① 「相続登記」はなぜスルーされてきたか?

P: 今回は、S家の「住み替え」に向けて、いまは「おじいちゃん」名義の家と土地の登記名義人「孫」へ変更するための手続きの前に立ちふさがる「カベ」についてです。

 

序章でふれたように、Sさんは20代のころ、親戚が相続した家と土地の「所有権移転登記」=相続登記 の手伝いをされて、「かなり面倒だった」そうですね。 ※補足1、2

S: 大叔母Gさんの夫Rさんが亡くなり、遺言で住んでいた家と土地はGさんが相続しました。

そして、下表(ただし図は令和4年)のような書類を集めて、申請書などの「作成書類」と一緒に法務局へ提出する必要がありました。

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001393744.pdf

 

P: 筆者も、住民票、印鑑証明書、戸籍事項証明書は、引っ越しのときに役所へ行って、手続きした覚えがありますが…。

S:自分が今住んでいる市の窓口で取得できるものは、係の方に聞いて、なんとか手続きできると思いますが、上の表の赤いワクで囲んだ、「亡くなった方の戸籍謄本/除籍謄本/改製原戸籍」を本籍地の市区町村で入手するのが、めんどうだったんです!

P: 筆者は本籍地を今住んでいるM市の住所にしていますが、Rさんは違ったんですか?

S: Pくんも、故郷Y県X市から東京都M市へと、本籍地を変更したわけですよね。

もしも亡くなった方が、何度も本籍地を変えていると、「現在の戸籍謄本」の記載(A県B市から東京都H市へ)を見て、まずA県B市の戸籍を入手。さらに、A県C町……と、Rさんが生まれた時までの戸籍を、さかのぼって手に入れなければならないんですよ。

 

 

P: それをSさんがなさったわけですね?

S: 登記の申請手続き自体は司法書士に頼んだので、併せて依頼もできたんですが、けっこう事務手数料がかかります。

G叔母は近所にすんでいた私が、民法を勉強したことを知っていたので、時給プラス実費(おもに往復の郵送費と役所への支払い。たとえば、戸籍謄本1通○○○円)で引き受けました。

くわしい作業内容は下記、東京都新宿区役所が作成した「出生から死亡までの連続した戸籍のさかのぼり方について」のPDF文書が、わかりやすいです(広域交付版もぜひ、作成してください)。

https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000252913.pdf

昔と変わってるかもしれませんが、だいたいこんな手間でした。

往復とも郵便なので、2~3か月かかった記憶があります。結局、Rさんは4通の書類(さかのぼり3回)で済みましたが。

 

なぜRさんの「生まれてから死ぬまでの戸籍」をそろえる必要があるか? といえば、もしRさんがGさんと結婚する前に、別の方との間に子供がいれば、その子も含めて「遺産分割協議」をやり直す必要があります。

ほとんどのご家庭は大丈夫でしょうが、「Rさんには、100%ほかに子供はいない」ということを証明するために、この書類を集めたわけです。

P: いくら手続きが面倒だといっても、S家も「おじいちゃん」が亡くなった時点で、相続登記をしなくてよかったんですか?

S: いままでは罰則がありませんでした。なので、親戚中でこの家と土地は、祖父→子→孫へ…と受け継ぐという了解があれば、わざわざめんどうな手続きをしようと思わなかったわけです。 

逆に、遺産分割の話し合いがこじれて、登記申請に必要な「遺産分割協議書」がそもそも作成できないことも多いと思います。ここは、宅建04(相続:遺産分割)で、もう少し詳しく話す予定です。

②相続登記の義務化と「広域交付」

P:「いままでは罰則がなかった」。逆にいえば、これからは「罰則がある」ということですか?

S:そうです。24年の4月から、相続登記が義務化されて、

 ・不動産を相続した方は、取得を知ってから3年以内

 ・複数の相続人がいて、遺産分割で不動産を相続した方は、遺産分割が成立したから3年以内

に、正当な理由なく、相続登記の手続きをしないと、10万円以下の過料(いわゆる罰金)になります。

 

 

この義務化の対象には、24年4月1日以前に相続された(相続登記が未登記の)不動産も含まれます。

つまり、S家でも、遅くとも3年以内(27年3月末まで)に、

  おじいちゃんA →子C(Sからみて父)→孫S

の相続登記をする必要があります。

P: すると、やはりお二人(A,C)分の全戸籍を集める手間がかかるわけですね。

S: そこは、ようやく改善されまして、24年3月1日からは、「広域交付」といって、本籍地にかかわらず全国どこの自治体の窓口でも、戸籍・除籍全部事項証明書(謄本)を請求できるはずです。

 

 

P:つまり、最寄りの市役所などで、いっぺんに戸籍が請求できるわけですね。

S:そうです。ただし、上のA→C→Sのケースでは、S本人が窓口に行って、写真付きの身分証明書を提示すれば請求できますが、「代理人」は請求できません。

P: 本人が長期入院中などでしたら、昔ながらの「郵送」ですかね? 

S:本人以外に、上の八王子市のHPによれば、
 ・配偶者(注)
 ・父母、祖父母など(直系尊属)
 ・子、孫など(直系卑属)
 (注)死亡した夫または妻の戸籍を配偶者が請求する場合、婚姻後の戸籍のみ広域交付可能。

が広域交付の請求ができるようですので、たとえば、Sの子K(ひ孫)も、A・Cの請求ができます。

直系尊属はじめ、このあたりの用語は「法定相続人」にかかわるので、宅建04か05で触れます。

ちなみに、3月~5月は、引っ越しシーズンで役所の窓口はただでさえ混むし、役所の担当者もまだシステムに慣れていないと思うので、S家が準備するのは早くても夏以降かな? 実際に手続きしたら、また記事にします。

P: マイナポイントのときみたいに、3年後に登記期限の延長とかがありそうな~。

S:相続登記の登録免許税について、くわしくは宅建「税」のところで触れますが、下記のような免税(非課税)措置のおかげで、S家の場合も、A→C間の相続登記は、登録免許税が免税になりそうです。

この免税措置の適用期限が、24年2月時点では、令和7年(2025年)3月末までなので、その前の手続きを考えているわけですが、Pくんの推測どおりこちらの期限延長もあるかも? 

 

 

 

③ 不動産登記(所有権保存・移転登記)とは?

P: Sさんは、たまたま相続登記にかかわって、登記関係の書類なども見たことがあるわけですが、一般にはなじみがないと思います。

S: そこで、宅建の参考書が役にたつわけです。

基本テキストの「権利関係」109・110ページに、不動産登記・全部事項証明書の例が載っています。法務省の見本(PDF)はネットで簡単にみられますよ。

P:法務省の見本で「表題部」「権利部」とか見ても??ですね~。

S: 基本テキストでは、

 ・そもそも「登記」とは、不動産の戸籍である。土地・建物は別の不動産として扱われる

 ・「表題部」は土地・建物のプロフィールのようなもの

 ・「権利部」には、甲区に所有権に関する事項。乙区に所有権以外の権利に関する事項を記載

など、簡潔に説明されています。

P:  この記事の最初に、相続した家と土地の「所有権移転登記」=相続登記 とあったので、権利部・甲区の「所有権」について変更するわけですよね。

S: 「そもそも所有権とは?」の説明は、基本テキストにはみあたらなかったんですが、Google Bard(※補足1)に「所有権とは 家」できいてみたら、

『所有権とは、法令の範囲内で「自由に使用、収益、処分ができる権利」です。土地の所有権を持っていれば、そこに建物を建てたり他人に貸したり、あるいは駐車場にして運営したり、売却することが可能です。
土地の所有権は、地主から土地を購入することで取得できます。土地を購入すると法務局で登記を行い、購入者の名前で所有権登記を行うことができます。』(24年2月・一部抜粋)

この「不動産(家・土地)の所有権」というキーワードは、こらからも宅建試験の他の分野にいろいろと関連しますので、そのときにも触れます。

P: 法務省の見本をみると、甲区の1が「所有権保存」、2が「所有権移転」登記ですね。

S: 家を新築したときなどは、できてから1ケ月以内に「所有権保存登記」をする義務があります。マイホームを新築するときは、たいていは「住宅ローン」のお世話になると思いますので、このローンの関係(抵当権も関わります)でもれなく「所有権保存登記」はしているはずです。

そして、家の持ち主が、たとえば甲野太郎さんから法務五郎さんへと変わったら、所有権移転登記をします。

もし、Pくんが法務五郎さんから、家を買ったら、

  順位番号3 に、所有権移転登記、令和6年2月〇日 原因 令和6年2月△日売買 所有者 P

などと追加されるわけです。

相続登記の「登記原因」は、原則「相続」です。 ※補足3

P: 今のS家では、おじいさん(A)が所有権保存登記をしただけで、以後、C、Sへの所有権移転登記をしていないから、今の家の持ち主が、Sさんとは証明できていないと。

S: そうです。

たまたま「相続登記の義務化」とタイミングが重なりましたが、「住み替え」までには避けて通れない手続きです。

ちなみに、家の売買のときは登記のプロ(司法書士)に依頼すると思いますが、書類集め等が順調にいったら、S家の相続登記の手続きは、法務局へ行って、自力でやるかもしれません。 ※補足4

ただし、1か所気がかりな点(セットバック)があるので、これはいずれ、別の記事で取り上げます。

P: 今後は、「相続」でよく問題になる「遺産分割」(とくに家と土地)と、関連して「配偶者居住権」(宅建・令和3年出題あり)。次々回は、負の相続、いわゆる「負動産」を、トカイナカ、空き家問題などと関連付けて、話題にする予定ですが、先に3.5として今回も触れた「戸籍証明書の広域交付」について記事にしました。

●補足1

Googleの生成AI・Bard(これからはGemini)で、「相続登記 わかりやすく」で検索してみてください。

なお、ご興味のある方は「法務省 戸籍情報連携システム」も、Bard(Gemini) に聞いてみてください。

 

●補足2

役所の方も、分かりやすい説明を、いろいろ工夫されていますね ↓(例)

 

●補足3

気になる方は、「相続登記の登記原因には何がありますか」で、Bard(Gemini) に聞いてみてください。

●補足4

ふつうは、え? 法務局? どこにあるの? から始まると思います。

筆者は、農工大・農学部の北側道路(学園通り)沿いに法務局(府中支局)が建っていて、バス停の名前にもなっていたので見覚えがあるんですが、そういえば故郷の〇市の法務局って…?

 

【写真/画像】上:筆者撮影(豊洲)、下:Pixabay

【BGM】

S選曲:TM NETWORK「Self Control」

P選曲:New Order「Regret」