仮面ノート -5ページ目

マイクロソフトでは出会えなかった天職(ジョン・ウッド)

 さわやかに感動する本である。

この手の、しかもアメリカ人にありがちな自慢話が続くわけでなく、
途上国に本を送り学校をつくる活動の経緯が記されている。


 NPO組織を運営し活動を発展させていく過程は、善意に頼るばかりでなく冷静に現実を踏まえて展開されていく様子がわかる。
このあたりNPOに限らずあらゆる組織にとって参考になるだろう。
 大袈裟ではなく教育の重要性を教えてくれる一冊である。

「バブル獄中記」長田庄一(2011年10月10日)

東京相和銀行事件なるものがどういう事件だったか記憶にないが、

本著はその銀行の元会長が、「見せかけの増資」による容疑で獄に落ち、

その間の東京地検特捜部の取調べや獄中で身辺雑記といった内容である。

 佐藤優氏のような難しい話があるわけでなく大それた国家観が

記されているわけでもない。
それでも不思議と読み始めると最後まで読んでしまった。

 面白かったのは、やはり東京地検特捜部で取り調べの部分。

当然のことながら「ストーリーありき」の取調べで、

検察の「描いた絵」に迎合しない著者に対する女性検事の

ヒステリーを起こす姿は、現在の特捜地検の腐敗・堕落ぶりを示唆している

(著者が東京拘置所に拘留されたのは2000年の話)。
 
 それにしても取り調べで「……目の前にいる人間が本当に悪いことをした

人間かどうか、それくらいのこと、それこそ検事の職業として分かるだろう。

それが分からないでは、入口でその人物は検事失格だ。……」(P81)
と容疑者に思われてしまう検事とは一体何なんだろう? 

土俵へ上がる前に検事は負けているのである。
著者には是非この検事の実名を記して欲しかった。

 著者の事件の真実は分からない。ただ、今も昔も続く「人質司法」の実態は

良く分かる。
司法の馬鹿ぶりを改めて考えさせられる一冊である。

書評「前へ」(麻生幾)

自衛隊、警察、国交省など東日本大震災を最前線に戦った「戦士」たちの

物語である。役所は違ってもそれぞれの現場で文字通り身を粉にして

奮闘した人間たちの思いを、行動を丹念に取材し感動させてくれる。

 警察や自衛隊取材に定評ある著者らしく登場人物一人ひとりに迫り、

どう行動したかの風景描写も臨場感があって一気に読める。

 ただ、ちょっと美化しすぎていると思えるところがあるので★はひとつ減。

それにしても、本著のメインな主題ではないが、所々に出てくる菅政権に

政治家の馬鹿ぶりは一部を除いて日本国家にとって致命的だったな、と思わせる。著者には是非、次作でこの点を追及してもらいたい。

書評「風にそよぐ墓標」門田隆将

 御巣鷹山の123便は生存者が女性ばかりだったせいか、

女性中心に語られることが多い。すでに25年以上昔になるが、

確かにあの生存劇には感動した。こういった中で、
本書は不幸にもあの大惨事で亡くなられた男性とその遺族、

特に息子を中心にしたノンフィクションである。


 登場する犠牲者は働き盛りの男性とその家族。つまり、残された息子たちはまだ少年期に突然、父を失った。その息子たちが成長し、大人になり、失った父とそろそろ同じ年齢になるころである。


 それぞれがそれぞれの人生を歩み、やがて自らの家族をもつ。

家族を奪われた者が家族をもつ。
登場人物たちが語る家族の重みは、当然ながら身にしみる。


 2011年、日本は不幸にしてあまりに多くの人が家族を失った。家族とはなにか?
家族を考える上で一読したい一冊だ。感動しますよ。

「昭和天皇とワシントンを結んだ男」青木冨貴子

 占領期の日本にジャーナリストとして日本の高官に食い込み、
情報をワシントンに送ったパケナムの日記を発掘し、それを基に占領期の日本を振り返る――。
といった本なのだが、あまりに題名の勢いが良すぎる。

 昭和天皇が戦中、戦後の混乱期、どうやって海外の情報を入手していたかは

大きな謎として未だはっきりとしたことは 分かっていない。

研究者の間では重大な関心事なのだが、その穴を埋める「特ダネ」として

本書を手にすると、あまりに拍子抜けすることになる。


 しかも、戦後の混乱期を巡る記述は既知のことが多く、読んでいて苦痛になる。

パケナムの活躍(?)を知るために必要なのかもしれないが、

年表をちょっと詳しく説明した程度の記述が長すぎる。
 裏面史がないとはいわないし、この時代のことを知るにはよいが、
「占領期日本の裏面史」程度の題名で十分な本である。

書評「オバマの戦争」

 久しぶりに本をじっくり読んだ。

だがウッドワードの作品を待っていたから、あっという間に読んでしまった。


 本書はイラクとアフガンという2つの戦争、戦後を引き継いだオバマ政権の
アフガン戦争を巡る政権、軍のせめぎあいを明かし、その政策決定の過程を追うものである。

 いつもながら著者の豊富なインタビューと資料類の特ダネは、読んでいてスリリングですらある。


 戦争というのは一回始めてしまうと終わらせるのに苦労するというのが良く分かる。そして、軍というものは戦争を名目に常に戦線、動員兵力のエスカレーションを狙っているのというのもよく分かる。


 アメリカにしてその内在論理はベトナム戦争の時からほとんど変化していないのである。


 せめてもの救いは大統領オバマがその部分に自覚的であるのが伝わってくることである。本書からは、いまアメリカかどういう論理で動き、それを支えている指導層の思想というものを知ることができる。

 オバマ政権の行方は分からないが、いま読んでおくべき一冊である。

書評「公安を敗北させた男」小野義雄

 1995年の警察庁長官狙撃事件を巡る本は数多く出されているが、
本著は逮捕時に世間を衝撃させた警視庁のK巡査長を中心に真相に

迫ろうとしている。


 著書は新聞記者として当時この事件を取材していたようだが、

その時の蓄積を如何なく発揮している。


 それにしても今こうやって読んでみても、この狙撃事件の謎は深まるばかりである。著者が最後にこの事件の「見立て」を披露してくれているが、

K巡査長の告白を是非聞きたいものである。


 元新聞記者の作品だけに大変読みやすく、それでいて内容が濃いです。
是非、一読を。

書評「3.11クライシス」

 内容は面白い。国家主義者としての著者の主張が余すところなく記述されている。
震災直後のドタバタで、というかドタバタだからこそ、熱く力強いメッセージが
次から次へと繰り出される。


 ただし、である。記述に余りに重複が多い。初出がネットや雑誌、新聞だから、
それぞれには「かぶって」いないのだろうが、明治天皇の御製や
三浦綾子の小説の一部などは嫌と言うほど繰り返される。


 つまり、著者の責任というよりは、出版社の編集姿勢に問題があったのだろう。
分量を3分の1、値段を半分にし、ブックレットのような形式にしたうえで、
主張を整理した読み物にすれば、より多くの人に、より長く読まれたであろう。

 読まれるべき本だけに誠に残念である。


 かつて著者が原稿の「かぶり」を戒めているのを何かで読んだことがあるので、
著者にも理解していただきたく、あえて★は厳しく付けさせていただきました。


仮面ノート


書評「決断のとき」

 考えてみればW・ブッシュの時代のアメリカは21世紀の大事件が

続々起こった時代であった。アフガン・イラク戦争、金融危機、

ハリケーン・カトリーナ……。そしてのその後も世界は大変動を
続けている(なんか21世紀がまだ11年しか経っていないのが不思議に感じる)。


 本書はアメリカ大統領が年代を追って追想するありがちな回顧録ではなく、

上記に挙げた問題を含めテーマ別に振り返っている。
その分、この手の本にありがちな自慢話がダラダラ続くということは

少ない(ないとはいわない)。


 それにしても戦争にしてもハリケーンにしても内容は今一歩か? 

特に深い心理描写があるわけでなく、驚くような人間関係、

新たな事実の暴露があるわけではない。


 読んでいて感じたのは、ブッシュが重ねた判断は、

世界や国家を真摯に見つめ、どのように認識し、
そしてどのように歴史に責任を負うかを追求するものではなく、
いかに彼自身の倫理観や道徳観に寄るところが大きかったという点だ。
 
 つまり彼の道徳観・倫理観に共鳴できる人はいいが、

それ以外ならちょっとたまらないな、と思うのだ。
読んでいて「率直な人だな」とは思うが、

何か底の浅さというものを感じぜずにはいられなかった。

書評「知と情」

 竹下登と宮澤喜一という自民党政権後期の首相経験者に

「最後のフィクサー」と呼ばれた福本邦雄を補助線にからめ、

戦後政治=自民党政治を立体的に分析を試みている好著である。


 宮澤、竹下という対極といってよい政治家の政治姿勢、手法、

そして限界に迫り、また二人が生きた時代の政治を説明する時に

欠かすことのできない派閥の不思議さ面白さを浮き彫りにしている。


 今回の企画を成功させているのは、間違いなく福本邦雄を

登場させている点であろう。福本の存在よって見事なまでに

自民党政治の縦糸と横糸がからみあうのである。

この配置を試みた企画力は見事である。


 本著は福本を含めた3人の個別のオーラルヒストリーを再構成したものである。
レビュー者はこの3人のオーラルヒストリーを発売当時それぞれ読んでいたのだが、
真っ先に福本の「表舞台裏舞台」を再び読み直したいと思った。