【タイトル】
LOGAN ローガン(原題:Logan)
【タイトル】
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【概要】
2017年のアメリカ映画
上映時間は137分
※ノワール版(モノクロバージョン)あり
【あらすじ】
新たなミュータントが生まれなくなって久しい2029年。X-MENの一員として活躍したウルヴァリンは、ジェームズとしてリムジン運転手として働き、年老いたチャールズの世話をキャリバンというミュータントと担っていた。ある日、ウルヴァリンの素性を知る男が現れて人探しの協力を依頼されるが…。
【スタッフ】
監督/脚本はジェームズ・マンゴールド
音楽はマルコ・ベルトラミ
撮影はジョン・マシソン
【キャスト】
ヒュー・ジャックマン(ローガン/ウルヴァリン/X-24
パトリック・スチュワート(チャールズ・エグゼビア/プロフェッサーX)
ダフネ・キーン(ローラ)
ボイド・ホルブルック(ドナルド・ピアース)
【感想】
「X-MEN」シリーズの通算10作目で、「ウルヴァリン」3部作の最後の作品となった本作は、全世界で6億ドルを稼ぎ、「ウルヴァリン」3部作としては最高の売り上げで締めくくった。また、アカデミー賞では脚色賞にノミネートされ、ヒーロー映画でアカデミー賞の脚色賞にノミネートされたのは本作が初めてである。
ジェームズ・マンゴールド監督もローガンを演じたヒュー・ジャックマンも今までの作品とは異なる独立した作品でローガンの物語に幕を閉じようと言っているように、「X-MEN」シリーズとも「ウルヴァリン」の前2作品とはほぼ全く関連のない作品に仕上がっている。「X-MEN」シリーズ自体が何でもありだということを考えるとこんな展開の映画になることも全く不思議ではないが、一応は3部作として作ってきたウルヴァリンの物語がここまで異なるとは驚きである。
ローガンはジェームズという名前でリムジンの運転手をやっている。セダンを長くしたようなリムジンこそ、ローガンの爪が伸びるところと重なり、さらにリムジンという高級車こそ、彼がミュータントとして高い能力を持っているところとも重なる。また、ローガンはどんな傷でもすぐに治癒させる能力を持っているのだが、年と共にその能力にも陰りが見え始めており、爪の1つはちゃんと飛び出さないし、受けた傷もだんだん治りにくくなっている。爪がちゃんと出ないのは男性としての能力の衰えの暗喩でもあるだろう。たとえ頑丈なリムジンであっても銃弾を受けたり傷をつけられたりするともちろん受けたダメージはそのままである。
また、そのリムジンのタイヤを盗まれそうになるところから始まり、ローガンが車を降りるとその足取りは覚束ない。治癒能力の衰えにより足を引きずっているのと、酒を飲んだことによる酔いが原因でローガンの足取りが覚束ないのだろう。また、この車の脚の部分と言えるタイヤを盗まれようとするところとローガンのキャラクターが重なっている。これらの点だけ見ても、本作のローガンの設定や今後の展開を予感させる見事なシークエンスと言える。
そして、ローガンやチャールズが暮らしているのはメキシコ国境を越えた周囲に何もない壊れた工場である。メキシコ国境を挟んだ話はこのところ度々製作されており、「ボーダーライン(2015)」なんかも製作されたばかりだし、後の「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ(2018)」は、中年の男と少女のロードムービーという意味で本作に似た印象も持つ。
チャールズは80代となり、アルツハイマー型認知症を抱え、ウルヴァリンが介護している。年老いたウルヴァリンがさらに高齢のチャールズを介護するという、いわゆる人間らしい生活になっている。さらにそこにはキャリバンという太陽の光を浴びると死んでしまうミュータントも暮らしている。これぞもう日の目を浴びることができないとう象徴的な存在だ。
さらにそこへどうやらローガンの遺伝子で作られたローラという子供のミュータントも加わることになる。このローラを演じたダフネ・キーンの演技が素晴らしい。未公開シーンで触れられるかつてローガンの愛したジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)をやや彷彿とさせる見た目である気もする。
研究所から逃げたローラを捕まえるためにピアースという男がやって来る。彼から逃げるためにローガンはチャールズをリムジンに乗せて逃げ始める。リムジンに乗ったままフェンスを突っ切ろうとするとそのフェンスを破ることができずに後退せざるを得なくなる。今までのヒーロー映画ならこんなフェンスなんて簡単に破ることができたが、物事が簡単に進まなくなっていく。これもローガンが衰えてかつての力を発揮できなくなっていることを示している。
また、何とかその敷地から出ると、長い貨物列車の走る線路と並走するようにリムジンと追手のバイクや車が走っていくが、このシークエンスは「マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)」を想起させる。ちなみに余談だが、「マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)」も本作と同様に後にモノクロバージョン(ブラック&クローム・エディション)が発表されている。
そして、本作の中にはX-MENのコミックが登場する。かつての自分が活躍した様子がコミックの中に描かれており、ミュータントの子供たちが憧れる姿は美化されたものでしかない。全部は嘘ではないが、嘘ばっかりだとローガンは強く主張している。「X-MEN:ファースト・ジェネレーション(2011)」にしても「X-MEN:フューチャー&パスト(2014)」にしても、歴史上の出来事の裏でミュータントたちが活躍していたという「嘘」を題材にしていたことを考えると、それらのシリーズを完全に否定するかのようである。
結局、ローガンは自分の過去に苛まされている。いくら人間との戦いとはいえ数多くの人を傷つけ殺してきた。劇中映画「シェーン(1953)」で「一度殺したらその烙印は消えない」というセリフがあるように、不老不死で生き続ける限りローガンは過去のウルヴァリンとして犯した罪から逃げようとして生きているがその烙印から逃れられずにいる。だからこそ、ローガンはウルヴァリンの時には生やしていなかった顎の箇所も髭で覆っているのだ。
また、本作は西部劇的な作りの作品であり、上述の「シェーン(1953)」など西部劇映画からの影響も大きい。その西部劇を思わせる描写としては、ローラがロデオの機械で遊ぶシーン、砂埃の舞うローガン等の拠点としている工場、その拠点を目指してやって来る車、荒野を走る鉄道の線路、事故によって馬を運んでいた車から馬が逃げ出すシーン、その後の農場のシーンなどがあり、どれも西部劇で描かれた、あるいは西部劇を思わせるものばかりである。
チャールズとローラがホテルの部屋で見ている映画は、「シェーン(1953)」である。ジョージ・スティーヴンス監督、アラン・ラッド主演の名作西部劇。流れ者のシェーンが土地の争いごとに巻き込まれるという話である。本作ではおもに2つの場面が引用されており、1つは、喧嘩を売った農夫がジャック・パランス演じるガンマンから撃ち殺される場面で、もう1つは、終盤の決闘が終わった後にシェーンが彼を慕う少年を諭す場面である。この少年はシェーンに居続けてほしいと思っているが、一度殺しをしたらその烙印を押されることになり、居続けることはできないと話す場面であり、ラストでローラがローガンを葬る時に引用している。
その後、農家に泊めてもらうことになると、水を止められてしまい、その現場まで行くシーンがある。水を止められるというのは、「シェーン(1953)」に触発された「ペイルライダー(1985)」を思い出す。また、農家の男とローガンが2人で水のパイプを直すシーンは「シェーン(1953)」において邪魔な切り株を取り除くシーン、「ペイルライダー(1985)」において石を取り除くシーンを想起させる。
その農家へピアースらが攻め入ったことでチャールズもこの一家の面々も死んでしまう。監督が影響を受けたと公言する映画の1つに「リトル・ミス・サンシャイン(2006)」がある。ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス夫妻の監督作品で、美少女コンテストに出場するために一家が会場へ向かうというロードむーびである。その映画で主人公の一人と言えるスティーヴ・カレルは髭面で、アビゲイル・プレスリン演じる少女がいて、アラン・アーキン演じる髪のないおじいちゃんが途中で死ぬ展開があり、影響を受けたと公言するのも分かる。また、「シェーン(1953)」や「ペイルライダー(1985)」では、主人公がお世話になる一家の面々まで殺される展開はなかったが、本作はついにそこにまで手を伸ばすことになっている。
そして、X-MENのコミックでエデンと記されるノースダコタ州に連れて行けとローラから嗾けられてローガンは疲れた体に鞭打って、車でノースダコタ州へ向かうことにする。少女が大人の男を嗾ける西部劇は、「勇気ある追跡(1969)」ないしは、そのリメイク「トゥルー・グリット(2010)」を想起させる。
そのノースダコタ州の住所に辿り着くと、そこには研究所から逃げ出した子供のミュータントだけのエデンが存在していた。それに驚いたローガンは気を失い、子供たちの手によりそのエデンに運び込まれることになる。この展開は、「マッドマックス/サンダードーム(1985)」で気を失ったマックスが子供たちしかいない緑の楽園に運び込まれる場面を思い出す。
寝ている間にローガンはコミックの中で描かれるウルヴァリンの如く髭を切られてしまう。子供たちはローガンにウルヴァリンとしての姿を望んでおり、そしてついにローガンはその通りに活躍することを選ぶ。
薬を飲んだローガンが覚醒して突進してくる様子は映像的な躍動感もあり、観ている側のテンションも上がって来る。過去に振るってきた暴力という罪に苛まされる男が最終的にまたその暴力に頼ることになる展開は、「許されざる者(1992)」で描かれた世界である。今まで関係を持った人はことごとく傷つけて来た。自分と関わるとろくなことがないとして人との関わりも避けてきたが、自分の遺伝子で作られた娘と関わることで、ローガンは徐々に愛情を感じ取ることができた。ここではついに本当の親子が戦うように2人で協力していく。
ローガンは、根絶されつつある自分と同じミュータントを生き延びさせるために命からがら戦うことを選ぶ。そしてラストは過去の若い自分との戦いとなる。人を殺すことを何とも思っていなかったあの頃の自分。誰かの指令で無感情に人を殺すまさにケダモノである。これほど怖い存在はないが、この存在をやっつけることがローガンにとって重要である。最終的にこの過去の自分をやっつけるのは、自分の娘ローラであるところも哀しい話である。
ラストでは、ノースダコタ州からアメリカ国境を越えてカナダへ逃げ込むと言う話になっている。カナダに行けば何があるのかも明示されないし、国境を越えれば安全とも思えないが、ここではアメリカからカナダへ行くことに意義がある。もっと言うならローラとローガンはメキシコからアメリカを通ってカナダへ行くことになる。メキシコからアメリカへの流入は労働力だけでなく不法移民など様々である。メキシコからアメリカへ渡った者がアメリカで定住することなく、あるいはアメリカに居場所がなく、別の場所を求めて去っていく。ミュータントをマイノリティに象徴させてきたシリーズにおいて、そのマイノリティがアメリカを去っていく。マイノリティを大切にしない社会から人が去っていく話である。奇しくも本作が製作された2017年は、共和党のドナルド・トランプが大統領になった年であり、追手の男の名前がドナルドであるのも偶然ではないだろう。
このローガンの意思を子供たちが受け継いでいく物語は、監督が影響を受けたと公言する西部劇「11人のカウボーイ(1972)」を思わせる。マーク・ライデル監督、ジョン・ウェイン主演の作品で、牛を移動させる担い手がいなくなって年老いたジョン・ウェインが少年たちを雇って牛の移動をさせる西部劇である。子供たち視点で見ればイニシエーションものの映画と取れる。ネタバレになるが、ジョン・ウェイン演じる主人公が志半ばで殺され、子供たちが自分たちの手で彼を葬って、遺志を継ぐという終盤の展開は似ている。学校で学ぶ子供たちをジョン・ウェインが連れて色々教えていく話なので、子供の頃に色々植え付けようというジョン・ウェインの政治的思想が見え隠れするが、一見の価値のある西部劇であると思う。また、他にも影響を受けた映画として「ガントレット(1977)」「ペーパー・ムーン(1973)」「レスラー(2008)」も挙げている。
エンドクレジットに入る中で流れる曲はジョニー・キャッシュの「Hurt」という楽曲である。本作のジェームズ・マンゴールド監督は「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道(2005)」でジョニー・キャッシュの伝記映画を監督している。
この完結編のある程度の完成度の高さを考えると、「ウルヴァリン:X-MEN ZERO(2009)」「ウルヴァリン:SAMURAI(2013)」の完成度の低さが非常にもったいない。このウルヴァリンの物語にどう決着させるかというある程度の構想の中で1作目も2作目も作られるべきだったと思う。ただ、1人のヒーローをかつての西部劇などの名作に重ね合わせ、幕を閉じる物語としては申し分ないと感じた。
【音声解説】
参加者
├ジェームズ・マンゴールド(監督)
ジェームズ・マンゴールド監督による単独の音声解説。ヒュー・ジャックマンとどういう物語にするか話し合った話、「シェーン(1953)」を劇中に流した意図、さらにほかに影響を受けた映画の話、本作の世界を作り上げる上で工夫した演出や撮影技法、音楽についての話などをしてくれる。堅実な音声解説だが、もう少し芯食った話を聞きたかった。
【関連作品】
「X-メン(2000)」…シリーズ1作目
「X-MEN2(2003)」…シリーズ2作目
「X-MEN:ファイナル ディシジョン(2006)」…シリーズ3作目
「ウルヴァリン:X-MEN ZERO(2009)」…「ウルヴァリン」3部作の1作目
「X-MEN:ファースト・ジェレネーション(2011)」…シリーズ4作目
「ウルヴァリン:SAMURAI(2013)」…「ウルヴァリン」3部作の2作目
「X-MEN:フューチャー&パスト(2014)」…シリーズ5作目
「デッドプール(2016)」…「デッドプール」シリーズ1作目
「X-MEN:アポカリプス(2016)」…シリーズ6作目
「LOGAN/ローガン(2017)」…「ウルヴァリン」3部作の3作目
「デッドプール2(2018)」…「デッドプール」シリーズ2作目
「X-MEN:ダーク・フェニックス(2019)」…シリーズ7作目
「ニュー・ミュータント(2020)」…スピンオフ
「シェーン(1953)」…本作でこの映画を観ている場面があり、セリフも引用されている。
取り上げた作品の一覧はこちら
【予告編】
【ソフト関連】
本作には劇場公開版のほかにノワール版というモノクロバージョンが存在する。ノワール版を鑑賞するには4K ULTRA HD+BDの計4枚組のソフトを購入しなければならないが、ノワール版の本編は4K ULTRA HDにもBDにも収録されている。
<BD>
言語
├オリジナル(英語/スペイン語)
├日本語吹き替え
音声特典
├ジェームズ・マンゴールド(監督)による音声解説
映像特典
├未公開シーン(ジェームズ・マンゴールド監督による音声解説付き)
├メイキング映像集
├オリジナル劇場予告編集(3種)
<4K ULTRA HD+BD(計4枚組)>
本編
├劇場公開版(4K ULTRA HD(Disc1)+BD(Disc1))
├ノワール版(4K ULTRA HD(Disc2)+BD(Disc2))
音声/映像特典
├上記BDと同様