【タイトル】
許されざる者
【概要】
2013年の日本映画
上映時間は135分
【あらすじ】
明治初期の蝦夷地。とある女郎宿で1人の女郎が客から顔を傷つけられる事件が起こった。警察署長は事件を起こした男たちに対し馬を献上することで解決を図ろうとしたが、年長の女郎はそれに納得せず、その男たちの首に賞金を懸けることにした。それを知った馬場金吾は、かつての相棒であった十兵衛を誘う。
【スタッフ】
監督は李相日
音楽は岩代太郎
撮影は笠松則通
【キャスト】
渡辺謙(釜田十兵衛)
佐藤浩市(大石一蔵)
柄本明(馬場金吾)
柳楽優弥(沢田五郎)
忽那汐里(なつめ)
小池栄子(お梶)
國村隼(北大路正春)
滝藤賢一(姫路弥三郎)
近藤芳正(秋山喜八)
【感想】
クリント・イーストウッドが監督、主演してアカデミー賞作品賞を受賞した「許されざる者(1992)」の日本版リメイク。アメリカのアカデミー賞作品賞受賞作を日本でリメイクするのは初になる。主演した渡辺謙はクリント・イーストウッドが監督した「硫黄島からの手紙(2005)」で主演している。
舞台をアメリカ西部から日本の蝦夷地に変更しているが、大枠のストーリーはほとんど同じであり、場面によってはカット割りやセリフ回しまで同じところもある。他の大きな変更点は、賞金稼ぎの仕事を持ち掛けてくるのが若者ではなく、かつての相棒に変わっている点や、マイノリティの役割をかつての相棒ではなく、付いてきた若者がアイヌとの混血と言うことで担わせている点などがあろう。
本作を監督したのは在日朝鮮人3世の李相日である。この点で、主人公の亡くなった妻がアイヌ出身である設定や、柳楽優弥が演じた五郎が日本人とアイヌの混血という設定にした部分を描きたかったんじゃないかと思う。ただ、映画的にこれについて触れられるのは大きく1箇所しかないといっていい。この設定における「差別」や「抑圧」などのテーマは映画を見終えてもこちらに響いて来るものはあまりない。
それから、登場人物の細かい設定も気にかかる。オリジナルでの主人公は、金のためなら女子供を平気で殺していたような悪党だったが、本作では主人公の殺しに大義名分が一応あったため、はっきりとした悪として描かず敢えて曖昧にしているとも言える。また、佐藤浩市演じる大石一蔵警察署長はただ暴力的なだけにしか見えず、人物として奥深さは感じられなかった(にしても、あの付け髭はもう少しどうにかならなかったんか)。あと、主人公をこの事件に引きずり込むのがオリジナルの若者からかつての相棒に変更されている点も後の展開を納得しづらいものにしている。かつての相棒だった馬場金吾は結局最後には何もできずに身を引こうとするも捕まって殺されてしまうのだが、首を突っ込んできたのはこの馬場金吾なのだから殺されてもそれは自業自得じゃないかと思え、映画的には主人公が復讐する流れとして感情移入しにくくなっている。
また、気になったのは音楽である。オリジナルでは音楽はほとんど使われず、暴力という残虐性と対比をなすかのような主人公の妻クラウディアのテーマがそっと添えられているという印象だった。しかしリメイクの本作では、多くの場面で音楽が使われ、しかもかなり仰々しいものである。この映画はもっと殺伐としているべきだと思うが、使われる音楽にどこか優雅さを感じてしまう。
結局、アメリカで、そして西部劇を作り上げてきたクリント・イーストウッドがその西部劇の様式をぶち壊す作品として「許されざる者」を作ったからこそ意味があった。さらに1992年というロス暴動に代表される暴力がまだ渦巻く時代背景もその評価を後押ししたと言える。その土台が何もない日本に舞台を移したところでテーマは後付けにされている感が強くなる。明治初期という時代設定なので、武士が不要になる時代なのは分かる。じゃあそれを2013年という現代にリメイクすることで、その設定が観客の心に何が響くだろうか。こき下ろすほど悪い作品だとは思わなかったが、描きたいテーマでオリジナルのストーリーを作り上げるべきだったのではないか。中途半端に改変した箇所がやはり気になる作品だった。
【関連作品】
「許されざる者(1992)」…オリジナル
「許されざる者(2013)」…日本版リメイク
取り上げた作品の一覧はこちら
【配信関連】
<Amazon Prime Video>
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├オリジナル(日本語)
【ソフト関連】
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├特報/予告編