※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

A)民法上の時効制度

P: 今回は、民法上の「時効」についてです。

ドラマなどで、犯罪の時効については、なんとなく知っていますが。

S: 新聞などでもときどき、「本日で○○事件の(公訴)時効が成立」と報道されますからね。※補足1

一方、民法上の「時効」には

 ①取得時効

 ②消滅時効

の2種あります。

基本テキストでは、

 ・時間がたつと手に入る「取得時効」

 ・時間がたつと失う「消滅時効」

と簡潔に書いてます。

A-①-1)取得時効と占有

P: 「取得時効」では、具体的には「何が?」手に入るのですか?

S: その説明の前に、Pくんには「所有」と「占有」の違いを理解してもらう必要がありますね。

ここも、Google geminiに「所有と占有の違い」で聞いてみました。

『所有とは、特定の財産について所有権を有することです。所有権とは、法令の制限内において、所有物を自由に使用、収益、処分する権利を指します。
占有とは、自己のためにする意思を持って物を所持することです。占有権とは、物を所持ないし事実上、支配する権利を指します。所有権に対し、占有権は仮の権利と呼ばれます。
たとえば、泥棒がAさんのダイヤのネックレスを盗んだ場合、泥棒は盗んだダイヤを事実上支配しているため、「所持」している状態です。同時に、自分の利益のために所持しているので「占有」しています。しかし、そのダイヤはAさんが所有するため、泥棒はダイヤを「所持」し「占有」しているものの「所有」はしていません。
占有権よりも所有権の方が強い権利ですが、占有それ自体も法律によって保護を受けています。』(24年5月4日)

P:  言い回しで? と思う点はありましたが、所有権と占有権の違いを、例もまじえて説明してくれてますので、けっこうわかりやすかったです。

S:  占有のポイントは、「自分のためにする意思をもって物を所持」の部分です。 ※補足1.5

ちょうど、国民生活センターのページ(PDF表示)に、「泥棒にも占有権がある」という出だしで、占有権と所有権、自主占有と他主占有の違い、さらに、今回のテーマである「取得時効」についての記事が掲載されていますので、こちらをお読みください。

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202204_10.pdf

以下の説明は、このPDFを読んでいる前提です。

A-①-2)自宅を時効取得!? 取得時効の成立要件

P:  上のPDFの文で、「他人の土地に、立札をたてて何のクレームもなく20年間経過すると、自分の土地になる」とありますが、現実にこういうことってあるんですかね?

S:  もし、実際に起こったら、こうなるという思考実験でしょうね。 ※補足2.5

ただし、私は、「相続登記」の義務化(宅建03)に伴って、これから「自宅の時効取得」を主張するケースが、現実に増えるのでは? と予想しています。

P: 今、実際に住んでいるご自宅の「時効取得」ですか?

S: S家のように、家の所有権が登記上は「おじいちゃん」のままになっていると、「相続登記」のためには、法定相続人全員による「遺産分割協議書」が必要になります。

S家の場合は問題ない見込みですが、もし、相続人の一人が「そもそも本家の不動産を、B伯父が全部相続するのは~」などと言い出したら、もめますよね。

P:  たしかに、数十年前の「おじいちゃん」の時には、口約束で関係者がみんな納得していたのが、孫の代になったら「そんなの聞いてない」となるかも。

S:そこで、自宅について「所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を継続」していれば、10年間または20年間の居住(占有の継続)で、自宅の所有権の時効取得を主張できる…ただし、公的には裁判をして時効取得の確定判決がいりますので、もしも実際にもめごとがおきたら、弁護士にご相談ください。

P: 10年間と20年間の違いは何ですか?

S: 時効取得が認められるのには、いくつかの要件があります。

基本テキスト30ページにも載ってますが、

 (1)所有の意思をもって平穏かつ公然と占有を継続

ちなみに、31ページに、「所有の意思」は、賃貸住宅などを借りている場合はあてはまらないとか、逆に自宅を他人に賃貸している場合は、「占有の継続」にあたる、などの説明があります。

そして、占有の開始時に

 (2-1)善意・無過失 →10年間の占有継続

 (2-2)善意・有過失か、悪意 →20年間の占有継続

民法で言う「善意/悪意」とは、

 善意=事情を知らない

 悪意=事情を知っていた

の意味です。

これも、民法の基本ワードなので覚えてくださいね。 ※補足3

P: つまり、おじいちゃんが亡くなったときに、子のAさんが、自分が後継ぎだから当然本家(自宅)を相続すると信じ、親戚中もそれを認めていて、10年間住めば、時効取得できると?

S: 「善意/悪意」や「過失/有過失」は、裁判所が判断するレベルの話になりますが、宅建試験でよく出題されるのは、「占有の開始時に善意」で、その後事情が変わったときでも善意と言えるか? つまり、10年間の占有継続で良いか? という点ですね。

たとえば、下記の令和4年度 問10の肢3です。

P: Bが「占有の開始時に善意」なら、その後に事情を知った(悪意)としても、10年でOKですかね?

不動産適正取引推進機構ホームページから

S:そうです。ちなみに、肢1が先に触れた「他人へ賃貸する」のケース。

なお、肢2は、基本テキスト35ページ~の「時効の更新・時効の完成猶予」(宅建12くらい?)でまた触れます。

 

B: 時効取得者 対 登記を備えた第三者(時効完成前/完成後)

S: また、上の令和4年度 問10の肢4(誤り)は、下記の有名な判例

がベースになった問です。

裁判要旨に斜体字で、今回の問題文のA,B,Cを付け加えました。 ※補足4

「 不動産の時効取得者Bは、取得時効の進行中に原権利者Aから当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者Cに対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。」

P: そもそもBは、登記を備えていた所有権者Aに対して、時効取得を主張できるのだから、所有権者がCに代わっても、同じく主張できるということですか?

S:そうです。

今回の問(令和4年度・問10の肢4)では、時効完成時点で所有者だったCと、Bとの争いでしたが、Cについては「時効完成前(からの)第三者」といえます。

一方で、「時効完成後の第三者」について、令和5年度・問6の肢イで問われています。

不動産適正取引推進機構ホームページから

P: 肢アは、書き方は違いますが、どこかで見たような…。

S: 令和5年度問6は、個数問題になってまして、肢ごとに正誤が分からないと、正解できません。なので、肢アはサービス問題かな? と思いました…。

そして、肢イも有名な判例がベースになっています。 ※参考として、R4年度の問題文と同じくA,BとDを斜体字」で付け加えました。

「時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者Aから所有権を取得し登記を経た第三者Dに対し、その善意であると否とを問わず、(Bは)所有権の取得を対抗できない。」

P: 時効完成後に、DがAから所有権移転登記を受けたときは、時効取得者Bは所有権の取得をDに対抗できない?

S: 時効完成後のA→D、(A→)Bの関係は、宅建06(二重譲渡の対抗問題)で紹介したとおり、

 「物権変動」では、基本的には、

  ①登記を先に備えた方が

  ②第三者に対して

  対抗要件を備える=不動産の持ち主と主張できる

なので、Bは自分が時効完成で所有者になったら、さっさと所有権移転登記をすべし! ということですね。

ただし、Bが所有権移転登記をするには、旧所有者Aとの共同申請になります。

もし、Aの協力が得られないときは、確定判決等によって、単独申請も可能ですが。


P:ただし、問題文イは、BがDの登記後、さらに20年の占有を続ければ、所有権者Dに対して、時効取得を対抗できるか? と聞いてますね。

S: 今度は、原権利者Dと、占有者Bとの問題になりますので、悪意(DがAから所有権を譲られたと知っている)のBといえど、さらに20年間の占有を続ければ、所有権の時効取得を、Dに主張できるということですね。

「(取得)時効による所有権の取得と登記について」より詳しくは、下記のページをご覧ください。参考になります。

 

 

P: 次回は「消滅時効」を予定しています。

なお、時効制度の根底にある「権利の上に眠るものは、保護に値せず」という考え方については、いずれ、余談でふれたいそうです。

 

 

補足1 Sさんは「三億円事件」の公訴時効成立(1975年12月。ちなみに事件発生は1968年)が、記憶に残っているそうです。

補足1.5 では、民法でいう「物」とは? これは、物権法など、民法の深いところに関わるそうで…。興味のある方は、民法の学習がひと通り終わったくらいのタイミングで、下記をご覧ください。

 

 

補足2 「刑事事件の公訴時効とは」と、例によって、SさんがGoogle geminiに聞いてみたところ
『刑事事件の時効とは、犯罪が発生してから一定期間が経過すると、犯人を処罰することができなくなる制度です。
<中略>公訴時効とは、犯罪が発生してから一定期間が経過した後、検察官が被疑者を起訴できなくなる制度です。公訴時効の期間は、犯罪の罪の長さや、その罪が人を死に至らしめたものかどうかによって規定されています。たとえば、殺人罪などの最高刑が死刑に当たる罪は15年、<後略>』(24年5月3日)

殺人罪などは、 2010年 「 公訴時効なし」になったはずなので、この生成AIの回答は? というのが、Sさんのコメントでした。

補足2.5 「法的思考(法)」は、法律学の根幹にかかわるので、Sさんは説明できる立場でないとのこと。

気になる方は、Google geminiに「法的思考とは 簡単に」などと質問してみてください。

補足3  善意/悪意については「宅建07 不動産の二重譲渡と対抗問題」で触れています。さらに、今後の記事「通謀虚偽表示」で、より詳しく説明の予定です。

補足4 判例(はんれい)→裁判所の過去の裁判例。Sさんによれば、法学の学生にとっては、条文(六法全書)が骨格、重要判例集が筋肉のような、不可欠のアイテムだそうです。

【BGM】

S選曲:back number 「ハッピーエンド」 

P選曲:Oasis 「 Do You Know What I Mean? 」