仮面ノート -2ページ目

書評「大世界史」佐藤優・池上彰

 いつものお二人による世界の歴史と現代国際政治の解説本。
高校の世界史の授業レベルを基に歴史を教えてくれ、
しかもそれがいかに現代につながっているかが学べる。


 これが滅法わかりやすい。世界史嫌い、歴史嫌いでも楽しく読める。
ここまでわかりやすく教えられる2人の実力に感嘆する。
この域までくると、それだけで凄いことだ。
ぜひご一読を。

書評「指揮官の条件」高嶋 博視著

 ≪指揮統率とは、いわば指揮官の「人そのもの」なのである≫

との記述が重い。


 著者は東日本大震災時に海上自衛隊災害派遣部隊の指揮を執った人物。
その時のことは前著に詳しい。

今回は約40年に渡った制服生活を振り返る一冊だ。


 タイトルの「指揮官の条件」を期待して読むと裏切られるかもしれない。
展開した作戦について深い記述があるわけではない。
その分、指揮官としての自負、誇り、そして悩みが率直に語られている。
語り口は随所というかほとんどすべてで軍人そのものだ。

 しかし、そこを不快に感じることはまったくない
著者がすぐそばで話しかけているかのように感じられる出来になっているからだろう。 


 組織というのは結局のところ「人」である、というのがよく分かる。


騙されてたまるか

なぜ、このジャーナリストはここまで地べたを這うように取材するのか?
なぜ、こういうジャーナリストが著者以外にいなくなったのか?

 現在、報道機関は悪い話しか聞かない。
どこかの新聞社みたいに自らジャーナリズムの責任と誇りを捨て去るところもある。
ジャーナリズムに必要性を認識する立場からすると、
調査報道というものがほとんど見られない現在のジャーナリズムを憂いずにはいられない。
そういう中、まだこういうジャーナリストが残っているかと思うと、少しばかり安心する。

 とにかく熱い。挫けない。こういうジャーナリストがもう少しいれば、
いまの日本は変わるような気がする。マスコミ志望学生の必読書です。

半藤一利『「昭和天皇実録」にみる開戦と終戦』

 「昭和天皇実録」を歴史研究家が読み解く。それも開戦と終戦に絞って。
その内容は一気に読ませる。もちろん実録からだけでなく、
これまで著者が蓄積してきた史・資料、取材が総動員されている。
 ブックレットという形式だが、中身が相当に濃い。
値段からしても相当お得な読み物である。

書評「戦争と革命と暴力」宮崎学・佐藤優

 宮崎学氏と佐藤優氏の対論である。中身は3つ、題名の通りである。
相変わらず2人の語りは熱い。第1章では佐藤氏が多くを語り、

続く章は宮崎氏が論を展開する。
編集上のバランスをとろうしているのが伝わってしまうのだが

これは2人の責任ではない。


 言うまでもなく2人の切り口、見方は見事である。
ただ、両者の著作を読んでいる人ならば、

その語りや記述に既知のことも多い。
そういう意味で★が満点にならないのが残念。

ただし、読んで損のない本であることは間違いない。

手島龍一・佐藤優「インテリジェンスの最強テキスト」

 この2人の共著としてはあまり派手さはないが、

その分「教科書」として重宝しそうである。
この組み合わせには多い対談形式でないのもよい。


 現在、世界が直面している「ウクライナ」「イスラム国」といった

現実の出来事を題材にしてあるので、難しい内容でも極めて理解しやすい。

これらの問題をここまで分かりやすく解説できるのはこの2人ぐらいだろう。
それは普段接しているジャーナリズムが世界状況を描ききれないことを

意味している。


一読しただけで世界の今が分かり、近未未来を予測できる優れた一冊だ。

書評「ぼくらの民主主義なんだぜ」高橋源一郎著

 題名通りの本である。「民主主義」の価値、

意義を基本に戻って考えさせてくれる。


声高ではなく、大声でもなく、優しい眼差しと低い目線で

民主主義を再確認させてくれる。


 一読して感じたのは著者の主張や個別に書かれているテーマではなく、
なぜ我々の社会はこんなにも不寛容になり、独善的主張が横行し、
見て見ぬふりをしている間に民主主義の「幅が狭く」なってしまったか、

ということである。


 我々はもう一度、居住まいを正して、社会を広く、謙虚に、

冷静に見つめ直す必要がある。


そう自分自身を問い質さざるを得ない論考の数々である。

「丸山真男と田中角栄」佐高信 早野透

 戦後70年。日本人にとって戦後とは何だったのかを見つめ直す一冊である。
著書の2人はいう。戦後は丸山真男と田中角栄がつくった、と。
本書を読めばそれも十分うなずける。
 戦後レジームの総決算が叫ばれる中、冷静に日本人の来し方行く末を
考えさせてくれる。

「切り捨てSONY」清武英利著 2015年7月14日

 「世界のソニー」がなぜ凋落の一途をたどっているのかがわかる一冊である。
本書を読めば、企業が隆盛を築くのも、衰退の泥沼に落ちるのも理由があるということがよくわかる。

 結論から言えば、それは人である。経営者である。
本書を読めば、企業の業績、名声、発展が

いかに経営者によって決定づけられるかが分かる。
《「社風」なんて言うが、本当は「社長風」があるだけ。》

という本書中の一文がすべてを表している。

 本書はソニーの「リストラ部屋」と

そこに関わざるを得なかった人々の物語である。
かつては大きな話題になったが、ソニーがこんなに

リストラを続けていたことに驚く。


著者はリストラに追い込まれた元社員たちに寄り添い、

経営者に対して厳しい視線を貫く。
社員から誇りや自負を奪う企業は、必ず会社の輝きを失う。

それが今のソニーなのだろう。

 ソニーに限らず、最近の企業は時に数千人規模の

厳しいリストラを進める一方、経営者は数億円の報酬を受け取る。
それに大して驚きもせず、当たり前のようにとらえてしまう社会の風潮がある。
ソニーの発展と衰退の歴史は、実は戦後の日本経済を

反映したものだったのかもしれない。
ソニーを見つめることは、その先にある現在の日本経済、

企業の存在意義を考えることにつながる。
その触媒になった一冊であった。

書評「陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人」


 帝国陸海軍とその戦争を7つの章にまとめ、

その問題点を浮き彫りにしている。
テーマの割に心地よく読める不思議な作品である。


 それは著者が軍部にイデオロチックにならず、歴史に感情的にならず、
事実を元にそこから学ぼうする姿勢が徹底しているからであろう。

 視線は公平で虚心坦懐に歴史を見つめる姿勢を貫いている。


 例えば、とかく海軍=善玉、陸軍=悪玉論で語られることが多いが、
本書を読めば、海軍もまたいかに無責任で無謀な組織だったことがわかる。
同じように「よりましな軍人」として語られることが多い山本五十六や井上成美といった人物に対してもクールな視線が貫かれている。

 他のレビューにあったが、本書の著者がもっと評価されてよい。
必読をお薦めしたい。