3月から残業が増えた!?

3年前の3月に、首都圏国公立大学・工学系修士を修了。同年4月から某大手メーカーのエンジニアとして働き始めたZくん。

これでもかと言わんばかりの「コンプライアンス研修」のおかげで、仕事の中身についての話はNGですが、これまでは、「どう聞いてもホワイト企業」という働き方でした。が…。

 

P: 今年の4月で、いよいよ入社4年目ですが、3月からいきなり、忙しくなって、残業も増えたそうですね。

Z: ぼくの部署では、再任用のベテランエンジニアが3月末で1人抜けて、4月下旬には、新人が配属予定(合同研修後。3年前のぼくもそうでした)。

なので、その間、部内での引継ぎとか、新人に教える準備とかで、部署全体の業務量が増えるのは当然ですが、ぼくへの仕事配分が、明らかに増えたんですよ。

P: で、仕事場で夕食を食べることが、週2~3回になったと。え? 夜食じゃなくて夕食でしょ? と、筆者の業界の面々なら言うけど。

Z: ぼくの会社の同期エンジニアでも、1年目からがんがん残業させられた部署もあったらしいですが。

新卒3年以内の離職率とは

P: 筆者の職場でも事務系(非管理職)は、繁忙期以外は残業なしと聞いてますので、部署や管理職かどうか(管理職は裁量労働制)などでも違いはありますが、入社3年満了前から、いきなり業務配分量が増えたというなら、「新卒3年以内の離職率」の数字を意識しているかもしれません。

下記は、厚労省が令和5年10月に発表したデータです。

 

 

Z: 大卒、1000人以上の事業所で、26.1%って、予想以上に多いですね!!

P: さらに、大卒でも「宿泊業,飲食サービス業」に就職した人は51.4%が離職。つまり、2人に1人は、会社などを辞めているわけですね。

逆に、電機、機械、情報通信、食品業界やインフラ業界などは、離職率が低いようです。

 

 

Zくんの会社の新卒3年内離職率を調べたら、ほぼ業界平均値でしたね。  ※補足1

さすがに、業界の水準より悪かったり、雑誌の「大手○百社 離職率ワースト・ランキング」記事には載りたくないという、配慮が働いているのかも?

Z: なぜ、3月からなんですかね?

P:  法律上は、退職する2週間前までに、退職届を提出する必要があるらしいですが、会社の就業規則で「1か月前」などとしている会社がおおいようです。…Zくんも気になるなら、自社の就業規則を確認しておきましょう。

そして、もしZくんが3月中に退職届を出したとしても、実際の退職は4月になりますから、「3年以内離職率」にはカウントされないわけです。

まあ、あくまでも筆者の憶測ですが。

そして、Zくんの話だと、今度の仕事はいままでより高度で、その分大変だけどやりがいがある業務らしいので、単純に仕事のステップが一段あがった(あと給与のランクも)だけかもしれません。

【追伸】

Zくんの会社のゴールデンウィークは10連休だそうで!

大企業(1000人以上)でも、10連休は3割くらいですね(下記)。

 

 

ちなみに筆者の職場は、「〇連休だ・か・ら、連休初日は休日出勤でも平気だよね~」…でした。

 

 

都立自校問題作成高校と、雷電×稲荷のコラボ

 

P:つい先日、新宿に行ったときに、マップにあった「雷電稲荷神社」を「電電稲荷神社」と見間違えて画像拡大してみたら、隣が、東京の自校問題作成高校のひとつ、都立新宿高校でした。※上の写真で、背景に写っている建物が新宿高校

Zくんには10年以上前から、都立・自校問題作成高校の受験~国公立大受験・理系大学院・就活のネタを提供してもらってましたので、「十年ひと昔」という感慨もあり、写真に撮りました(ちゃんとお賽銭を納めましたよ)。

Z: イケア新宿店の目と鼻の先の場所で、新宿御苑にも近いですね~!

新宿高校を目指す中3生は合格祈願に。そして、工学部電気電子工学系の大学受験を志す方、メーカーや電力業界などを志望する就活生も、お参りして良いかも。

 

 

補足1 :「トヨタ 新卒離職率(定着率)」などと、ご自分が気になる有名企業名を検索すると、たいていデータが手に入ります。定着率が高い業界、企業は、ホワイトな職場の可能性がたかいので、就活生は要チェックです。

写真撮影:筆者

【BGM】

Z選曲:Yama+キタニ タツヤ 「憧れのままに」

P選曲:ブライアン アダムス+Chicane 「Don't Give up」

 

 

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)二重譲渡と対抗問題

(A-1)二重譲渡と対抗問題の復習

P: 今回は、前回(宅建06)に引き続き「物権変動」、とくに「共有持ち分」の二重譲渡での「対抗問題」についてからですよね。

S: そうです。

「二重譲渡」と「対抗問題(対抗要件)」については、前回の復習もかねて、まず下記の解説記事をお読みください。

 

個人住宅の買い替え(住み替え)で、信用ある不動産業者相手に売買取引をするときは、この「二重譲渡」のような「お金を払ったのに不動産が手に入らない」等のトラブルの心配はないでしょうが。
逆にいえば、宅建業者は、こんなトラブルを未然に防ぎ、無事に売買を成立させるのが仕事なので、宅建試験でもよく出題されるんでしょうね。

P:上の記事の事例

 「買主がAとBの2人いたとして、所有権移転登記により不動産を取得できた買主を、Aとする」

では、売主Cが買主AとBへ二重譲渡したとき、「所有権移転登記」を受けたAさんが(契約日に関係なく)所有権を主張できると思いますが、もしCからBへの不動産自体の「物件の引き渡し」は済んでいたときは、どうなるんですか?

S: まず、不動産業界用語としての「引渡し/引き渡し」は、下記の記事を読んでください。

 

 

建物と土地とで、引き渡し方法は違いますが、動産(たとえば自転車)と違って、不動産の場合はあくまでも「登記」が対抗要件になりますので、たとえば、Bさんが売主Cさんから家の鍵を渡されていたとしても、Aさんが「持ち主」です。 ※補足1

A-2)登記がなくても対抗できる第三者

P: 前回の話だと、たとえBさんが売主Cさんから不動産の「所有権移転登記」を受けていなくても、Aさんに対抗できる場合があるんですよね。

S:「基本テキスト」の96・97ページには、3パターン・4例が紹介されていますね。

 ①無権利者(そもそも権利がない/(通謀)虚偽表示)

 ②不法占拠者=土地を不法に占拠している者

 ③背信的悪意者=詐欺・脅迫により登記申請を妨げた者

P:②と③は、なんとなくイメージできますが、①の無権利者と「(通謀)虚偽表示」は?

S: そもそも「売主Cさんが無権利者」だと、Cさんから「不動産移転登記」を受けたAさんも「無権利者」になりますが、では売主Cさん自体が「無権利者」というのはどんなケースか? 宅建の過去問でみましょう。

 

 

上記、宅建の過去問・平成20年問2の肢1のように「乙は丙との間で売買契約を締結して所有権移転登記をしたが、甲土地の真の所有者は丁であって、丙が各種の書類を偽造して自らに登記を移していた場合」(原文のABCを筆者が置き換え)の、丙が「無権利者」ですね。

P:そして、無権利者・丙から甲土地をゆずり受けた乙も「無権利者」なので、丁に対抗できないと? ※補足2

S: そうです。

ほかにも「登記がなくても対抗できる第三者」については、下記記事に例がのっていますので、参考にしてください。

 

また、基本テキストの101ページには、相続放棄したB(無権利者)から譲渡を受けたCの事例が載っています。

P: 相続放棄については、宅建04で解説されてますので、参考にしてください。

A-3) 民法の基本用語としての、(通謀)虚偽表示、詐欺・脅迫。そして第三者との関係

S:つぎに、意思表示/契約時の「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」ですが、これらは民法学習の基本ワードとして、「基本テキスト」のそれぞれ

  「(通謀)虚偽表示」10ページ

  「詐欺」 4ページ

  「脅迫(強迫)」5ページ

に載っています。

宅建試験では、売主D,買主E、第三者Fの取引で、本来は〇〇だが、例外として、上記の「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」があった場合を設定して、問題に「ひねり」を加えているパターンが多いように見受けられます。

たとえば、上記と同じ宅建の過去問・平成20年問2の「肢2」の問題文

「丁は乙との間で売買契約を締結したが、甲乙間の所有権移転登記は、甲と乙が通じてした仮装の売買契約に基づくものであった場合、丁が甲乙間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失であっても、丁が所有権移転登記を備えていなければ、甲は所有者であることを丁に対して主張できる。」(原文のABCを説明のために、筆者が置き換え)

にある、

  「甲乙間の所有権移転登記は、甲と乙が通じてした仮装の売買契約に基づく」

が、「(通謀)虚偽表示」の典型例です。

P: 基本テキストの10・11ページをよむと、

  甲 ⇔ 乙間の取引(仮装の売買)は、(通謀)虚偽表示なので、本来は「無効」。

  ただし、甲乙間の取引が仮装であることを知らない丁は、気の毒なので、保護される。

  つまり、甲 →乙 →丁の取引は有効。甲は所有者であることを丁に対して主張できない

ですよね。

S:そうです。ちなみに、基本テキストにかいてあるとおり、

  甲→乙→丁(悪意)→戊(善意)→己(悪意)

のケースで、たとえ丁が「悪意」つまり、甲乙間が仮装売買と知っていても、善意の戊さんに譲られたあとは、その後の己さんに対して、やはり甲は所有者であることを主張できません。

さらに、「肢2」では、問題文に「丁が甲乙間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失」として、いわゆる「善意の第三者」の要素を加えています。

P:今度は「善意の第三者」ですか…。

S:ここも生成AI(Google Gemini)に「善意の第三者 宅建」で聞いてみたら、

『宅建では「善意の第三者」というワードがよく出題されます。

善意の第三者とは、特定の内容を知らない(善意)当事者間の以外の人(第三者)といった意味です。
たとえば、甲の所有物を乙が盗んで丙に譲渡した場合、盗品であることを知らなければ丙は善意の第三者であり、乙の共犯者とはみなされません。
また、民法第94条第2項(虚偽表示)では、第三者が保護されるためには第三者が善意であること(事情を知らないこと)を要件としており、第三者が無過失であることまでは要求していません。』(2024年4月6日)

と、まっさきに「宅建試験でよく出題される重要ワード」だと回答してくれています。

 

先ほども言ったように、宅建試験で、出題者が問題文に「ひねり」を加えるための重要アイテムとして「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」などが使われますが、これ以外でも、出題文で、第三者が善意かまたは善意無過失か? 悪意か?で、結論が変わるケースは多いので、要注意です。 ※「無過失」については、補足2を参照

P: Sさんは、大学で民法を勉強されていたので、民法の「基本概念」がある程度わかっている状態で試験勉強を進められますが、筆者のような初心者だと、次々に「基本ワード」が出てきて、くじけそうなんですが…。

S: この記事の時点で、4月上旬。

これから、試験勉強をスタートする方も多いと思いますので、宅建08「不動産登記法」のあとは、「時効」「代理」などの重要ワードを、取り上げましょうか。

P: お願いします。

(B)共有持ち分の二重譲渡と「所有権移転登記」の手続き

B-1)所有権移転登記の単独申請/共同申請

S:続いて、前回記事で予告した、「共有持分と第三者への二重譲渡」についてです。

基本テキスト101ページのケースでは、

  「甲土地をA,Bが相続。いったん共有状態になったが、遺産分割協議の結果、甲土地はAが単独所有になった…はずが、Bが自分の持ち分を、Cに売ってしまった」

この場合、Bの持ち分の所有権は、AとCどちらのものでしょうか?

P:売主が複数人に不動産を譲渡した場合は、まっさきに「所有権移転登記」を受けた人が、所有権を主張できるわけですから、AとCのどちらでも、先に「所有権移転登記」を備えた方ですかね?

S: そのとおりです。

ただし、「所有権移転登記」の申請方法が、

 ①B→A

 ②B→Cでは違います。

まず①は、法定相続人AとBが、「遺産分割協議書」を作成して、甲土地がAの所有になったと書類で証明ができれば、Aが単独で、被相続人からの「所有権移転登記」(相続登記)を、法務局(登記所)に申請できます。

ただし、申請時に、相続人全員の印鑑証明書なども必要です。

一方、②のBからCへの所有権移転登記は、BとCが共同で申請します(共同申請)。

P: あれ? Bは「遺産分割協議書」がなくても、登記ができるのですか?

S: 法定相続人が、持分どおり(この場合Aが1/2,Bが1/2)で申請するなら、B単独での申請ができます。

そして、Bの持分(1/2)をCに売って、その所有権移転登記ができます。

逆に、相続人全員で共同申請する必要があるのは、

 ・法定の持ち分と異なる割合(例:A1/3,B2/3)で、申請するとき

 ・遺言による遺贈があったとき(後述)

です。

P: たとえば、A,Bの叔父Dさんが、遺言でAに乙土地を遺贈してくれたとして、だれとだれが共同申請するのですか?

S:遺贈を受けるA(受遺者)が登記権利者、そして登記義務者はDの相続人全員(遺言執行者がいればその人)です。

 「遺贈による所有権移転登記は、登記権利者と登記義務者が共同して行う」(原則)

ただし、令和5年度の改正

 「相続人に対する遺贈に限り、登記権利者の単独申請が可能」(例外)

となりました。

なので、もし独身の叔父Dさんが、甥のA,B(法定相続人)のうち、Aさんに遺言で乙土地を贈ったなら、単独申請できる可能性があります。

実際に単独申請できるか? は、遺言書の文面によっても左右されるようなのですが、宅建試験対策の観点からいえば、「共同申請の例外」としての「単独申請」で、覚えておく事項がひとつ増えたことになりますね。

B-2)不動産登記法での共同申請と単独申請の違い

P: 不動産登記の手続きは、原則が「共同申請」で、例外が「単独申請」ということですか?

S: はい。

ちなみに、基本テキストの107ページに

 ・申請主義

 ・共同申請主義

の説明が載っています。

そして、ここも生成AI(Google Gemini)にきいたところ、

『不動産の登記は、原則、当事者の申請か官庁もしくは公署の嘱託がなければすることができません。 これを「申請主義の原則」といいます。 
また、不動産の権利に関する登記は、原則、登記権利者と登記義務者が共同して申請しなければなりません。 これを「共同申請主義」といいます。
共同申請主義は、登記簿上の利害が対立する当事者を共同申請させて、登記の真正を担保しようとしています。
例外としては、登記権利者・義務者が存在しない所有権保存登記や判決による登記の場合などが挙げられます。
また、相続による登記、登記名義人の表示変更の登記のように登記の性質上共同申請が考えられない場合においては、登記名義人が単独で申請をすることができます。』(24年4月14日)

と、整理された答えが返ってきました。

P:  「登記の真正を担保」をやさしく言い換えるとどうなりますか?

S: 法務局は、税務署などのように調査する権限はもっていないため、提出書類がととのっていれば、登記します。

もしも、さきほどの例の

 B(持ち分)→C 

のケースで、Cが単独申請で所有権移転登記ができるとなると、あれ? BはOKしてるの? って思いますよね。

そこで、B(登記義務者)とC(登記権利者)の共同申請として、B→Cの移転が真正であることを、担保(保証)するようにしたわけです。

B-3)単独申請できる理由

S: 逆にいえば、「単独申請」でも問題ないとか、相手がいないなど、登記の性質上、単独申請するしかない登記もあります。

基本テキストの108ページに、

 ①所有権保存の登記

 ②登記名義人の指名・住所の変更登記

 ③相続または合併による登記 ※相続登記で単独申請できるのは、法定の共有持ち分 ※補足3

 ④登記すべきことを命じる確定判決による登記

 ⑤仮登記義務者の承諾がある場合の「仮登記」

そして、B-1で紹介した「相続人に対する遺贈による所有権移転登記」です。

P: ①の所有権保存の登記(所有権保存登記)については次回、仮登記については、抵当権との関りが深いので、Sさんが記事のまとめ方を検討中とのことです。

 

 

補足1:「賃貸物件」の場合は、「賃借権の登記」または「建物の引き渡し」が、対抗要件になります。たとえ、賃借権の登記がなくても、建物の引き渡しが済んでいれば第三者に対抗できます。「賃貸借/賃借権」の記事で触れる予定です。

補足2:今回紹介した過去問(平成20年問2・肢1)解説の注意書きに、「本来の所有者丁に、登記を無権利者乙名義にしていたことに関する過失がある場合」の判例が紹介されています。

補足3:直近の宅建試験・令和5年度問14の肢3
「共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記の申請は、当該権利の共有者である全ての登記名義人が共同してしなければならない。」
は、下記の解説記事のように、

 

「単独申請」に続く、例外Ⅱとでも呼べそうな「合同申請」です。

「合同申請」については、抵当権がらみの事案が多いので「抵当権」の記事のあとに触れるか、「買戻し特約」(Sさんが家を売るときに検討したいと言ってます)で、また触れる予定です。

 

【写真提供】Pixabay

【BGM】

S選曲:槇原敬之 「遠く遠く」

P選曲:Coldplay(feat. Richard Ashcroft)  「Bitter Sweet Symphon (Verve カバー)」

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(1): 共有制度の見直し(23年施行・民法改正)

P:前回(宅建05)の話を聞いて、「相続人同士が遺産分割でもめて、分割協議がずっと進まない間、不動産(家・土地)の所有権はどうなるのか?」と思ったんですが。

S: 遺産分割協議がまとまるまで、相続不動産は相続人全員の共有になります。

「共有」は、基本テキストでも独立した項目として触れていますし、下記のように、23年の民法改正(2023年4月1日施行)で重要な変更がありましたので、今回はまず「共有」から。 ※補足1

 

 

P: なお、上記ページに書いてあるように、23年の改正点はほかにもありまして、遺産分割や共有物の管理に重大な影響のある変更も含まれていますが、23年の改正で23年度宅建試験で未出題の箇所は、24年度試験の前(9月ころ? )に、Sさんが、試験対策用にまとめるか、そのころにはネットやYouTubeでも、直前対策のコンテンツがいろいろ出るはずなので、その紹介をするそうです。

1-① そもそも共有とは?

と規定していますので、兄妹3人が、時間ごと/日ごとに交代で使うように話しあってスケジュールを決める(①)。

もし、Pくんが、とある日に長時間使いたければ、妹さんにお小遣いをあげて、妹さんの持ち時間を譲ってもらう(②)と、丸く収まるでしょう。

P: 妹と交渉するくらいなら、さっさと自分の自転車を買いますが…。

S: 自転車なら別に自分で買えますが、これが、相続した家(建物・土地)だとどうですか? 

両親AとCが相次いで亡くなって(遺言はなし)、子のE、F、Gが実家(建物・土地)と、預貯金300万円がのこされました。

このケースでは、宅建04で話したように、法定相続人E、F、Gが1/3ずつ相続しますね。

P: 預貯金は簡単に分けられますが、家(建物・土地)は、E、F、Gがそれぞれ持ち分1/3ずつの「共有」になり、どう分けるか? が問題になりそうですね。

1-② 民法改正(2023年4月1日施行:以下”23年改正”)で、共有物の管理・変更に関する規定が変わった

S: 民法では、共有物の管理や変更について、これまで

 ・保存行為(家の修繕など)→各共有者が単独でできる

 ・管理行為(短期の賃貸借権の設定など) →共有者の持ち分価格の過半数の同意でできる ※補足3

 ・変更行為(共有物の売却や、共有建物の増改築など) →全員の同意が必要

としていましたが、23年改正で、「軽微な変更」も、共有者の持ち分の価格の過半数で決定できるようになりました。

P:「軽微な変更」ってどんなものですか?

S:「軽微な変更」とは、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」で、たとえば、家の外壁の塗装や屋上防水などの大規模修繕、砂利道のアスファルト舗装などです。

ちなみに、「共有者の持ち分」の扱いについても23年の改正によって、

「共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」(民法252条2-2)

と、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所が決定(裁判)すれば、その共有者以外の共有者全員の同意で、変更ができるようになりました。

上の例でいえば、E、F、Gが不動産を相続したけれど、Gがずっと行方不明のときなどは、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所がOKすれば、EとF、残る2人の共有者(全員)の同意で、「変更」行為ができる=不動産の売却ができるようになるわけです。

P:「共有物の管理者」は、「宅建士」のように特別な資格を持つ方ですか? 

S:いえ、こちらも23年改正で明文化されて、共有者の持分の価格の過半数で選任/解任ができます。「共有者」などに限定されませんし、特別な資格もいりません。

つまり、EとFが、Pくんを「共有物の管理者」に選任しても良いわけです。

1-③ 共有物の分割の決着は、最後は裁判(共有物分割請求訴訟)

P: E、F、Gが三つどもえで、相続(とくに実家の処分)の話し合いがまとまらないときは、どうすればよいですか?

S: 相続財産の額にもよりますが、私だったら弁護士に相談をして、さっさと裁判(共有物分割請求訴訟)をしますね。

ちょうど、全日本不動産協会のHPにわかりやすい説明が載っています。

 

 

裁判所の判断で、
 ①現物分割
 ②競売して、売却代金を持ち分に応じて分配
 ③価格賠償による分割(1人の所有物として、ほかの共有者には金銭が支払われる)
のいずれかの方法で分けることになります。
 

(2)共有持ち分の譲渡と「物権変動」

2-① 共有持ち分の譲渡

P: 共有の不動産の分割協議がまとまるまえに、たとえばEさんが、義弟のHさんに自分の「持ち分」を譲ることはできますか?

S:できます。先ほどの、自転車の例でいえば、Pくんは友人のRくんに、自分の持ち分(使用できる時間)を譲って、お礼をもらってOKです。ほかの兄妹の同意はいりません。

これは、兄妹3人が、自転車という財産を共有しているときに、それぞれが「部分的な所有権」を1/3ずつ持っている状態のためです。

P:自分の持ち分内なら、遠慮なく使えるわけですね。

S:大学の授業などでは習った記憶がないですが、「(共有)持分権」いう呼び方で、不動産関係ではよく使われる用語になってるようです。

宅建試験では、「持分権」という言い方までは出題されてませんが、次回以降に説明する「物権変動の対抗問題」の論点のひとつに、「共同相続と第三者」がありまして、私は「部分的(それぞれ独立した)所有権」としての「(共有)持分権」で、整理した方がすっきりするため、ご紹介しました。

2-② 物権変動とは?

P: 「物権」という言葉は、以前の記事(60代からの宅建02)で、「債権」と対で出てきた、民法の基本ワードですよね。
S: そうです。ここも、Google Geminiに、「物権 債権 違い わかりやすく」できいたら、下記のように、かなり分かりやすい回答をしてくれました。
やはり、民法を勉強するうえで、この二つの違いは意識しておくとよいと思います。
『物権と債権は、財産を支配する権利の2つの類型です。
物権は、すべての人に対して権利を主張できる絶対的な財産支配権 [絶対排他性]で あるのに対して、債権は、特定の人にある要求をする権利であって、第三者には権利を主張できない相対的な請求権である。
<中略>
物権の代表例は、所有権・地上権・質権・抵当権 [担保物権]などです。
債権の例としては、賃借権、利息債権などがあります。』(2024年3月31日:部分。[]内は筆者追加)
ただし、宅建試験の勉強で「物権変動」といえば、「所有権(とくに不動産)の移動をしたら、誰が所有権を主張できるか?」を指すようです。
P: 不動産だと、自転車などとは違って、現物を空間的に移動はできませんよね。家の鍵を渡すなどはできそうですが?
S:そこで登場するのが、「不動産登記」です。
以前の記事(60代からの宅建03)の③で、家(土地・建物)の所有権と登記について、「相続登記」との関係で、簡単に説明しましたが、「物権変動」で「(不動産の)所有権の移動」の証になるのが、「所有権移転登記」です。 ※補足4
P: 60代からの宅建03では、

『Pくんが法務五郎さんから、家を買ったら、

  順位番号3 に、所有権移転登記、令和6年2月〇日 原因 令和6年2月△日売買 所有者 P

などと追加される』

とありましたが、この移転登記によって、ぼくが法務五郎さんに代わって、家の持ち主になったと証明できるわけですね。

S: そうです。

「物権変動」では、基本的には、

  ①登記を先に備えた方が

  ②第三者に対して

 対抗要件を備える=不動産の持ち主と主張できる

ことになります。

P:  この例で、②「第三者」が、法務五郎(売主)とぼく(買主)以外の人というのはわかりますが、①の「登記を先に備えた方」というのは?

S: これが、宅建試験でもよく出題される「二重譲渡の対抗問題」のケースですね。

下記のような

2012年問6の③では「Aが、甲土地をFとGとに対して二重に譲渡して、Fが所有権移転登記を備えた」と、

売主Aが、甲土地を、買主F、Gへそれぞれ売ったときに、GとFどちらが所有権を主張できるか? といえば、ここでは、所有権移転登記を先に備えたFになります。たとえ、Gが先に契約して、代金を支払っていてもそれは、A⇔G間の問題で、FとGでは、Fの勝ちになります。

ただし、買主Gが「登記がなくても対抗できる相手」もいます。

例としては、上にあげた2012年問6の、④が「背信的悪意者」のケースですので、解説をお読みください。

ほかには、

 無権利者 宅建過去問2017年問2② 

 不法占拠者  宅建試験過去問2019年問1①

などですね。

P:リンク先の過去問の他の肢にも、いろいろなケースがのってますね。

2-③ 対抗問題のまとめ

S: 宅建試験対策としては、「対抗問題」については、過去問でいろいろな出題例を把握したほうが、理解しやすいと思います。

なお、全日本不動産協会の埼玉県本部の下記HP

 

 

に、対抗問題について、図入りの分かりやすい記事が載っていますので、ご覧ください。

P:次回は、「対抗問題」の続きと、「不動産登記法」の予定です。

S: 「共有持分と第三者への二重譲渡」については、「基本テキスト」の101ページに解説されていますので、気になる方は、この前後の「第三者への対抗」のいろいろな事例と併せてお読みください。

 

補足1 23年の試験では、23年民法改正のうち「相隣関係」(問2)が出題されました。残る改正点はまだまだあるので、24年度の試験対策上、要チェックです。

補足2: 「善良なる管理者」も民法の基本用語の一つで、いずれ記事でふれる予定です。

補足3:共有者の持ち分価格の過半数の同意で設定できる権利。カッコ内は上限。

 (1) 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
 (2) (1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
 (3) 建物の賃借権等 〔3年〕
 (4) 動産の賃借権等 〔6か月〕

補足4:宅建試験では、毎年「不動産登記法」で、1問出題されるようです。

 

【BGM】

S選曲:Greeen(GRe4N BOYZ) 「桜Color」

P選曲:シンプルマインズ 「Don’t You (Forget About Me)」

【写真】上:筆者、中・下 提供:Pixabay

 

 

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)  遺言(遺言書)で相続はどうなるか? VS.遺留分

P: 前回は、主に法定相続人について、Sさんに説明してもらいました。

さらに、被相続人の「遺言」によって、血縁者以外でも「相続人」になれるそうですね。

S: 「遺言」で財産をもらえる人を「受遺者」といいます。基本テキストにはでてきませんが、法定相続人と区別するためと、宅建試験でも使われている用語なので、覚えておくとよいでしょう。。※補足1

「遺言書」をめぐるトラブルは、「犬神家の一族」とか、ミステリー小説でもよく出てきますね。

P: (Sさんの好きそうな)「犬神家」のようなドロドロした遺言はおいといて、シンプルにAさんが「全財産を社会福祉事業団体Bに寄付する」旨の遺言をしたときに、もしAさんに配偶者Cや子Dがいた場合、どうなりますか?

A-1)法定相続人の遺留分

S: 遺言書自体に問題がなければ(後述:A-2と3)、Bが全財産を相続します。

一方で、配偶者Cと子Dは、本来相続できたはずの相続分(法定相続分)の1/2を、「遺留分侵害額」として、Bに対して金銭の支払い請求ができます。

ではBくん、Aの全財産が、5千万のとき、CとDは、Bに対していくらずつ、請求できますか?

P:本来、CとDは、5千万を相続できたはずなので、その半分が遺留分で、2500万円。2人なので、各1250万円ですね?

S:そうですね。ただし、あくまでも「請求権」なので、CとDは、「請求をしない」こともできます。

そして、この「請求権」は、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈などがあったことを「知った時から1年間」または、「相続開始の時から10年間」行使しないと、「時効」で消滅します。 ※補足2

ちなみに、法定相続人でも「兄弟姉妹」には「遺留分」はありません。

A-2)遺留分の放棄

S: 宅建試験対策の観点からいえば、「遺留分の放棄」は、前記事で説明した「相続の放棄」とまぎらわしいので、直近(令和4年)の過去問でも出題されています。ここは、下記のような過去問解説の記事で、違いを整理しておくとよいでしょう。

 

 

主な違いは、

・「遺留分の放棄」は、家庭裁判所の許可をもらえば、被相続人(今回の例でいえばAさん)の生前にできる。「相続放棄」は、Aさんの生前にはできない。

・「遺留分を放棄する」=「相続する権利を放棄すること」ではない。

P: えーと『「遺留分の放棄」=「相続する権利の放棄」ではない。』は、ちょっと分かりにくいんですが?

A: この点は、基本テキストの説明が分かりやすかったので、引用しておきます。

『遺留分を放棄した後、この遺言が破棄されて相続ができるようになったときは、ふつうに相続ができるということです』(2024年版」88ページ)

A-2)その遺言(書)は有効か?

P:「遺言の破棄」ですか?

S: 前提として、遺言は、法律で定められた形式の文書でないと「無効」です。口頭の「遺言」も、効力はありません。

そして、作成した「遺言書」を、作成者が撤回(破棄・修正)するのは自由です。

なので、今回の例でいえば、Aさんが「全財産を社会福祉事業団体Bに寄付する」旨の遺言書を作成したけれど、その後、遺言書を破棄したり、内容を書き換えてC・Dに相続させることにすれば、C・Dは遺留分を放棄していても、相続できるわけです。

また、そもそも「遺言書」自体に問題があるケースもあります。

P:下のHPを見ると、けっこう色々な「落とし穴」がありますね。

A-3)「遺言」自体に問題があれば…

S: 正しい「遺言書の書き方」などは行政書士「公正証書遺言」などは公証人、「遺言書」の有効・無効の争い(裁判)は弁護士、の守備範囲なので、宅建試験受験生は、基本テキストの知識プラス過去問レベルで覚えておくくらいで良いと思います。

 

P: 遺言(書)を、亡くなるまではいつでも修正できるとなると、遺産分割が終わって何年もたってから、突如、新しい日付の遺言書が見つかった…ということも、起こるわけですよね?

S: 正しい形式の遺言書なら、先に出てきた「遺留分侵害請求権」などとは違って、「消滅時効」がありません。なので、数十年後に、遺言書が見つかったとしても、その遺言書は有効です。

その場合の対処は、弁護士に相談するレベルの話になるので、これ以上はふれませんが。

ふつうは、被相続人が亡くなった後に、遺言書を保管したいた人か発見した相続人が、「死後、遅滞なく」その遺言書を家庭裁判所に提出して,「検認」の手続きをします。

この「検認」手続きもけっこう面倒なので、のこされた相続人等に手間をかけたくないとか、遺言書が紛失しないようにしたいと考える方は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」の利用を、ご検討ください。 

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

B)配偶者居住権

P: ネットで調べると、日本人で遺言書を残す人は、1割に満たないそうで。ウチの両親も、書く気はないと思います。

S: P家は、ご実家の近くにお兄さん夫婦がおられるそうなので、遠い先の「相続」も遺言書なしで問題ないと思います。

しかし、たとえば、先ほどの「Aさんに配偶者Cと子Dがいるケース」で、

 ・Dが配偶者Cの実子でない

 ・Aさんの財産は実家の土地・建物のみ

だと、どうでしょう?

P: Aさんが、遺言書を残さなかったと?

S: たとえ、土地・建物をすべてCさんへ遺贈する旨の遺言書があっても、Dさんは「遺留分」は、請求ができます。

仮に、財産額(土地・建物)が4800万円なら?

P: Dさんは、1200万円を、義母のCさんへ請求できますね。

S: そうなると、以前だと、Cさんは住み慣れた家を売って引っ越しをしなければなりませんでしたが、民法改正で「配偶者居住権」が新設されました(令和2年4月1日以降の相続から)。

https://houmukyoku.moj.go.jp/maebashi/page000001_00235.pdf

 

以前の記事で「所有権」と「登記」の説明をしましたが、「配偶者居住権」は、下記PDF

のような、

  https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/200701/pdf/01.pdf

一定の要件

〔配偶者居住権の成立要件〕(民法 1028条-1)。 ※あ、い、うは筆者が区別のために追加
 あ) 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた
 い) 次のいずれかの場合に該当すること
   ① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされた場合(登記が対抗要件)
   ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合 
 う)被相続人が相続開始の時において居住建物を配偶者以外の者と共有していない

をクリアした配偶者に、権利(居住する権利)として認められます。

 

Cさんは、(あ)と(う)の条件はOKなので、あとは、Dさんとの話し合いで、たとえば

  Cさんが2400万円分の配偶者居住権、Dさんが2400万円分の「負担付き所有権」を得る

などと、遺産分割協議をして、自宅の「建物」に「 配偶者居住権」設定の登記をすれば、そのまま自宅に住み続けられます。

P: たしかに以前の記事で「所有権」と「登記」について説明してもらいましたが、こんどは「負担付き所有権」ですか?

S:負担付き所有権とは? で、Google Gemini(生成AI 24/03/20)の答えが分かりやすかったので、引用します。()内は今回のケースに沿って筆者が追加しました。

『負担付所有権とは、配偶者居住権を得た配偶者(Cさん)が居住する建物や敷地の、所有権のことです.
配偶者居住権とは、亡くなった人(Aさん)が所有する建物に居住していた配偶者(Cさん)が所定の条件を満たすと、家賃を負担することなく引き続き(自宅に)居住できる権利です。
負担付所有権を持つ人(Dさん)には、所有権と負担の両方があることから「負担付所有権」と呼ばれています。
負担付所有権を取得した相続人(所有者となる人)(=Dさん)は、所有者でありながら「配偶者(Cさん)が住んでいる間は自由に自宅(実家)を使えない」「自分が住んでいないのに固定資産税を払わなければならない」などの制約や負担があります。』

P:なんかDさんに不利そうですね。もし、Dさんが、遺産分割協議で反対をしたらどうなりますか?

S:遺産分割協議がまとまらなければ、最終的には家庭裁判所の審判で、ジャッジされます

これから遺言書を書く方は、もしも確実に配偶者に「配偶者居住権」を取得させたいなら、上記の

 い)② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合 

のように、遺言書に書くことですね。「遺言書の具体的な書き方」は宅建試験の範囲をこえてますので、行政書士や弁護士などに、ご相談ください。

ただし、この「配偶者居住権」自体は、「中古住宅の売買」などの実務に深く関わる改正なので、すでに宅建試験でも、

・令和3年10月

 

・令和5年

 

と、かなり細かい部分まで出題されています。

R6年以降の宅建試験対策でも、少なくとも法務省のHPのFAQの内容は覚えておく必要がありそうです。

一方、「配偶者短期居住権」は、「基本テキスト」に書かれている内容プラス、生成AIに「配偶者短期居住権とは」で聞いた範囲で覚えるくらいでよいと思います。

また、遺産分割協議がもめる要因に、「寄与分」・「特別受益」がありますが、ここは、民法改正で、23年4月より「相続発生から10年を経過すると特別受益や寄与分を主張できない」ことになりましたので、「時効/期間制限」をテーマにした記事で、触れる予定です。

P:  今回の記事にも「配偶者居住権の(建物への)登記」という言葉が登場しました。

以前の記事でも、「所有権」との関連で「登記」についても簡単に説明してもらいましたが、次回からは「物権変動」・「対抗問題」・「不動産登記法」についてです。

 

◎補足1 「受遺者」には、人間(自然人)ではなく、法人(団体など)も含まれます。

 遺贈寄付という制度もあります。 

◎補足2 「時効」については、いずれ別記事で説明の予定です。

 

【BGM】

S選曲:山下達郎(カバー:Night Tempo)「キスから始まるミステリー」 
P選曲: Alan Parsons Project 「Eye in the Sky」

【写真】上:筆者 東京・麻布台ヒルズ 文末:提供Pixabay

 

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

 

(A) 相続は争族?

P: 前回は、主に不動産(家・土地)の相続登記をするための第一関門、「戸籍関係書類集め」について、Sさんに話してもらいました。第二関門は、関係者全員分の「遺産分割協議書」集めだそうですね。
S:  相続登記に必要な遺産分割協議書のひな型は、法務局のHPに掲載されていますので、S家は関係者に書類に署名・捺印いただくだけで問題ない見込みです。

ただし、昔から「相続は争族」といって、下記の記事によれば、裁判にまでなるのは1%強だそうですが、行政の無料法律相談や、司法書士・弁護士への相談数などは、けっこう多いと思いますよ。

そして、宅建試験でも、相続関連で1問出題され、今年以降も、本記事で話題にしている相続登記との関連で、いろいろなパターンで出題されると思いますので、このページでも過去問についていくつか紹介しています。

 


(B) 宅建試験レベルの「相続」の知識でかなりのもめごとは解決できる

P: 上の記事を読むと、
 ① 誰が故人(被相続人)の「相続人」か?
 ② どこまでが「相続財産」の範囲か? (寄与分/配偶者居住権など)
 ③ 相続財産の分け方(法定相続分/遺留分/遺言書など)
などが、問題になること。そして、これらが、はっきり分からない状態で、関係者が話し合うとこじれやすいというのは分かりました。

たとえば、上の記事の例で「相続人の配偶者が遺産分割協議に参加してきた」は、たとえば、兄嫁がP家の遺産分割協議に参加しようとしている…ということですよね?

S:ちょうど、宅建の基本テキストでも相続について説明されていて、その範囲の知識で、一般の遺産分割協議は解決できると思います。(補足1)

B-1)法定相続人
S:まず①についてですが、民法の「法定相続人」は、
 配偶者(被相続人の妻/夫。※配偶者は、常に法定相続人になります。なお、離婚すれば「配偶者」ではありません。)
  第1順位:子や孫(直系卑属)
  第2順位:親・祖父母(直系尊属)
  第3順位:兄弟姉妹・甥姪

です。

相続人の配偶者」、つまり、いま話に出た「Pくんの兄(相続人)の嫁(配偶者)」は、「法定相続人」ではありません。

相続分の基本パターンは、下図のとおりですが、

 

ほかにもいろいろなパターンがあるので、「基本テキスト」にも、
  被相続人に配偶者がなく、子1人、父が存命
の例などが載ってます。Pくん、このときの相続人は?

P:えーと、上の図の、配偶者と子が相続人のパターンから、さらに配偶者がいなくて、子が1人なので、子1人が相続。父は相続しない? ですか?

S: 結果的には正解ですが、宅建試験では、さらに複雑な「相続計算問題」が過去にも出題されてますので、宅建試験の受験を考えている方は、下記記事などで、計算問題対策(とくに回答の所要時間)も意識してください。

 

 

B-2)代襲相続と、相続欠格/相続廃除/相続放棄

S: 宅建の試験では、設問を難しくするために、下記の過去問のように「代襲相続」をからめた出題がされます。 

 

 

上の図で、配偶者1/2,子Aと子Bが、1/4ずつ相続する例が載っていましたが、もし、子Aがすでに亡くなっているけれど、AにC,Dという2人の子(被相続人からみると孫)がいたとしたら、相続割合はどうなりますか? Pくん。

P:子Aの相続分1/4を、さらに半分に分けて、C,Dとも1/8ですか?

S: そうです。もし、Cも亡くなっていたとしても、Cに子E(被相続人からみるとひ孫)がいれば、Cに代わって相続をします。

P: それで「代襲」なんですね。

S: さらに、「相続」の出題を難しくするために、下記の過去問のように、

 

 

相続欠格、相続廃除、相続放棄などが追加されることも、よくあります。

P: 「相続放棄」は、そもそも親の財産を継がない(放棄)と、見当がつきますが、「相続欠格」と「相続廃除」の違いは?
S: 簡単にいえば

 ・欠格 →遺産目当てで親(被相続人)を殺すなどした場合

 ・廃除 →親を虐待するなどで、親から家庭裁判所に相続人廃除の請求をされた場合

などです。

制度としてはありますが、実際の相続廃除の請求件数が年に300件くらいなので、宅建試験対策としては、

 「被相続人」の子Aが、相続欠格か相続廃除の場合でも、孫C,Dは「代襲相続」できるが、「被相続人」の子Aが「相続放棄」をした場合は、C,Dは「代襲相続」できない。

というレベルで、覚えておけばよいでしょう。

B-3)相続の承認・放棄

P: Aが「相続放棄」すると、C,Dはおじいちゃん(被相続人)の財産はもらえないと?

S:そうです。Aが「相続放棄」すると、Aは「そもそも相続人ではなかった」=相続人の範囲に含まれない ことになりますので、C,Dの「代襲」がおきないんですよ。

ちなみに、試験ではプラスの財産の「相続放棄」で出題されると思いますが、実際は「空き家問題」と関連して、「負動産の相続放棄」が今後ますます増えると思います。

https://o-uccino.com/front/articles/98606

「相続放棄」は、自分が相続人だと知ってから3ケ月以内に、家庭裁判所に申し立て(申述)をしなければならず、この手続きをするときも戸籍謄本が要ります。ただし、被相続人と自分との関係がわかる範囲で良いようです。

P:「相続登記」の時のような、「さかのぼり」は必要ないわけですね。

S:そうです。

上の図で、配偶者と子Aと子Bが、相続人になるとき、3人は

 ・単純承認

 ・相続放棄

 ・限定承認 (後述)

の選択ができます。「被相続人が亡くなったと知ってから、3ケ月の間」に、相続放棄も限定承認もしなかったときは、「単純承認」とみなされ、ごく普通の相続をしたことになります。

P:「みなす」ってあまり聞かない用語ですね。

S:これも法律用語として、宅建試験のテキストにも普通にでてきますので、慣れてください。

法律用語としての「みなす」とは、 「事実と関係なくその事実があったとする」ものです。

2022年の民法の改正前は、「未成年者(改正前は20歳未満)が結婚すると、たとえ実年齢が20歳未満であっても、成年に達したものとみなす」、”成年擬制”の制度がありました。

改正で、成年が18歳に引き下げられ、同時に女性の結婚できる年齢も18歳~(以前は16歳!)になったため、”成年擬制”自体はなくなりましたが。

P: 「単純承認」と対になるのが、「限定承認」ですか?

S: たしかに「相続放棄」と違って、「限定承認」しても相続人にはなりますが、私のイメージではプログラミングで言う、IF文=条件付き相続です。

たとえば、日ごろ交流のないRおじさんが亡くなって、被相続人Rの財産が、プラスかマイナスかも分からないというときは、私なら「限定承認」を検討します。

これは、「限定承認」の場合は、いったんRおじさんの財産を、公的な手続きで確認、清算して、プラスの財産が残ったときは、その範囲で相続人たちが相続できます。逆に、Rおじに借金があったときは、Rおじの残した財産の範囲で返済され、私が借金を負うことはありません。

ただし、いろいろな手続きの手間や専門家に依頼した場合の費用などが、「相続放棄」よりもさらにかかります。

「限定承認」も、「被相続人が亡くなったと知ってから3ケ月の間」に家庭裁判所に申述の手続きをしますが、「相続放棄」と違って、限定承認の場合は「相続人全員が共同」でしなければなりません。

このように「限定承認」の利用はなにかと面倒なので、実際の利用件数は年間千件以下らしいです。

ただし、宅建試験の過去問には時々でますので、ここも「過去問」の範囲で覚えておきましょう。

P: …蓋を開けてみないと財産かどうか分からない、まるで「ミミック」のような相続への対策が、「限定承認」ということですね?

C:相続関係説明図/相続関係一覧図

S: 前章Bで紹介した知識で、「相続人」の範囲は、整理ができると思います。

実際に、不動産の相続登記をするときは、集めた戸籍関係の書類をもとに、「相続関係説明図」か「法定相続情報一覧図」を作成します。というか、この図を作成し、法務局の担当者に確認してもらうための証拠書類として、戸籍を集めるわけで。

※法務局HPより、見本図

 

 

P: このレベルになると、宅建ではなく、司法書士試験の範囲になるようですが、Sさん自身は、3年以内に、自力で相続登記にチャレンジする予定ですので、くわしくはその手続きが終わった後に記事にします。

次回は、引き続き「相続」関連で、遺言・遺留分・配偶者居住権などを、Sさんに説明してもらう予定です。

 

補足1 例に挙げた過去問は、「遺言書」も関係しますので、今後、その記事でも触れる予定です。

補足2 気になる方は「相続欠格と廃除の違い」で、Google Bard(生成AI)に質問してみてください。

【BGM】

S選曲:Tears for Fears 「Rule the World」

P選曲:The Bravery 「An Honest Mistake」