UnsplashMick Hauptが撮影した写真

 

一年前にこんな記事を書きました。本ブログではアメリカのビジネス系のプログラムを中心にいろいろな専門職課程を紹介していますが、日本で特に文系の人の場合はこうしたプログラムは限られますので、日本で勉強する限りは教養的な勉強をする人が多いものと思います。

 

今回は、そうした分野の定番として、経済学について書いてみることにしました。日本の経済学の研究が世界の最先端の水準にあるかというと必ずしもそうではないのだと思いますが、少なくとも学部レベルの経済学を勉強するのに苦労することはないでしょう。
 

以下、経済学部で学んだことをキャリアで活かすことを前提とした「経済学の活かし方」と、教養的な分野として視野を広げることを意識した「経済学の学び方」についてそれぞれ書いていきます。

 

アメリカのビジネス関連の経済学教育については、こちらをご覧ください。

 

 1.経済学の活かし方:勉強しておくべきおすすめ分野

 

経済学部で学んだことをキャリアで活かすことを考えたときには、分野を問わず、注意しておかなければならないことがあります。経済学はあくまでも専門職学位ではないので、「ある職業に(ジュニアなポジションであれ)就くのに必要な知識を一通りカバーしてくれる」ようなカリキュラムには必ずしもなっていないということです。なので、経済学部の勉強だけをした状態ではたいていの場合、知識的に抜けている部分があるため、その部分は自分で補う必要が出てきます。

 

「経済学を活かす」ことを考えたときに、定番になると思われる分野について少し書き出しておきます。

(1)ファイナンス

定番のファイナンス。今のトレーディングの最前線でどれだけ伝統的なファイナンスが活用されているかは別として、今でも学生のうちに勉強しておく価値はある分野だと思います。

 

 

ファイナンスでは必ず習う「資本資産価格モデル(CAPM)」について、リスク指標(ベータ)のふるまいを調べてみた記事です。

 

勉強すべき内容はキャリアによっても変わってくると思いますが、マーケット関係なら証券アナリスト・CFA等の資格試験を活用することもできると思いますし、コーポレート・ファイナンスなら会計学、他のビジネス分野等も組み合わせて勉強する必要が出てきます。

(2)ミクロ経済学・ゲームの理論

(i) 戦略論

 

ミクロ経済学・ゲームの理論を活用する方向性としては、ポーターから始まる、所謂競争戦略・産業競争分析・戦略的意思決定が定番です。一つの業界で、大きな競争環境の変化に直面することもなくずっと安定的にキャリアを積んでいけるのであればご利益は少ないのかもしれませんが、そうでなければ、様々な業界や競争上の局面においてどこが事業的な勘所になりうるのか、クイックに掴む上でとても役に立ちます。

 

 

ミクロ経済学的というほどではありませんが、過去記事の中で一番近いものということで紹介しておきます。

 

こちらも戦略キャリアを歩みたいのであれば、それは機能別の組織(営業、製造…)を束ねた事業全体を引っ張っていくということですから、ミクロ経済学ベースの戦略分析を勉強するだけでは不十分で、マーケティングやオペレーションから財務、会計、リーダーシップ等に至るまで、ビジネス分野を一通り勉強することが必要です(もちろん、勉強すりゃできるというものでもありませんが…)。

 

(ii) マーケット・デザイン

 

最近のミクロ経済学の活用の方向性としては、「オークション」「マッチング」「ダイナミック・プライシング」等、望ましい資源配分を達成できるように市場をデザインする「マーケット・デザイン」の領域が盛んになっています。もともとは「周波数オークション」「研修医と病院のマッチング」といった公共政策分野での応用から始まったものなんだと思いますが、こうした手法はテック系とも相性が良く(「Googleの広告オークション」「Uberのドライバーと顧客のマッチング」等)、急速な広がりを見せています。

 

周波数オークション。私自身には周波数オークションそれ自体を使ってどうこうするスキルはないので、携帯電話キャリアやテレビ局の財務諸表を見て、周波数オークションが経営に与える影響を、お金の流れから追ってみました。

 

コロナ期間中に配信された、早稲田大学の応用数学の講義。「男女のマッチング」「研修医の病院への配属問題」等、経済学的なマッチングのアルゴリズムについてわかりやすく解説しています。

 

こうなってくると普通に学部を出たレベルでアルゴリズムやプログラミングまで含めて習得するのはなかなか難しいんだと思いますが、勉強しておいて損はない分野でしょう。

(3)データ分析

データサイエンスブームは一時に比べると落ち着いてきたような印象も受けますが、データ分析スキルのニーズは依然として高いです。経済学部で勉強できる統計分析手法には色々ありますが、特に応用ミクロ計量経済学的な効果測定(政策のインパクト評価等)・因果推論は経済学が得意な手法で、他分野と比較しても強みがあるのではないかと思います。

 

 

経済学の分野で発展した、統計学的な効果測定の手法について勉強してみた記事です。

 

もちろん専門的なデータサイエンティストを目指すのであれば、経済学の学部レベルのスキルでは不十分なのだと思いますが、データ分析は一部の専門家が身に着ければいいというものではなく、ビジネス・ITプロフェッショナル等、幅広いプロフェッショナルが自らのレベルに合わせて習得すべきものです(例えそれが「TabreauやAlteryxの使い方」といった水準だったとしても)。そうしたレベル別のスキルについては、本ブログのビジネス・アナリティクス関連の記事(学部Specialized MastersMBA)もご覧ください。

 

本ブログのその他の経済学関連の記事はこちら。「経済学」と言われてまず思い浮かべるのは、どちらかと言えばこちらの方かもしれません。こうした内容も、もちろん知っておけば役に立ちます。

 

 

ウクライナ経済はEUに引き寄せられていたのか?

デフレが経済を停滞させる理由

 

 2.経済学の学び方:他の分野との組み合わせ

 

経済学を学ぶとき、視野を広げるために他の分野に興味を持たれる場合もあると思います。そうした時のために、アメリカでは「2重専攻・副専攻」の制度があり、複数の分野を組み合わせて勉強できるようになっています。2重専攻というのはすればえらいというものでは全くありませんが、経済学はカリキュラムが比較的、柔軟なこともあり、「経済学とXX」といった形の組み合わせで2重専攻することは比較的、多いようです。

 

日本で制度的に同じような勉強をするのは難しいのではないかと思いますが、分野によっては資格試験を活用する等により、似たような経験をすることもできるのではないかと思います。

 

Interdisciplinary Study and Double Majors : Department of Economics - Northwestern University

 

ノースウェスタン大学経済学部のウェブサイト。経済学専攻の学生のうち半分がダブルメジャーで卒業するとしており、分野としてはリベラルアーツ(政治学、歴史学、数学、心理学、国際関係学)、工学(特に経営工学)、コミュニケーション、教育、ジャーナリズム、音楽、他にビジネス関係(ビジネス、ファイナンス経済学、経営アナリティクス)の副専攻やCertificateを挙げています。

 

そこで、個人的な経験から、経済学との2重専攻の相手分野として思いつくものをいくつか並べてみました。

  • 工学:これはどちらかと言えば、エンジニアキャリアを志向する人が視野を広めるために経済学を履修するケースが多いようです。アメリカのエンジニアはビジネスまで含めて全体として仕組みを作るのが好きな人が多く、そうした人のバックグラウンドになっているケースもあると思います。但し、かなり大変です。
  • 計算機科学:昔は金融業界での就職にベストな組み合わせとされていました。今はまた違ったキャリアがあるでしょう。
  • 数学/統計学:大学院に行く人にとってはベストな組み合わせ。数学をフルで専攻するのは大変ですから、経済学と理系レベルの数学を組み合わせた「Econ/Math(経済学専攻・数学副専攻程度)」といったプログラムを別に用意している場合もあります。
  • ファイナンス:ビジネス関係の専攻を提供している大学であれば、ファイナンスとの組み合わせは定番でしょう。フルで専攻するのであれば、ファイナンスそのものに加え、ビジネスのコアコースを一通り勉強することになります。他に、経済学とファイナンス、会計学等を組み合わせて学ぶ「ビジネス経済学」コースを用意している場合もあります。
  • 会計学:アメリカの会計学専攻は公認会計士養成コースになっていますが、公認会計士は取得に求められる単位数が多いため、大学に残って専攻をいくつも取りながら取得要件を満たそうとするケースもあります。会計学は意外と数学力・分析力に欠けると思われがちで、経済学は逆にその分析力が身につく専攻と言われているため、その組み合わせは会計士ルートだけでなく、企業に就職する場合でも価値が高いとされているようです。但し、かなり大変です。
  • 政治学、哲学:こちらは、私が知っている範囲では大学卒業後、ロースクールに進学して弁護士になっているケースが多いです。

今回は以上です。もう大学を卒業してしまった方も、経済学はMBA等のプログラムでは必ず学ぶ内容ですので、是非、機会を見つけて勉強してみてください。