※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

 

(A) 相続は争族?

P: 前回は、主に不動産(家・土地)の相続登記をするための第一関門、「戸籍関係書類集め」について、Sさんに話してもらいました。第二関門は、関係者全員分の「遺産分割協議書」集めだそうですね。
S:  相続登記に必要な遺産分割協議書のひな型は、法務局のHPに掲載されていますので、S家は関係者に書類に署名・捺印いただくだけで問題ない見込みです。

ただし、昔から「相続は争族」といって、下記の記事によれば、裁判にまでなるのは1%強だそうですが、行政の無料法律相談や、司法書士・弁護士への相談数などは、けっこう多いと思いますよ。

そして、宅建試験でも、相続関連で1問出題され、今年以降も、本記事で話題にしている相続登記との関連で、いろいろなパターンで出題されると思いますので、このページでも過去問についていくつか紹介しています。

 


(B) 宅建試験レベルの「相続」の知識でかなりのもめごとは解決できる

P: 上の記事を読むと、
 ① 誰が故人(被相続人)の「相続人」か?
 ② どこまでが「相続財産」の範囲か? (寄与分/配偶者居住権など)
 ③ 相続財産の分け方(法定相続分/遺留分/遺言書など)
などが、問題になること。そして、これらが、はっきり分からない状態で、関係者が話し合うとこじれやすいというのは分かりました。

たとえば、上の記事の例で「相続人の配偶者が遺産分割協議に参加してきた」は、たとえば、兄嫁がP家の遺産分割協議に参加しようとしている…ということですよね?

S:ちょうど、宅建の基本テキストでも相続について説明されていて、その範囲の知識で、一般の遺産分割協議は解決できると思います。(補足1)

B-1)法定相続人
S:まず①についてですが、民法の「法定相続人」は、
 配偶者(被相続人の妻/夫。※配偶者は、常に法定相続人になります。なお、離婚すれば「配偶者」ではありません。)
  第1順位:子や孫(直系卑属)
  第2順位:親・祖父母(直系尊属)
  第3順位:兄弟姉妹・甥姪

です。

相続人の配偶者」、つまり、いま話に出た「Pくんの兄(相続人)の嫁(配偶者)」は、「法定相続人」ではありません。

相続分の基本パターンは、下図のとおりですが、

 

ほかにもいろいろなパターンがあるので、「基本テキスト」にも、
  被相続人に配偶者がなく、子1人、父が存命
の例などが載ってます。Pくん、このときの相続人は?

P:えーと、上の図の、配偶者と子が相続人のパターンから、さらに配偶者がいなくて、子が1人なので、子1人が相続。父は相続しない? ですか?

S: 結果的には正解ですが、宅建試験では、さらに複雑な「相続計算問題」が過去にも出題されてますので、宅建試験の受験を考えている方は、下記記事などで、計算問題対策(とくに回答の所要時間)も意識してください。

 

 

B-2)代襲相続と、相続欠格/相続廃除/相続放棄

S: 宅建の試験では、設問を難しくするために、下記の過去問のように「代襲相続」をからめた出題がされます。 

 

 

上の図で、配偶者1/2,子Aと子Bが、1/4ずつ相続する例が載っていましたが、もし、子Aがすでに亡くなっているけれど、AにC,Dという2人の子(被相続人からみると孫)がいたとしたら、相続割合はどうなりますか? Pくん。

P:子Aの相続分1/4を、さらに半分に分けて、C,Dとも1/8ですか?

S: そうです。もし、Cも亡くなっていたとしても、Cに子E(被相続人からみるとひ孫)がいれば、Cに代わって相続をします。

P: それで「代襲」なんですね。

S: さらに、「相続」の出題を難しくするために、下記の過去問のように、

 

 

相続欠格、相続廃除、相続放棄などが追加されることも、よくあります。

P: 「相続放棄」は、そもそも親の財産を継がない(放棄)と、見当がつきますが、「相続欠格」と「相続廃除」の違いは?
S: 簡単にいえば

 ・欠格 →遺産目当てで親(被相続人)を殺すなどした場合

 ・廃除 →親を虐待するなどで、親から家庭裁判所に相続人廃除の請求をされた場合

などです。

制度としてはありますが、実際の相続廃除の請求件数が年に300件くらいなので、宅建試験対策としては、

 「被相続人」の子Aが、相続欠格か相続廃除の場合でも、孫C,Dは「代襲相続」できるが、「被相続人」の子Aが「相続放棄」をした場合は、C,Dは「代襲相続」できない。

というレベルで、覚えておけばよいでしょう。

B-3)相続の承認・放棄

P: Aが「相続放棄」すると、C,Dはおじいちゃん(被相続人)の財産はもらえないと?

S:そうです。Aが「相続放棄」すると、Aは「そもそも相続人ではなかった」=相続人の範囲に含まれない ことになりますので、C,Dの「代襲」がおきないんですよ。

ちなみに、試験ではプラスの財産の「相続放棄」で出題されると思いますが、実際は「空き家問題」と関連して、「負動産の相続放棄」が今後ますます増えると思います。

https://o-uccino.com/front/articles/98606

「相続放棄」は、自分が相続人だと知ってから3ケ月以内に、家庭裁判所に申し立て(申述)をしなければならず、この手続きをするときも戸籍謄本が要ります。ただし、被相続人と自分との関係がわかる範囲で良いようです。

P:「相続登記」の時のような、「さかのぼり」は必要ないわけですね。

S:そうです。

上の図で、配偶者と子Aと子Bが、相続人になるとき、3人は

 ・単純承認

 ・相続放棄

 ・限定承認 (後述)

の選択ができます。「被相続人が亡くなったと知ってから、3ケ月の間」に、相続放棄も限定承認もしなかったときは、「単純承認」とみなされ、ごく普通の相続をしたことになります。

P:「みなす」ってあまり聞かない用語ですね。

S:これも法律用語として、宅建試験のテキストにも普通にでてきますので、慣れてください。

法律用語としての「みなす」とは、 「事実と関係なくその事実があったとする」ものです。

2022年の民法の改正前は、「未成年者(改正前は20歳未満)が結婚すると、たとえ実年齢が20歳未満であっても、成年に達したものとみなす」、”成年擬制”の制度がありました。

改正で、成年が18歳に引き下げられ、同時に女性の結婚できる年齢も18歳~(以前は16歳!)になったため、”成年擬制”自体はなくなりましたが。

P: 「単純承認」と対になるのが、「限定承認」ですか?

S: たしかに「相続放棄」と違って、「限定承認」しても相続人にはなりますが、私のイメージではプログラミングで言う、IF文=条件付き相続です。

たとえば、日ごろ交流のないRおじさんが亡くなって、被相続人Rの財産が、プラスかマイナスかも分からないというときは、私なら「限定承認」を検討します。

これは、「限定承認」の場合は、いったんRおじさんの財産を、公的な手続きで確認、清算して、プラスの財産が残ったときは、その範囲で相続人たちが相続できます。逆に、Rおじに借金があったときは、Rおじの残した財産の範囲で返済され、私が借金を負うことはありません。

ただし、いろいろな手続きの手間や専門家に依頼した場合の費用などが、「相続放棄」よりもさらにかかります。

「限定承認」も、「被相続人が亡くなったと知ってから3ケ月の間」に家庭裁判所に申述の手続きをしますが、「相続放棄」と違って、限定承認の場合は「相続人全員が共同」でしなければなりません。

このように「限定承認」の利用はなにかと面倒なので、実際の利用件数は年間千件以下らしいです。

ただし、宅建試験の過去問には時々でますので、ここも「過去問」の範囲で覚えておきましょう。

P: …蓋を開けてみないと財産かどうか分からない、まるで「ミミック」のような相続への対策が、「限定承認」ということですね?

C:相続関係説明図/相続関係一覧図

S: 前章Bで紹介した知識で、「相続人」の範囲は、整理ができると思います。

実際に、不動産の相続登記をするときは、集めた戸籍関係の書類をもとに、「相続関係説明図」か「法定相続情報一覧図」を作成します。というか、この図を作成し、法務局の担当者に確認してもらうための証拠書類として、戸籍を集めるわけで。

※法務局HPより、見本図

 

 

P: このレベルになると、宅建ではなく、司法書士試験の範囲になるようですが、Sさん自身は、3年以内に、自力で相続登記にチャレンジする予定ですので、くわしくはその手続きが終わった後に記事にします。

次回は、引き続き「相続」関連で、遺言・遺留分・配偶者居住権などを、Sさんに説明してもらう予定です。

 

補足1 例に挙げた過去問は、「遺言書」も関係しますので、今後、その記事でも触れる予定です。

補足2 気になる方は「相続欠格と廃除の違い」で、Google Bard(生成AI)に質問してみてください。

【BGM】

S選曲:Tears for Fears 「Rule the World」

P選曲:The Bravery 「An Honest Mistake」