念写探偵 加賀美鏡介 著:楠木誠一郎
念写探偵 加賀美鏡介
楠木誠一郎:著
講談社 ISBN:978-4-06-182652-6
2009年6月発行 定価840円(税込)
名前はしっていたけど、初めて読む作者…自分が苦手な歴史ミステリーっぽい作品を書いてる作家だと認識していたので、これまで手を出さなかったんだけど、青い鳥文庫とか子供向けの作品も書いているそうな。わりと新し目の講談社ノベルスだったので、今回読んでみる気になった。
推理作家の百目鬼仁が、級友のカメラ店店主・加賀美鏡介の元を訪れた直後、刑事が現れ、加賀美に顧客殺しの容疑をかける!加賀美は潔白を証明するために事件を調べ始めるのだが、手掛かりは特技の念写で写した一枚の写真だった!それは被害者がカメラ代の代わりにと持ち込んだ、茶碗を写したものだったのだが、なんとホンモノの千利休の茶碗だったのだ!
千利休の割腹自殺に見立てられて行われた殺人事件を、利休の自殺の真相を読み解くことで、解決に導いていくといった感じの推理小説。大々的に“念写”などといった言葉がタイトルに使われているが、これは歴史的なミステリーを解決していく小道具であり、この力で殺人事件を解決するわけではないので、インパクトに欠けるというか、案外普通のミステリーだったなぁっていう印象に落ち着く。
主人公の変人ぶりと、助手役になるちょっと情けない推理作家など、典型的なホームズ&ワトソン系で、そのコミカルな掛け合いなどはそれなりに楽しく読めるか?利休の自殺から、本能寺の変まで遡り、それらの奇抜な仮説が、実際の事件とシンクロしていくあたりは面白いのだけど、歴史もカメラも普段はあまり興味ないので、うんちくの多さには正直まいった。
特に歴史の方…利休、信長、秀吉なんていう有名どころは理解できるんだけど利休の弟子やらなんやらはちんぷんかんぷん。やっぱ自分みたいな歴史ミステリーが苦手な人間にはちょっと退屈な部分も多いかな?犯人の意外性、犯行動機、殺害方法など推理小説的な部分での新鮮味はほとんどなし、苦手部分をカバーするには弱い。歴史が好きな人なら作中の突飛な仮説が読みどころになるんだろう。
個人的採点:60点
武装酒場の逆襲 著:樋口明雄

樋口明雄:著
角川春樹事務所
ISBN:978-4-7584-3450-8
2009年12月発行 定価680円(税込)

ちょっと前に読んだ「武装酒場」の続編を運よく100円コーナーで入手…前作は文庫化による再版だったけど、今回は文庫用の書き下ろしとして昨年末に発表された完全新作。あの愛すべき酔っ払いたちが、今度は自衛隊相手に"要塞警察”ならぬ…“要塞酒場”を興ずる。
阿佐ヶ谷のガード下にある居酒屋「善次郎」…かつての常連客の娘である少女みゆきが転がり込んできた。聞けば音信不通の父親と待ち合わせの約束をしているというのだ。やがて約束通り父親は現れたものの、みゆきの前で防護衣を着用した防衛省の人間に射殺されてしまった!事態が把握できないままみゆきは、「善次郎」の店の中に逃げ込む。事情を察した店主のオヤジと、常連客の酔っ払いたちはみゆきの為に立ち上がるのだが…。
前作に登場したおなじみのキャラクターも再登場するが、前作にいなかった新しいキャラも多数加わり、さらにパワーアップしている。話のスケールもかなり大きくなり、最初は細菌兵器の話に、総理大臣まで出てきちゃって、今回はちょっとやりすぎじゃないかな?とも感じ…前作の方が良かったなぁなんて思ってたんだけど、前作のパターンを踏襲すると見せかけ、こっちの読みをハズしてきたりして…最終的にはページをめくるのがとまらなくなるほど夢中になって読み進めてしまった。
古今東西の映画ネタ、映画オマージュがたくさん盛り込まれていて、映画好きな人なら思わずニヤリとしてしまうこと間違いなし…原作者もあとがきで、直接作品名を挙げたわけじゃないけど、影響を受けた作品の監督さんたちの名前を出し、謝辞を述べている。その謝辞の中にはなかったんだけれども、か弱い女の子を、単なる酔っ払い連中が助けるという基本ストーリーに、まるで「天空の城ラピュタ」「ルパン三世 カリオストロの城」のような、宮崎駿チックな印象も受け、さらに権力との衝突、警察組織と防衛省、自衛隊との確執なんていう展開には…「機動警察パトレイバー」ほか押井守チックな要素も含まれているなぁって思った。
前作で、物語の顛末が映画化されるというオチが最後にあり、実際に映画化されたらいいなぁって感想のところで書いていたんだけれども、なんと本当に1作目の内容が映画化されることが決まったんだとか…知らなかった。今回はブックオフの古本でも帯つきだったので、帯にそう書いてあった…けっこう楽しみだね。でも、これ実写映画より、コミックやアニメなんかにした方が面白そうだなぁ…特に今回の「武装酒場の逆襲」
個人的採点:75点
GENEZ‐2 ジーンズ 著:深見真

深見真:著
富士見書房 ISBN:978-4-8291-3449-8
2009年9月発行 定価630円(税込)

高校生傭兵が活躍する深見真のラノベ…昨年読んだ1巻に続いて、2巻目をようやくGETできたので早速読んでみた(最近、新刊で3巻が出たそうで)。主人公がネトゲで知り合った天才ハッカーが後々、話の中心人物になってくるという深見真らしいネタの話で笑ってしまう。
進学校・海神学園の生徒にして、民間軍事会社グリークスの傭兵である大牙謙吾。現在、プライベートでは寝る間も惜しんでネットゲーム「ウェールズ年代記」にハマっていた。そこで知り合ったセブンというHNの女性プレーヤーと意気投合していたのだが…実はこのゲームの運営会社が犯罪に加担しているという噂が立ち、ICPOからの依頼で調査を開始する事になったのだが…。
宿敵バビロン・メディスン側にも、今後…謙吾のライバルになりそうな、凄腕の傭兵が登場し、ピンチに陥る。1巻では、謙吾のパートナーであり、ナイチンゲールとう特殊能力を持つ不死身のユキナちゃんが、拷問を受けるシーンがあったけど、今度は謙吾自身が痛々しい拷問を受けていた。
著者のあとがきによれば、ラブコメ色をもっと出していきたいとのことで…今回登場した女ハッカーが、謙吾とユキナの間に割って入ろうとしている。ああ、これでますます女性ジーンズ、彩離ちゃんが入りこむ隙がなくなっちゃったって感じですね(笑)1巻目に出てきた、妹ちゃんが出てこなかったのは残念だけど、相変わらずモテモテですねぇ、本人は奥手なのに。
深見真のうまいところは、少年傭兵が、物凄い武器やメカを扱って暴れまわる、不死者や化物まで出てきちゃうというありえない話なんだけど、合間に挿入される少年少女の“オタク”な日常がリアルに描けてるので…読ませる力があるんだよね。
細かい描写なんだけど…謙吾なんてさっきまで死にかかってたのに、助かったらギャルゲーの事を考えてるし、ユキナちゃんが、任務から帰ってきて真っ先にやったのが、DVDレコーダーのチェックだしって、そういう細かい描写が、いいなぁって。タランティーノの映画でさ、ギャングやマフィアがコミックの話したり歌手の話したりっていうのと一緒だね…こいつらも普通の人間と一緒だよっていう雰囲気づくりがうまいから、なんか好きなんだよね。
個人的採点:70点
人間処刑台 著:大石圭

大石圭:著
角川書店 ISBN:978-4-04-357218-2
2008年12月発行 定価740円(税込)

網膜剥離でボクシングを辞めた小鹿…しかし戦いの熱気が忘れられず、格闘エージェントの誘いでアンダーグラウンドファイトに参加するようになった。小鹿の目的は、アンダーグラウンド界で最強と呼ばれるジョン・ラムアと戦うこと。なかなか対戦が実現せず不満が募っていたのが、ようやくそのチャンスが到来し…。
タイトルから、スプラッターホラーみたいなもん想像してたもんね、でも本当に格闘技の話。スタローンの「ロッキー」やヴァンダムの「キックボクサー」「ライオンハート」みたいな話を大石流の文章で表現するとこういう物語になるということじゃないでしょうかね?合間合間に、フェチった性描写文章も多く、相変わらずの大石節は健在で、グイグイと話を引っ張っていく…。
アンダーグラウンドファイトのエピソードに関しては、予想外の展開が多く、面白かったんだけれども…夫の暴力に悩む実姉のエピソードで、もう少し違う展開を期待していた。大石圭だったら主人公が、姉とやっちゃうくらい変態・鬼畜はアリだろうと思ってたんだけどな(近親相姦は実は他の部分でネタにしてたけど)…あと暴力亭主を主人公がぶちのめすのを楽しみにしていたんだけど…そうきちゃったかぁって感じだった。
ヴァイオレンスな感じだったけど、最終的な読後感は意外と爽快…本当にこれは大石流のスポコン話だったんだなぁって感じですね。「自由殺人」とか「湘南人肉医」「処刑列車」あたりのホラー作品が好きだった人には物足りないと思うけど、これはこれでありだと思います。
個人的採点:75点
せつないいきもの 牧場智久の雑役 著:竹本健治
せつないいきもの 牧場智久の雑役
竹本健治:著
光文社 ISBN:978-4-334-07675-7
2008年7月発行 定価920円(税込)
何年か前に読んだ「狂い咲く薔薇を君に」に続き、牧場智久が脇役に回った牧場智久の雑役シリーズ第二弾の連作短編。前作では類子ちゃんの後輩の、津島海人視点で物語が語られていたが、今回は類子ちゃん視点で描かれ、智久は全て電話で捜査の助言をするという構成。
青い鳥、小鳥
友人の如月拓也が特技の読唇術を使い、偶然知りえた犯罪計画、何者かが拉致監禁を企てているらしい。話に興味を持った武藤類子は容疑者と目されるOL風の女たちを尾行し…その女たちが住む自宅マンションを突き止めるのだが…。
読唇術で犯罪計画を知ってしまうというのがリアリティに欠けるし、さらに電車の中で見かけた赤の他人を、またファミレスで見かけるっていうのもかなり強引。まぁ、そこを否定したら物語は進まないけど…。
そんなあやふやな情報で、本当に事件が起きてるのか、起きてないのかって事だけど…それに関しては超くだらないオチが。
で、推理小説的には事件の核心部分よりも…マンション内のエレベーターの動きから、容疑者の部屋が何階にあるか突き止めるというのが一番読みどころで、数学的なパズルを駆使して真相を看破するんだけど、こういうのは苦手なので1回読んだくらいだとピンとこない…。
せつないいきもの
速水果月を介して、ホイミン倶楽部という集いに参加するようになった武藤類子…仲間内で巷で多発している“連続飛び降り事件”の話題が出た直後、メンバーの一人が、みんなの前で飛び降り自殺を図った!はたして本当に自殺だったのか?
表題作のわりに、これまたパンチが弱い作品だった。短編なのに、事件が起きるまでの前フリが長く…それでいてオチが大した事がない。いろいろ紆余曲折はあったものの、単に死んだ人間の暗い過去をひも解いていっただけって感じ。
他殺説、サブリミナルを使った陰謀説などろ論じられた“連続飛び降り事件”も広げっぱなし、思わせぶりに出てきた過去の事件も、結局本筋には関わってこず…いったいなんだったんだろうって感じ。
蜜を、さもなくば死を
津島海人、速水果月と共に“ミステリ・クエスト”という推理イベントに参加した武藤類子…出題された難問に挑んでいると、突然、主催者から渡された携帯電話に着信が!実は何者かにより正規の問題がすり替えられており、その問題を解かないと、香月が身につけているイベント用の小道具が爆発するというのだ!犯人の目的は?本当に爆弾は爆発するのか?
爆弾魔との対決という…一番、ミステリーらしいといえば、らしい作品だったかな?犯人から出題された、ヘンテコなクイズの解答を探しつつ、犯人探しもすると。
犯人の目的をあっという間に看破する智久だが…確信が持てないと、答えを明かさないといういつもの性格が災いして、珍しく途中でトチったりするのはなかなか面白かった。はてさて類子ちゃんのピンチを救うのはいったい誰?
過去の2作品に登場したキャラクターなんかも顔を出すので、もしかして投げっぱなしのフリがどこかで繋がるのかな?なんて期待もしたんだけど…それは考え過ぎだったか。手に汗握る展開ではあったが、オチは凡庸。
ストレートの類子を虎視眈眈と狙うレズの香月…そこに頭はキレるがわりと唐変木な牧場を巻き込んでの奇妙な三角関係の行方など…ラブコメ物語として読むと、それなりに面白いものがあるんだけれども、過去のゲーム三部作なんかと比較するとやっぱり物足りない。
昔の作品に比べてラノベ化している竹本ミステリですが、今回も同様…前回は表紙もラノベ風イラストでしたが、そういう趣向は挿絵どまりになりました…本文イラストは前回で表紙も描いていた山本ヤマトが続投してます。イラスト目当ての方はご安心をというところでしょうか?
個人的採点:65点
武装酒場 著:樋口明雄

樋口明雄:著
角川春樹事務所
ISBN:978-4-7584-3440-9
2009年10月発行 定価660円(税込)

タイトルに惹かれた樋口明雄の「武装酒場」を読む…酒好きの酔っぱらいどもが、ガード下の飲み屋で、浅間山荘よろしく籠城を決め込むというドタバタコメディ調のお話。2002年のハードカバー書籍を文庫化したもの。
阿佐ヶ谷のガード下にある「善次郎」…そこは頑固オヤジが一人で切り盛りし、常連客ばかりが集う飲み屋だった。女房殺しのターさん、借金取りから逃げる西ヤン、男に振られた淳子らも店の常連であり、その日も偶然集まってしまったのだが…別件で刑事とヤクザが店にやって来たことから騒動が勃発!立て籠もり事件へと発展していく…。
偶然の積み重ねでどんどん事態が悪い方へと転がっていく…実に馬鹿馬鹿しいありえない展開なんだけれども、主舞台となる「善次郎」というガード下の飲み屋が、妙にリアルだからこそ…話もらしくみえてくるわけですよね。拳銃や手榴弾を偶然入手してしまう酔っぱらいたち…その方法なども実によく考えられていて面白かった。
酔っぱらい集団が、銃を持ったら…テロリストよりも手ごわかった!セオリーを全く無視され、SITにSAT、自衛隊まで出動しても、全く歯が立たず(笑)いったい、どのように事態は収拾するのか?力を手に入れた酔っぱらいたちは「太陽を盗んだ男」の城戸誠よろしく、とんでもない要求を次から次へと突き付けてくる!
お馬鹿な展開なんだけど…頑固おやじの一本筋の通った落し前の付け方、最後のエピローグ部分で描かれる関係者たちのその後などは、意外と感動的。小説だから許せる、愛すべきオオトラたちに親近感がわく。オチの一つにあったように、この作品が本当に映画化されると面白いでしょうねぇ(笑)小説は続編も出てるようで、また100円コーナーで探してみたいと思います。
個人的採点:70点
名探偵はどこにいる 著:霧舎巧

霧舎巧:著
講談社 ISBN:978-4-06-182655-7
2009年8月発行 定価840円(税込)

20年前に南海に浮かぶ終ノ島で起きた教師の不審死…教師と関係のあった双子姉妹による殺人計画らしき日記が証拠として残っていた!この事件はかつて特命を受けた後動警部補が解決していたのだが…ひょんなことから刑事の今寺は再捜査を行うことに!
主人公の今寺刑事の初恋に関する思い出話からはじまり、既に後動警部補が解決、封印した20年前の教師の不審死を再捜査していくというもので…「名探偵はもういない」のネタなんかも少し絡んでくるといった感じの構成。もちろん単独で楽しも事は充分可能で、前作の内容は既にうろ覚えだが、あまり問題はなかった。
初恋相手がとった行動の意味を考えるなんて出だしだから、平凡な日常を扱ったミステリで、事件ものじゃないのかな?なんて思ったんだけど…そうすると冒頭に挿入されている双子の人を殺す計画がどう関係してくるのかなと、疑問に思いながら読み進めていたら…ちゃんと、そういうのが1本に繋がるんですね。
核になる教師の不審死事件自体は地味なものであったけど…周辺に推理小説らしい仕掛けがいくつもちりばめられており、推理力が試される。それでいてなかなか切ない初恋話もひも解かれ、ついでにシリーズものとしての、お楽しみ部分も用意されているという…バランス良くまとめられた読み物になっているから巧い。
「名探偵はもういない」は、嵐の山荘ものというけっこう古典趣味な本格推理小説ではあったんだけれども、いつもの霧舎作品に比べると、テンポが悪く、そんなに好みの作品ではなかったんだけれども、今回の方が話は地味なのに、凄く読みやすく、惹きつけられた。著者が自分で“好きな作品”と言い切るだけあり、確かに面白かったよ。
個人的採点:70点
パラダイスロスト 著:三井雷太

三井雷太:著
学研パブリッシング
ISBN:978-4-05-903538-1
2009年11月発行 定価683円(税込)

緒方剛志の表紙イラストに惹かれた、いわゆる表紙買い…
幼い頃に両親を亡くし、叔父と一緒に暮らしている高校生の早瀬ヒトミ…平凡な女子高生のフリをし、学校では極力目立たない生活を続けていたのだが…実際はバイクをのりこなし、格闘技にも長けている。夏休み直前のある晩、コンビニで、ヤンキーにからまれている見知らぬ美少女を助けたヒトミ…翌日、学校へ行くと季節外れの転校生としてヒトミの前に現れたのが、件の美少女・柿ノ木坂理沙だった。彼女と知り合った事で、ヒトミの生活環境に異変が…。
本文の言葉を借りるなら、主人公のヒトミの容姿は、“ちびまる子ちゃんのタマちゃん”のようなダサイ少女なんだそうだが…実は、これは世をしのぶ仮の姿、実は運動神経抜群で、容姿もそこそこなんだとか。なんとなく「ブラックラグーン」に出てきた戦うメイドみたいなイメージだなぁヒトミって、怒らすとかなり恐ろしい女なんです(笑)
バイクを乗り回す怪力女が、ヤンキーどもをバッタバッタとなぎ倒して、謎の美少女を助けるという導入部はなかなか痛快で作品に惹きこまれ、その美少女が転校生として、主人公の前に現れるというところまではけっこう面白かったんだけれども…学園青春ものみたいなのを期待していたら、結界がどうたらこうたらと、中途半端にオカルトめいた話になっていくのがちょっとなぁ、自分のイメージしていた展開と違う。
そういう設定なら、もう少しおどろおどろしい感じの方向へいってもいいと思うんだけど、なんとなく軽いですね。そこが魅力っちゃ、魅力であり…主人公の女の子のアクションを楽しむためのお膳立てと考えれば問題ないけど…。最後に無理やりファンタジー系の話も盛り込みホロっとさせるんだけども、どんでん返しがちょっと小賢しすぎるかな?
雰囲気や文章はわりと好みなので、もう一押し何かが欲しい。新人ということなので、これからこの作品の続編なり、新作の物語が出るのであれば、読んでもいいかなって思える作家さんではありましたね。今後に期待ということでしょう…。
個人的採点:60点
コミケ襲撃 著:川上亮

川上亮:著
TOブックス ISBN:978-4-904376-00-3
2008年8月発行 定価1575円(税込)

ラノベとか過去に何冊か読んた事のある川上亮…帯に“ノンストップ青春アクションノベル”と書いてあったので、一応アクションというジャンルにしておきます。どちらかというと犯罪小説って感じの内容だったけどね…。
知人に騙され、3人の仲間と莫大な借金を背負ってしまったしげるは、借金取りに追われる日々で、残された道は犯罪に走るしかなかった。仲間の提案で、コミケ会場で人気サークルの売上金を強奪する事に。一度目の襲撃は成功したものの、別のサークルでは思わぬ反撃に遭い、作戦は失敗。実はそのサークル、資金調達のため亡国の工作員たちにより運営されていたのだ。しげるたちは、いつの間にか国家規模の事件に巻き込まれていた!
深見真の「ヤングガン・カルナバル」でも、高校生殺し屋が漫画を書いてるけど、亡国の工作員が、資金調達のために同人活動してるっていうのが…なんとも。コミケを襲うという発想自体は、実際に中国人あたりの犯罪者が実行したら、なんか成功しそうな感じだけどね(笑)オタクども気をつけろよって感じ。
せっかくこういうネタを使ったんだから、もう少しオタクが喜びそうな実際のサブカルネタを入れた方が良かったんじゃないかな?そういう部分ではイマイチ物足りなくて不発気味。展開的には、タランティーノやリッチーの映画みたいな、小説で言えば、伊坂幸太郎のバッタモンみたいな印象だな…色々な思惑が複雑に絡み合って、最終的には皆が同じ方向へ向っていき、ひっちゃかめっちゃかな大団円を迎えるというパターン。
しげる以下、襲撃を計画したこの作品の主人公たちなら、どん底に陥っても、なんとか最悪の事態を回避できるのではないかという…希望を見出す感じのラストにはなっていたと思うけど、やや中途半端な終わり方。もうちょっと事件の顛末を収拾してくれた方が良かったかな?読みやすく、つまらないわけではなかったけど、表紙イラストや題材でちょっと期待しすぎちゃったね…。
個人的採点:55点