仮面ノート -3ページ目

書評「北方領土交渉」

 面白いの一言である。もっと早く読めばよかった。
著者の評論などは比較的読んでいる方なので、
小説ということで読むのが遅れてしまった。後悔である。


 北方領土交渉をめぐる水面下のやりとり、外務官僚の動きなど
大変勉強になる一冊である。少なくとも1990年代以降の
北方領土問題を巡る基本書といっても言い過ぎではない。


 著者はこの本が「小説」であることを強調するが、
そんなこと誰も信じないだろう(笑)。名前以外は!!!

書評「一点突破」

将棋の腕を上げる――ことを書かれた本ではありません。
ただし、強くなるためのヒントは盛りだくさん含まれています。
そして、全国制覇を成し遂げた高校生たちに素顔を知ることができます。 


 でもそれ以上に、勝負に強くなる組織の作り方、
リーダーのあり方は大変参考になります。


 ちなみにレビュー子は将棋をある程度知っていますが、
面白いとかやってみたいとは全然思っていません。

 そういう人間が読んでも楽しめる一冊です。

書評「銀座Hanako物語」

 とにかく元気な時代であった。自由があふれていた。
著者は「Hanako」創刊時の編集長。Hanako編集を通じて、
そこに参加した編集者、ブランド関係の女性たちを中心に据えながら、
バブルに浮かれた当時の日本を見事に描いている。


 何でも勢いのある時代ではあったが、ここまで女性たちが元気だったとは思わなかった。
当時の編集部の熱を感じさせ、活躍している女性たちがすぐそばにいると錯覚させられる一冊だ。


 時代に「寄り添おう」としている雑誌はいつの時代もあるが(だいたい失敗している)、Hanakoのように時代を「作って」しまった雑誌はそうはない。
 その時代を作った影にこの編集長がいたのである。


 出版不況、雑誌不況が叫ばれて久しいが、
それは時代のせいではなく著者のような「志」、「熱」をもった人材が
出版界にいないだけではないか。そんなことを考えさせられた。


書評「教誨師」堀川恵子

 教誨師として半世紀の間、死刑囚に寄り添ってきた僧侶の物語。
自らの力で罪を見つめさせ、心を開かせ、人間の心を取り戻させた死刑囚が、
その翌日には絞首台に送られてしまうのである。
そして、その生を見つめ直した人間の死の瞬間に付き添うのである。

 この非情の世界に生きた一人の人間の悩み、苦しみ、絶望を見事に描いている。
読めば自然と生と死、死刑制度を考えざるを得なくなるのである。

 すでに著者は死刑問題の第一人者といってよいが、
作品ごとに内容が充実していっているのはすごい。

書評「角川映画 日本を変えた

 角川映画の一時代に焦点を当てた作品であるが、

対象とした10年という期間が長すぎたか、

著者にしては少し散漫な印象を受けてしまった。


 「松田聖子と中森明菜」「山口百恵」のように

圧倒的な量の資料を読み込み、畳み掛けるような文章で対象に迫る、

といった著者ならではの作風を期待すると、
少し期待外れに終わるかもしれない。


 レビュー子としては薬師丸ひろ子ら「角川三人娘」や
本書の「主人公」といってよい角川春樹の人間像に迫る作品を期待したい。


 批判めいたことを書いてしましったが、決して本書がつまらないというわけではない。本書が対象とした時代に青春時代を送った人間には時代の「熱」を感じることができるし、間違いなく角川映画の一級資料にもなっている。


書評「狼の牙を折れ」門田隆将著

 日本犯罪史上、最大の爆弾事件だった三菱重工爆破事件。
この卑劣な凶悪犯罪に立ち向かった公安警察官たち。
反権力に浮かれた世相の中、寡黙に、

そして毅然と犯人たちを追い込む男たち。
命を賭け社会の秩序を守る男たちの姿を描いていて一気に読ませる。


 これまで、そして今も「真の姿」が見えにくい公安警察に
ここまで迫った作品は珍しいのではないか?

 公安警察官だけでなく被害者遺族、新聞記者、カメラマンも登場させ、
物語と時代の描写に重層感がある。それでいて読みやすい。


 ただでさえ口の固い男たち、警察の中でも特に秘密主義に

包まれた組織である公安。関係者の高齢化が進む中で、

肉声を聞ける最後のチャンスだったかもしれない。

 そういう意味でも本書の意義は大きい。



「日本防衛秘録」守屋武昌

 普天間交渉秘録に続く第2弾。

ワンテーマを深く掘り下げた前著から、
今回は日本の安全保障、軍事、防衛について

横軸に広げた著作になっている。


 現在の日本の軍事、防衛、自衛隊が直面する問題と

その歴史が平易にまとめられていて、

どのページも大変勉強になる。


 長く防衛省(庁)に勤務し事務次官まで登りつめた

著者だからこその記述も随所に感じられる。


 中身も当然だが文章も極めて読みやすい。

前著も読みやすかったが、本著も元役人とは思えない、

新聞記者が書いたのではないかと思わせるぐらいの上手さである。


 現在の日本の防衛、安全保障を知りたい人は、

本書から入ることをお薦めしたい。

書評「秘密ノート」飯島勲著 20130821

 久しぶりに飯島氏の著作を読んだ。妙に硬すぎず、下手にソフトすぎず、面白かったです。
テーマが多岐にわたり散漫になってしまっているかもしれませんが、
それは飯島氏がそれだけ幅広い分野をカバーしていたからでしょう。
それぞれのテーマが表面的という指摘もありましょうが、

個別テーマは別の機会に譲ってもらいましょう。

 印象的だったのは元経産省官僚・古賀茂明氏と大阪・橋本徹市長への批判である。
この2人に対する批判の中で、最も説得力があり、データに基づいた
極めて優れた批判と言ってよいほど秀逸であった。

 通読して感じたのは、飯島氏が健全で、かつ優れた保守主義者であるということ
(ご本人は著作の中で御自らのことをそん風には一言も言っていませんが)。

 小泉政権が過激な政治手法をとったその裏で、
飯島氏のような側近が政治状況をグリップしていたからこそ、
小泉政権は近年まれにみる長期政権を達成したのであろう。
読みながらをそんなことを感じた。

書評「参謀」森繁和

 落合中日を投手コーチ、ヘッドコーチとして支え、

全盛期を作った人の著作である。
大変面白かった。組織の中で人をどう育て、

組織をどう活性化し、トップのストレスをいかに抑え、決断に備えるか――。

プロ野球というある種、究極のプロ集団の中で、

その参謀としての経験を披露してくれている。
 
 野球だけにとどまらず、サラリーマンなどの組織人が読んでも

十分面白い。野球に興味がない人が読んでも、

十分に面白さを味わうことができるだろう。

 読めば落合中日がいかに強くなったのかが分かる。

監督の個性ばかりに目を奪われた感があるチームだったが、
本書を読めばあの強さを納得することができる。

 短期決戦で強さを発揮するだけならいざ知らず、

長期に渡って強い組織を維持するのには名参謀が必要なのだ。
落合監督は非凡な監督であったろうが、

その下には非凡な参謀がいたのである。
トップと現場の間に立つ者次第で組織が強くもなれば弱くもなる、そんなことを分からせてくれた名著である。

書評「オリンパス症候群」

 遅まきながら読みました。大変面白かったです。

オリンパスを事件を暴いたのが「FACT」で、
結局あの事件はFACTの独走のまま終わった

といってよいでしょう。

 日本人がなぜ「ウチの社」と呼ぶのか?

 オリンパス事件にこの「ウチ」という
言葉をキーワードにしつつ迫る。ひとつの経済事件を扱いながら、
そこから日本型株式会社の問題点を抉る筆法は見事である。サラリーマンは是非読むべき書である。

 ただし、最初から最後まで文章が嫌だった。

所々(というか頻繁に)、「それにしてもあきれたね」とか
一貫して出てくる「……いられたんだね。」みたいな

日本語の使い方が、小馬鹿にされているようで極めて

不快だった。若い人を対象に書いたつもりだろうが、

このテーマ、社会への影響から考えれば、
決して読者は若い人だけではないだろう。

FACTの購読層はそんなに若いのか?
 中身が極めて秀逸で、「これぞジャーナリズム」というものだけに、大変残念である。
 
 また、支持している人もいる人も多いのだろうが

メディア批判の部分はありがちな内容で、
特に新味は感じられなかった。

オリンパス事件を黙殺したり、対応が鈍感だったりした

のだろうが、メディア批判は別の場でやってもらえばよい。
 むしろ筆者たちには古巣の大新聞社の中で、

メディア改革を唱え、実践して欲しかった。
それができれば、筆者たちは本当にすごい人だと思うのだが。