【作品#0215】許されざる者(1992) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

許されざる者(原題:Unforgiven)

 

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

 

1992年のアメリカ映画

上映時間は131分

 

【あらすじ】

 

とある売春宿で2人の男が娼婦をナイフで切りつける事件が起こった。保安官は罰として馬を献上するように命令したが、他の娼婦たちが納得せず、1000ドルの賞金をこの2人の男にかけることにした。そんなある日、田舎で農夫として暮らしていたウィリアムは、キッドと名乗る若者から、賞金稼ぎの仕事をしないかと誘われる。

 

【スタッフ】

 

監督はクリント・イーストウッド

脚本はデヴィッド・ウェッブ・ピープルズ

音楽はレニー・ニーハウス

撮影はジャック・N・グリーン

 

【キャスト】

 

クリント・イーストウッド(ウィリアム・マニー)

ジーン・ハックマン(リトル・ビル・ダゲット)

モーガン・フリーマン(ネッド・ローガン)

ジェームズ・ウールヴェット(スコフィールド・キッド)

リチャード・ハリス(イングリッシュ・ボブ)

フランシス・フィッシャー(ストロベリー・アリス)

 

【感想】

 

恐怖のメロディ(1971)」で監督デビューしたクリント・イーストウッドが監督17作目にしてようやくアカデミー賞作品賞を受賞した「最後の西部劇」と称して撮った一本。エンドクレジットでは彼の師にあたるドン・シーゲルとセルジオ・レオーネに捧げている。

 

本作には「嘘/誇張」や「嘘を暴く展開」がかなり用意されている。結局は暴力に頼る主人公が真人間になったことを周囲に話すこと、キッドが殺人の経験もないのに5人も殺したことがあると言い張っていること、イングリッシュ・ボブが伝記作家に書かせていることとリトル・ビルによって明かされる真相などである。また、娼婦が顔を切りつけられたという事実は人から人へ伝わるにつれて話は誇張されていくことや、主人公が周囲から言われる伝説なども誇張である。特にイングリッシュ・ボブが伝記作家に書かせているものは「ダイムノヴェル」と呼ばれる、当時大衆向けに発行されていた小説である。現在では「三文小説」の意味がある「ダイムノヴェル」を読んで、その伝説に憧れた若者(スコフィールド・キッド)が経験する初めての殺しは、敵がトイレ中という無防備の状態でしかも至近距離からという、とても周囲に威張れるような殺し方ではなかった。嘘や誇張ばかりのダイムノヴェルに登場する伝説に憧れる若者が、その現実を知って潰れていくと言う展開はなかなか興味深い。

 

また、主人公は最後に銃撃戦で勝利を収めるが、彼も暴力に暴力で対抗する、その負のスパイラルの中の1人であると描かれ、リトル・ビルから「地獄で待っている」と言われても、彼は否定することもない。暴力に暴力で対抗しても犠牲が出るだけなのだ。冒頭の娼館の場面でも、娼婦を切りつけたのは1人の男だったわけで、連れの男は何もしていないのに裁かれる対象になり、最終的に主人公に殺されてしまう。彼が弁明したり彼を庇ったりする場面がなく、映画的に彼に対して同情的な視点はないと言える。また、これと対をなすのが主人公の相棒ネッドだろう。彼はこの連れの男を殺す場面に居合わせたが、何もできずにこの仕事から降りると言っていた。なのに彼は保安官に殺されたうえ、死体を見世物にまでされてしまった。戦争にしても復讐にしても、直接手を下した者だけでなく、その周囲にいる無実の人間にまで犠牲が及ぶと言う、ごくごく当然の事実を描いている。このテーマはイーストウッドが愛する「牛泥棒(1943)」の信念を引き継ぎ、「奴らを高く吊るせ(1968)」や「ミスティック・リバー(2003)」などで彼がずっと描いてきたテーマでもある。

 

そして、保安官のリトル・ビルが家を作っていると言う設定もなかなか興味深い。彼は大工を雇って家を作らせるのではなく、自分で作っているおり、自分のことは自分で管理したい、自分の城を築きたいと言う欲の表れだろう。また、その完成した家と言えば雨が降ると雨漏りがするという異常に建付けの悪いものである。ところが、彼はその完成した家に不満を口にすることなく、作り直すという場面も出てこない。つまり、彼が作り出そうとしている世界が間違っていて、その間違いに対して対策(雨漏り用の容器を置く)こそしているが、根本的な解決をしようとしていないところにこのキャラクターに嘘がないことが示されていると感じる。何と言っても、彼がイングリッシュ・ボブの嘘を暴く場面で、彼の語る真実の方がよっぽど面白いところも良い。

 

亡くなった妻のおかげで真人間になれた主人公は酒を断っていたが、ネッドが殺された事実を知ってから酒を解禁しする。かつての殺しの仕事の時も酒の力が必要であった。だから殺しの仕事を続けられたのだろうし、そして酒を断ったからこそ死者の亡霊に苛まされたり、初めて死を怖いと言ったりするのである。最終的に酒という力を得て超人に戻った主人公は戦いに勝利し、「ネッドを埋葬しろ」「娼婦を人間として扱え」と言って、マイノリティや弱者に対してのメッセージを口にしている。実生活では保守とされる共和党支持者のイーストウッドだが、「アウトロー(1976)」に見られるように比較的リベラル寄りであることが分かる場面でもある。冒頭と終わりのクレジットでしか彼の妻について説明はないため、それ以上のことは想像でしか語れないが、女性も強いし、その女性のおかげでここまでやって来れたと思っている。そんな彼なりの優しさが、傷つけられた娼婦との会話シーンなどで浮かび上がって来る。

 

西部劇の代表とも言えるイーストウッドがその自信が作り上げた西部劇像をある意味ぶち壊した。ジョン・フォードやハワード・ホークスに代表される王道の西部劇からマカロニウエスタンまで西部劇も様々だが、その歴史と、彼が作ってきた西部劇を見たうえで本作を見るとまたその印象も変わるだろう。

 

【音声解説】

 

参加者

├リチャード・シッケル(映画評論家)

 

映画評論家で、クリント・イーストウッドの自伝著者でもあるリチャード・シッケルによる単独の音声解説。イーストッドの伝記著者である彼だからこそ話せる話もあるが、本作のトリビア的話は他の情報源でも知ることができるものはある。映画評論家らしい指摘もあるが、音声解説としてはボチボチである。

 

【関連作品】

 

「許されざる者(1992)」…オリジナル

許されざる者(2013)」…李相日監督、渡辺謙主演によるリメイク

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

音声特典

├リチャード・シッケル(映画評論家)による音声解説

映像特典

├イーストウッド・オン・イーストウッド
├10周年記念 ドキュメンタリー
├メイキング
├イーストウッド・ドキュメンタリー
├マーベリック:Duel at Sundown
├オリジナル劇場予告編

 

<4K Ultra HD+BD>

 

収録内容

├上記BDと同様

 

【グッズ関連】

<ポスター>

サイズ
├68.5㎝×101.5cm