【作品#0482】ブレット・トレイン(2022) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ブレット・トレイン(原題:Bullet Train)

 

【Podcast】

 

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【概要】

2022年のアメリカ映画
上映時間は126分

【あらすじ】

不運な殺し屋レディバグは仲介役マリアの指示で東京発京都行の列車に乗り込む。そこでレディバグはブリーフケースを盗み出すという仕事を任されていたが、他に殺し屋が乗っていることに気付き…。

【スタッフ】

監督はデヴィッド・リーチ
製作はアントワン・フークア
音楽はドミニク・ルイス
撮影はジョナサン・セラ

【キャスト】

ブラッド・ピット(レディバグ)
ジョーイ・キング(プリンス)
アーロン・テイラー=ジョンソン(タンジェリン)

ブライアン・タイラー・ヘンリー(レモン)
アンドリュー・小路(木村雄一)
真田広之(木村の父親)
マイケル・シャノン(ホワイト・デス)
サンドラ・ブロック(マリア・ビートル)
ローガン・ラーマン(サン)
ザジー・ビーツ(ホーネット)

【感想】

伊坂幸太郎が2010年に発表した小説の映画化で、伊坂幸太郎の小説がハリウッドで映画化されたのは本作が初めてである。また、ブラッド・ピット、サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム(本作ではノンクレジット)は本作と同年公開の「ザ・ロストシティ(2022)」でも共演している。

細かいことは気にせずに突き進む痛快な一作。ブラッド・ピットがインタビューでも語っていたように「コロナ禍になってからの陰鬱な雰囲気が世界中を覆っていた。そんな中に出会った脚本で笑い、映画化に辿り着いた。世界に必要なのはこれなんだ」ということだろう。

映画鑑賞に先立って、私も伊坂幸太郎の原作「マリアビートル」を読んでみた。文庫本でも592ページの長編であるが、すらすら読めていく小説である。原作では主に5人のキャラクター視点である程度語られていき、次のチャプターに移行すると別のキャラクター視点で遡ったり、あるいはそのまま先へ進んだりしていく。それをある程度映画にうまく置き換えているとは思うが、序盤の情報量の多さは原作未読の人で且つ字幕で見た人にはきつかったと思う。

ただ、原作を読んだ身としては、「ここまで原作の要素を使っているのか」と驚いたものだ。機関車トーマスネタも原作通りである。ちなみに機関車トーマスがイギリスの作品だから、レモンとタンジェリンがイギリス生まれという設定になったのだろう。他にもかなり細かいネタも使っている箇所はあるので原作を後から読んでみるのも面白いと思う。

本作は東京発京都行の列車「ゆかり」という架空の「日本高速鉄道」という列車になっており、新幹線であることは明言されない。しかも東京を夜に出発して京都に到着するのは朝である。ただ、列車の停車駅は新幹線と同じ駅であり、「のぞみ」の停車駅にプラス浜松駅と米原駅に停車するという感じになっている。また、映画の上映時間が東京京都間とほぼ同じでもある。バーのある車両、車内販売用の商品を陳列する場所、広いトイレなんかは日本の新幹線にはないし、車掌が切符の拝見に来ることもない。全車両が一律だと映像的な変化もないので、「Quiet Car」という私語厳禁の車両から、着ぐるみがいる照明も派手な車両まで様々登場することになっているようだ。

また、原作ではスーツケースだが、本作ではブリーフケースに変更されている。スーツケースなら座席から離れた荷物置き場に置いておくことは分かるが、ブリーフケースなら手元に置けるはずなのにという違和感はある。

それから、原作では王子という苗字の中学2年生の男の子がおり、本作ではその王子をプリンスという呼び名の女性キャラクターにしており、うまく変更させたなと感じる。さらに演じた女優がジョーイ・「キング」である。原作では王子と木村の話はかなり過去に遡って描かれているので、気になる方はこちらも原作小説を読んでみてほしい。特にこの王子の憎たらしさも原作の魅力ではあった。本作の王子は明確な目的があることでややその憎たらしさ加減は原作に比べてやや薄れていた印象はある。

それに、原作は峰岸が組織のトップだが、本作では峰岸を殺したホワイト・デスという男がトップであるという改変がある。また、本作はメインの登場人物が全員ある程度繋がるようになっているが、原作では繋がらないところは全然繋がっていない。ちょっと無理くり全員を結び付け過ぎかなという印象もある。

そして、原作では終着駅で降りてからは比較的静かに映画が終わる。なので本作の終着駅となる京都駅に到着してからの流れは完全に映画オリジナルの展開になっている。

本作はコメディ映画なので、野暮なツッコミは意味をなさない。車両内で殺し屋同士が大暴れしようが、ドアをぶっ壊そうが、爆竹が火花を散らそうが列車は緊急停車などすることなく次の駅までどんどん進んでいく。レディバグが狼という殺し屋を殺した後に散らばったガラスとかを片付けている描写を入れているところは何気に良いと思う。また、車掌が3回ほど登場したが、殺し屋ではない別の邪魔という意味では貴重なキャラクターだと思ったのでもう少し登場させても良かったかな。

そんな細部には本作はあまり興味がなく、降りることのできない弾丸列車はどうやら終着駅を通り越して暴走を始める。この列車は暴走し、同じ線路内にある列車に衝突すると、衝突された列車は吹き飛んでいき、主人公の乗る列車は脱線することなく先にどんどん進んでいく。そして壁に衝突した列車は京都の町に投げ出される。英語タイトルが「ブレット・トレイン」となっているように、どんどん突き進んでいく面白さがある。

何と言っても日本が舞台の映画で、それを私たち日本人が見る。冒頭の東京駅に行く直前の屋台の感じは「ブレードランナー(1982)」を思い出す。架空の日本像というのは製作者側も意図したものだと思うし、あまりにリアルな日本像を本作で描いてしまうと、本作のリアリティラインとの間に矛盾が生まれる。だからこれくらい離れた日本像で問題ないと思う。また、モモモンというゆるキャラが登場する。東京オリンピック、パラリンピックのマスコットのソメイティにそっくりである。

それから日本が舞台なのにほぼ全員が英語を話している。乗客とかの日本人にあまり目が行かないような工夫もしていた。また、スマートトイレに入ったレディバグに対して、何度もドアをノックする日本人女性の乗客がしつこくて汚い言葉を吐くと、レディバグが「日本人は遠慮深いんじゃないのか」というのも良い。日本人だからといって全員が礼儀正しいわけじゃないわけだし。

ちなみに本作は舞台が日本なのに白人が演じていることに対する批判があった。「グレートウォール(2016)」で中国が舞台なのにマット・デイモンが演じたことでも批判があったことと同義だろう。別に日本人を馬鹿にしている訳でもないしそこまで目くじら立てて言うほどのことには感じない。

また、「ジョン・ウィック(2014)」「アトミック・ブロンド(2017)」でアクションの才能は確かなデヴィッド・リーチが監督を務めた。その2作品に比べると、ぶっ飛んだ映画なのでアクションのニュアンスとしてはその後の「デッドプール2(2018)」「ワイルド・スピード/スーパーコンボ(2019)」に近いものだろうが、ここまでぶっ飛んでくれると見ていて気持ちいい。武器も銃、ナイフ、日本刀、注射針、ブリーフケース、お箸、蛇など多彩である。

京都駅に降り立ってからの映画オリジナルの展開こそ、映画としてのクライマックスになっていく。ここからのアクションは今までのもの比べて迫力を増していくことになる。それまでのアクションにはなかった爆発や破壊が次々に繰り広げられていく。なかなか列車を降りられなかったレディバグが爆風に飲まれて再び列車内に押し戻されるところも笑える。

そこから列車を急発進させ、停車中の列車を吹っ飛ばし、壁に激突して京都の町に列車が飛び散る。その大事故でメインキャラクターは誰も死んでいない。レディバグはゆるキャラの着ぐるみがクッションになって助かったという、一応の理屈を明示しようとしていたのも笑えるところである。本作で死ぬ奴は全員自分の持っている武器で死ぬという伏線をラストでもしっかり回収して、ホワイト・デスは死ぬ。できれば、それはプリンスにも適応させてほしかったところではあるが。

そんな本作で主演したのは、もう60歳近いブラッド・ピットである。ブラッド・ピットがこの上ないチャーミングなキャラクターを演じている。何と言っても若々しいし、憎めない。こういうキャラを演じるのも割と珍しいし、キャリアを振り返っても一番近いのが「Mr.&Mrs.スミス(2005)」「ザ・メキシカン(2001)」くらいしか思いつかない。コメディ演技やぶっ飛んだ演技なら「バーン・アフター・リーディング(2008)」や「12モンキーズ(1995)」などもあるが、それとはまた違った魅力あるキャラクターを演じていた。そして、ラストで何とか助かったレディバグのところへ、サンドラ・ブロック演じるマリアが車で駆けつける。安心したレディバグがマリアへ涙ながらに話す場面は、まさにかつての映画でヒロインを演じた女性キャラクターが言っていたセリフであるし、彼らが共演した「ザ・ロストシティ(2022)」の裏返しみたいで面白い。

本作の主人公レディバグはツイていない男という設定である。このニュアンスは原作はもっと如実で自虐的である。当初は「ダイ・ハード(1988)」的な作品としてアントワン・フークア監督が映画化を考えていたらしい。確かに電車内という限定された空間で不運な男が事件に巻き込まれると考えれば納得がいく。それが巡り巡って本作のような作品になったようだ。

また、過去作品からの影響や共通点という意味ではタランティーノなしには本作は語れない。チャプター分けして話が進んでいく犯罪ものなので、原作を読んでいる時から「パルプ・フィクション(1994)」的な雰囲気はあった。また、タンジェリンとレモンという白人と黒人の2人組の殺し屋と言えば「パルプ・フィクション(1994)」でのジョン・トラヴォルタとサミュエル・L・ジャクソンを思い出す。また、ホワイト・デスの息子をタンジェリンとレモンが覗き込むショットはタランティーノ印とも言えるものである。また、「パルプ・フィクション(1994)」でブルース・ウィリスが日本刀を振り回していたが、本作でも真田広之らが日本刀を使う場面が用意されている。それに日本が舞台で日本の楽曲まで流れるあたりは「キル・ビル(2001)」を彷彿とさせ、本作では、カルメン・マキの「時には母のない子のように」、麻倉未稀の「ヒーロー Holding out for a hero」、坂本九の「Sukiyaki」、奥田民生の「Kill me Pretty」の4曲が使用されていた。それに何と言ってもマイケル・シャノンのタランティーノ感であろう。

あと、ラストに物語が色々と終結すると言えば、ガイ・リッチーの「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(1999)」、もしくはそれを気に入ったブラッド・ピットがガイ・リッチーを呼び寄せて映画化した「スナッチ(2000)」辺りも思い出す。

また、上述のように、ブラッド・ピット、サンドラ・ブロック、チャニング・テイタムは「ザ・ロストシティ(2022)」で共演し、その後本作への出演が決定している。ちなみに、チャニング・テイタムが呼んでいる本は「ザ・ロストシティ(2022)」で作家役のサンドラ・ブロックが書いた本を読んでいるし、フィジー・ウォーターというペットボトルも同じく登場する。このペットボトル視点で物語を振り返るところも面白かった。

コロナ禍の陰鬱な雰囲気を吹き飛ばすという当初の映画製作の目的が達成されるかの如く痛快で楽しめる作品であると感じる。主演したブラッド・ピットも新たな魅力を提供し、どこかかけ離れた日本像も楽しめる。日本の小説が原作となってハリウッドの大作アクションになるなんて想像もしえなかった。こんな機会は滅多にないのでぜひ劇場で楽しむべきだと感じた。



取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語/日本語/スペイン語/ロシア語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD+DVD>

 

言語

├オリジナル(英語/日本語/スペイン語/ロシア語)

├日本語吹き替え

音声特典

├デヴィッド・リーチ(監督)、ケリー・マコーミック(製作)、ザック・オルケウィッツ(脚本)による音声解説

映像特典

├任務完了:製作の舞台裏

├腕利きのプロ集団:キャスト紹介

├皆で挑むアクション

├イースター・エッグ紹介:乗り遅れないために

├NGシーン

├スタント・プレビズ

├弾丸列車で脱線トーク

 

<4K ULTRA HD+BD>

 

収録内容

├上記BD+DVDと同様

 

【音楽関連】

 

<アヴちゃん「Stayin' Alive」>

 

 

<CD(サウンドトラック)>

 

収録内容

├14曲/46分

 

【書籍関連】

 

<原作本「マリアビートル」>

 

著者

├伊坂幸太郎

出版社

├角川文庫

長さ

├539ページ

 

<メイキング本「アート・アンド・メイキング・オブ・ブレット・トレイン デヴィッド・リーチによるアクション映画創作の世界」>

 

出版社

├DU BOOKS

長さ

├152ページ