書評「拘留百二十日」大坪弘道著
厚労省の村木局長事件で捜査を指揮した元大阪地検特捜部長。
部下の検事による証拠捏造という あまりにお粗末な捜査の結果、
村木氏は無罪になり、逆に著者は犯人隠避容疑で逮捕されたのは
記憶に新しいところ。
事件そのものは前代未聞ではあろうが複雑なものではなく、
本書も事件絡みというよりは、
特捜部長にまでなった人物が獄に落ちた時の心理や家族、
友人の支えなどが内容の中心になっている。
とにかく検察の調べにかかれば元特捜部長といえどもここま
で追い詰められるのか、と思うぐらい過酷である。
いつものように検察は「ストーリーありき」の捜査・取調べで、
一般私人がこの立場に置かれたらひとたまりもないなと思う。
一方、本書中に検察組織に対する恨み・怒りが繰り返し出てくるのだが、
なぜこの人はここまで組織と自分を一体化できるのか不思議に思った。
組織なんていうものは、組織防衛ともなれば簡単に
「人を切る」ことぐらい自明のことだろう。
それをこの年齢になるまで分からなかったのであろうか?
やはり著者はエリートなのである。
どこかで個人と組織の線引きを意識的にしておかなければいけない、
そんな教訓を残してくれる一冊である。