※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。本記事は、24年2月初出。3/9最終更新
① 期待:「戸籍の広域交付」で、本籍地以外のもよりの自治体窓口での戸籍の一括請求が可能に
P: 前回記事で、今年の4月から義務化される「相続登記」について、まず「亡くなった方の生まれてから死ぬまでの戸籍を、さかのぼって集めるのが面倒だった!」という、Sさんの体験談を話してもらいました。
そして、今年の3月1日からは、「戸籍証明書の広域交付サービス」がはじまり、もよりの市役所などの窓口で、亡くなった方の戸籍証明書を請求できるようになって、便利になるかも? と、Sさんも期待と不安があるそうですね?
S: 前回話したように、いままで戸籍証明書は、本籍地の自治体窓口へ行くか郵送請求でないと、入手できませんでした。
つまり、「亡くなった方Eの本籍地」が、
出生○県A市→○県C市B→○県C市C→死亡東京都D市
と変わっていたときは、まずD市の窓口で、戸籍証明書を入手。そこに書かれた内容(D←C市)から、次にC市に郵送で戸籍証明書を請求、最後にA市に郵送~で、戸籍証明書を入手していました。
それが、下図のように「最寄りの市役所などの窓口」で、「請求が可能」になりました。
上図・下図とも 法務省HP https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html
P: たとえば、筆者はM市在住ですが、東京都中央区(補足1)の窓口でA,B,C,Dの戸籍証明書を請求してもよいわけですね。
S:そうです。ただし、広域交付で請求ができる人は
本人とその配偶者、直系の親族(父母、祖父母、子、孫など)
に限られますので、Pくんが自分の兄弟姉妹の戸籍をとることもできません。
ちなみに、「配偶者(夫婦の一方)」「直系尊属(父母、祖父母…)」「直系卑属(子、孫…)」などは、宅建の基本テキストでも、この言い方をしてますので、Pくんも慣れてください。
そして、新しい「広域交付」サービスは、請求の資格がある人自身が窓口に行く必要があり、代理人は請求できないとか、顔写真つき身分証明書を提示しないと手続きできないなど、便利になった代わりに一定の制限がありますし、広域交付で取得できる戸籍証明書の種類は限られていますので、郵便請求の手続きは残るでしょう。
② 不安: 最寄りの市町村窓口での広域交付請求=さかのぼり対応には時間がかかる!
P: 24年3月1日、つまり新制度の初日は、残念ながら戸籍情報連携システムのトラブルで、全国の自治体が受付できない旨のをホームページに掲載。
法務省のトップページの冒頭にも
【重要】戸籍情報連携システムの障害について(令和6年3月1日)
のお知らせが表示される事態になってますね。
アクセス集中が原因だそうですが。
S: 初日から、予想以上の申し込みがあったのか? または、システムを操作する市町村(以下、役所)の窓口の方たちが、まだ慣れていないせいか? は不明ですが、実は、他市の戸籍をオンラインで取り寄せる作業は、役所の職員でもかなり大変だと思います。
P: 今まで、戸籍を担当された方でもですか?
S: そこが、「相続のための一連の戸籍請求(いわゆる、さかのぼり)」の特殊なところで、亡くなった方が、どれくらい本籍を移動されていたか? 蓋をあけてみるまで分からないことが多いはずです。
たとえば、先の例で挙げたEさんが亡くなり、相続登記のために、孫のPくんが、戸籍集めに「広域交付」を利用しようと考えたとします (出生○県A市→○県C市B→○県C市C→死亡東京都D市)。
この段階では、健康保険証などから「住所」などは分かりますが、「本籍地」はわかりません。
そういうときは、まず亡くなったD市で「住民票の除票」を請求します。
除票から、東京都D市が、最終の本籍地と分かったところで、最寄りの板橋区の窓口で「広域交付」を申し込むとします。
P: Eさんの例だと、さらに
出生○県A市 ←○県C市B ←○県C市C
とさかのぼる必要があるわけですね。
S: Pくんが、板橋区に申し込んだ時点では、○県C市C→死亡東京都D市の移動があったことしか分かりませんが、新しい「戸籍証明書の広域交付」では、役所の方が、「出生○県A市 ←○県C市B ←○県C市C」までのさかのぼり作業も行ってくれるようです(補足1)。
そのせいか、上の板橋区のページ(24/2/16時点)を見ると、
「出生から死亡までなどの一連の戸籍を請求される場合、発行に非常に時間がかかります(目安:90~120分程度)。お時間に余裕を持ってお越しください。
受付時間や証明書の内容によっては、当日中に交付できない場合もあります。」
とあります。
P:つまり、慣れているはずの役所の方でも、「さかのぼり」作業に、最大2時間くらいの時間がかかると見込んでいるわけですね。
S: 私が、〇十年前、郵送請求で取り寄せた戸籍の中には、明治時代の毛筆文字があったと記憶してます…。最大2時間で大丈夫かな? と心配なんですが…。
そのためか、東京都目黒区だと
ステップ1 事前来庁予約:電話またはオンラインで、事前来庁予約をします。
ステップ2 区役所での申請:区役所に来庁し、申請書を記入後、受付をします。(約1時間から2時間)
(発行準備:区が審査、発行を行います。原則7営業日)
ステップ3 区役所での受取:区役所に来庁し、戸籍証明書を受け取ります。(約1時間)
としています。
最寄りとはいえ、役所の窓口へ複数回行って待つか? 予約を取るか? 昔のように本籍地へ郵送で請求がよいか? ここは、いろいろな市のホームページを見ても、まだ対応にばらつきがありそうなので、私も迷っています。
引き続き、続報を書くと思います。 ※文末に情報を追加中
P: 今回は、法務局への相続登記の前に必要な亡くなった人の戸籍書類集めが広域交付で便利になった反面、戸籍情報連携システムも稼働したばかりで、コロナやマイナンバー(マイナポイント)関係の手続き以上に、紆余曲折がありそうなので、独立した記事にまとめました。
状況により、適宜書き足し、書き直し予定です。
【補足1】
広島市のページに、職員の方による作業が、図で紹介されていました。
なお、「戸籍証明書」などについては、東京都中央区のHPの説明がわかりやすかったので、リンクを掲載します。
[24年3月9日 追加情報]
法務省のHPに、「戸籍情報連携システムの緊急メンテナンスの実施に伴うサービスの停止について(令和6年3月6日掲載)」が掲載されていました。
「令和6年3月8日(金)午後10時から令和6年3月11日(月)午前7時まで」緊急メンテナンス
[24年3月16日 追加情報]
法務省のHPにて、「本籍地市区町村以外の戸籍証明書の交付(いわゆる広域交付)がしづらい状態となっておりましたが、本日(3月11日)、復旧したことを確認できましたので、お知らせします。」
しかし、自治体は警戒モードのようで、たとえば、東京・三鷹市は、3月15日時点で、
「【申請から交付までに時間がかかります】
法務省システムの全国的な障害及び交付時に当初予定と異なる確認作業が必要になったことから、当面の間、三鷹市に住民登録がないかたの「過去にさかのぼらない戸籍(除籍)証明書」の交付については即日交付が難しい状況です。交付目安については申請時にお伝えします。<中略>「過去にさかのぼる戸籍(除籍)証明書」については、法務省システムから交付できない事象が相次いでおり、請求を受付けても証明書の交付ができないことがあります。当面の間、「過去にさかのぼる戸籍(除籍)証明書」は請求後、交付準備が整い次第ご連絡を差し上げることとし、交付不可能な場合でも請求後3開庁日後までにご連絡いたします。」
https://www.city.mitaka.lg.jp/c_news/107/107253.html
→やはり、本文でSさんが懸念していた、”過去にさかのぼる戸籍”(画像)を、他自治体の職員が検索して探す手間がかかっているのか?
尾道市のHPで、具体的な事例で説明されていましたので、参考として引用します。
『戸籍事例2 相続人を確認するために、死亡した人の「出生」から「死亡」までの連続した戸籍謄本が必要と言われた場合
大正生まれの方の場合の例
戸籍1(除籍):生まれた日・・・祖父が戸主の戸籍
戸籍2(除籍):祖父死亡により伯父が家督相続・・・伯父が戸主の戸籍※この戸籍のとき婚姻
戸籍3(改製原):伯父の戸籍より父が分家・・・父が戸主の戸籍
戸籍4(改製原):昭和32年法務省令27号による戸籍改製(戸主制度から筆頭者制度へ)・・・本人が筆頭者の戸籍
戸籍5(現在戸籍):平成6年法務省令第51号による戸籍改製(紙戸籍から電算化戸籍へ)※この戸籍で死亡
昭和32年法務省令27号による戸籍改製は、戸主制度から筆頭者制度への変更により、夫婦およびその子単位で編成された戸籍です。
平成6年法務省令第51号による戸籍改製は、従来の紙戸籍(縦書きの戸籍)から電算化戸籍(横書きの戸籍)に変更した戸籍です。
※電算化による改製年月日は市町村で異なります。
以上の法改正による変更前の戸籍を改製原戸籍と呼びます。(上記の場合、戸籍3・戸籍4)』
なお、尾道市の文章にあるとおり、戸籍情報のコンピュータ化の時期は、各自治体でまちまちです。
【BGM】
S選曲:X Japan「Rusty Nail」
P選曲:Daft Punk ft. Julian Casablancas 「Instant Crush」