※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

A)時効の進行を止めるには

P: 取得時効・消滅時効とも、時効の進行を止める手段があるそうですね。

S: 音楽プレーヤーでいえば、一時停止ボタンのような「 時効の完成猶予」と、時効の進行がリセット、つまり最初に戻る「時効の更新」があります。 

P: 具体的には、どうすればいいのですか?

S: 方法は3つあります。

 ①(裁判上の)請求

 ② 催告(さいこく)

   ③ 相手方の承認

ふだんの生活で「裁判」はあまりなじみがないと思いますので、まずは宅建の過去問から。

A-①)(裁判上の)請求

P: 前回(宅建10)の文章末で予告した、2020年12月問5ですかね?

S: そちらもあとで触れますが、ここは、2019年問9

『AがBに対して金銭の支払を求めて訴えを提起した場合の時効の更新に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。』

を例にします。

 

選択肢1.~4.は次の通りです。

 1.訴えの提起後に当該訴えが取り下げられた場合には、特段の事情がない限り、時効の更新の効力は生じない。
 2.訴えの提起後に当該訴えの却下の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
 3.訴えの提起後に請求棄却の判決が確定した場合には、時効の更新の効力は生じない。
 4.訴えの提起後に裁判上の和解が成立した場合には、時効の更新の効力は生じない(誤)

P: Aが、裁判所に訴えを提起した。までは分かりましたが…。誰が? 何を? の説明は一切ない問題文ですね!

S: 「意訳」すると

 1.Aが訴えを取り下げたら、時効はリセットされるか?

 2.裁判所が訴えを却下する判決をしたら、時効はリセットされるか?

 3.裁判所が請求棄却の判決をしたら(=Aの敗訴)、時効はリセットされるか?

 4.AとBとの間で「裁判上の和解」が成立したら、時効はリセットされるか?

ですが、上でも、たぶんPくんは、

 ・訴えの却下と、請求の棄却の違い ※補足1

 ・「裁判上の和解」

あたりでひっかかると思います。

P: そのとおりです!

A-①-1 訴えの却下と請求の棄却

S: まず「訴えの却下と請求の棄却」の違いですが、「訴えの却下」は、そもそも訴えの要件にあてはまらないと、裁判所がAの訴えを門前払いするものです。

一方、請求棄却は、裁判所が「Aの請求(BはAに金を払え)を検討はしたけど、認めない」と判断したものです。

どちらも、裁判所からNoと言われたわけで、このNoと言われた時点から6か月間、時効の完成が猶予されます

ちなみに、肢1.の、Aが訴えを取り下げた時も、同じく6か月間、完成猶予されます。

P: Aが自ら訴えを取り下げてもですか?

S: 訴えの提起をした時点で、一時停止ボタンが押されて、その後肢1.~3.などの理由で、Aが勝訴にはならなくても、さらに6か月は一時停止ボタンが押されたまま~というイメージですね。その間に、Aは時効の完成を阻止する、別の手段をとることもできます。 

A-①-2 裁判上の和解とは

「裁判上の和解」は、生成AI(Google Gemini)に聞いたら

『裁判上の和解とは、訴訟中に当事者が互いに主張を譲歩して、権利関係を認め訴訟を終了させる合意をすることです。

民事訴訟法第267条に規定されており、裁判官の面前において裁判の期日において行われます。
和解が成立すると、裁判所書記官がその内容を記載した和解調書を作成し、和解調書は確定判決と同一の効力を有します。』(24年5月19日)

でした。「確定判決と同一の効力」の部分がポイントで、いったんAが勝訴したり、この例のように和解調書で「BはAに金を払え」が認められると、Bの債務の消滅時効は、確定判決の時点からまたスタートします。

P: たとえば、Bの借金が、本来は24年1月に消滅時効で消えてしまうはずだったが、裁判の間は時効が完成猶予、24年6月にAの勝訴になったら、24年6月から消滅時効がまたゼロからカウントされる(時効の更新)わけですね?

S:はい。

確定判決によって確定した権利の消滅時効期間は、確定日の翌日から10年間です。

この10年間という数字は、民法169条1項に規定されています。※補足2

そして、どうせPくんから、「確定判決と同一の効力を有するもの」ってほかにもあるんですか? と聞かれると思いまして、生成AI(Google Gemini)に、「確定判決と同一の効力を有するものとは」と質問したら、
『確定判決と同一の効力を有するものは、裁判上の和解や請求の放棄、認諾、民事調停、仮執行宣言を付した支払督促などです。』(24年5月19日)
の回答でした。

P:さらに?? が増えたんですが…。

S: 宅建試験の対策上は、このあたりはあまり深入りせず、宅建で過去に出たものを理解しておけばよいでしょう。

たとえば、「仮執行宣言を付した支払督促」は、2009年問3肢1で出題されてます。

ただし、下記の解説ページでは『支払督促については気にしないのが得策』ともありますので、過去問対策といっても、繰り返し出題されたり、直近5年以内に出題された事項を優先した方がよいと思います。

 

 

A-② 催告(さいこく)

S:そして、ちょうど2009年問3肢2『Aが、Bに対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、その請求により消滅時効は更新される。』(誤)が、「催告」です。

P:文字どおり「催促を告げる」という意味ですかね?

S: 大まかにいえばそうです。ここも、生成AI(Google Gemini)に、「催告とは」で聞いたら

『催告(さいこく)とは、相手に対して一定の行為を要求することです。

催告をして相手が応じない場合に、一定の法律効果が生じます。
催告には、大きく次の2つの場合があります。
 ①債務者に対して債務の履行を請求すること
 ②無権代理者等の行為を追認するかどうか確答を求めること
催告の手段には法律上特別な決まりはありませんので、口頭でも行うことができます。しかし、口頭での催告では、催告をしたという証拠が残りませんので、催告をする場合には、配達証明付きの内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。』(24年5月19日 ①、②は説明のため付加 ※補足3)

と、きっちり肢2の「配達証明付きの内容証明郵便」にまで、言及してますね。

P: 肢2は、どこが誤りなんですか?

S: 「消滅時効は更新」ではなく、「完成猶予」つまり、A-①-1 と同じく6か月間、時効の完成が猶予されます。

裁判所が下す確定判決が時効のリセットという強い効果を持つのに対して、私的な「催告」にそんな強い効果を持たせるわけないですよね?

A-③ 相手方の承認(権利の承認、債務の承認)

P: そして、冒頭でPくんが気にしていた過去問、2020年12月問5

 

 

の肢3 『権利の承認があったときは、その時から新たに時効の進行が始まるが、権利の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことを要しない。』(正)が、相手方の承認です。

民法の条文152条

『①時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
 ②前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。』

の①ですね。

ちなみに、この肢3では「時効の更新」プラス「制限行為能力者が承認した場合でも時効は更新されるのか?」について問われていますが、こちらは152条②です。

ただし、次回以降のテーマ「代理/制限行為能力者)」と深くかかわっていますので、その時また取り上げます。

 

P: 前回記事(宅建11)の最後では、『消滅時効が完成したことをQくんが知らないで、Pくんへ「次の給料日に払う」と言ったあとは、QくんはPくんに対する「時効の援用(えんよう)」ができなくなります。』とありましたが、この「債務の承認」では、Sさんの言う「強い効果」=「時効の更新」=時効のリセットができるわけで、その違いとは?

S: 前回と同じく、Pくん(債権者)がQくん(債務者)へ1万円を貸した例で考えてみましょう。

今回は、消滅時効の完成前か? 後か? の区別が重要ですので、2019年1月10日に、発生した貸金債権(1万円)だとします。

前回記事で、債務者Qくんは「(消滅)時効の完成前には、時効の利益を放棄できない」と説明しましたよね。

現時点(24年5月)で、消滅時効は完成していますので、QくんはPくんに対して

  ・時効の援用 →消滅時効で、そもそも債務は消滅している(返す必要ないよね)

  ・時効の利益の放棄 →時効の利益の放棄(ごめん、すっかり忘れてた。次の給料日にお金を返すよ)

のどちらかの返事ができます。

一方で、消滅時効の完成前の2022年お正月のQくんからの年賀状に、「コロナ騒動でなかなか会えないけど、今度会ったときに、以前借りた1万円は返すよ」と書いてあれば、民法152条の「債務の承認」になりますので、消滅時効がリセットされ、2022年1月から新たな消滅時効が進行します。

P:つまり、新たな消滅時効は、2027年1月に完成するわけですね。

S:そうです。

宅建試験では、消滅時効の完成後の「時効の援用」の方が、主に出題されているようなので、「何が債務の承認にあたるか? 」は、基本テキスト36ページの説明の範囲の理解で良いと思います。

B)取得時効の中断

S: 宅建10(取得時効)で、2022年(令和4年)問10の肢2について、予告していました。

 

 

P: 取得時効の要件に「占有の継続」とありましたから、肢2のケースでBが甲土地の占有をEに奪われたら、取得時効は少なくともストップ(一時停止)。もしくは、Bが再占有した時点からまた、取得時効が進行するんでしょうか?

S: 民法164条に簡潔に

『第162条の規定による時効(注:取得時効)は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。』

とあります。

さらに、民法203条の条文には、
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。』

とありますので、このケースでは

 Bが甲土地の占有をEに奪われた →Bの占有権が消滅 →Bの取得時効はリセット

P:「取得時効の中断」という言い方だと、一時停止かな? と思いますよね~?

S:  実は、203条の後半(ただし以降。但書と呼ばれる)が、この肢に関わる重要ポイントです。

今度は、但書の箇所を太字にしますね。

『占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

これも有名な最高裁の判例(昭和44年12月2日)がありまして、

『民法203条但書は、占有を奪われた者が、占有回収の訴を提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復した場合に、占有の継続を擬制する趣旨と解するのが相当である。』

これを肢2のケースに当てはめると、

 Bが甲土地の占有をEに奪われた →本来はBの占有権が消滅 →ただし、Bが裁判所に占有回収の訴を提起したときは、占有権は消滅しない(民法203条但書)→Bが占有回収の訴に勝訴して、現実に甲土地の占有を回復した場合は、占有はずっと続いていたものとみなされる(最高裁の判例 昭和44年12月2日)。

P: つまり、肢2の「(Bが)Eに占有を奪われていた期間も(取得)時効期間に算入される」は正しいわけですね。

S:  そうです。

ちなみに、占有回収の訴えは、占有を奪われてから1年以内に提起しなければなりません(民法201条3項)。

C)「時効」を敵にするのも、味方にするのも自分次第

P: さすがに、時効関連の制度では「期間/時間/期限」の縛りがいろいろありますね!!

S: 実は、法律関連の有名な格言のひとつに、「権利の上に眠るものは保護に値せず」と言うのがありまして、たとえば上の「占有を奪われた」状態だったら、「のんびり1年以上も手をこまねいて、何もしないのか? さっさと占有の回収の訴えを起こして、取り戻す努力をせよ」ということですね。

取得時効・消滅時効とも、時効の進行を止めたり、リセットする手段は、本記事で紹介したようにいろいろありますので、自分の権利は自分で守る、勝ち取る努力をせよ!! というのが、上の格言の意味ですね。

P: 筆者の知ってる法格言は「目には目を、歯には歯を」ですけど…。

S: さすがに数千年前のハムラビ法典と現代法を同列にするのは無茶ですが、ちょうど私が、学生時代(民法専攻)に、19世紀ドイツの法学者イェーリングについて、レポートを書いたことがありまして、

 

 

上の著書「Der Kampf ums Recht(権利のための闘争)」の有名な序文が「法の目標は平和であり、それに達する手段は闘争である」です。

ドイツ語のKampfは、下のnoteによれば、「戦場」とか「決闘」のイメージがあるようで、「闘争」というよりは、自分の権利を守るためには、(合法的に)立ち向かう努力をせよ! という意味あいが強いと思います。 ※補足4

 

 

P: 次回からは、「代理」プラス「制限行為能力者」についての解説です。

S: とくに、超高齢化社会では、認知症の方(制限行為能力者)の代理人の役割が重要になります。さらに、不在者の法定代理人(不在者財産管理人)などもあわせて取り上げる予定です。

 

・補足1 生成AI(Google Gemini)に、「訴えの却下と請求の棄却の違い」について質問したら、

『訴えの却下とは、訴訟要件を満たしていない不適法な訴えとして、内容が審理される前に退けられることをいいます。一方、請求の棄却とは、訴訟要件を満たし訴えは適法であるところ、請求の理由が認められず、消極の判断がされる場合です』(24年5月18日)

でした。「消極の判断」って? 

「終局」ならまだしも…とのSさんのコメントでした。

 

・補足2 民法第169条 条文
① 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。
② 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

 

・補足3 生成AIの「催告」についての説明に出てきた、『 ②無権代理者等の行為を追認するかどうか確答を求めること』は、次回以降で取り上げる「代理」で触れる予定だそうです。

 

補足4 Sさんの基本姿勢(Kampf)のルーツは、大学生時代にさかのぼるんですね~! 納得です。

【BGM】

S選曲:ローラ・ブラニガン「Self Control(Moreno J Remix)」

P選曲:London Beat 「I've been thinking about You」

【写真】提供:Pixabay

 

※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

(A)「 何が」消滅するのか?

P: 前回の「取得時効」に続いて、今回は「消滅時効」についてです。

S:基本テキストでは、

 ・時間がたつと手に入る「取得時効」

に対して、

 ・時間がたつと失う「消滅時効」

と説明していました。

P: 「取得時効」は、一定時間、「物」を占有し続けることで、所有権などを取得できましたが、「消滅時効」では「何が?」消滅するのでしょうか?

S:まず、民法の条文で確認してみましょう。

 『第166条
 1.債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
  一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
 2.債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。』

つまり、債権(1.)と、「債権または所有権以外の財産権」(2.)ですね。 ※補足1

宅建試験で出題されるのは、おもに「AがBに対して有する100万円の貸金債権」(1997年・問4)など、お金の貸し借りで生まれる「債権」です。

P:  そもそも「債権」が、日ごろあまり使わない言葉なんですが? 

S: Pくんが、仮に、友人Qくんに頼まれて1万円を貸したとします。すると、

 債権者(お金を貸した人)Pが、

 債務者(お金を借りた人)Qに対して有する

 1万円の貸金債権(1万円を返してほしいと請求できる権利)

発生します。Qくんの側からみれば、1万円の債務が発生します。

そして、このPくんのもつ1万円の債権は、先の民法166条の規定により、

 ・債権者(P)が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき

または

 ・債権者(P)が、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

の早い方の到来で、消滅します。

P: つまり、Qくんは僕に返さなくてもよいと?

S:正式には、(C)で説明する「時効の援用」を、Qくんがすれば、そうなりますね。

(B)消滅時効はいつ開始するか?

P:「権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」の区別がよく分からないのですが。
S: PくんがQくんに、単純にお金を貸しただけの場合は、この「知った時」と「できる時」のスタート地点が同じなので、あまり区別を気にすることはないです。
くわしいことを知りたいときは、下記をごらんください。

 

 

それより宅建試験対策で要注意なのは、「権利を行使することができる時」(起算日)は何時か? という点です。

P: いつ返してもらうかを、約束していないときは?
S:その場合「期限の定めのない債権」といって、消滅時効は、お金を貸すと直ちにスタートします。※補足2
もし、1年後(25年4月1日)に返してもらう約束をしていたら、消滅時効の開始は、25年4月1日からです。
このような約束をしたものを、確定期限付きの債権と言います。
一方、PくんがQくんに「出世払い」でお金を貸したのでしたら、これは停止条件付きの債権といって、Qくんが係長になって「出世」という条件が成就した時から、消滅時効がスタートします。
 
なお、消滅時効が完成すると、その効果は起算日にさかのぼります。
つまり、「24年4月1日に、PくんがQくんにお金を貸した/Qくんがお金を借りた」という債権/債務関係自体がなかったことになるわけですね。
ちなみに取得時効でも同様で、時効が完成すると、初めから所有者だったことになります。これを「遡及効」といいます。
 

(C)時効の援用

P: もし、ぼくがQくんに「6年前に貸した1万円を返してくれ」と言ったら、どうなりますか?
S: ここも、まず条文を紹介します。
民法第145条
「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」
ちなみに「援用」とは、『 自己の利益のために何らかの事実を主張すること』という意味で、つまりQくんが「Pくんに借りた1万円は、もう消滅時効で返さなくてよいはずだ」と主張をしない限り、時効の効果は発生しません。
P:  上の条文には、「裁判」とありますね。
S:  裁判外でも、主張できます。
この条文の「保証人、物上保証人、第三取得者」は、まだ当ブログで説明していないので、ひとまず「権利の消滅について正当な利益を有する」関係者しか、時効の援用(主張)はできないと、理解しておいてください。
くわしくは ↓

 

 

さらに、「時効の利益の放棄」といって、今回のケースではQくんが、「時効の利益を受けない。Pくんに返すよ」と言うこともできます。

ここも条文を紹介すると、

第146条
『時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。』

逆に言えば、時効が完成した後なら、時効の利益を放棄できるわけです。

P: どうして、あらかじめ放棄できないんでしょうか?

S: PくんとQくんの間のお金の貸し借りならあまり問題ないでしょうが、例えばドラマに出てくるような金融業者と借り手とで、もし「あらかじめ放棄ができる」となったら?

P:  当然、最初の貸す段階で「時効の利益を放棄する」旨、一筆書いてもらうでしょうね。

S: それでは消滅時効の制度の意味がなくなるので、時効完成後にQくんが選択できるようにしたわけです。

なお、消滅時効が完成したことをQくんが知らないで、Pくんへ「次の給料日に払う」と言ったあとは、QくんはPくんに対する「時効の援用」ができなくなります。

P: この点は、次回記事「時効の完成猶予/時効の更新」でも触れるそうです。

過去問が気になる方は、先に下記のような2020年12月問5の解説記事をご覧ください。

 

 

 

補足1 そもそも財産権(物権/債権)って? という方は、下記まとめ記事(PDF)が分かりやすいです。

https://www.jica.go.jp/Resource/activities/issues/governance/portal/vietnam/ku57pq00002khnos-att/vnu_41.pdf

補足2 基本テキストの32~33ページに、「期限」「条件」や、「所有権に消滅時効はない」などの、分かりやすい説明がのっています。

 

【BGM】

S選曲 Wang Chan 「Dance Hall Days」

P選曲 Dead or Alive 「You Spin Me Round (Like a Record)  (Moreno J Remix)」

【写真】上・中:Pixabay 下:撮影筆者(千代田区)

※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

A)民法上の時効制度

P: 今回は、民法上の「時効」についてです。

ドラマなどで、犯罪の時効については、なんとなく知っていますが。

S: 新聞などでもときどき、「本日で○○事件の(公訴)時効が成立」と報道されますからね。※補足1

一方、民法上の「時効」には

 ①取得時効

 ②消滅時効

の2種あります。

基本テキストでは、

 ・時間がたつと手に入る「取得時効」

 ・時間がたつと失う「消滅時効」

と簡潔に書いてます。

A-①-1)取得時効と占有

P: 「取得時効」では、具体的には「何が?」手に入るのですか?

S: その説明の前に、Pくんには「所有」と「占有」の違いを理解してもらう必要がありますね。

ここも、Google geminiに「所有と占有の違い」で聞いてみました。

『所有とは、特定の財産について所有権を有することです。所有権とは、法令の制限内において、所有物を自由に使用、収益、処分する権利を指します。
占有とは、自己のためにする意思を持って物を所持することです。占有権とは、物を所持ないし事実上、支配する権利を指します。所有権に対し、占有権は仮の権利と呼ばれます。
たとえば、泥棒がAさんのダイヤのネックレスを盗んだ場合、泥棒は盗んだダイヤを事実上支配しているため、「所持」している状態です。同時に、自分の利益のために所持しているので「占有」しています。しかし、そのダイヤはAさんが所有するため、泥棒はダイヤを「所持」し「占有」しているものの「所有」はしていません。
占有権よりも所有権の方が強い権利ですが、占有それ自体も法律によって保護を受けています。』(24年5月4日)

P:  言い回しで? と思う点はありましたが、所有権と占有権の違いを、例もまじえて説明してくれてますので、けっこうわかりやすかったです。

S:  占有のポイントは、「自分のためにする意思をもって物を所持」の部分です。 ※補足1.5

ちょうど、国民生活センターのページ(PDF表示)に、「泥棒にも占有権がある」という出だしで、占有権と所有権、自主占有と他主占有の違い、さらに、今回のテーマである「取得時効」についての記事が掲載されていますので、こちらをお読みください。

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202204_10.pdf

以下の説明は、このPDFを読んでいる前提です。

A-①-2)自宅を時効取得!? 取得時効の成立要件

P:  上のPDFの文で、「他人の土地に、立札をたてて何のクレームもなく20年間経過すると、自分の土地になる」とありますが、現実にこういうことってあるんですかね?

S:  もし、実際に起こったら、こうなるという思考実験でしょうね。 ※補足2.5

ただし、私は、「相続登記」の義務化(宅建03)に伴って、これから「自宅の時効取得」を主張するケースが、現実に増えるのでは? と予想しています。

P: 今、実際に住んでいるご自宅の「時効取得」ですか?

S: S家のように、家の所有権が登記上は「おじいちゃん」のままになっていると、「相続登記」のためには、法定相続人全員による「遺産分割協議書」が必要になります。

S家の場合は問題ない見込みですが、もし、相続人の一人が「そもそも本家の不動産を、B伯父が全部相続するのは~」などと言い出したら、もめますよね。

P:  たしかに、数十年前の「おじいちゃん」の時には、口約束で関係者がみんな納得していたのが、孫の代になったら「そんなの聞いてない」となるかも。

S:そこで、自宅について「所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を継続」していれば、10年間または20年間の居住(占有の継続)で、自宅の所有権の時効取得を主張できる…ただし、公的には裁判をして時効取得の確定判決がいりますので、もしも実際にもめごとがおきたら、弁護士にご相談ください。

P: 10年間と20年間の違いは何ですか?

S: 時効取得が認められるのには、いくつかの要件があります。

基本テキスト30ページにも載ってますが、

 (1)所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を継続

ちなみに、31ページに、「所有の意思」は、賃貸住宅などを借りている場合はあてはまらないとか、逆に自宅を他人に賃貸している場合は、「占有の継続」にあたる、などの説明があります。

そして、占有の開始時に

 (2-1)善意・無過失 →10年間の占有継続

 (2-2)善意・有過失か、悪意 →20年間の占有継続

民法で言う「善意/悪意」とは、

 善意=事情を知らない

 悪意=事情を知っていた

の意味です。

これも、民法の基本ワードなので覚えてくださいね。 ※補足3

P: つまり、おじいちゃんが亡くなったときに、子のAさんが、自分が後継ぎだから当然本家(自宅)を相続すると信じ、親戚中もそれを認めていて、10年間住めば、時効取得できると?

S: 「善意/悪意」や「過失/有過失」は、裁判所が判断するレベルの話になりますが、宅建試験でよく出題されるのは、「占有の開始時に善意」で、その後事情が変わったときでも善意と言えるか? つまり、10年間の占有継続で良いか? という点ですね。

たとえば、下記の令和4年度 問10の肢3です。

P: Bが「占有の開始時に善意」なら、その後に事情を知った(悪意)としても、10年でOKですかね?

不動産適正取引推進機構ホームページから

S:そうです。ちなみに、肢1が先に触れた「他人へ賃貸する」のケース。

なお、肢2は、基本テキスト35ページ~の「時効の更新・時効の完成猶予」(宅建12くらい?)でまた触れます。

 

B: 時効取得者 対 登記を備えた第三者(時効完成前/完成後)

S: また、上の令和4年度 問10の肢4(誤り)は、下記の有名な判例

がベースになった問です。

裁判要旨に斜体字で、今回の問題文のA,B,Cを付け加えました。 ※補足4

「 不動産の時効取得者Bは、取得時効の進行中に原権利者Aから当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者Cに対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。」

P: そもそもBは、登記を備えていた所有権者Aに対して、時効取得を主張できるのだから、所有権者がCに代わっても、同じく主張できるということですか?

S:そうです。

今回の問(令和4年度・問10の肢4)では、時効完成時点で所有者だったCと、Bとの争いでしたが、Cについては「時効完成前(からの)第三者」といえます。

一方で、「時効完成後の第三者」について、令和5年度・問6の肢イで問われています。

不動産適正取引推進機構ホームページから

P: 肢アは、書き方は違いますが、どこかで見たような…。

S: 令和5年度問6は、個数問題になってまして、肢ごとに正誤が分からないと、正解できません。なので、肢アはサービス問題かな? と思いました…。

そして、肢イも有名な判例がベースになっています。 ※参考として、R4年度の問題文と同じくA,BとDを斜体字」で付け加えました。

「時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者Aから所有権を取得し登記を経た第三者Dに対し、その善意であると否とを問わず、(Bは)所有権の取得を対抗できない。」

P: 時効完成後に、DがAから所有権移転登記を受けたときは、時効取得者Bは所有権の取得をDに対抗できない?

S: 時効完成後のA→D、(A→)Bの関係は、宅建06(二重譲渡の対抗問題)で紹介したとおり、

 「物権変動」では、基本的には、

  ①登記を先に備えた方が

  ②第三者に対して

  対抗要件を備える=不動産の持ち主と主張できる

なので、Bは自分が時効完成で所有者になったら、さっさと所有権移転登記をすべし! ということですね。

ただし、Bが所有権移転登記をするには、旧所有者Aとの共同申請になります。

もし、Aの協力が得られないときは、確定判決等によって、単独申請も可能ですが。


P:ただし、問題文イは、BがDの登記後、さらに20年の占有を続ければ、所有権者Dに対して、時効取得を対抗できるか? と聞いてますね。

S: 今度は、原権利者Dと、占有者Bとの問題になりますので、悪意(DがAから所有権を譲られたと知っている)のBといえど、さらに20年間の占有を続ければ、所有権の時効取得を、Dに主張できるということですね。

「(取得)時効による所有権の取得と登記について」より詳しくは、下記のページをご覧ください。参考になります。

 

 

P: 次回は「消滅時効」を予定しています。

なお、時効制度の根底にある「権利の上に眠るものは、保護に値せず」という考え方については、いずれ、余談でふれたいそうです。

 

 

補足1 Sさんは「三億円事件」の公訴時効成立(1975年12月。ちなみに事件発生は1968年)が、記憶に残っているそうです。

補足1.5 では、民法でいう「物」とは? これは、物権法など、民法の深いところに関わるそうで…。興味のある方は、民法の学習がひと通り終わったくらいのタイミングで、下記をご覧ください。

 

 

補足2 「刑事事件の公訴時効とは」と、例によって、SさんがGoogle geminiに聞いてみたところ
『刑事事件の時効とは、犯罪が発生してから一定期間が経過すると、犯人を処罰することができなくなる制度です。
<中略>公訴時効とは、犯罪が発生してから一定期間が経過した後、検察官が被疑者を起訴できなくなる制度です。公訴時効の期間は、犯罪の罪の長さや、その罪が人を死に至らしめたものかどうかによって規定されています。たとえば、殺人罪などの最高刑が死刑に当たる罪は15年、<後略>』(24年5月3日)

殺人罪などは、 2010年 「 公訴時効なし」になったはずなので、この生成AIの回答は? というのが、Sさんのコメントでした。

補足2.5 「法的思考(法)」は、法律学の根幹にかかわるので、Sさんは説明できる立場でないとのこと。

気になる方は、Google geminiに「法的思考とは 簡単に」などと質問してみてください。

補足3  善意/悪意については「宅建07 不動産の二重譲渡と対抗問題」で触れています。さらに、今後の記事「通謀虚偽表示」で、より詳しく説明の予定です。

補足4 判例(はんれい)→裁判所の過去の裁判例。Sさんによれば、法学の学生にとっては、条文(六法全書)が骨格、重要判例集が筋肉のような、不可欠のアイテムだそうです。

【BGM】

S選曲:back number 「ハッピーエンド」 

P選曲:Oasis 「 Do You Know What I Mean? 」

 

 

※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください

宅建03では、相続登記との関連で、所有権保存登記・〃移転登記について触れています

A) 所有権保存登記と所有権移転登記の違い、不動産登記法の改正点と宅建試験対策

P: 前回の「所有権保存登記」に引き続いて、今回は「所有権移転登記」ですね。

S: ここでも、登記記録(見本)の「権利部:甲区」を見ながら説明します。 ※補足1

 

この例では、甲野さんが、平成20年に所有権者となったのち、登記原因「売買」で、法務さんへ所有権移転登記をしています。

Pくん、このとき登記の申請をするのは、誰でしょうか?

P:前回、「所有権保存登記」は例外的に「単独申請ができる…」と聞きましたので、逆にいえば「所有権移転登記」は、甲野さんと法務さんの「共同申請」ですよね。

S:「売買」の場合はそうです。

ただし、今年の宅建試験対策上、要注意なのが、「遺贈による所有権移転登記」です。

これまでは、共同申請でしたが、24年4月施行の不動産登記法改正で、相続人に対する遺贈に限り、登記権利者が単独申請できるようになりました。

宅建試験で、直近の改正点は、狙われやすいようなので、下記の記事で確認しておきましょう。

 

 

A-1)不動産手続きのオンライン化

P: 上の記事を読むと、所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請は任意だったのが、変更日から2年以内の申請が義務化され、さらに申告を怠ったときは、5万円以下の過料、つまり罰則付きになるんですね。

S: そこも注目ですね。

ただ、実際の試験で、どんな出題の仕方をされるか? 不安があります。

P: といいますと?

最近の令和4年の宅建過去問14で、4肢とも所有権移転登記について出題されているんですが(下図

 

この出題は、

 ・登記原因を証する情報

 ・登記識別情報

などのワードの意味を知らないと、正しく回答できないと思います。

P: オンライン申請(電子申請)に関わるということは、見当がつきますが…。

S: そうです。

法務省の下記のページに、「不動産登記の電子申請(オンライン申請)」についての概要がのっています。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji72.html#a01

とはいっても、「登記識別情報」などは、とくに説明なしで使われてますので、ここでも、Google Geminiに説明してもらうと、

●登記原因を証する情報とは

『登記原因を証する情報とは、法務局で登記手続きをする際に必要となる「登記原因証明情報」のことです。

登記の原因となった事実や法律行為、それに基づいて権利変動が生じたことを証する情報で、登記申請をする人が自分で作成または用意します。
 <中略>
法定相続による相続登記に関しては、登記原因証明情報という書面はなく、家族関係説明図や戸籍謄本などが登記原因証明情報となります。また、相続放棄をした者がいる場合は、家庭裁判所発行の相続放棄申述受理証明書も添付します。』(24年5月3日)

●登記識別情報とは

『登記識別情報は、不動産の登記名義人であることを公的に証明するために発行される12桁の文字列です。不動産ごとのパスワードのようなもので、本人確認手段の1つとして利用されます。
登記識別情報は、登記の申請がされた場合に、その登記により登記名義人となる申請人に、その登記に係る物件及び登記の内容とともに、登記所から通知されます。登記識別情報通知という書面に二次元コードとともに印字されており、12桁の英数字の組み合わせで構成されています。法務局から交付された登記識別情報通知には12桁の符号部分に目隠しの処理が施されています』(24年5月3日) 

P:  筆者は、マイナンバーカードの「電子証明書の更新手続き」で、つい最近市役所に行ってきたばかりなんですが、要するに、「登記識別情報」とは「各不動産ごとのマイナンバー(データ)」というイメージですね。

S:  実をいえば、法務省の下記の「登記申請書」見本(PDF) ※補足2

  https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365866.pdf

に、あっさり

 「登記識別情報」または「登記済証」

と書いてまして、Pくんは実物をみたことがないかもしれませんが、持ち家の方ですと、「権利証」(紙の書類)を仏壇の下の重要書類入れなどに保管していると思います。くわしくは ↓

 

 

P: 上の記事を読むと、S家(売主)は、今お住いの家の権利証を司法書士へ提供して、買主への所有権移転登記手続きを行う。

逆に、S家が新居を買って、売主から所有権移転登記の手続きをしてもらった際は、発行された「登記識別情報」(データ)がS家へ届くわけですね。

S: そうなるはずです。

先の令和4年過去問の肢2に、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」というワードが出てきますが、これはほぼ「司法書士」を意味します。

実際の家の売却・購入のときは、「相続登記」とは違って、S家でも司法書士へ所有権移転登記の申請手続きを頼むつもりですが、その際に、

 売り主⇔売り手側不動産業者(宅建士)⇔司法書士(ローンの際は銀行関係者)⇔買い手側業者(宅建士)⇔買主

と、売主/買主と司法書士との間に入るのが、宅建士なので、「この用語くらいは覚えておくべし」ということで、令和4年のような出題がされたと思います。

 

A-2)かんたん登記申請

S: そして、話がA-1)冒頭の、「所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請」に戻るんですが、この申請手続きが、PCのWEBブラウザなどから、オンライン申請できるようになりました。

 

 

P: 一覧の中の「 登記名義人の表示変更の登記申請」ですね?

S: そうです。電子証明書(マイナンバーカード)等と、 住民票・戸籍事項証明書(戸籍謄抄本)とがあれば、申請できるので、e-Taxを利用された経験がある人なら、問題なく使えると思います。

また、「相続人申告登記」(不動産の相続が開始した旨と、自らが相続人である旨を、申し出る手続)は、宅建03で取り上げた今年4月からの「相続登記の義務化」に関連しています。

P:  宅建03では

『24年の4月から、相続登記が義務化されて、
 ・不動産を相続した方は、取得を知ってから3年以内
 ・複数の相続人がいて、遺産分割で不動産を相続した方は、遺産分割が成立したから3年以内
に、正当な理由なく、相続登記の手続きをしないと、10万円以下の過料(いわゆる罰金)になります。』

とありましたね。

相続人が自分一人だけなら普通に「相続登記」をすればよいし、複数の相続人がいて遺産分割が難航しているときでも「遺産分割が成立してから3年以内」なので、「相続人申告登記」をする必要はなさそうな気がしますが?

S:  そもそも「相続登記」が義務化された背景に、「空き家問題」があります。

田舎の負動産が、手入れもされず、相続登記も放置され…4月末の新聞報道では、放置が385万戸だそうです。

 

 

そこで、たとえばPくんの親類に、独身の大叔父さんがいて、その方が亡くなった後の空き家の「相続」が、突然、P家にふりかかってきたらどうしますか?

P: 甥姪が10人くらいいて、誰も空き家を相続したくないとなると、逆の意味で「遺産分割協議」がもめそうですね~。

S:  そういう場合に、『とりあえずオンラインで、この「相続人申告登記」をしておけば、P家は過料(罰金)を支払わなくてよい。書類も少なくて済みますよ~。電子証明書も不要です! 』というのがうたい文句(メリット)なんですが、デメリット(固定資産税の支払い問題など)もありそうなので、もし実際にP家に問題がふりかかったときは、下記の記事などを見て、慎重に検討してください。 

 

 

P: Sさんとしては、今後の宅建試験で、これらのオンライン申請が出題されるかも? と気になるわけですよね?

登記・供託オンライン申請システム」自体は、平成の時代からあったが、専用アプリ(ソフト)をインストールする形式だった。

それが、WEBブラウザ版(かんたん登記申請)サービスが始まって、確かに一般ユーザーは便利になったとは思いますが…。

S: ここでも、宅建士(と受験生)に、「こういう便利な方法があると、お客様にも勧めてくださいよ~」と知らしめる意味で、今後、出題されるかも? と思うわけです。

実際に出題されるかどうか? は、例年、宅建試験の直前期に、インターネット記事やYoutubeなどで、宅建受験のプロが、直前予想をいろいろ出されるようなので、私もそちらをチェックの予定です。

 

P: 所有権移転登記については、Sさんも、実際の売買取引の際は、プロ(司法書士)に頼む予定ですので、今回は、主に、今後の宅建試験に関連しそうな事項を取り上げたそうです。

所有権移転登記の方法自体は、下記の記事をはじめ、ネットで読めます。

 

 

「不動産登記法」には、ほかに「仮登記」という学習テーマもありますが、こちらは、保証/債務・連帯債務/抵当権・根抵当権を学習した後(たぶんかなり後)に、触れる予定です。

 

次回以降は、筆者のリクエストで「時効」、「代理」、「意思表示(詐欺・脅迫、虚偽表示、錯誤、心裡留保ほか)」などの民法の基礎ワードについて順に説明してもらいます。その後、借地借家法、建物区分所有法を学習予定です。

 

補足1 前回(宅建08)をはじめ、過去記事でおなじみの法務局の見本(PDF)から。

補足2 こちらのPDFも1~4ページを印刷して、書き込みすると、理解しやすいはずです。4ページが、「登記原因証明情報」の例です。

 

【写真】上 提供:Pixabay 中(府中法務局へと続く「学園通り」)・下(新宿区) 撮影:筆者

【BGM】

S選曲:Fieled of View「突然」

P選曲:BUMP OF CHICKEN 「GO」

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)そもそも「不動産登記」とは?

P:前回は、Sさんに民法の「不動産の二重譲渡と対抗問題」ついて説明してもらいました。

ある不動産が自分のものだと主張できる根拠が「不動産登記」だと、ぼくは理解したんですが。

S: そうですね、基本テキスト104ページでは、不動産登記を『どういう不動産で誰のもの(所有)かを記録している、「不動産の戸籍のようなもの」』と説明しています。

ちなみに、これまで(宅建07まで)の記事でも、「不動産」とひとくくりにしていましたが、「不動産の戸籍=登記簿」は、「土地」と「建物」に分かれています。中古住宅の売買など、登記の手続きを同時にすることが多いですが、借地上の家(登記された建物)だけを売買して、移転登記をすることもできます。

下の過去問の肢3には「借地権者が借地上の建物にのみ登記」している例がでています。

ただし、借地や借家については、やはり「借地借家法」(基本テキストでは権利関係15・16)の知識が不可欠なので、今のペースでいけば宅建12くらいで、また触れます。

 

 

B)新築住宅の所有権保存登記

B-1)登記記録の「表題部」と「権利部」

P: ここでは、いちばん普通のケース、つまり土地を買ってそこに新居(一戸建て)を建てたときの「土地」と「建物」登記手続きについて説明してもらいます。

S: 前提知識として、土地と建物の登記記録には、それぞれ「表題部」と「権利部」があり、権利部はさらに、甲区(所有権に関する記録)と、乙区(所有権以外の記録)に分かれています。

ここは、実物(見本)を見た方が分かりやすいと思いますので、法務局HPのPDFをみてください。

<土地>

 https://www.moj.go.jp/content/001309855.pdf

<建物(家屋)>

 https://www.moj.go.jp/content/001309856.pdf

P: PDF文書の右上に、「全部事項証明書」と書いていますね。

S: Pくんも、引っ越しなどのときに、自分の「戸籍全部(個人)事項証明書」を市役所に請求したことがあると思います。

さきほど、「不動産の戸籍のようなもの」と紹介しましたが、不動産の全部事項証明書(登記証明書)は、登記所で誰でも取ることができます

P:え? ぼくが、S家の不動産の登記証明書を請求してもいいんですか?

S:人間の戸籍と違って、第三者でも、問題ありません。

ただし、下記QAに書いているように、請求事項(地番など)を特定する必要があり、所定の手数料も払います。

  https://houmukyoku.moj.go.jp/matsuyama/table/QandA/all/QA_tanin.html

ちなみに、「表題部」・「権利部」(甲区・乙区)の中身については、下記の法務省HP「不動産登記のABC」

  https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html

の説明が分かりやすいので引用します。

『(1)  表題部の記録事項
土地・・・所在,地番,地目(土地の現況),地積(土地の面積)など
建物・・・所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積など (表題部にする登記を「表示に関する登記」といいます。)
 マンションなどの区分建物については,その建物の敷地に関する権利(敷地権)が記録される場合があります。この敷地権についての権利関係は,区分建物の甲区,乙区の登記によって公示されます。 
(2) 権利部(甲区)の記録事項  所有者に関する事項が記録されています。その所有者は誰で,いつ,どんな原因(売買,相続など)で所有権を取得したかが分かります(所有権移転登記,所有権に関する仮登記,差押え,仮処分など)。
(3) 権利部(乙区)の記録事項  抵当権など所有権以外の権利に関する事項が記録されています(抵当権設定,地上権設定,地役権設定など)。』 補足1

PDF文書を印刷して、紙に赤ペンで注釈を書き込むと、さらに理解しやすいでしょう。 

 

B-2)「表題部」の登記は?

P:おおざっぱにいえば、「表題部」が、人間の戸籍でいえば、住所・氏名とか、その不動産を特定するための情報。

「権利部」が、相続や売買などで権利が移転した記録ですよね?

S:実は、 「登記手続き」は、ほとんどが司法書士の独占業務なので、宅建試験では上の法務省の説明プラス@の知識くらいで良いかな? と思っていたのですが、最近の過去問を見ると、かなり詳しい知識が要求されていますね!

下記の令和2年12月・問14の肢1

「表題部所有者が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、当該表題部所有者について相続があったときは、その相続人は、当該表示に関する登記を申請することができる。」

 

 

ここで、「表示に関する登記」とは、表題登記をはじめ、表題部の登記事項の各項目についての変更など、すべての登記手続きを含みます。

不動産登記法では昔、「表題登記」を「不動産の表示の登記」と呼んでいたそうで、まぎらわしいので、平成17年施行の不動産登記法の改正で、「不動産の表示の登記」→「不動産の表題登記」に変わったそうです。

P:「表示に関する登記」と「(不動産の)表題登記」が違うことは分かりましたが、そもそも「表題登記」とは? 

S: 土地については、埋め立て地でもなければ、元々そこにあったものなので、「表題登記」をすることはあまりないと思いますが、建物を新築したときは、「所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積」など、表題部の記録事項を申請して、いわば「建物の戸籍」をつくってもらいます。これが、「建物の表題登記」です。

そして、基本テキスト(105ページ)に書いてあるように、「表題登記」は、建物を新築したり、取り壊してなくなったときは、1か月以内に申請をする義務があります(不動産登記法47条)。

P: 申請義務があるのは、誰ですか?

S: 不動産登記法47条にそのまま書いてます。

『新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない。』

P: 建物の所有権を取得して表題登記をした人が、「表題部所有者」ですね?

S: そうですね。

もしもPくんがマイホームを新築したときは、通常は土地家屋調査士が建物に関する「表題登記」を申請して、これでPくんが、晴れて「表題部所有者」になります。

その後で司法書士が「所有権保存登記」(くわしくはB-3で)を申請すると、Pくんは「所有権の登記名義人」になります。 ※補足2

P:え? 「登記手続きは、ほとんどが司法書士」と、前に聞いてますが?
S: パソコンでいえば、ハードウェアが土地家屋調査士の担当、ソフトウェアが司法書士の担当というイメージです。
両者の違いは、下記の記事をご覧ください。

 

 

P: 上の解説の、『なぜ、表題登記の申請が必要かと言いますと、それは建物が完成しても何もしないままでは、人でいうと「出生届が提出されていない」』というたとえが分かりやすいですね。
S: 上の記事には「住宅家屋証明書」の説明もでてきますが、ここは「税」(登録免許税の減免)にかかわりますので、そのときに。

また、「農地法」(農地転用申請)のときにも、土地家屋調査士のお世話になるんだな、と私も今回初めてしりました。

P: 東京・多摩地区は、まだけっこう畑があちこちに残っていますが、その畑がいつのまにか建売住宅にかわってますしね。

S: 建売住宅の購入と、注文住宅とでは、登記の手続きが違いますので、いったん下記の記事をご覧ください。

  https://iefree.co.jp/column/347/

建物の登記については、通常は

 ・建売住宅→売主が、建物の表題登記と所有権保存登記を終えている→買主と売主が共同で、建物の所有権移転登記
 ・注文住宅の場合→注文主が、建物の表題登記をする。続いて建物の所有権保存登記

 

B-3)所有権保存登記

P:  もしぼくがマイホームを建てたときは、所有権保存登記が必要ってことですね。

そして、「所有権保存登記」は、宅建07で「単独申請できる」、宅建03で、表題部ではなく「権利部・甲区」にする登記だと、聞いていますが。

S:はい、なぜ「所有権保存登記」が単独申請できるかといえば、「基本テキスト」108ページに書いているように、

所有権保存登記ができる者が限定されているためです。

 ・表題部の所有者

 ・表題部所有者の相続人(その他一般承継人)

 ・所有権をもつと、確定判決で確認された者

 ・収用により所有権を取得した者 補足3

登記の際は、それぞれ所定の証明書類を添付します。

そして、先ほど、建売住宅の建物の登記は、最終的には売主と買主の共同で「所有権移転登記」をする必要があるといったのは、いったん売主が「表題登記」をすると、所有権保存登記できるのは、上のケースに限られますので、買主が「所有権保存登記」できないわけです。

 

 

なお、基本テキストの同じページに書いている「区分建物の所有権の保存の登記」は、直近の宅建試験、令和5年問14の肢4で出題されていますので、下記解説を、お読みください。

 

 

P: 建物と土地で登記手続きも違うし、ちょっと整理しきれないんですが…。

S: 実際に不動産(土地・建物)の売買をするときは、多分さらに複雑ですよ?

登記をするタイミングによって民法上の「履行の着手」に当たるか? が判断されるなど、民法のほかの知識ともからんでいますので、民法の他の項目でも、また触れたいと思っています。

 

「不動産登記法」は、宅建試験では50問中1問のウエイトですが、「住み替え」(売買)では、

・売る(S家の土地・建物を買い手に所有権移転登記…その前に相続登記) 

・買う(中古住宅の土地・建物を売り手からS家へ所有権移転登記)

と、ここが最重要といっても過言ではありません

なので、くわしく説明する分、ややこしく思うかもしれませんが、民法のほかの知識の理解がすすむと、もう少し楽になると思います。

…Pくんも大変そうなので、「分筆登記」については、【付録】扱いにしました。

P: 次回は、引き続き「不動産登記法」の「所有権移転登記」を予定しています(1回ですむか? は未定です)。

【付録】土地の「分筆登記」

S: 本文で紹介した過去問(令和2年12月・問14の肢1)の解説記事では、「表示に関する登記の申請人となることができる」例として、「分筆登記」を挙げています。

P:「ぶんぴつ登記」ですか?

S: 動物の数え方は普通1匹とか1頭で、ウサギは1羽というレベルの豆知識ですが、土地の単位は「筆(ひつ)」で、地番ごとに1筆、2筆と数えます。

ちなみに建物は「棟」です。

そして、分筆とは、文字どおり1筆の土地を分けること。

逆に、複数の土地を1筆にまとめるのが「合筆(がっぴつ)」です。

「分筆/合筆登記」を専門家に頼むときは、司法書士ではなく、土地家屋調査士に依頼します。

P:下記の説明が分かりやすかったです(分筆 ↓。合筆はこちら

 

 

S:ちょうど、本文で紹介した宅建試験・令和2年過去問の肢2が、

「所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地については、分筆の登記をすることができない。」(答え:誤)

です。

P:「宅建士は、分筆の登記と合筆の登記との違いも理解しておくべし」という、出題者の親心? なんでしょうかね?

S:肢2の解説をよんでも「所有権の登記以外の権利に関する登記」がそもそもよく分からないという方は、「不動産登記」の「権利部・乙区」に関係するので、宅建10(予定)をご覧ください。

 

補足1 マンションなどの区分建物について、基本テキストでは「13 建物区分所有法」(157ページ~)に載っています。
敷地権(敷地利用権)は、161ページ。

補足2 建物の所有権保存登記などを、自分で申請することも可能ですが…注意点などを含めて、くわしくは 

  https://www.jecom-db.com/column/726/

補足3 土地の収用・確定判決については、過去問で「出たことがある」レベルですので、気になる方は、下記記事をご覧ください。

 

 

【写真】筆者撮影(東京都内)

【BGM】

S選曲:L⇔R「KNOCKIN' ON YOUR DOOR」
P選曲:Martin Garrix & David Guetta「So Far Away 」