夜にその名を呼べば 著:佐々木譲
夜にその名を呼べば
佐々木譲:著
早川書房 ISBN978-4-15-030922-0
2008年5月発行 定価798円(税込)
今年は佐々木譲の警察小説(道警シリーズ)を何冊か読んだけれども、それ以外のミステリーを読むのは初めて。この作品は1992年に単行本で出たものを95年に文庫化…さらにその文庫の新装版(多分、表紙カバーや解説が違うんだと思います)だそうだ。
1986年10月、ドイツ・ベルリン…親会社のココム違反に関わった事で、命を狙われ、上司殺しの濡れ衣まで着させられた神崎哲夫は、偶然知り合った現地の画家や娼婦の協力を得て、東側への亡命を企てる。時が経ち、ベルリンの壁も崩壊した1991年…東側で行方不明になっていた神崎哲夫から、「真相を話すから、小樽まで来い」というような内容の手紙が母親や、被害者である上司の家族、そして当時関わっていた会社の人間の元へ次々と届く。その情報は、かつて神崎をスパイと断定した公安刑事も察知…それぞれ関係者は現地入りし、神崎の小樽到着を待つことになったのだが…。
86年のベルリン、91年の東京と小樽が舞台の三部構成…神崎がベルリンでトラブルに陥る第一部は、それこそスパイ小説でも読んでいるような味わい。もっと逃避行が続いて、真相を求めて神崎が犯人と対決したりする話なのかななんて思っていたんだけど…あっけなく亡命しちゃって、お話は次の段階へ。
5年経って、ベルリンの壁も崩壊し、冷戦終了後の日本に…神崎が帰ってくるぞという事で、関係者が騒ぎだすというのがどうやら本題のようです。神崎の母親であったり、被害者の娘、当時の真犯人である会社関係者や公安刑事、事件を追うルポライターなんかがこぞって小樽にやってきて、ニアミス…それぞれ腹の探り合いをかます。後半はぜんぜん神崎の視点が出てこない…。
まぁ、その辺の構成でオチが読める仕掛けになっているんだけれども…途中まではけっこう騙されました。神崎がベルリンで知り合った画家や娼婦なんかの話をもっと読みたい気分なんですけど、どんでん返しなストーリーを重視すると、その分部はあまり求めてはいけないのだろう。最後の方で補足的な登場の仕方はしますが…。
途中でちょっとダラっとするんだけれども、最後は物語が一気に加速…新たな事件が次から次へと起きて、けっこう面白く読む事が出来た。群像劇スタイルで、複数のキャラが、最終的に一つの物事に向かっていくという構成は、ジャンルは違えど道警シリーズなんかとも似た印象えお受けた。こういうのが、この著者のリズムなんだろうか?まだそんなにたくさん読んでいないので自分は確信が持てないけど…。
個人的採点:65点