※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)  遺言(遺言書)で相続はどうなるか? VS.遺留分

P: 前回は、主に法定相続人について、Sさんに説明してもらいました。

さらに、被相続人の「遺言」によって、血縁者以外でも「相続人」になれるそうですね。

S: 「遺言」で財産をもらえる人を「受遺者」といいます。基本テキストにはでてきませんが、法定相続人と区別するためと、宅建試験でも使われている用語なので、覚えておくとよいでしょう。。※補足1

「遺言書」をめぐるトラブルは、「犬神家の一族」とか、ミステリー小説でもよく出てきますね。

P: (Sさんの好きそうな)「犬神家」のようなドロドロした遺言はおいといて、シンプルにAさんが「全財産を社会福祉事業団体Bに寄付する」旨の遺言をしたときに、もしAさんに配偶者Cや子Dがいた場合、どうなりますか?

A-1)法定相続人の遺留分

S: 遺言書自体に問題がなければ(後述:A-2と3)、Bが全財産を相続します。

一方で、配偶者Cと子Dは、本来相続できたはずの相続分(法定相続分)の1/2を、「遺留分侵害額」として、Bに対して金銭の支払い請求ができます。

ではBくん、Aの全財産が、5千万のとき、CとDは、Bに対していくらずつ、請求できますか?

P:本来、CとDは、5千万を相続できたはずなので、その半分が遺留分で、2500万円。2人なので、各1250万円ですね?

S:そうですね。ただし、あくまでも「請求権」なので、CとDは、「請求をしない」こともできます。

そして、この「請求権」は、相続の開始及び遺留分を侵害する遺贈などがあったことを「知った時から1年間」または、「相続開始の時から10年間」行使しないと、「時効」で消滅します。 ※補足2

ちなみに、法定相続人でも「兄弟姉妹」には「遺留分」はありません。

A-2)遺留分の放棄

S: 宅建試験対策の観点からいえば、「遺留分の放棄」は、前記事で説明した「相続の放棄」とまぎらわしいので、直近(令和4年)の過去問でも出題されています。ここは、下記のような過去問解説の記事で、違いを整理しておくとよいでしょう。

 

 

主な違いは、

・「遺留分の放棄」は、家庭裁判所の許可をもらえば、被相続人(今回の例でいえばAさん)の生前にできる。「相続放棄」は、Aさんの生前にはできない。

・「遺留分を放棄する」=「相続する権利を放棄すること」ではない。

P: えーと『「遺留分の放棄」=「相続する権利の放棄」ではない。』は、ちょっと分かりにくいんですが?

A: この点は、基本テキストの説明が分かりやすかったので、引用しておきます。

『遺留分を放棄した後、この遺言が破棄されて相続ができるようになったときは、ふつうに相続ができるということです』(2024年版」88ページ)

A-2)その遺言(書)は有効か?

P:「遺言の破棄」ですか?

S: 前提として、遺言は、法律で定められた形式の文書でないと「無効」です。口頭の「遺言」も、効力はありません。

そして、作成した「遺言書」を、作成者が撤回(破棄・修正)するのは自由です。

なので、今回の例でいえば、Aさんが「全財産を社会福祉事業団体Bに寄付する」旨の遺言書を作成したけれど、その後、遺言書を破棄したり、内容を書き換えてC・Dに相続させることにすれば、C・Dは遺留分を放棄していても、相続できるわけです。

また、そもそも「遺言書」自体に問題があるケースもあります。

P:下のHPを見ると、けっこう色々な「落とし穴」がありますね。

A-3)「遺言」自体に問題があれば…

S: 正しい「遺言書の書き方」などは行政書士「公正証書遺言」などは公証人、「遺言書」の有効・無効の争い(裁判)は弁護士、の守備範囲なので、宅建試験受験生は、基本テキストの知識プラス過去問レベルで覚えておくくらいで良いと思います。

 

P: 遺言(書)を、亡くなるまではいつでも修正できるとなると、遺産分割が終わって何年もたってから、突如、新しい日付の遺言書が見つかった…ということも、起こるわけですよね?

S: 正しい形式の遺言書なら、先に出てきた「遺留分侵害請求権」などとは違って、「消滅時効」がありません。なので、数十年後に、遺言書が見つかったとしても、その遺言書は有効です。

その場合の対処は、弁護士に相談するレベルの話になるので、これ以上はふれませんが。

ふつうは、被相続人が亡くなった後に、遺言書を保管したいた人か発見した相続人が、「死後、遅滞なく」その遺言書を家庭裁判所に提出して,「検認」の手続きをします。

この「検認」手続きもけっこう面倒なので、のこされた相続人等に手間をかけたくないとか、遺言書が紛失しないようにしたいと考える方は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」の利用を、ご検討ください。 

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

B)配偶者居住権

P: ネットで調べると、日本人で遺言書を残す人は、1割に満たないそうで。ウチの両親も、書く気はないと思います。

S: P家は、ご実家の近くにお兄さん夫婦がおられるそうなので、遠い先の「相続」も遺言書なしで問題ないと思います。

しかし、たとえば、先ほどの「Aさんに配偶者Cと子Dがいるケース」で、

 ・Dが配偶者Cの実子でない

 ・Aさんの財産は実家の土地・建物のみ

だと、どうでしょう?

P: Aさんが、遺言書を残さなかったと?

S: たとえ、土地・建物をすべてCさんへ遺贈する旨の遺言書があっても、Dさんは「遺留分」は、請求ができます。

仮に、財産額(土地・建物)が4800万円なら?

P: Dさんは、1200万円を、義母のCさんへ請求できますね。

S: そうなると、以前だと、Cさんは住み慣れた家を売って引っ越しをしなければなりませんでしたが、民法改正で「配偶者居住権」が新設されました(令和2年4月1日以降の相続から)。

https://houmukyoku.moj.go.jp/maebashi/page000001_00235.pdf

 

以前の記事で「所有権」と「登記」の説明をしましたが、「配偶者居住権」は、下記PDF

のような、

  https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/200701/pdf/01.pdf

一定の要件

〔配偶者居住権の成立要件〕(民法 1028条-1)。 ※あ、い、うは筆者が区別のために追加
 あ) 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた
 い) 次のいずれかの場合に該当すること
   ① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされた場合(登記が対抗要件)
   ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合 
 う)被相続人が相続開始の時において居住建物を配偶者以外の者と共有していない

をクリアした配偶者に、権利(居住する権利)として認められます。

 

Cさんは、(あ)と(う)の条件はOKなので、あとは、Dさんとの話し合いで、たとえば

  Cさんが2400万円分の配偶者居住権、Dさんが2400万円分の「負担付き所有権」を得る

などと、遺産分割協議をして、自宅の「建物」に「 配偶者居住権」設定の登記をすれば、そのまま自宅に住み続けられます。

P: たしかに以前の記事で「所有権」と「登記」について説明してもらいましたが、こんどは「負担付き所有権」ですか?

S:負担付き所有権とは? で、Google Gemini(生成AI 24/03/20)の答えが分かりやすかったので、引用します。()内は今回のケースに沿って筆者が追加しました。

『負担付所有権とは、配偶者居住権を得た配偶者(Cさん)が居住する建物や敷地の、所有権のことです.
配偶者居住権とは、亡くなった人(Aさん)が所有する建物に居住していた配偶者(Cさん)が所定の条件を満たすと、家賃を負担することなく引き続き(自宅に)居住できる権利です。
負担付所有権を持つ人(Dさん)には、所有権と負担の両方があることから「負担付所有権」と呼ばれています。
負担付所有権を取得した相続人(所有者となる人)(=Dさん)は、所有者でありながら「配偶者(Cさん)が住んでいる間は自由に自宅(実家)を使えない」「自分が住んでいないのに固定資産税を払わなければならない」などの制約や負担があります。』

P:なんかDさんに不利そうですね。もし、Dさんが、遺産分割協議で反対をしたらどうなりますか?

S:遺産分割協議がまとまらなければ、最終的には家庭裁判所の審判で、ジャッジされます

これから遺言書を書く方は、もしも確実に配偶者に「配偶者居住権」を取得させたいなら、上記の

 い)② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合 

のように、遺言書に書くことですね。「遺言書の具体的な書き方」は宅建試験の範囲をこえてますので、行政書士や弁護士などに、ご相談ください。

ただし、この「配偶者居住権」自体は、「中古住宅の売買」などの実務に深く関わる改正なので、すでに宅建試験でも、

・令和3年10月

 

・令和5年

 

と、かなり細かい部分まで出題されています。

R6年以降の宅建試験対策でも、少なくとも法務省のHPのFAQの内容は覚えておく必要がありそうです。

一方、「配偶者短期居住権」は、「基本テキスト」に書かれている内容プラス、生成AIに「配偶者短期居住権とは」で聞いた範囲で覚えるくらいでよいと思います。

また、遺産分割協議がもめる要因に、「寄与分」・「特別受益」がありますが、ここは、民法改正で、23年4月より「相続発生から10年を経過すると特別受益や寄与分を主張できない」ことになりましたので、「時効/期間制限」をテーマにした記事で、触れる予定です。

P:  今回の記事にも「配偶者居住権の(建物への)登記」という言葉が登場しました。

以前の記事でも、「所有権」との関連で「登記」についても簡単に説明してもらいましたが、次回からは「物権変動」・「対抗問題」・「不動産登記法」についてです。

 

◎補足1 「受遺者」には、人間(自然人)ではなく、法人(団体など)も含まれます。

 遺贈寄付という制度もあります。 

◎補足2 「時効」については、いずれ別記事で説明の予定です。

 

【BGM】

S選曲:山下達郎(カバー:Night Tempo)「キスから始まるミステリー」 
P選曲: Alan Parsons Project 「Eye in the Sky」

【写真】上:筆者 東京・麻布台ヒルズ 文末:提供Pixabay