そして君の声が響く 著:池永陽
そして君の声が響く
池永陽:著
集英社 ISBN:978-4-08-746168-8
2007年8月発行 定価450円(税込)
文庫書き下ろし作品…不登校の生徒を扱うフリースクールにボランティアでやってきた大学生が、生徒の一人を好きになってしまうのだが、何やら複雑な事情が…ってお話。
就職活動の点数稼ぎで、不登校生が集まるフリースクールのボランティア活動を始めた大学生の荻野翔太は、そこで美声の持ち主・美咲に恋をしてしまったのだが、もちろん彼女にも複雑な過去が…。なんとか彼女を助けたいと願う翔太だったが、ある日、美咲が屋上の手摺を乗り越えようとしている現場に遭遇し…。
優柔不断そうな男が、好きな女のために右往左往している姿…完璧、自分の頭の中で、「きまぐれオレンジロード」の春日恭介を演じているころの古谷徹の声(笑)で、暗い過去を引きずりながらも、ちょっと凛々しい不登校な女子高生っていうのが、鮎川まどかを演じてた鶴ひろみ。そんなイメージで思わず読み進めてしまいました。
不登校の生徒なんだから、周りに溶け込めないのは当たり前なんだけど、さらに突出して孤独な美咲…でも歌声はプロの歌手並だし、美少女だし。いったい彼女にどんな過去があったのか?大人といっても、所詮…何のとりえもない大学生の主人公が、さりげなさを装いながら彼女のことを知ろうとする。
ああ、「めぞん一刻」の響子さんと五代くんに置き換えてもいいかもね、コレ(笑)
人を好きになるということは、外見や過去になんか捉われないってことなんだけど…まぁ、ありがちな青春もの、爽やかなラブストーリーっていったところ。ただ、好きな女のために、背伸びして暴力に踏み切っちゃったところが、惜しかった。
個人的採点:65点
渋谷STAY 著:神崎京介
渋谷STAY
神崎京介:著
徳間書店 ISBN:4-19-850727-9
2006年12月発行 定価860円(税込)
渋谷の街を舞台にしたカウントダウンサスペンスだそうで…田舎者の少女が拉致られてしまい、人身売買されちゃうって話で、親御さんと渋谷を愛する大人が犯人探しをする。
茨城から家族でやってきた田村祥一の娘が、母親との買い物の直後に行方不明に!また親に内緒で友達同士で山梨からやってきた林愛美も、連れの市橋友香がナンパ男に拐されどこかに連れ去られてしまった。この二組が宿泊する予定だったホテル“ステイ渋谷”のオーナー寺泊新吉はトラブルを耳にし、自分のツテを頼り事件の調査を始めるのだが…その影には怪しげ、如何わしいパーティーを主催する謎のグループの存在がちらつく。
神崎京介らしい官能小説っぽさも残しつつ、もうちょっとライトな感覚で読める感じの類の作品か?渋谷で困っているおのぼりさんたちを…地元のおっさん集団が助けようと奮戦する物語で、石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」の舞台を渋谷に移して、主人公を中年オヤジと老人に変更したような感じの内容で新鮮味は乏しい。
渋谷で健全なホテルを経営するオーナーを中心に、どこぞの大金持ちの老人やら、探偵まがいの仕事を得意とする無職の男、コメディアンくずれのサンドイッチマンといったクセのあるおっさんたちが…利益を顧みずに人助けに一生懸命に頑張る姿は意外とコミカルなんだけど、それとは対照的に、いたいけな少女を拐かす、アンダーグラウンドな男たちの狡猾さには嫌悪感が。悪人の方に、もう少し小説らしい魅力があれば、もうちょっと面白さが増したのでは?
綺麗ごとだけでは終わらず、拉致られた少女たちもかなりピンチに陥ります。この辺の描写を喜んで読んじゃうと、作品内に出てきた変態オヤジたちと一緒になっちゃうので(笑)
少女が行方不明になる出だしは、けっこう惹きこまれたが、ラストまでその勢いが持続できていない印象も受けた。官能描写もいいが、サスペンス、ミステリーならもうひと頑張りして欲しいかなと思った。
個人的採点:60点
魔女の盟約 著:大沢在昌【新刊購入】
魔女の盟約
大沢在昌:著
文芸春秋 ISBN:978-4-16-326610-7
2008年1月発行 定価1,785円(税込)
先月、新刊購入した大沢在昌センセの新刊「魔女の盟約」を読み終わる。2006年の「魔女の笑窪」の続編。
男を完璧に見抜くという特技を生かし、裏稼業専門のコンサルタントだった水原は、自分の生い立ちに関わる大きな事件に関わってしまい、韓国に逃亡中…。事件を通じ知り合った韓国マフィアに匿われていたのだが、地獄島を一緒に破壊した金という男が突如現れ、水原を世話していた韓国マフィアを次々に殺す事態が発生。水原も命を狙われるがなんとか逃げのびる。水原は金を追う、白里という謎の女から接触を受けており、彼女を頼ることになるのだが…事件の裏には、「民族マフィア」と呼ばれる組織のある計画が深く関わっていた!
連作短編形式だった前作とは違い、今度は長編ですね。韓国や中国での逃亡中は…今回の事件の背景にある、マフィア事情だったり、社会情勢を描くのにけっこうページを割いているので、物語的にはイマイチノリが悪かったんだけど、水原が東京に戻ってきたあたりから物語は急加速する。
前作に登場したキャラクターもしっかりと再登場するので、読んでいない人は、まずは「魔女の笑窪」から読んだ方がいいでしょうね。自分の場合、忘れている部分もちょっとあったけど…今回の作品内での説明を読んでいるうちに、だいたいキャラクターの関係図は思い浮かべることができた。ああ、このキャラ覚えてるぞってね。
1作目よりもスケールはでかくなったが、他の大沢作品でも多く描かれるようになってきた、外国人マフィアとヤクザの密接な関係…それに警察や政府がどう対応していくかというインターナショナルな構図。
海外逃亡中はピンチの連続、でも東京に舞い戻ってからは、お上もヤクザも外国人も、全部自分で手玉にとってやろうじゃんという意気込みのパワフルな水原のねーさんはかっこよかったが、キャラクターの魅力なんかは、「魔女の笑窪」の方がよく描けていたかななんて思ってみたり。まだまだ続編いけそうじゃない?
個人的採点:70点
空の境界 the Garden of sinners 下 著:奈須きのこ
空の境界 the Garden of sinners 下
奈須 きのこ:著
講談社 ISBN:4-06-182362-0
2004年6月発行 定価1,260円(税込)
前回に続き、今流行っている「空の境界」を…新書版の下巻です。上巻読了直後に下巻も読み始めたんですけど、やはり作品にノレず…上巻で中途半端だった5章を読み終えたところで頓挫(笑)以降、ダラダラと少しずつしかページが進まない日々が続き、ようやく最後まで読み終わる。
魔術師・荒耶宗蓮の罠におち、拉致されてしまった両儀式を助けるために、荒耶と因縁めいた関係にあった蒼崎橙子がついに動き出す!さらに、黒桐幹也の妹、鮮花の通う礼園女学園で、傷害事件を発端に巻き起こった妖精騒動や、式が昏睡状態に陥った事件にも関係があるらしい連続殺人鬼が再始動を果たし…。
1巻の最初の方に収録されていた“殺人考察”の後編がクライマックスに登場。これを語るために、回りくどく他の物を読まされたんだよね…初心者としては、この章だけ連続して読んじゃう方が、単純に作品を楽しめたかななんて思ってみたり(笑) あえて伏線を忘れさせるために、他の章が存在したんじゃないか?物語の順番、構成をこんなにも複雑にする意味ってあったのかよ?さすがに最後の章に入って、幾分ペースは取り戻したけどね。
結局はさ、極端なツンデレキャラなわけでしょ、両儀式って…生と死、前と悪、光と影…相反する両極端なものとかいろいろと小難しい屁理屈をいっぱい並べたてて語ってきたわけだけど、作品の本質はラブコメじゃねーか、コレって感じで、最後まで読んでも、やっぱり自分には物足りない物語。皆さん、本当にコレ面白かったですか?って訊ねたい。いや、楽しかったんでしょうね…なんせ、アニメ映画になっちゃうくらいなんですから。
いや自分もさ毎回、各章で起きる事件、その導入部分、冒頭ではワクワクするんだよ。あっ、これが普通に名探偵とか刑事が出てきてさ、現実的なオチでスパっ、スパっと事件を解決していく本格推理ものだったら、どれだけ面白かったかと、思ってしまうのは自分だけではないはず…。やっぱ伝奇ものって、自分には向かないのかな?
クールな美少女がさ、着物の上にジャンパー羽織って、ナイフや刀で魔術師や化け物じみた人間と対峙するというのは、確かにビジュアルになったら面白そうだなぁって思うけど、上下巻、合計850ページも読ませてこんだけ?みたいな物語で、あまり小説を読んだ~ってカタルシスが味わえない。
ヒットしているから面白い、皆が面白いと言っているから面白い…とは限らない。ファンの人にマジで怒られそうだけど、たまにはこんな否定的な意見があってもいいでしょ?とにかくまわりくどくてさ、かえって上巻の方がまだ、自分には面白かった。設定がつかみにくいなりに、ミステリアスな部分に多少の好奇心は持続したよ。
個人的採点:60点
空の境界 the Garden of sinners 上 著:奈須きのこ
空の境界 the Garden of sinners 上
奈須 きのこ:著
講談社 ISBN:4-06-182361-2
2004年6月発行 定価1,155円(税込)
アニメ映画化もされ、それに合わせた文庫化も発売。自分はかなり前に100円コーナーで新書版を入手してたんですけど、1冊の分厚さと上下巻組というのがネックになって積読状態だった。映画のヒットという話題に便乗しようと思って読み始めました。同人誌とかゲームとかあんま詳しくないので、純粋に一つのミステリーものとして読み始めたんだけど…。
ある事故に巻き込まれ昏睡状態に陥っていた少女・両儀式が、二年ぶりに目覚めた。その彼女が記憶喪失と引き換えに手に入れた、“直死の魔眼”。この異能の力を駆使し、様々な怪異と対峙するようになるのだが…。
元が同人小説という出版経緯にしては悪くはないし、その筋の人たちから絶賛されるだけあり、講談社ノベルスという一般新書じゃなければ、手頃なライノベ作品として、下手なベストセラー作家よりも文章は魅力的。ただ…夜更かししてまで一気読みしたい?と問われると自分には微妙な内容。
時間軸がバラバラで行ったり来たりするので、読み始めはかなりとっつきにくかった。物語は章立てになっており、一見バラバラの独立したエピソードのようにもみえるが、たぶん…みんな結末への伏線なんだろうなぁな曖昧さが残る。というか、各章の核になる話だったり、ミステリー的なトリックやオチだったり(特に5章のマンションの話とか)で、上手な作家だったら1本のミステリーを書けちゃうような~って感じのぜいたくな物足りなさとでもいうのがベターか?
ネット書店などのレビューによる評判も高いし、アニメ映画化されるくらいだから、どんな凄い大作なのかと思っていたんだけど…インパクトはイマイチ。まぁ、下巻を読まなきゃ…作品としての評価は難しいかな?とりあえず、上巻だけでの暫定的な評価としてはこんなもんか?ということで、ファンの皆さんには怒られそうだけど点数は低めに。とりあえずは下巻での巻き返しに期待ということで…。
でも、ネットで予告篇を見たアニメ映画は純粋に絵が綺麗だから見てみたいよ(笑)
個人的採点:65点
ツギハギ姫と波乗り王子 著:桜井亜美
ツギハギ姫と波乗り王子
桜井亜美:著
幻冬舎 ISBN:978-4-344-01279-0
2007年1月発行 定価1,365円(税込)
作品がメチャクチャ好きってほどでもないんだけど、毎回、蜷川実花が担当するセンスの良い表紙…可愛いおねーちゃんの表紙につられて、100円で見つけると買ってしまう桜井亜美の恋愛小説。
自分をさらけ出すのが苦手な杏、アキバのメイド喫茶、児童相手の絵画教室、経理事務とバイトを掛け持ちし、いろいろな顔を持っているが、一番幸せなのは、一人で大好きな漫画やアニメのことを想像しながら絵を描くこと。そんな杏が嵐の夜に出会った爽やかなサーファーの陸。その陸が、経理事務の仕事をしている職場へバイトとしてやってきた…。
湘南に住んでるので、身近な場所が舞台になっていて、けっこう想像しやすかったり。有名なラブホテルも実名で登場(笑)実は、自分は作中に出てきたラブホに思い出がありまして…別に利用したわけじゃないんだけど、中学校の時の教師の実家が工務店を経営していて、その教師が学生時代にアルバイトで、そのラブホの建築だか改装だかに関わったというのを、学校の授業中に聞いたことをいつも思い出すんですよ。たぶん、地元の人がこの文章を読んだら…「あの先生?」ってわかっちゃうかもなぁ。そう、回転ベッドが楽しくて、グルグルまわしちゃったと生徒に自慢していたK先生です!(笑)人づてに、今ではかなり偉くなっていると聞いたことあるけど、昔は、授業中に生徒にラブホの話をしてたんですよ。
とまぁ、この話を続けると何かと問題になるといけないので、本の話に戻りますね…過去を引きずるオタク系女とサーファーの湘南を舞台にした切ないお話。恋愛なんて、自分も相手も傷つくから大嫌い…でも1回だけならSEXはしてもいいよんっていうクールな女の子が、久々に本気で男に惚れたけど、やっぱ駄目だ~ってお話。男にはクールにみえるけど、実は過去に暗い過去があってね~って感じで、いったいこの二人の恋は成就するのでしょうか?という展開へ…。
くっついたり、離れたり、男が浮気し、それを心配し発狂しそうになっちゃったり…それを現実逃避で抑えようと必死でもがく主人公。顔の知らないネットの知り合いに、しばし依存し、助けられたりね。はて、この見知らぬ相手は誰なのかな?というミステリアスな展開も…大方の予想通りで、何のひねりもなく、さらに劇的な展開もなく、ちょっと不発気味。
個人的には、ラストの展開だけは予想に反してくれたので、良かったです。やすっぽいTVドラマのような予想通りなラストだったら、きっと本をぶん投げていたかもね~。
と、いつも桜井亜美を読むとかなり辛口なのに、懲りずに100円コーナーで本を買ってしまう、不思議ですね。いつもミステリとライノベばかりだから、たまにはこういうのも読みたくなるんだよ。
個人的採点:60点
大鬼神 平成陰陽師 国防指令 著:倉阪鬼一郎
大鬼神 平成陰陽師 国防指令
倉阪鬼一郎:著
祥伝社 ISBN:4-396-20777-8
2004年5月発行 定価880円(税込)
ホラーとか推理小説で大好きな作家・倉阪鬼一郎だけど…この作品は初の本格伝奇作品ということ。
宮内庁に極秘に属し、霊的国防を司る現代の陰陽師・中橋空斎の卦に“来年、この国に変事が出来…かつてない禍が起きる!”という未曾有の大凶が!秘録を読み解き、なんとか防衛策を講じようとしていたのだが…。一方、空斎の友人でホラー作家の神山慎之輔は、丹後で出土した亀の甲羅の謎を追っていた。
一時期流行った「陰陽師」ものとか、あまり興味はなかったのでね、陰陽道などの専門用語とか、漢字も難しいし(笑)、理解するのに四苦八苦。この間読んでいた「屍の王」よりもさらに、古典文学の知識が試されるところがあるね。劇中登場する作家が、有名な伝説・伝承について何度となく突拍子もない仮説を唱えるくだりなどは、ネタを知っている人ほど楽しめるのだろうが…。さらには物理まで…うーん、難しい。
中盤あたりから、猟奇殺人の謎を推理で解くなど著者が描き続けているミステリーもの、ゴーストハンターシリーズみたいな展開もあり(だったら、普通にゴーストハンターシリーズで書いた方が、面白かったかもね)、怒涛のクライマックス、大団円は特撮ワールドですか?(笑)
ガメラと大魔神とゴジラとさくや妖怪伝に陰陽師を加えた展開だねぇ(笑)ぜひ、樋口真嗣の特撮映像で映像化して欲しいなぁ~。作中のキーマンである相撲取役には朝青龍あたりを抜擢してさ(笑)
そんなことで、前半はちょっと自分はつまづきましたが、後半はかなりばかばかしくて笑える展開へと…。終わってみれば、やっぱり倉阪節絶好調の大虐殺ものでした(笑)
個人的採点:60点
屍の王 著:牧野修
屍の王
- 牧野修:著
角川書店 ISBN:4-04-352206-1
2004年9月発行 定価740円(税込)
牧野修がホラー作家として注目されるようになった作品だそうで、1998年には発表されたものを、角川のホラー文庫で文庫化。
元人気エッセイストの草薙良輔は、愛娘が惨殺されるという事件に遭遇し失意のどん底へ沈み、現在では風俗ライターになり下がっていた。そんな時、かつての担当編集者・泉と再会し小説を書かないかと薦められる。娘の供養もかねて「屍の王」と名付けた小説の執筆に取り掛かるのだが…数々の奇妙な現象を体験し始める。
巻末の解説など読むと…日本書紀などからインスパイアされて書かれた作品だそうで、あまり勤勉じゃない自分などはそっち方面は全然、詳しくないのだけど、そういや、登場人物の名前がみんな怪しかったなぁって思うくらい。そういう背景なんかもあるからかな?幻想的な展開になるにつれ…オチなんかは想像しやすい感じだったね。
もちろん、そんな元ネタなど知らなくても充分に(知っていればまた違った見方ができるのだろうが)、牧野印のホラーを堪能できる怪作であり、面白く読める。だんだんと登場人物たちが、いっちゃうところなどもかなり不気味で、グロイし…読んでいる自分たちも、知らず知らずに踏み込んでしまったような錯覚に陥る、あっちの世界の描写なども、味があって面白い。
この作品よりも後に書かれたとは思うんだけど、綾辻行人の「最後の記憶」あたりを読んだ時の怖さに近かったですね、自分は。
個人的採点:75点
推定少女 著:桜庭一樹
推定少女
桜庭一樹:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-1995-7
2004年9月発行 定価 672円(税込)
最近はミステリー作家としての地位を確立している桜庭一樹のライノベ…興味があって桜庭一樹を開拓してるんだけど、なかなかこのミスとかにランクインしている作品は100円コーナーになくてねぇ、とりあえずライノベ中心に攻めてるところです。
養父とトラブって大けがをさせてしまったらしい巣籠カナは、無我夢中で家を飛び出し、家出を決意。町をさまよっている時にダストシュートの中から、とんでもないものを見つけてしまった。なんと中には裸の少女が銃を抱えたまま眠っていたのだ!記憶がないらしいその不思議な少女を“白雪”と名付け、一緒に行動するようになるのだが…その頃、カナの町ではUFOの墜落騒動が起きていた。
推定少女っていうよりも、妄想少女?なんか乙女の夢の中をのぞき見ているような作品。ものすごくアップテンポ…設定がメチャクチャなんで、このくらいの疾走感がなくちゃダメなんでしょうね。勢いで読んじゃったけど、???な部分もけっこう残ってます。
物事の真相よりは…少女の心の葛藤だとか、成長の様子を感じる作品なんだよね。男の自分には、はっきりいって物足りないチープなSFでしかなかった。
ただ、この人が作り出す、文章、言葉のリズム、適度なサブカル知識などはけっこう好き。もう少し物語として安定したものを読んでみたいと思った。次に、期待…。
個人的採点:60点
ヒステリック・サバイバー 著:深町秋生
ヒステリック・サバイバー
深町秋生:著
宝島社 ISBN:4-7966-5523-9
2006年11月発行 定価1,491円(税込)
昨年末、日本でも大きな衝撃を与えた、例の猟銃の乱射事件が記憶に新しいが…こちらはアメリカのコロンバイン事件あたりにインスパイアされただろうミステリー。“筋肉バカVSオタク”などという、いかにもエンターテイメントなキャッチコピーが帯に踊っているが、銃犯罪の被害者の視点などを通して、イジメ問題や銃犯罪をしっかりと語った作品にもなっているのが良い。
アメリカでスクール・シューティング(生徒による銃の乱射事件)に巻き込まれてしまった三橋和樹は、トラウマを抱えたまま、日本へ帰国し、新しい学校へ通い始めたのだが…そこでもスポーツ系の生徒とオタクな生徒とが二分化し、いがみ合っていた。そんな時、スポーツ系の生徒が改造銃で撃たれる事件が発生。オタク系の生徒が犯人ではないかと疑いの目で見たことから…両者の対立が一気に悪化。さらにお互いに疑心暗鬼になっていく…。
この時期に、こんな話を面白いって言葉で表現しちゃっていいものか?ちょっと悩むところだけど…ただ、面白おかしく銃を発砲するような、幼稚な作品にはなっていないので、びっくり。“筋肉バカVSオタク”“戦場と化した学校”、さらにあらすじとか読むと…“両陣営が全面対立する学園バトルロイヤル”なんて書いてあるから、もっとバトロワ系の、エログロ満載で陰惨な物語を想像していたんだけど…少年犯罪の被害者、加害者のナイーブ心理を丁寧に語った物語になっている。
ちょうど自分が中学生のころ、Mくん事件(連続幼女誘拐殺人事件)が起きてさ、急にオタクが蔑まれるようになって、さすがにここまでじゃなかったけど、自分も似た経験があるよ。さんざんオタクだ!って罵られてきたけどさ、今じゃ漫画やアニメが日本の代表的な文化になり、さんざん馬鹿にしてきた奴らがさ、昔を懐かしんでフィギュアやDVDを大人買いする時代になってるだもんね。いやんなっちゃうよ。
平和だ、平和だと言われ続けてきた日本でも…アメリカなんかの人種差別に近いことが起きていて、そういうことからイジメだとか少年犯罪に繋がっていくっていうのを、改めて実感させてくれる作品だったね。
他にも、一度大きな事件に巻き込まれ、トラウマを抱えた主人公が、真実を見極め、友情や愛情に支えられながら…試練に立ち向かっていく姿に、けっこう感動もさせらる要素がある。主人公がヒーローになりそうで、ならないところが、また人間くさくて共感できるんだよね。
本を売りたいのはわかるが、出版社の宣伝方法が、逆に勿体ないと感じた。帯に騙されず、いろいろな人に読んで欲しい作品ですよ、コレは。
個人的採点:75点