【作品#0633】ワイルド・スピード/ファイヤーブースト(2023) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

ワイルド・スピード/ファイヤーブースト(Fasx X)

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

2023年のアメリカ/中国/日本映画
上映時間は141分

【あらすじ】

10年前にブラジルの麻薬王レイエスから資産を奪って、レイエスを死なせたドミニクに対して、レイエスの息子ダンテが復讐を仕掛けてくる。

【スタッフ】

監督はルイ・レテリエ
音楽はブライアン・タイラー
撮影はスティーヴン・F・ウィンドン

【キャスト】

ヴィン・ディーゼル(ドミニク)
ミシェル・ロドリゲス(レティ)
ジェイソン・ステイサム(デッカード・ショウ)
ジョーダナ・ブリュースター(ミア)
タイリース・ギブソン(ローマン)
クリス・“リュダクリス"・ブリッジス(テズ)
ナタリー・アマニュエル(ラムジー)
シャーリーズ・セロン(サイファー)
ジョン・シナ(ジェイコブ)
サン・カン(ハン)
ヘレン・ミレン(マグダレーン・ショウ)
ブリー・ラーソン(テス)
スコット・イーストウッド(リトル・ノーバディ)
ジェイソン・モモア(ダンテ)
アラン・リッチソン(エイムス)
ヨアキム・デ・アルメイダ(レイエス)
リタ・モレノ(アブエリタ)

【感想】

「ワイルド・スピード」シリーズ最終章に突入した10作目は、前作に続いてジャスティン・リンが監督を務めていたが、創造性の違いを理由に降板し、ルイ・レテリエが引き継いだ。ルイ・レテリエ監督とジェイソン・ステイサムは「トランスポーター」シリーズ以来のタッグとなった。また、シリーズでブライアン役を演じていたポール・ウォーカーの娘メドウ・ウォーカーがCA役でカメオ出演を果たしている。

本作は10年前に遡る。「ワイルド・スピード/MEGA MAX(2011)」の悪役レイエスには息子ダンテがいて、ドミニクを車で追走していたが、車が横転し川に投げ出されるところでタイトルクレジットに入っていく。ある程度事情は察するつもりだが、なぜダンテは10年間も復讐しなかったのか(大怪我したとか、意識不明の重体だったとか、リハビリに長期間を要したとかでも良いと思うんだが)。また、アバンタイトルのアクションシーンを過去作のクライマックスの流用とはやや残念ではある。

このダンテは、親のレイエスから「殺して償わせるのは生温いから苦しませろ」と言っており、その言葉通り、ダンテはたとえドミニクを殺せる状況であっても殺すことはない。シリーズ最終章に突入したが、まだあと1~2作品製作されることを考慮に入れると、こういう設定も分からなくもない。

そんな悪役のダンテを演じたのがジェイソン・モモアである。陽気でおどけた悪役像としては申し分ない存在感だった。近年のこういった悪役に限ればトップクラスだろう。特にエレナの妹イザベスを人質にして顔を舐めるところは、「フェイス/オフ(1997)」のジョン・トラヴォルタを連想した。

IMDbによると、本作には「ファミリー」という言葉が56回も登場するらしい。前作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク(2021)」では「ファミリー」についてあまり言っていなかったのは良いと思っていたのだが、「ファミリー」のことばかりうんざり。中盤にダンテがドミニクに対して「お前の弱点はファミリーだ」と言われている。大切な人が増える程失う恐怖があるという意味合いだろうが、映画としてはこのファミリーの多さが完全に仇となっている。

前作の記事でも言及したが、とにかくキャラクターが多すぎる。本作ではキャラクターが最大でも6か所(ドミニク/ダンテ/レティとサイファー/ローマンら4人/エイムス/ジェイコブとリトルB)に分かれて行動する(厳密に言うともう少し分かれるところもあるが)。この最大6か所を交互に描く必要がある。しかもその先でまた新キャラクターや過去作のキャラクターが登場することになり、そこに見せ場を用意する羽目になる。これによって中盤は完全に間延びしており、「見せ場のための見せ場だろうな」という場面も散見される。

特にロンドンのネットカフェでローマンとテズが殴り合いをする場面はどう考えても不要だった。後に彼らが仲直りす場面を入れることで、キャラクター間のドラマを描きたかったのかもしれないが、そもそもこんな痴話喧嘩と仲直りくらいでドラマは描けていないし、彼らの下らない殴り合いが始まると「勘弁してくれ」と思ったところだ。その間にハンがドラッグ入りのマフィンを食べる件も不要だろう。

それから同じ場所で治療を受けていたレティとサイファーの格闘シーンもいらなかった。上述のローマンとテズに比べると遥かに凄い格闘をやっているので見応えこそあるが、この流れの中で必要な格闘シーンだったとは思えない。ほかにも、デッカード・ショウの拠点に敵が急襲して格闘する場面、ドミニクがブラジルに戻ってダンテらとレースする場面もあまり必然性は感じず、基本的にこの辺りは各キャラクターへの「見せ場」として用意されたものだと思う。とりあえず殴り合いの喧嘩をさせることで場を持たせるというのは安易すぎる。そこへ至る流れや必然性を用意できなかったのは痛いところ。

ただ、サイファーにちゃんとしたアクションシーンを用意したことは辛うじて評価できる(やっとかという感じだが)。「ワイルド・スピード/ICE BREAK(2017)」で初登場し、大した見せ場もないままただ逃げただけだったサイファーは、前作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク(2021)」でも中盤まではずっと閉じ込められたままだった。そして、いざ外に出ると戦闘機に乗るだけ。アクションのできるシャーリーズ・セロンに格闘シーンすらちゃんと用意してこなかった。本作では2回も彼女の格闘シーンが用意されている(必然性はともかくとして)。

レティとサイファーはなぜ南極にまで移送されているのかもよく分からんし、デッカード・ショウは母親の危機を知ると荷物をまとめて拠点を飛び出して以降は描かず。ローマンらはドムに合流するまでに金の宛てを探すくらいしかしていない。リトル・ノーバディは走行する車から脱出して以降に登場しないし、ミアはどこへ行ったんだ。ファミリーの危機なら彼女がどこに行ったかくらいは明示すべきじゃないか。

「ワイルド・スピード/SKY MISSION(2015)」の出演を最後に急逝したポール・ウォーカーが演じるブライアンは、そのラストで別々の道を歩むことになるとしてこの稼業から足を洗うという形になっていた。それに伴いブライアンも結婚したミアもシリーズには登場しなかった。ところが、前作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク(2021)」がドミニクとミアの弟ジェイコブが登場する話だったので、ミアが登場しないわけにもいかず、ジョーダナ・ブリュースターが再登場することになった。その流れで本作にも序盤に顔を出しているが、ここまで来るとブライアンが出てこないのはもう不自然でしかない。ポール・ウォーカーが亡くなっている以上仕方のない事だが、ブライアンには別の道を歩むという結末を用意したのだから、その世界で生きている彼が登場しないのが不自然になる脚本にはすべきではなかったと思う。やはり「ワイルド・スピード/SKY MISSION(2015)」で終わっておけばキレイだったのにな。

そして、本作にはドミニクら「正義の側」とダンテら「悪の側」に対する公平な立場として「秘密工作組織」のエージェント・エイムスが新登場する。ドミニクが悪人ではないと主張するミスター・ノーバディの娘テスに対して、ドミニクを絶対に捕まえると主張するキャラクターである。ドミニクの側に付いたドウェイン・ジョンソン演じたルーク・ホブスへの当てつけのようなキャラクターだと思ったが、中盤にダンテの悪行とドミニクの英雄的行動を見たエイムスはドミニクに味方するようになる。それではいつもの「ワイスピ」だからか、終盤にローマンらが飛行機でドミニクを助けに来ると、エイムスはその飛行機にミサイルで撃墜してしまい、実はダンテの味方だったことが判明する。もう何がしたいのかが分からん。その後に10年前の回想シーンに彼とダンテが味方であることを示す場面が出てくるが、「だから何だ」って話である。伏線を用意する気すらない。エイムスがレイエスの味方になる経緯も説明されていないし、一時的にドミニクの味方をする展開も必然性を感じない。

序盤のローマでのシークエンスがひと段落すると、ファミリーの面々はあちこちに分かれて行動することになり、終盤にかけてようやく一部のファミリーは一か所に集まり始める。ポルトガルの隠れ家にやって来たジェイコブとリトルBは結局ダンテらに追われることになる。さらにそこへドミニクが後に敵だと判明するエイムスの助けを得てジェイコブとリトルBが乗る車を助けに空からやって来る。ジェイコブの車にはミサイルが搭載されているが、弾詰まりを起こしており、それをリトルBが危険を承知で直そうとしていると、並走したダンテがリトルBをさらってしまう(何やってんだか)。そして、そのミスを取り返すべくジェイコブは、ドミニクの前に立ちはだかる車に向かってミサイルを搭載した車ごと突っ込んでいる。あるキャラクターがファミリーのために命を犠牲にするのは、「ワイルド・スピード/EURO MISSION(2013)」のジゼルを思い出す。後述するが、おそらくジェイコブは奇跡的に助かって生きていることだろう。

そして、追いつめられたドミニクのところへローマンらが乗った飛行機が助けにやって来るが、上述のように突然エイムスが裏切ってその飛行機へミサイルを発射する。そしてその画面上には大きな炎が見え、大きな爆発音がしているので墜落したのだろうが、その飛行機が墜落したことをはっきりと映していないので、ローマンらも何かしらの方法で助かっているのだろう。

最終章の第一弾なので、当然途中で映画が終わるようなものになってしまうのは仕方ない。にしてもあまりにも途中で終わり過ぎ。また、エンドクレジットになると急に「007」シリーズのオープニングタイトルクレジットみたいになるのもよく分からん。

レティとサイファーのラストシーンで南極の氷の下から潜水艦が現れ、そこからあの「ワイルド・スピード/EURO MISSION(2013)」で死んだはずのジゼルが現れる。本作では死んだと思われていたキャラクターが後に「実は生きていました」というのを定番としているが、これでレディ、デッカード・ショウ、ハンに続く4例目となる。以前の記事にも記載したが、こういうことをやると、過去作に遡って評価を下げざるを得なくなるし、こんなに簡単に死んだキャラクターが復帰すると、各キャラクターへの興味が薄れることになる。「どうせ生きてるんでしょう!?」と思われるだけだ。ジゼルが現れた瞬間、劇場ながら小さな声で「えぇぇぇ」と言ってしまったほどである。どうせ次回作でなぜ生きているのかを説明することになるのだろう。

それからミッドクレジットにまた映像があり、マスクを被った男が顔を出すとなんとその男はドウェイン・ジョンソン演じるルーク・ホブスである。ヴィン・ディーゼルが「ワイルド・スピード/ICE BREAK(2017)」の撮影現場に現れないなどの不誠実な態度を取ったとしてドウェイン・ジョンソンは遺憾の意を表明していた。そんな事情も相まってドウェイン・ジョンソンは「ワイルド・スピード」シリーズへの出演をしないことまで発表していた。そんな彼らが和解したから実現したのだろうが、これには少々テンションが上がった。私は、ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのダブル主演となった本シリーズのスピンオフ映画「ワイルド・スピード/スーパーコンボ(2019)」が私にとってのシリーズ最高峰の作品と考えている。ドウェイン・ジョンソンがシリーズに復帰しないことを公表した時点でこの作品の続編も立ち消えになったとがっかりしていたが、その続編の可能性が少しでもあるなら希望を持っていたい。

前作に引き続いてキャラクターの多さを消化しきれず、それでも良くまとまっているとは言えるかもしれないが、完全にそのファミリーの多さが足枷になっている。そのファミリーのために用意した見せ場は「見せ場のための見せ場」になっている場所も多い。「マッドマックス/怒りのデス・ロード(2015)」や「ミッション:インポッシブル/フォールアウト(2018)」のようにアクションをアクションで繋ぐという作品が成功した。割と冒頭からアクションのつるべ打ちとなっているが、これだけキャラクターが分散すると必然性のあるアクションとして繋いでいくのは難しく、ただ散らばったキャラクターがあちこちでアクションをやっているという感じになり、そのボルテージがどんどん上がっていく感じもない。ダンテの言うように本作(ドミニク)の弱点はそのあまりにも増やし過ぎたファミリーそのものだ。

本作も新キャラクターを続々と登場させ、さらには死んだはずのジゼルやシリーズ降板を表明していたドウェイン・ジョンソン演じるホブスまで再登場した。ジゼルがなぜ生きているのかや、確執のあったドウェイン・ジョンソンとヴィン・ディーゼルがいかにも仲直りっぽいことをする描写があるんだろうな。ジゼルがなぜ生きていたかなんてただの説明にしかならんだろうな。おそらく、サイファーが手を回していたことになるはずだ。レティがテスに刺されてあの治療室に移送された後、サイファーはレティに「奴らは傷を治してから殺す」というような発言をしていた。おそらく重傷を負ったジゼルをあの治療室に入れて回復させたとか何とかという無理くりな話にするんだろうな。

当初は最終章は2部作で本作が前編で、2025年公開予定の作品が後編にして本シリーズの最後の作品となる予定だった。ただ、本作公開直前にヴィン・ディーゼルが3部作になるかもしれないと発言している。これだけ風呂敷を広げまくったシリーズが最終章できれいにまとまるとは思えない。さらにはスピンオフも新たに検討しており、それにこれほどの稼げるコンテンツを易々と手放すわけにもいかず、欲張っているようにも見える。

 

【関連作品】

ワイルド・スピード(2001)」…シリーズ1作目
ワイルド・スピードX2(2003)」…シリーズ2作目
ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT(2006)」…シリーズ3作目
ワイルド・スピード MAX(2009)」…シリーズ4作目
ワイルド・スピード MEGA MAX(2011)」…シリーズ5作目
ワイルド・スピード EURO MISSION(2013)」…シリーズ6作目
ワイルド・スピード SKY MISSION(2015)」…シリーズ7作目
ワイルド・スピード ICE BREAK(2017)」…シリーズ8作目
ワイルド・スピード / ジェット・ブレイク(2021)」…シリーズ9作目
「ワイルド・スピード / ファイヤーブースト(2023)」…シリーズ10作目
ワイルド・スピード / スーパーコンボ(2019)」…スピンオフ

 

 

 

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音声特典

├ルイ・レテリエ(監督)による音声解説

映像特典

├NGシーン集
├ファミリーの面々
├アクション徹底解剖:ルイ・ルテリエ監督による解説
├究極のマシンを求めて
├格闘の女神たち
├リオでのレース
├ジェイソン・モモア:ローマでのバイクスタント
├リトルBに魅せられて
├仲間の復活
├ミュージック・ビデオ

 

<4K Ultra HD+BD>

 

収録内容

├上記BD+DVDと同様