【作品#0524】ユナイテッド93(2006) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ユナイテッド93(原題:United 93)


【概要】

2006年のアメリカ映画
上映時間は111分

【あらすじ】

2001年9月11日の朝、アルカイダのテロリストグループはユナイテッド航空93便に搭乗する。

【スタッフ】

監督/脚本/製作はポール・グリーングラス
音楽はジョン・パウエル
撮影はバリー・アクロイド

【キャスト】

J・J・ジョンソン(ジェイソン・M・ダール機長)
トリッシュ・ゲイツ(サンドラ)

【感想】

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロで、墜落した4機のうち、ホワイトハウスに向かう途中で墜落したユナイテッド航空93便に搭乗した人たち、管制塔の人たちの様子を描いた作品。製作に当たり、関係者や遺族への調査や許可を得て、ほぼ無名の俳優が起用された。また、アドバイザーとして参加した連邦航空局のベン・スライニーは、製作の遅れにより彼を演じる俳優が起用できなくなると監督から直々に出演をオファーされ、本人が本人の役で出演している。また、アカデミー賞では監督賞と編集賞の2部門にノミネートされた。

本作の終盤、乗客らはテロリストらを襲い、ミールカートを使ってドアを破りコックピットまで侵入することに成功しているが、これは事実ではないそうだ。フライトレコーダーなどの情報からも乗客がコックピットまで侵入した証拠は残っておらず、また音声解説でも言及されているが、専門家によるとカートを使ってコックピットのドアを破るのは不可能だそうだ。調査委員会の報告では、テロリストらが乗客らにコックピットに侵入されることを恐れて墜落を選んだ可能性があるとされている。なので、この箇所は明らかに話を作っていることになる。

ただ、テロリストによってハイジャックされたユナイテッド航空93便がアメリカ合衆国議会議事堂かホワイトハウスを標的としながらペンシルベニア州のピッツバーグ郊外で墜落したのは事実である。乗客らの抵抗がなければテロリストらの目標は達成された可能性があるわけだ。ラストカットはテロリストと乗客が操縦桿を握った状態で墜落するところである。

そのラストの30分ほどは機内での映像のみとなる。携帯電話や日本の航空会社には設置されていない機内電話から地上の人たちと連絡を取り、乗客はテロリストから飛行機を奪還しようと試みることになる。機内電話を使う場面のある映画としては「パニック・フライト(2005)」というウェス・クレイヴン監督作品がある。家族らへ連絡を取る人、飛行機奪還に向けて話し合う人、恐怖に怯える人たちが描かれる。もう助からないことは分かっているのに、飛行機の操縦経験のある人がいると分かると、飛行機を奪還すればどうにかなるんじゃないかとさえ思ってしまう、というか思いたい気持ちになる。

そして、ラストに表記される字幕の最後は、犠牲者への献辞となっているが、当初は「アメリカの対テロ戦争が始まった」というような字幕だったらしい。もしこの字幕で映画が終わっていれば映画の印象も全く異なるものになっていただろう。本作の作りは、感動を煽るでも、対テロ戦争への戦意高揚を謳うプロパガンダ映画として作られたようには見えない。もしラストの字幕が当初の予定通りだったら、「やっぱりそういう映画として作ったんじゃないか」と思ってしまわれたことだろう。

軍事大国とも言えるアメリカでさえも、想定外の何かが起こった時には対応できないものなのだと感じさせられる。ハイジャックの可能性があっても、「詳細が分かったら教えてくれ」といった感じで対応する場面がある。ハイジャックの可能性があった場合、すぐさまハイジャックされたものとして動くのではなく詳細が判明するまでは動かないものであると受け取れる。想定外のことというのは当然想定していないことなのだから、対応が遅れるのだろうが、想定外のことが起こることを想定した動きや訓練はやはり必要なのだろう。

テロが発生した機内、管制塔、アメリカ軍の当時の様子をリアルタイムで目撃する形となっており、緊迫した雰囲気も再現できていると感じる。また、感情に訴えかけるよりかはあくまでその時起こったことを捉えたという印象もある。監督こそイギリス人だが、テロの被害に遭ったアメリカで製作された映画であるため、犠牲者や当事者に寄り添うような気持になるのは当然である。ウサマ・ビン・ラディンは、イスラム教徒以外の人間がアラビア半島にいることはムハンマドが禁じているという解釈から、湾岸戦争以降にサウジアラビアへアメリカ軍が駐留していることに怒りを覚えていたとされる。結局、根幹にあるのは宗教である。また以降、アラブ人という見た目だけで、またイスラム教徒というだけで差別を受けるなど世界を分断に導いてしまった。

極力、事実を淡々と描いているように見える作品。乗客がテロリストと勇敢に戦った事よりも、ハイジャックの可能性がありながらも最初は本気で対応しなかったことで被害が拡大した可能性がある点や、各所との連携や非常時の対応がうまく機能しなかったことを描きたかったように感じた。たとえどれだけの訓練や対策があったとしてもテロはどこでいつ起こってもおかしくないものだ。歴史としても教訓としても十分に価値ある作品だと感じた。

【音声解説】

参加者

├ポール・グリーングラス(監督/脚本/製作)


監督/脚本/製作のポール・グリーングラスによる単独の音声解説。当初考えていたオープニングから変えた話、アドバイザーとして参加した人物をそのまま俳優として起用した経緯、無名の役者を多く起用した経緯、機内を撮影する上での工夫、実際とは異なる箇所の話、ラストカットに込められた意味など語ってくれる。



取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語/アラビア語/ドイツ語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語/アラビア語/ドイツ語)

├日本語吹き替え

音声特典

├ポール・グリーングラス(監督/脚本/製作)による音声解説

映像特典

├United93:遺族と映画

├犠牲者を偲んで

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語/アラビア語/ドイツ語)

├日本語吹き替え

音声/映像特典

├なし