仮面ノート -4ページ目

書評「エリア51」アニー・ジェイコブセン著

 何人かの方が書かれている通り、題名からUFOや

ロズゥエル事件への興味の延長線上で読み始めると

おそらく後悔することになるでしょう。

 ただし、UFOなどへの興味から本書を手に取った人にも

最後まで読み進めさせてしまう面白さが本書にはあります。


 結論から言ってしまえば、本書は極めてよくできた

アメリカの冷戦史です。米ソ冷戦史といっていいでしょう。

これまた多くの方が書かれていますが、

最後段に出てくる「宇宙人」の正体について

簡単に首肯できない部分もありますが、
それだけで本書の価値を決めてしまうのは

もったいないと思います。


 米ソ冷戦下でアメリカがどう動き、その動きの中で

「エリア51」がいかに重要な役割を果たしたか、

この基地がアメリカの冷戦史の主要な舞台に

なっていたかが分かる良書だと思う。

書評「山口百恵」中川右介

 著者による「松田聖子と中森明菜」には、その内容、手法、

文章力と感動した。今回の「山口百恵」もそのスタイルは

踏襲され、むしろより完成度を高めたのではないか。


 この2冊を読めば、70年代から80年代前半の日本歌謡曲の

世界はほどんと分かるのではないか。


 当時すでに成人していて、かなりの百恵オタクだった

ような人には物足りないだろうが、子どもだったり

青春期だったりと、当時を懐かしみ、

「またあの曲を聴いてみたい」と思うような人には

十分な一冊である。


 当時生まれていないような人でも、日本の一時期の

文化的側面を知りたいような人には面白い仕上がりになっている。

書評「未解決事件」NHKスペシャル取材班

 テレビ番組も見た。そして少し遅れて刊行された本書も読んだ。
当然、両方の内容はほとんどがダブっているのだが、

それでも極めて面白かった。

 番組ではあった新聞記者OBの座談がない分、

本書の方が面白かったかもしれない。


 「キツネの目」の男を巡る滋賀県警の話、

脅迫テープに関する新事実などは、

テレビで見ても本書を読んでも「えっ」と驚いてしまう

(詳しくはネタばれになるので書きません)。

 一読して感じたこと。それは今、これだけの組織力、

人員、経済力をもってジャーナリズムをできるのは、

日本においてNHKだけしかないだろうなあ、ということ。
 組織としては色々問題を指摘されるNHKであるが、

きちんとしたジャーナリズムをできるのも
またNHKだけではないだろうか。

 正攻法の取材で、新事実を掘り起こしてきた姿勢は

高い評価を与えられるべきであろう。

 だから、例えば経営委員長人事なんかで、つまらん騒がれ方をさせないで欲しい。
NHKに現場に敬意を表したい。

書評「真珠湾からバグダッドへ」

 大書を通読して思うのは、この人はこんなにも長く公職に

就いていたのか、ということである。
約半世紀、この人の人生はそのままアメリカの現代政治史と

いってもよいかもしれない。

 内容的には自伝ということもあり、ある程度割り引いて

読まなければいけないが、それでもその経歴のすごさから見れば、

率直に気負わず書かれている。

 国家として「弱さ」を見せることがいかに危険なことか、

またライスやパウエルといったブッシュ政権にともに参加した

人々に対して好感をもっていないことなどが伝わってきて面白かった。

 ただし、やはり自伝ではある。この書だけでこの時代を総括するのは危険である。
ジャーナリストやブッシュ政権から去って行った閣僚や高官の書と併読したうえで、この時代を見つめるべきであろう。

福島原発事故独立検証委員会(2012年3月13日)

 予想を裏切らない力作である。
内容も難しい事故を扱っているにも関わらず、

平易な文章で図表も極めて分かりやすい。
この調査、出版に携わった人々に敬意を表したい。


 日本には大きな事故が発生しても、それに多角的、
専門的にアプローチするという文化
がなかった。あったとしてもこういう形で公表するということはなかった。
その意味でもこの一冊は極めて意義のある一冊である。
この内容でこの価格はむしろ安い方だと思う。


 それにしても、どうして民主党政権や東京電力はこういった

報告書を作れないのか。
政府の中間報告のようなものは出ているが、一般の人に平易に、
手軽に手に届くところにはない。
民主党政権の事故対応を見れば、こういった報告書は自らの失政を

証明するだけで好意的にはなれないだろうが、

失敗を記録に残し、後世に継ぐことは歴史的責任である。
事故はまだ未完である。是非、当事者たちは本書に習って、
あの事故、そしてその対応の記録を残して欲しい。


 それにしても、あの日、あの時、民主党政権・菅政権だったことは
極めて不幸なことであった。

書評「人間昭和天皇」高橋紘

共同通信記者として皇室取材した著者の遺作である。

 特に目新しい事実があるわけではないのが、研究者や作家の作品とは違い、

実際に宮内庁幹部や侍従長らと接せられ、時に昭和天皇をも間近に見ることが

出来る記者の強みが生かされている。


 上下2巻でそれぞれ結構厚いが読みやすい。

昭和天皇を知る入門の書としても十分耐えうる。

書評「拘留百二十日」大坪弘道著

 厚労省の村木局長事件で捜査を指揮した元大阪地検特捜部長。

部下の検事による証拠捏造という あまりにお粗末な捜査の結果、

村木氏は無罪になり、逆に著者は犯人隠避容疑で逮捕されたのは

記憶に新しいところ。


 事件そのものは前代未聞ではあろうが複雑なものではなく、

本書も事件絡みというよりは、
特捜部長にまでなった人物が獄に落ちた時の心理や家族、

友人の支えなどが内容の中心になっている。

 とにかく検察の調べにかかれば元特捜部長といえどもここま

で追い詰められるのか、と思うぐらい過酷である。
いつものように検察は「ストーリーありき」の捜査・取調べで、
一般私人がこの立場に置かれたらひとたまりもないなと思う。

 一方、本書中に検察組織に対する恨み・怒りが繰り返し出てくるのだが、
なぜこの人はここまで組織と自分を一体化できるのか不思議に思った。
組織なんていうものは、組織防衛ともなれば簡単に

「人を切る」ことぐらい自明のことだろう。

 それをこの年齢になるまで分からなかったのであろうか? 

やはり著者はエリートなのである。


 どこかで個人と組織の線引きを意識的にしておかなければいけない、

そんな教訓を残してくれる一冊である。

書評「御社に「うつ」が多い理由

 うつに関する本は多いが、本書は企業内に限定した一冊。
 一読すると、企業の産業医が単なる産業医か、産業精神科医であるかで

随分結果が違うのだろうと思う。

こういう人物を産業医としている企業の社員は幸せである。


 本書内では繰り返しうつの早期発見、中間管理職の重要性が出てくる。

それを元に復職へのプラグラムの提言など、

読みやすいにも関わらず充実した内容になっている。


 しかし、今の日本企業って本当に疲れているなあと思う。

そのしわ寄せが全て現場にのしかかっている。
 著者はその現場を自分の足で歩いて見ているところに好感がもてる。

「救命」海堂尊監修

 3・11時に現場で活躍された医師たちの物語である。


 感動すること間違いなし、電車の中で読んでいても涙を抑えることができなかった。
特に最初と2番目に登場する医師の章は1ページごとに泣いてしまったといっても言いすぎでない。


 あれだけの惨状の中でこれだけ活躍した医師を、現場を、我々は忘れてはいけないだろう。


その一方で、いまだ被災者たちを被災者にままに追いやって「国」は何をしているのだろうか。本書の主題ではないが、日本という国がいかに「現場」で保っているか、よくわかる一冊である。

書評「サボる時間術」(理央周)

 著者の言いたいことも考えていることも理解できるのだが、
私はなぜか心に響くものがなかった。

 「こなす仕事」と「想像する仕事」、「まとまり時間」の重要性など
どれもその通り、と大声を上げて賛同したい。おそらく著者の主張は100%
正しいと思う。

 文末には家族が重要とも書かれていて、ここまで完璧にされると文句のつけようがない。


 では、なぜ感銘しないのだろうか?


 それはやはり今の日本社会を考えると、仕事をああだこうだいうことに
ためらいを感じてしまうからである。


 つまり、この本のターゲットはある程度安定した会社員か、
もしくは自らリスクを積極的にとれる能力の高い(と自分では)思っている人、
各種セミナーなどにちょくちょく顔を出しビジネスを第一に考えられる
人向けの本なのである。


 間違っても仕事を雇用や労働という観点から考える人向けではないと思う。


 ただし、著者に悪意やこの種の本にありがちな自己顕示欲や

自慢話の類はありません。かなり真摯に実直に書かれています。

行間から感じられる著者の人間性はとても好感がもてる。
個人的には読むタイミングが悪かったのかな。