骸の爪 著:道尾秀介

道尾秀介:著
幻冬舎 ISBN:978-4-334-41360-3
2009年9月発行 定価760円

ホラー作家の道尾は、従弟の結婚式の帰りに…賀県山中にある仏像の工房・瑞祥房を取材で訪ねる。宿泊したその夜に、笑う千手観音を目撃するなど奇妙な現象に遭遇。翌日になって、仏師が一人行方不明になっている事が発覚した。二十年前に工房で起きた事件が何か関連しているらしいのだが、部外者の道尾は首を突っ込む前に追い出されてしまう!しかし瑞祥房での出来事が気になってしょうがない道尾は、友人である霊現象探求家の真備に相談…事件調査のため瑞祥房を再訪する事に。
「背の眼」の時から、京極のパクリと言われていたが…今回もそういった系統の作品。超常現象っぽい事が起きるんだけれども、最後には憑き物がスッキリと落ちて、論理的に帰結するというパターン。「背の眼」に比べると、だいぶ中盤あたりのダレ場が軽減したものの、題材が仏像というあたりで地味さが否めないか?
道尾が怪現象に遭遇後、一度は東京に戻るが…探偵役の真備たちを引き連れてすぐに仏像工房にとんぼ返りで、その後は、ほとんがその仏像工房内を行ったり来たりしてるだけなので、ちょっと飽きがくる。文章は道尾視点で描かれているため、ミスディレクションっぽいひっかけはいくつかあるが…割と容易にトリックや真犯人は推測できた。
逆にいうなら、このくらいのレベルだからこそ、地味なテーマでもちゃんと推理小説的な仕掛けが随所で楽しめ、最後まで読めたかなと思います。でも道尾秀介って、わりとミステリーマニアの間で評判がいいけど、自分の中ではもう一歩な感じがするんだよなぁ?事件をうまく収束させるけど、やはりパンチが足りません…新本格派全盛期のような本当の驚きをもう一度味わいたいもんです。
個人的採点:65点
夜にその名を呼べば 著:佐々木譲
夜にその名を呼べば
佐々木譲:著
早川書房 ISBN978-4-15-030922-0
2008年5月発行 定価798円(税込)
今年は佐々木譲の警察小説(道警シリーズ)を何冊か読んだけれども、それ以外のミステリーを読むのは初めて。この作品は1992年に単行本で出たものを95年に文庫化…さらにその文庫の新装版(多分、表紙カバーや解説が違うんだと思います)だそうだ。
1986年10月、ドイツ・ベルリン…親会社のココム違反に関わった事で、命を狙われ、上司殺しの濡れ衣まで着させられた神崎哲夫は、偶然知り合った現地の画家や娼婦の協力を得て、東側への亡命を企てる。時が経ち、ベルリンの壁も崩壊した1991年…東側で行方不明になっていた神崎哲夫から、「真相を話すから、小樽まで来い」というような内容の手紙が母親や、被害者である上司の家族、そして当時関わっていた会社の人間の元へ次々と届く。その情報は、かつて神崎をスパイと断定した公安刑事も察知…それぞれ関係者は現地入りし、神崎の小樽到着を待つことになったのだが…。
86年のベルリン、91年の東京と小樽が舞台の三部構成…神崎がベルリンでトラブルに陥る第一部は、それこそスパイ小説でも読んでいるような味わい。もっと逃避行が続いて、真相を求めて神崎が犯人と対決したりする話なのかななんて思っていたんだけど…あっけなく亡命しちゃって、お話は次の段階へ。
5年経って、ベルリンの壁も崩壊し、冷戦終了後の日本に…神崎が帰ってくるぞという事で、関係者が騒ぎだすというのがどうやら本題のようです。神崎の母親であったり、被害者の娘、当時の真犯人である会社関係者や公安刑事、事件を追うルポライターなんかがこぞって小樽にやってきて、ニアミス…それぞれ腹の探り合いをかます。後半はぜんぜん神崎の視点が出てこない…。
まぁ、その辺の構成でオチが読める仕掛けになっているんだけれども…途中まではけっこう騙されました。神崎がベルリンで知り合った画家や娼婦なんかの話をもっと読みたい気分なんですけど、どんでん返しなストーリーを重視すると、その分部はあまり求めてはいけないのだろう。最後の方で補足的な登場の仕方はしますが…。
途中でちょっとダラっとするんだけれども、最後は物語が一気に加速…新たな事件が次から次へと起きて、けっこう面白く読む事が出来た。群像劇スタイルで、複数のキャラが、最終的に一つの物事に向かっていくという構成は、ジャンルは違えど道警シリーズなんかとも似た印象えお受けた。こういうのが、この著者のリズムなんだろうか?まだそんなにたくさん読んでいないので自分は確信が持てないけど…。
個人的採点:65点
蒼の悔恨 著:堂場瞬一

堂場瞬一:著
PHP研究所 ISBN:978-4-56967195-6
2009年4月発行 定価760円(税込)

堂場瞬一の新シリーズで、既に続刊もあり。一応、今作は警察ミステリーの部類に入るとは思うんだけど、鳴沢了以上にハードボイルド調で、その感想がありがちハズレでないのが最後で納得できる展開。
神奈川県警捜査一課・真崎薫は、殺人犯の青井猛郎を追い詰めたのだが、現場で急遽コンビを組んだショカツの新人刑事赤澤奈津をかばったばかりに反撃をくらい逮捕に失敗、自分も重傷を負ってしまう。ようやく退院することになったが、いまだ青井の行方は判明せず、それどころか警察内部では…薫の復帰を快く思っていない様子だ。無理やり休暇を取らされた薫は独自に青井を追う事にしたのだが…。
やはり鳴沢了と比べられて、世間じゃあまり評価は芳しいようじゃないんだけど…時代遅れな感じのハードボイルドを目指してるんだろうなぁって思うと、意外と楽しめます。女に対しやたらキザなセリフをはいちゃったりするのがね、嫌いじゃないです。素直じゃないところは鳴沢にも似てるけどな。
最初の失態の原因にもなった、ショカツの美人刑事と、最初は反目しながらも、次第に恋人関係に発展し、尾行や張り込みを一緒に行うなんて展開はさ、それこそ「破弾」の鳴沢と小野寺冴の関係を思い出すのだが、最後まで読み進めると、鳴沢の焼き直しではなく、どちらかというと冴の焼き直しなのかな、このキャラとか思っちゃうわけですよ。
人殺しで指名手配されているのに、やたらと存在感が薄く、なかなか警察がたどり着けない犯人の青井だけど、時期的に、TV画面に写る逮捕後の市橋達也の姿をダブらせてしまうよ。推理小説のように、スッキリ爽快なラストではなく…謎の分部が残って、やや物足りなさもあるんだけど、その辺りは続編で明らかになるのか、これでおしまいなのか、これ1冊しか読んでない状況では、まだわからない…。
個人的採点:65点
誘拐 著:五十嵐貴久
誘拐
五十嵐貴久:著
双葉社 ISBN:978-4-575-23626-2
2008年7月発行 定価1575円(税込)
気が付けば12月…今年はガクンと読書量が落ちてしまった。不景気のあおりで、積読本をブックオフにけっこう処分もしちゃったりもしてます(笑)この作品、けっこう前に読み終わってたんですけど、感想をアップするの忘れていました…五十嵐貴久の「誘拐」。今は、別の作品をもう読み始めています。
勤めていた理不尽な対応で、家族を奪われた秋月孝介は、誘拐事件を計画…その相手は現職総理の孫娘だった!一方、歴史的な条約締結のため韓国大統領来日…その警備で政府と警視庁は厳戒態勢をとっていたのだが、その最中に起きた事件で大混乱に陥る。北のテロリストの仕業と判断し、捜査を進める捜査本部だが…人員不足で事態が進展しないまま、とうとう犯人から身代金の要求が!
「交渉人」(米倉涼子のTVドラマとは別作品)の興奮が再び!って、帯に書かれてたんですけど…交渉人シリーズの遠野麻衣子が主人公じゃありません。一瞬、刑事の一人で、“遠野”って名前が出てきた気がするけど、フルネームじゃなかったので、本人なのか、そうじゃないのか…たぶん、世界観は一緒で、ゲスト出演的なサービスなんろうと思います。脇役刑事の何人かは同じ人だったような…。
現職総理の孫娘を要求し、サミット中止と身代金を要求する犯人…しかし犯人側の真の目的は別にありっていうパターンなんですけど、今年公開された、某ハリウッド映画に似た内容があったので、フリの段階でピーンときちゃいます。もちろん、あの映画よりも、この小説の出版の方が早いわけですが、自分は接した順番が逆だったので、ちょっと驚きは足りなかったです。
孝介が会社を辞める羽目になった事が、誘拐事件の発端に繋がっているんだけど、その分部がサラリーマンのリストラ問題を絡めた事柄で、けっこうシビア。それを最初の100ページくらいかけて描いてるんだけど、なかなか誘拐事件が始まらないので、前に読んだ同じ著書の「交渉人 遠野麻衣子・最後の事件」と比べると、テンポの悪さも感じてしまった次第。
いざ誘拐が始まっても、犯人側、捜査する警察側、そして総理大臣とその周りの関係者…それぞれの視点が交差しているので、なんとなく手の内がわかっちゃっているような気にはなって、緊張感に欠ける進行度なんですが…どちらも主人公って感じなので、犯人逮捕で事件解決なのか、それとも逃げ切るのかと、どちらなんだろうというあたりで、それなりに最後まで引っ張られました。そして最後には、一応、推理小説的な仕掛けが用意されている。
決してつまらなくはないけど、自分がもとめていたテンションとややズレていたかなと、もうちょっとアップテンポな内容の方が好みです。
個人的採点:60点
【新刊購入】Another アナザー 著:綾辻行人

綾辻行人 :著
角川書店 ISBN:978-4-04-874003-6
2009年10月発行 定価1,995円(税込)

漫画以外で久しぶりの新刊購入本…先月の末に出た綾辻行人の新作ホラー。600ページ以上あったかな?かなり分厚く、お値段も高め…でも頑張って買いました。ってことで、ブックオフの100円購入本はお休みして、こちらを読んじゃいました…中身は意外とサクサク読めるんですけど、重たいので、外には持ち歩かず1週間弱かかってようやく読み終わりました。
夜見山北中学の3年3組には“ミサキ”という生徒にまつわるある呪いが存在するとされていた。その呪いが始まると、生徒やその周りで、不気味な怪死事件が続くのだ…。1998年の春、3年3組に転校してきた榊原恒一は、学校生活に違和感を感じる。その鍵を握るのは、片目に眼帯をつけたクラスメイトの“ミサキメイ”。彼女に惹かれた恒一は、なんとか彼女に接触しようとするのだが…。やがてクラスメイトの一人が校内で事故死…それがきっかけになり、恒一にも違和感の正体が理解できてきたのだが…。
とある田舎の中学校…“呪いの3年3組”の生徒、および関係者が次々と怪死していくというオカルトホラー… 「ファイナル・デスティネーション」のようにバタバタと人が死にまくり、主人公たちがどうにか、その怪死を食い止めようと、呪いを解く方法を探し求めるというのが主な内容。
お得意の叙述的なトリックを使い、ところどころでどんでん返し的な展開が用意され(最初は、めずらしく綾辻作品でも映像化できるんじゃないかと思ったが、やっぱ無理そうだ)、長丁場を飽きさせない工夫がされているが…やはり、春から夏にかけての物語と…期間が長めなので、少々ダレ場が。残酷描写も「殺人鬼」のようなスプラッター系を期待していると、ちょっと温めか?近作の「最後の記憶」とか「深泥丘奇談」あたりの“記憶”テーマにした作品なんかに近しい印象を受ける。
ただ、クライマックスに関しては、綾辻の真骨頂というか、「暗黒館の殺人」が館シリーズの集大成だったら…その他、もろもろのホラー作品の集大成的がこの作品だったのかなと。長すぎたからね、誰が余計な一人、死者なのかっていう最大のオチに関しては、ある程度、推測できちゃったので…館シリーズや、殺人鬼の1作目のように、ヤラレタ感はちょっと少なかったけど、強引ともいえる感じで、解決に持って行った最後は、一気に読めて楽しかったです。
奈須きのこの「空の境界」を読んだ時に、綾辻的だなぁって思ったところが何か所かあり、実際に…作者も綾辻をリスペクトしており、対談なんかも行っていたが…今度は逆に、この作品に登場するヒロインが両儀式みたいだったし、球体間接人形が出てきたりして「空の境界」っぽい分部があったね。ホラーな怖さはなかったけど、全体的に面白くは読めました…若い世代に人気がある山田何某のホラーなんかよりは、文章的な魅力があり、エンターテイメントとして充実した読みモノになっています。
個人的採点:75点
翼とざして アリスの国の不思議 著:山田正紀

山田正紀:著
光文社 ISBN:4-334-07632-7
2006年5月発行 定価840円(税込)

“日本青年魁別動隊”のメンバーは、ある目的を持って、各国が領有権を主張する無人島、鳥迷島に上陸した。瀬下綾香は、実際は活動にあまり興味がないのだが…メンバーの人柄に惹かれ、自分を慕う後輩の伊藤紗莉と共に隊に参加するようになった。彼女たちが上陸して間もなく…隊内で殺人が発生!なんと犯人は綾香だと指摘され、なんとなしに自分でもそれを自覚しているのだが、はっきりしない…本当に自分が殺したのだろうか?答えが見つからないうちに…新たな事件が…。
「わたしはわたし、わたしはわたしでない」…延々とそんなような事を繰り返す、なんだか夢、幻か…みたいなあやふやな文章。本当に事件が起きているのかも怪しくなるような、そんな内容。良く言えば幻想的な展開。それに加えやたらと思想的な話が多いので…けっこう頭がパンクしてきます。でも、いったい何が起きているのだろうか、今にその真相が語られるに違いないとい思いで、我慢しながらなんとか読み進める…。
最終的には、夢、幻かみたいな分部に、すべて答えが用意してあって、あれもこれも答えを示す伏線だったんだよ、だから実際はこういうことだったんだよってなるんだけれども…オチも含めて、なんか中途半端な印象だな。あくまで直観だけど…犯人の目星はついていたかなと。主人公が本当に犯人なのか、そうじゃないのかの見極めがつけば、そっから先は予測をつけやすいかも。幻想ミステリーだけだったらよかったんだけど、思想的な話は、苦手なので…山田正紀の推理作品の中では、今まで読んできたものより、ちょっとなぁって感じ。
個人的採点:60点
警官の紋章 著:佐々木譲

佐々木譲:著
角川春樹事務所 ISBN:978-4-7584-1120-2
2008年12月発行 定価1,680円(税込)

間もなく映画も公開になる「笑う警官」と同じく道警シリーズの、三作目。過去2作は文庫で読んでいたので、自分はハードカバーではお初だったなぁ。最近になって、シリーズ4作目も、やはりハードカバーで発売になったらしい。
北海道警は洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。大通署刑事課の佐伯は、過去に逮捕状まで請求したものの、本部に横取りされた密輸事件に裏があるという情報を掴み、ひとりで再調査を開始。婦警の小島百合は、ストーカー事件での手柄が評価され、結団式出席の女性大臣の警護を任される。そして津久井卓は…拳銃を所持したまま疾走した警官を、警務課のベテラン長谷川と共に追いかけることに。三者、それぞれ別の任務で…結団式に関わっていくのだが…。
過去の展開を覆すような新事実が浮上するも…全体的にテンポの悪さを感じる。地味に捜査が進んでいたと思ったら、あっという間に結団式当日になっちゃって、その後の展開がいやにあっけない。結団式当日の展開で、もう二転三転欲しい印象…。また、あの人とあの人の関係はなんだったんだろうか?という物足りない部分もあるんだけれども…そのあたりは、今度出た新作のあらすじを見ると(ネットで調べたら)、またちょっと今回の続きっぽい話なので、あえて踏み込んでなかったのかなと思ってみたり。
小島百合がけっこうクローズアップされるのは嬉しいかなと…1作目を読んだ時は、もうちょっとお局様タイプのおばさんくさい婦警なのかと思ったが、けっこう可愛い分部を持ち合わせてるんだなぁと。佐伯の事を気にしつつも、東京からやってきた、イケメンSPにちょっと心が動いちゃったり…まぁ、そういうキャラクターの魅力は、シリーズが増すごとに、どんどん面白くなってるんだけどね。映画だと津久井の役を、宮迫が演じるらしいが…イメージ的にはもう少しかっこいいタイプなんだよな、自分としては。
個人的採点:65点
シンメトリー 著:誉田哲也
シンメトリー
誉田哲也:著
光文社 ISBN:978-4-334-92596-3
2008年2月発行 定価1,575円(税込)
自分は2冊目となる、誉田哲也の姫川玲子シリーズ…前に読んだ「ストロベリーナイト」との間に、もう1冊あるらしいんだけど、そちらはまだ100円コーナーで見つけられず。期待して読み始めたら、短編集だった…。
東京
元同僚の先輩刑事・木暮の墓参りに出かけた時、若い女とすれ違った…それはかつて玲子と木暮が手がけた事件の関係者だった。6年前…品川の高校で生徒がプールのある屋上から墜死。事件の犯人と真相は?事件当時、学校にいた同じ水泳部の生徒たちに事情を聴き始めるが…。
屋上にあるプールから生徒が墜死、金網には不自然な指紋が指紋が残されており…と、本格推理っぽい出だしで期待させられたんだけど、やはり短編なんで、オチは弱めですね。これをとっかかりに推理をしようという話ではなく、犯人を捕まえてから、そんな真相だったかというような流れ…。
過ぎた正義
過去に重大な犯罪を犯しながら、未成年という事で…罪が軽くなり、社会復帰を果たしていた二人の男が相次いで事故死した。馴染みの監察医からその話を聞いた玲子は、事故の背景に作為的なものを感じ取り、独自に捜査を開始する…。
少年法とからめた現代の必殺仕事人なお話…どんな人物が犯人像に合致するか推理をし、その犯人の後を追う。短編なので、やはり話のふくらみが弱い…真相がわかって以降、犯人との対決の決着を描かないまま結末を迎えてしまう。長編か何かで、それこそ、その先まで読んでみたかった内容。
右では殴らない
劇症肝炎で突然死した男に、薬物中毒の疑いが?同様の不審死が相次いで起こり、正式に捜査の対象となった。玲子たちは、被害者が所持していた携帯電話から共通の人物を探し出すことに成功したのだが…。
薬物は蔓延するし、ガキどもは生意気だし、どうしちゃったんだよ日本という…嘆きのような物語。玲子の態度が、ガキ相手に大人げないなぁと思いながらも…最後でわかるタイトルの意味にはちょっと笑った。
シンメトリー
馴染みのネットカフェを出た男は…夜の街を歩き、とある陸橋へ。その下にはJRの線路が通っていた…男が線路を見つめていると、ふいに声をかけられた…。男はかつてJRの職員だったのだが、大きな列車事故に遭遇し、仕事を辞めていたのだ…。
表題作…他の作品と違い玲子視点ではなく、別人の視点で物語が進行していく。今もなお問題を残しているJR西日本の列車事故と、飲酒運転による死亡事故を合体させたような事件に、ネットカフェ難民まで盛り込んだ話。関係者や遺族たちの思いや憤る様子はリアルに描かれている。語り手が犯人なわけだけど…直接対決の様子がやはり物足りない。推理というよりは社会派サスペンスっぽいノリで。
左から見た場合
マジシャンの中年男性が殺された…被害者は携帯電話を握っており、番号が途中まで入力されていた。いったい誰に電話をしようとしていたのか?玲子には犯人の目星がついていたのだが、それを裏付けるために被害者の携帯メモリーから関係者をリストアップ…聞き込みをはじめることに。
一番最初に犯人の名前が書いてあります。なぜ玲子には犯人は推理できたのか?最後で明かされる、その答えで…推理小説っぽさを味わうことができます。ただ、本当の警察なら…そこまで名前がわかっていたら、人海戦術で犯人までたどり着きそうな気がしないでもないが…どうなんでしょうか?それとも単に、玲子が手柄をひとり占めした買っただけなのか?全体を通してみても、そういうせこいキャラに見え始めてきます。
悪しき実
部屋に死体がある…警察が駆けつけると通報通り男の死体が見つかった。検視の結果は自殺か、他殺か不明だというのだが…事情を知るとみられる通報者の女が行方をくらませてしまったのだ。事件を担当する事になった姫川班…まもなくして玲子は通報者の女の確保に成功するのだが…。
死んだ人間の身元、正体を調べるのが最終的な目的だったか?ヤクザものなのはわかっていたけど、そんなことをしてたのかいって感じの流れ。浪花節的な展開なんで…最終的なインパクトに欠けますね。
手紙
玲子はかつて自分が逮捕した女に手紙で呼び出され、休日を利用して会っていた。それは数年前に起きたOL殺害事件で、ヒラ時代の玲子が捜査一課に抜擢されるきっかけにもなった事件だった!
テーマ的にはイジメとネット社会みたいな安易な内容…ネットに書きこまれた“ブタ女”という書き込みから、犯人に迫るんだけど、推理というより、ダジャレに近いような~。これがきっかけで、姫川班誕生?まぁ、いつも山勘っぽい推理が多い、運の良さが姫川令子の最大の武器なのかな?
個人的採点:60点
神の領域 検事・城戸南 著:堂場瞬一

堂場瞬一:著
中央公論新社 ISBN:978-4-12-205057-0
2008年10月発行 定価900円(税込)

鶴見の河川敷で、身元不明の若い男の死体が発見された。部下と共に現場に赴いた横浜地検の本部係検事・城戸南は…陸上競経験者であり、その知識から男の身元を突き止めることに成功したのだが…捜査線上に、城戸のかつての同級生の名前があがる。その男、久松誠一郎は、陸上界で天才と呼ばれ、城戸の人生においての恩人でもあったのだが…。
実は、この本を読み始めたのは偶然、「風が強く吹いている」という駅伝を舞台にした映画の試写会場だったんだけど、ページをめくり始めたら、この本も駅伝描写から作品が始まったのでまったく驚いた。表紙裏のあらすじにちゃんと“駅伝途中棄権という城戸自身”って説明があったけど、そこまで見てなかった…単に鳴沢了の番外編的作品なのかなって感じで手に取ったもんなんでね(笑)ついでに、城戸検事が捜査で、自分が住んでる地元にやってきたのもなんだか嬉しい(笑)
鳴沢了シリーズに比べると、テンポがやや悪いかなって思う部分もあるけど…刑事と検事の性質の違いもあり、ただ単に…犯人逮捕だけではなく、逮捕後の公判維持なんかにも気を使って、捜査を進めていくというのが、しっかりと描かれていて面白い。ご都合主義的に、関係者とやたらとニアミスするのは、相変わらず堂場作品らしいなぁってところもあったけどね。
鳴沢シリーズに、チョイ役で出てきた城戸検事は、メタボってる中年のおっさんのイメージしかなかったので(いや、ますます普通の中年オヤジな感じで、鳴沢に比べると全然華がないんだけど)、まさか駅伝の選手だったとは思わなかったよ(笑)そんな描写、あったのかな?なかったよね?事務官の大沢との奇妙な上下関係は一緒だったね…。
個人的採点:65点
ヤングガン・カルナバル・スペシャル ファイトバック・ホンコン 著:深見真

ファイトバック・ホンコン
深見真:著
徳間書店 ISBN:978-4-19-850830-2
2009年6月発行 定価900円(税込)

「GENEZ‐1 ジーンズ」に続き、今回も深見真…ヤングガン・カルナバルの最新作。前巻でようやくカルナバルが終わって、新しい展開に突入かなと思いきや…番外編の連作短編集。一応、カルナバル後のメインキャラクターたちの姿が拝めるものの、いつもと若干、ニュアンスが違う感じ…。
典型的未成年の殺人者
塵八がメイン…憧れの同級生、由美子ちゃんとの仲に進展がありそうな感じ…なさそうな感じの中、ハイブリッドの幹部が相次いで狙われるという事件が発生!ボスの白猫自らが囮役を買ってで、塵八が敵スナイパーと対決する話。「山猫は眠らない」みたいなスナイピング対決…そんな塵八も由美子ちゃんの前では、何もできない。ついでに平等院センパイにもチクリと言われちゃう…。
ファイトバック・ホンコン
毒島がメイン…塵八&弓華を従え香港へお仕事に。そこでかつて、今は亡き朧&ソニアと共に関わったを騒動の苦い思い出が蘇るが、偶然、その落し前をつけるチャンスが到来する。大半は過去のシーン…毒島、朧、ソニアがまだ高校生だった頃の話。朧やソニアの活躍が読めるのはけっこう嬉しい。ネタ的には、某有名香港映画あたりを意識したものではないだろうか?著者お得意の映画ネタにも思わず笑ってしまう…。
ブーゲンビリアを、愛をこめて
弓華がメイン…お嬢様学校に潜入し、同性愛疑惑がある女の子とお友達にならなければいけないというのがミッション。もちろん、それには理由があるんだけれども…。最初は弓華の恋人(同性)のカノコが主人公なのかと思ったが違ったのねって展開。相変わらず弓華が出てくると、同性愛ネタが前面に!弓華はスカーレット・ヨハンソンが好きらしい。
平等院将一の一番長い日
文字通り、漫研部長にして、極道のボス…平等院センパイがメイン。卒業式に向かう途中に、対抗組織に襲われ、街中でドンパチ、戦闘の合間に…楽しい学生時代を振り返るといった内容。やり過ぎ…センパイを狙う刺客、いったいいつの時代のヤクザやねん。いつも以上にものすごい戦場と化してます…ここは日本だよ。巻き込まれた電気屋のおっさん可愛そう。あっけなく死んだセンパイの部下も可愛そう。
エピローグ 折れた矢
毒島がメイン…本編でチラチラと出ていた、毒島が裏切った時の話が詳しく紐とかれる。ファイトバック・ホンコンでは、チームプレイで切り抜けた三人が、なぜ、敵対する羽目になったのか?毒島は三本の矢の話が大嫌いなんだそうです…あんなものは嘘八百だと。好きな女に対する答えがアレです…塵八とは違うけど、こいつもとにかく不器用なやっちゃなぁって感じです。毒島の生い立ちって、小沢アニキのVシネ「太陽が弾ける日」みたいだね。
ボーナストラック キャビン・フィーバー
作者自らが描くパロディ?ギャグ満載の番外編のそのまた番外編的なお話。昨日の敵は今日の友…今まで対立していた者同士が、ハイブリッドの仲間になり、親睦を深めるために温泉旅行に出かけるって話。そこで卓球大会が始まるって…三池崇史の映画版「漂流街」か?(笑)それぞれ、キャラの個性を生かしたバカげた展開がなかなか…。
全体的にサラっと読めて面白かったです。でも、早く本筋を読みたい…。
個人的採点:70点