せつないいきもの 牧場智久の雑役 著:竹本健治
せつないいきもの 牧場智久の雑役
竹本健治:著
光文社 ISBN:978-4-334-07675-7
2008年7月発行 定価920円(税込)
何年か前に読んだ「狂い咲く薔薇を君に」に続き、牧場智久が脇役に回った牧場智久の雑役シリーズ第二弾の連作短編。前作では類子ちゃんの後輩の、津島海人視点で物語が語られていたが、今回は類子ちゃん視点で描かれ、智久は全て電話で捜査の助言をするという構成。
青い鳥、小鳥
友人の如月拓也が特技の読唇術を使い、偶然知りえた犯罪計画、何者かが拉致監禁を企てているらしい。話に興味を持った武藤類子は容疑者と目されるOL風の女たちを尾行し…その女たちが住む自宅マンションを突き止めるのだが…。
読唇術で犯罪計画を知ってしまうというのがリアリティに欠けるし、さらに電車の中で見かけた赤の他人を、またファミレスで見かけるっていうのもかなり強引。まぁ、そこを否定したら物語は進まないけど…。
そんなあやふやな情報で、本当に事件が起きてるのか、起きてないのかって事だけど…それに関しては超くだらないオチが。
で、推理小説的には事件の核心部分よりも…マンション内のエレベーターの動きから、容疑者の部屋が何階にあるか突き止めるというのが一番読みどころで、数学的なパズルを駆使して真相を看破するんだけど、こういうのは苦手なので1回読んだくらいだとピンとこない…。
せつないいきもの
速水果月を介して、ホイミン倶楽部という集いに参加するようになった武藤類子…仲間内で巷で多発している“連続飛び降り事件”の話題が出た直後、メンバーの一人が、みんなの前で飛び降り自殺を図った!はたして本当に自殺だったのか?
表題作のわりに、これまたパンチが弱い作品だった。短編なのに、事件が起きるまでの前フリが長く…それでいてオチが大した事がない。いろいろ紆余曲折はあったものの、単に死んだ人間の暗い過去をひも解いていっただけって感じ。
他殺説、サブリミナルを使った陰謀説などろ論じられた“連続飛び降り事件”も広げっぱなし、思わせぶりに出てきた過去の事件も、結局本筋には関わってこず…いったいなんだったんだろうって感じ。
蜜を、さもなくば死を
津島海人、速水果月と共に“ミステリ・クエスト”という推理イベントに参加した武藤類子…出題された難問に挑んでいると、突然、主催者から渡された携帯電話に着信が!実は何者かにより正規の問題がすり替えられており、その問題を解かないと、香月が身につけているイベント用の小道具が爆発するというのだ!犯人の目的は?本当に爆弾は爆発するのか?
爆弾魔との対決という…一番、ミステリーらしいといえば、らしい作品だったかな?犯人から出題された、ヘンテコなクイズの解答を探しつつ、犯人探しもすると。
犯人の目的をあっという間に看破する智久だが…確信が持てないと、答えを明かさないといういつもの性格が災いして、珍しく途中でトチったりするのはなかなか面白かった。はてさて類子ちゃんのピンチを救うのはいったい誰?
過去の2作品に登場したキャラクターなんかも顔を出すので、もしかして投げっぱなしのフリがどこかで繋がるのかな?なんて期待もしたんだけど…それは考え過ぎだったか。手に汗握る展開ではあったが、オチは凡庸。
ストレートの類子を虎視眈眈と狙うレズの香月…そこに頭はキレるがわりと唐変木な牧場を巻き込んでの奇妙な三角関係の行方など…ラブコメ物語として読むと、それなりに面白いものがあるんだけれども、過去のゲーム三部作なんかと比較するとやっぱり物足りない。
昔の作品に比べてラノベ化している竹本ミステリですが、今回も同様…前回は表紙もラノベ風イラストでしたが、そういう趣向は挿絵どまりになりました…本文イラストは前回で表紙も描いていた山本ヤマトが続投してます。イラスト目当ての方はご安心をというところでしょうか?
個人的採点:65点