【作品#0596】ワイルド・スピード/スーパーコンボ(2019) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ワイルド・スピード/スーパーコンボ(原題:Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw)


【Podcast】


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【概要】

2019年のアメリカ/日本合作映画
上映時間は137分

【あらすじ】

デッカード・ショウの妹でMI6のエージェントであるハッティは、殺人ウイルス「スノーフレーク」を確保しようとしたが、テロ組織のブリクストンらに急襲され、ハッティはそのウイルスを体内に注入して何とか逃げる。そこでハッティの兄デッカードとルーク・ホブスが事件解決のために呼び寄せられる。

【スタッフ】

監督はデヴィッド・リーチ
音楽はタイラー・ベイツ
撮影はジョナサン・セラ

【キャスト】

ドウェイン・ジョンソン(ルーク・ホブス)
ジェイソン・ステイサム(デッカード・ショウ)
イドリス・エルバ(ブリクストン)
ヴァネッサ・カービー(ハッティ・ショウ)
ヘレン・ミレン(マグダレーン・ショウ)
クリフ・カーティス(ジョナ・ホブス)
ライアン・レイノルズ(ロック)
ケヴィン・ハート(ディンクリー)※ノンクレジット

【感想】

「ワイルド・スピード」シリーズのスピンオフ作品として製作された本作には、ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、そして「ワイルド・スピード/ICE BREAK(2017)」にノンクレジットながら出演したヘレン・ミレンが参加。このところの本家シリーズには及ばないが、全世界で7億6千万ドルのヒットを記録した。ちなみに、端役で出演したライアン・レイノルズはデヴィッド・リーチ監督と「デッドプール2(2018)」でも組んでいる。また、本作にノンクレジットで出演しているケヴィン・ハートは「セントラル・インテリジェンス(2016)」「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル(2017)」「ジュマンジ/ネクスト・レベル(2019)」でもドウェイン・ジョンソンと共演している。そして、ドウェイン・ジョンソン、イドリス・エルバともに1972年生まれである。

本作を語る上で前作「ワイルド・スピード/ICE BREAK(2017)」の製作中のトラブルには触れておかないといけない。撮影当時、現場へヴィン・ディーゼルが来なかったことでドウェイン・ジョンソンとの間に衝突があったことも表沙汰になった。また一方で、その「ワイルド・スピード/ICE BREAK(2017)」でのコンビネーションの良さからドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムを主演にしたスピンオフ作品が製作されることになった。これにより、本家シリーズの製作に遅れが出ることになり、ミシェル・ロドリゲスとタイリース・ギブソンは「ワイルド・スピード」シリーズの「ファミリー」へ損害を与えたと発言した。そして、ドウェイン・ジョンソンは本家シリーズに以降出演しないことも公表している。

「ワイルド・スピード」シリーズのスピンオフ映画である本作を鑑賞し、本家の目指すべき姿はこれだったんじゃないかと強く感じた。基本的にヴィン・ディーゼルの「俺様」映画である「ワイルド・スピード」シリーズにおいては、コメディ要素もあるが、基本的にはタイリース・ギブソン演じるローマンに担わせており、ヴィン・ディーゼル演じる主人公のドミニクがジョークを言ったりおどけたりすることは基本的にない。それはそれで別に問題ないが、シリーズ通して描かれるある種の荒唐無稽さとドミニクのキャラクターや彼の信念とする部分がアンマッチであると感じることも多々あった。その点、本作の主人公2人の組み合わせは共にジョークも言えるし、本シリーズの雰囲気にすごく合っていると感じた。この雰囲気でかつ「ファミリーがどうのこうの」言わない映画でシリーズを続けていればもっと好きになっていただろうなと思う(ヒットを飛ばし続けているから今更路線変更はないだろうが)。

そして、本作はスピンオフと言うことで「ワイルド・スピード」らしさをほんの少し担保しつつ基本的にはデヴィッド・リーチ監督らしい作品に仕上がっている。スタントマン上がりのデヴィッド・リーチ監督は、チャド・スタエルスキ監督とともに「ジョン・ウィック(2014)」をノンクレジットながら一応の監督デビューし、「アトミック・ブロンド(2017)」で正式に監督デビューを果たした。その2作品に比べると、「デッドプール2(2018)」、本作、そして次回作の「ブレット・トレイン(2022)」は基本的に同列に並べて語ることのできるアクション映画を監督している作家である。その3作品はその前の2作品に比べると、やや荒唐無稽さのあるアクションをコミカルな表現で包み込んできた作風が共通していると言えるだろう。なので、本家「ワイルド・スピード」シリーズが荒唐無稽なアクションをやりつつ最終的にはシリアスにまとめ上げたいという部分がアンマッチに感じていたが本作はその部分を完全に解消しており、本家シリーズにはできなかったこと、あるいは違和感を覚えていたことをはっきりとクリアしている。

そして、本作は過去の映画オマージュにも溢れている。主人公たちを追いかけるブリクストンはまさに「ターミネーター」であり、逃げるのが男2人と女1人であるところは「ターミネーター2(1991)」と一緒である。また、ダニエル・クレイグの次のジェームズ・ボンド役の候補として度々名前の挙がっていたイドリス・エルバだが、当初の脚本にあった「黒人のジェームズ・ボンド」というセリフを嫌がり、「黒人のスーパーマン」というセリフが使われている(ホブスが2回言う場面がある)。そして本作のラストは、ホブスの故郷の家で家族や仲間とともに敵を迎え撃つという展開になるが、これは「007/スカイフォール(2012)」のラストで主人公ジェームズ・ボンドが彼の生家でM(momの愛称)と迎え撃つ場面を惹起させるものがある。ただ、デヴィッド・リーチ監督は下記の音声解説において、この部分は「十三人の刺客(おそらく三池崇史版!?)」からインスピレーションを受けたと語っている。

また、ラストの車とヘリコプターを使ったアクションシーンはまさに「チーム戦」であり、ラストのアクションがあっちでもこっちでも展開されるここ最近の本家シリーズのむずがゆさを一気に解消するアクションシーンになっている。さらに、ホブスとショウが交互にブリクストンに攻撃を受ける代わりに攻撃を受けなかった方がブリクストンを攻撃するというやり方も互いに協力しないとできないことである。シリーズでは犬猿の仲であった彼らが人類最強になった男をやっつけるために互いに犠牲を払っていく展開も良い。そして、このドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのコンビがすごく良い。本家のドミニクとブライアンなんかよりよっぽど良い。

そして、そのホブスが故郷に帰ることで本当のファミリーが登場する。「ワイルド・スピード」本家シリーズには本当の意味での家族はドミニクとミアの兄妹、ブライアンとミアの夫婦といったくらいであった。本作ではデッカードとハッティの兄妹にその母親、またホブスとジョナの兄弟にその母、さらにホブス一家のあるサモアで登場する面々はまさに「ファミリー」といった強い絆で繋がった存在である。これも本家シリーズではあまり描いてこなかった部分である。

それから、アクションシーンの完成度も本家シリーズよりこちらに軍配を上げたい。特に格闘シーンの出来は歴然とした差があり、スタントマン上がりのデヴィッド・リーチがチャド・スタエルスキとともに立ち上げた「87イレブン」というアクションシーンを作り上げる会社で培ったノウハウが存分に発揮されている。ジェイソン・ステイサムもそこでトレーニングを受けたと言われており、特にジェイソン・ステイサムのアクションは彼の作品の中でベストだと感じた。本作では力のホブスに対して敏捷のデッカード・ショウという、ある程度の描き分けをしており、そのデッカード・ショウを演じたジェイソン・ステイサムの身のこなしは見事に表現されていた。特に画面の両側に、あるいは前後にいる敵を交互にやっつける時の躍動感はもはや芸術。また、格闘シーンで基本的にジャケットやシャツを羽織っているのもそのアクションの見栄えを重視しているのだと思う。

また、ハッティ・ショウを演じたヴァネッサ・カービーのアクションも素晴らしかった。ちなみに彼女は「アトミック・ブロンド(2017)」でシャーリーズ・セロンをトレーニングしたのと同じ人からトレーニングを受けている。もちろんスタントも使っているが、彼女が演じているのが分かるシーンも多数ある。彼女がデッカード・ショウの妹であることを動きで表現できており、説得力のあるものであった。また、あの研究所内で2人の敵をやっつけた後に、ハッティにカメラが寄って決め顔をするところも、全部スタントマンがやっていたり、少しでも説得力がなかったりすると、見ているこっちが恥ずかしくなるものだが、めちゃくちゃカッコいい。

そして、下記の音声解説でも言及しているが、バスター・キートンやハロルド・ロイドといったクラシック映画のアクションスターからジャッキー・チェンの影響まで公言しており、特に研究所に乗り込んだデッカード・ショウが複数の敵を相手に手錠をしていくところなんかはジャッキー・チェンのアクション映画でよくお見掛けした光景である。そして、音楽の使い方など「リーサル・ウェポン」シリーズを意識した話もしており、本作の監督候補の1人がその「リーサル・ウェポン」シリーズをプロデュースしていたシェーン・ブラックだったらしい。

それから、ヘレン・ミレンという女優の存在感。本作では前半とミッドクレジットの計2回しか出番はないのだが、存在感は抜群で、赤い口紅と赤い囚人服が見事なコーディネートになっており、これほど囚人服が様になる女優がいるだろうか(もちろん褒めている)。

ただ、本作はミッドクレジットに2回、さらにエンドクレジット後にもう1回映像が流れるのだが、本作のような映画だとしてもちょっとくどいかな。「デッドプール2(2018)」でタッグを組んだライアン・レイノルズを呼び寄せたのだからあれもこれも使いたいという意図は分かるがややくどいかな。ただ、下記の音声解説によると、当初はもっと長く、これでも削った方らしい。

結局、「ワイルド・スピード」本家シリーズでは、主人公のドミニクが毎作品のように「ファミリーを大事にしている」とこと口にしていたが、プロデューサーであるという立場を良いことに、キャストやスタッフが待つ現場に現れないなど不誠実な態度からドウェイン・ジョンソンと衝突を起こした。また、シリーズ作品の項で度々記してきたように、キャラクターの生き死にや行く末があまりにも雑であり、とてもシリーズのファミリーとも言えるキャラクターを製作陣が大切にしているとはとても言い難いシリーズであった。その点からスピンオフである本作を振り返ると、顔を合わせれば喧嘩をする2人の男が、世界を救うために協力して戦うところや、かつての不義理で敷居の高くなった故郷へホブスが意を決して戻り、家族や仲間と協力して戦うところは本家シリーズが描くべきだった部分であると感じる。もちろん本家シリーズのクライマックスのアクションはチーム戦の様相を呈していたが、各キャラクターがあっちこっちにばらけて戦っていたのは惜しいところだった。その点、本作はホブスとショウが同じ場所で戦うところや、ヘリコプターに乗ったハッティを助けるために、ヘリコプターに鎖を引っかけて車を何台も繋いでいくところはチーム感がとても出ていた。基本的にはバカ映画であることに変わりないのだが、その中にも映像を見ただけでわかるテーマをしっかり盛り込めているのは素晴らしいし、キャストや監督、脚本や演出ひとつでこうも変わるものかと感心してしまう。

上述のように、ヴィン・ディーゼルとドウェイン・ジョンソンの間の衝突によりドウェイン・ジョンソンが本シリーズには出演しないことを公言したので、スピンオフである本作がシリーズ化することは事実上不可能だろう。このドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのコンビは抜群に良かっただけに本作限りになってしまったのは悔やまれる(できれば他の作品で共演を!!)。下記の音声解説を聞く限り、映画のテンポを優先して止む無くカットしたところが多数あったようだ。おそらく映画を面白くする要素はいくつも生まれていたのだと思う。スピンオフが本家シリーズを超えた良い例だと感じた。

【音声解説】

参加者

├デヴィッド・リーチ(監督)


監督のデヴィッド・リーチによる単独の音声解説。本人が話しているように劇場公開前に収録されたものである。プロデューサーを務める監督の妻が脚本を取り寄せた話、「ワイルド・スピード」らしさを意識した演出の話、ギャグなどを詰め込んで当初の編集では2時間45分もあった話、長い付き合いのスタント仲間との仕事、バスター・キートンやハロルド・ロイド、ジャッキー・チェンなどのアクションスターや「十三人の刺客(おそらく三池崇版)」からの影響、ロケ地や視覚効果、音楽や編集、前作「デッドプール2(2018)」で組んだライアン・レイノルズに演じてもらったロック役に関する話など、聞き手が知りたい情報をこれでもかと出してくれる。

 

【関連作品】

ワイルド・スピード(2001)」…シリーズ1作目
ワイルド・スピードX2(2003)」…シリーズ2作目
ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT(2006)」…シリーズ3作目
ワイルド・スピード MAX(2009)」…シリーズ4作目
ワイルド・スピード MEGA MAX(2011)」…シリーズ5作目
ワイルド・スピード EURO MISSION(2013)」…シリーズ6作目
ワイルド・スピード SKY MISSION(2015)」…シリーズ7作目
ワイルド・スピード ICE BREAK(2017)」…シリーズ8作目
ワイルド・スピード / ジェット・ブレイク(2021)」…シリーズ9作目
ワイルド・スピード / ファイヤーブースト(2023)」…シリーズ10作目
「ワイルド・スピード / スーパーコンボ(2019)」…スピンオフ

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

 

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言語

├オリジナル(英語/サモア語/ロシア語)

 

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├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】
 

<BD>
 

言語

├オリジナル(英語/サモア語/ロシア語)

├日本語吹き替え
音声特典

├デヴィッド・リーチ(監督)による音声解説
映像特典

├未公開シーン

ロング・バージョン

別バージョン

ジョンソンとステイサム

監督デヴィッド・リーチが解説する格闘シーンの作り方

リアルなアクション

最強の敵

ホブスの家族

強き女性

新たな仲間

降下アクション

スタントシーンの制作過程

家族の秘話:ロマンとドウェインの対談

無我夢中

ドウェインとホブス:ワンダフルな演技


<4K ULTRA HD+BD>
 

収録内容

├上記BDと同様