※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。
(1): 共有制度の見直し(23年施行・民法改正)
P:前回(宅建05)の話を聞いて、「相続人同士が遺産分割でもめて、分割協議がずっと進まない間、不動産(家・土地)の所有権はどうなるのか?」と思ったんですが。
S: 遺産分割協議がまとまるまで、相続不動産は相続人全員の共有になります。
「共有」は、基本テキストでも独立した項目として触れていますし、下記のように、23年の民法改正(2023年4月1日施行)で重要な変更がありましたので、今回はまず「共有」から。 ※補足1
P: なお、上記ページに書いてあるように、23年の改正点はほかにもありまして、遺産分割や共有物の管理に重大な影響のある変更も含まれていますが、23年の改正で23年度宅建試験で未出題の箇所は、24年度試験の前(9月ころ? )に、Sさんが、試験対策用にまとめるか、そのころにはネットやYouTubeでも、直前対策のコンテンツがいろいろ出るはずなので、その紹介をするそうです。
1-① そもそも共有とは?
S: 「共有」の簡単な例として、兄妹3人で自転車1台を共有するケースを想像してみてください。
P:いや~、休みの日に、兄妹喧嘩する場面しか想像できませんが?
S: 民法(249条)では、
① 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
② 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
③ 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。 ※補足2
と規定していますので、兄妹3人が、時間ごと/日ごとに交代で使うように話しあってスケジュールを決める(①)。
もし、Pくんが、とある日に長時間使いたければ、妹さんにお小遣いをあげて、妹さんの持ち時間を譲ってもらう(②)と、丸く収まるでしょう。
P: 妹と交渉するくらいなら、さっさと自分の自転車を買いますが…。
S: 自転車なら別に自分で買えますが、これが、相続した家(建物・土地)だとどうですか?
両親AとCが相次いで亡くなって(遺言はなし)、子のE、F、Gが実家(建物・土地)と、預貯金300万円がのこされました。
このケースでは、宅建04で話したように、法定相続人E、F、Gが1/3ずつ相続しますね。
P: 預貯金は簡単に分けられますが、家(建物・土地)は、E、F、Gがそれぞれ持ち分1/3ずつの「共有」になり、どう分けるか? が問題になりそうですね。
1-② 民法改正(2023年4月1日施行:以下”23年改正”)で、共有物の管理・変更に関する規定が変わった
S: 民法では、共有物の管理や変更について、これまで
・保存行為(家の修繕など)→各共有者が単独でできる
・管理行為(短期の賃貸借権の設定など) →共有者の持ち分価格の過半数の同意でできる ※補足3
・変更行為(共有物の売却や、共有建物の増改築など) →全員の同意が必要
としていましたが、23年改正で、「軽微な変更」も、共有者の持ち分の価格の過半数で決定できるようになりました。
P:「軽微な変更」ってどんなものですか?
S:「軽微な変更」とは、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」で、たとえば、家の外壁の塗装や屋上防水などの大規模修繕、砂利道のアスファルト舗装などです。
ちなみに、「共有者の持ち分」の扱いについても23年の改正によって、
「共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」(民法252条2-2)
と、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所が決定(裁判)すれば、その共有者以外の共有者全員の同意で、変更ができるようになりました。
上の例でいえば、E、F、Gが不動産を相続したけれど、Gがずっと行方不明のときなどは、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所がOKすれば、EとF、残る2人の共有者(全員)の同意で、「変更」行為ができる=不動産の売却ができるようになるわけです。
P:「共有物の管理者」は、「宅建士」のように特別な資格を持つ方ですか?
S:いえ、こちらも23年改正で明文化されて、共有者の持分の価格の過半数で選任/解任ができます。「共有者」などに限定されませんし、特別な資格もいりません。
つまり、EとFが、Pくんを「共有物の管理者」に選任しても良いわけです。
1-③ 共有物の分割の決着は、最後は裁判(共有物分割請求訴訟)
P: E、F、Gが三つどもえで、相続(とくに実家の処分)の話し合いがまとまらないときは、どうすればよいですか?
S: 相続財産の額にもよりますが、私だったら弁護士に相談をして、さっさと裁判(共有物分割請求訴訟)をしますね。
ちょうど、全日本不動産協会のHPにわかりやすい説明が載っています。
(2)共有持ち分の譲渡と「物権変動」
2-① 共有持ち分の譲渡
P: 共有の不動産の分割協議がまとまるまえに、たとえばEさんが、義弟のHさんに自分の「持ち分」を譲ることはできますか?
S:できます。先ほどの、自転車の例でいえば、Pくんは友人のRくんに、自分の持ち分(使用できる時間)を譲って、お礼をもらってOKです。ほかの兄妹の同意はいりません。
これは、兄妹3人が、自転車という財産を共有しているときに、それぞれが「部分的な所有権」を1/3ずつ持っている状態のためです。
P:自分の持ち分内なら、遠慮なく使えるわけですね。
S:大学の授業などでは習った記憶がないですが、「(共有)持分権」いう呼び方で、不動産関係ではよく使われる用語になってるようです。
宅建試験では、「持分権」という言い方までは出題されてませんが、次回以降に説明する「物権変動の対抗問題」の論点のひとつに、「共同相続と第三者」がありまして、私は「部分的(それぞれ独立した)所有権」としての「(共有)持分権」で、整理した方がすっきりするため、ご紹介しました。
2-② 物権変動とは?
物権の代表例は、所有権・地上権・質権・抵当権 [担保物権]などです。
債権の例としては、賃借権、利息債権などがあります。』(2024年3月31日:部分。[]内は筆者追加)
『Pくんが法務五郎さんから、家を買ったら、
順位番号3 に、所有権移転登記、令和6年2月〇日 原因 令和6年2月△日売買 所有者 P
などと追加される』
とありましたが、この移転登記によって、ぼくが法務五郎さんに代わって、家の持ち主になったと証明できるわけですね。
S: そうです。
「物権変動」では、基本的には、
①登記を先に備えた方が
②第三者に対して
対抗要件を備える=不動産の持ち主と主張できる
ことになります。
P: この例で、②「第三者」が、法務五郎(売主)とぼく(買主)以外の人というのはわかりますが、①の「登記を先に備えた方」というのは?
S: これが、宅建試験でもよく出題される「二重譲渡の対抗問題」のケースですね。
下記のような
2012年問6の③では「Aが、甲土地をFとGとに対して二重に譲渡して、Fが所有権移転登記を備えた」と、
売主Aが、甲土地を、買主F、Gへそれぞれ売ったときに、GとFどちらが所有権を主張できるか? といえば、ここでは、所有権移転登記を先に備えたFになります。たとえ、Gが先に契約して、代金を支払っていてもそれは、A⇔G間の問題で、FとGでは、Fの勝ちになります。
ただし、買主Gが「登記がなくても対抗できる相手」もいます。
例としては、上にあげた2012年問6の、④が「背信的悪意者」のケースですので、解説をお読みください。
ほかには、
無権利者 宅建過去問2017年問2②
不法占拠者 宅建試験過去問2019年問1①
などですね。
P:リンク先の過去問の他の肢にも、いろいろなケースがのってますね。
2-③ 対抗問題のまとめ
S: 宅建試験対策としては、「対抗問題」については、過去問でいろいろな出題例を把握したほうが、理解しやすいと思います。
なお、全日本不動産協会の埼玉県本部の下記HP
に、対抗問題について、図入りの分かりやすい記事が載っていますので、ご覧ください。
P:次回は、「対抗問題」の続きと、「不動産登記法」の予定です。
S: 「共有持分と第三者への二重譲渡」については、「基本テキスト」の101ページに解説されていますので、気になる方は、この前後の「第三者への対抗」のいろいろな事例と併せてお読みください。
補足1 23年の試験では、23年民法改正のうち「相隣関係」(問2)が出題されました。残る改正点はまだまだあるので、24年度の試験対策上、要チェックです。
補足2: 「善良なる管理者」も民法の基本用語の一つで、いずれ記事でふれる予定です。
補足3:共有者の持ち分価格の過半数の同意で設定できる権利。カッコ内は上限。
(1) 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
(2) (1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
(3) 建物の賃借権等 〔3年〕
(4) 動産の賃借権等 〔6か月〕
補足4:宅建試験では、毎年「不動産登記法」で、1問出題されるようです。
【BGM】
S選曲:Greeen(GRe4N BOYZ) 「桜Color」
P選曲:シンプルマインズ 「Don’t You (Forget About Me)」
【写真】上:筆者、中・下 提供:Pixabay