の中で「エクソシスト」をちょっとイメージしてしまったけど、グロ描写は上手に描けている(イメージしやすい)。レコード会社の内幕ものみたいな導入部から、童謡調査に踏み込んでいくあたりも、わりと自然な流れ。サバイバル、スプラッター、オカルト要素などを織り交ぜ、最後までグイグイと引っ張る手腕はなかなか。
ただ、それこそ映画の「怖い童謡」を観ちゃっていたので、謎とき部分などが酷似しすぎで、やや面白さが半減したかなという印象。最初から姉妹編だと知って読んでいれば、また印象が違ってきたかもしれない。ホラーといいながら、あまりホラーっぽくない作品も多いけど、これはちゃんとホラーと認識できる作品で、楽しめた方ですね。
個人的採点:65点
ハリウッドで勝て! 著:一瀬隆重
ハリウッドで勝て!
一瀬隆重:著
新潮社 ISBN:4-10-610177-7
2006年8月発行 定価714円(税込)
「おくりびと」の米アカデミー賞受賞で、日本映画が世界で注目を浴びているが…いち早く世界視野に目を向け、実際に成功しているた日本人映画プロデューサー、一瀬隆重による、ビジネス書っぽい業界暴露本(笑)発刊された当時、映画雑誌の書評コーナーの紹介を見て、ずっと読みたかったんだけど、なかなかブックオフに売ってなくて、ようやく100円で見つけました!
企画はテレビの二番煎じで、当てても誰も儲からず、製作・配給システムは硬直化…。日本映画界の構造問題は指摘されるようになって久しいが、実態はなかなか変わっていない。映画が「産業」になっているハリウッドに対し、日本映画界の「道楽」体質も相変わらずだ。面白い映画を作る—そのために本当に必要なこととは何なのか。日本映画界に見切りをつけた業界の異端児が語る、日本映画界への挑戦状。 (カバー折り返し内容紹介抜粋)
最初は、自分の映像に関する原体験や業界に入ったきっかけを面白おかしくつづっている。ホラー映画の分野で活躍している著者の原体験は、「ウルトラQ」だそうで、かつて同世代の推理(ホラー)作家、綾辻行人も似たことを言ってたのを思い出す。
著者が関わってきたいくつものメジャー、マイナー映画…けっこう見ている作品も多く、いろんな苦労や奇跡があったことで、久しぶり作品を見返したくなる衝動に駆られる。
俳優や映画スタッフの実名がポンポンと飛び出し、著者の成功と挫折を描いたサクセスストーリーとしても非常に面白い読み物になっているのだが、この本が出版されてから2年半が経過しており、まさに著者の指摘通りの、邦画バブルの陰りが、今現在見えている状況になっているので、思わずうなってしまう。
映画を愛するマニアからは事あるごとに挙がっている、TV局映画への駄目だし…単に作品が性に合わないというだけで、言葉にする輩も少なくないが、根本的に、TV局映画のどこが駄目なのかを理解すると、邦画への接し方、見方がガラリと変わってくる。
発刊から2年経っているので、著者が書いている企画が現実になっているもの、はたまたお蔵入りになっているものなどもある。最近では奥菜恵が出演したハリウッド資本のJホラー「シャッター」で、一瀬隆重の名前を見かけたが、あの作品も日本人から見ると、違和感を覚えてしまう箇所が少なからずあったのだが、こうした映画の屋台骨を支えている著者の分析を理解すると、あの違和感の正体がなんとなくつかめる。
前に読んだ、アニメ業界をビジネスの視点で赤裸々にかたったプロダクションIG社長の「雑草魂 石川光久 アニメビジネスを変えた男」の映画業界版みたいな本だね。それまでの閉鎖的な業界のどってぱらに風穴をあける異端児…これからの日本に、こういう人たちが必要です。政治家や公務員、企業のお偉いさんとか、頭の固いジジイ、ババァも、そろそろ柔軟なビジョンを持たないと、日本はますます後退していってしまうぞという警告も感じ取れる。
個人的採点:70点