※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)そもそも「不動産登記」とは?

P:前回は、Sさんに民法の「不動産の二重譲渡と対抗問題」ついて説明してもらいました。

ある不動産が自分のものだと主張できる根拠が「不動産登記」だと、ぼくは理解したんですが。

S: そうですね、基本テキスト104ページでは、不動産登記を『どういう不動産で誰のもの(所有)かを記録している、「不動産の戸籍のようなもの」』と説明しています。

ちなみに、これまで(宅建07まで)の記事でも、「不動産」とひとくくりにしていましたが、「不動産の戸籍=登記簿」は、「土地」と「建物」に分かれています。中古住宅の売買など、登記の手続きを同時にすることが多いですが、借地上の家(登記された建物)だけを売買して、移転登記をすることもできます。

下の過去問の肢3には「借地権者が借地上の建物にのみ登記」している例がでています。

ただし、借地や借家については、やはり「借地借家法」(基本テキストでは権利関係15・16)の知識が不可欠なので、今のペースでいけば宅建12くらいで、また触れます。

 

 

B)新築住宅の所有権保存登記

B-1)登記記録の「表題部」と「権利部」

P: ここでは、いちばん普通のケース、つまり土地を買ってそこに新居(一戸建て)を建てたときの「土地」と「建物」登記手続きについて説明してもらいます。

S: 前提知識として、土地と建物の登記記録には、それぞれ「表題部」と「権利部」があり、権利部はさらに、甲区(所有権に関する記録)と、乙区(所有権以外の記録)に分かれています。

ここは、実物(見本)を見た方が分かりやすいと思いますので、法務局HPのPDFをみてください。

<土地>

 https://www.moj.go.jp/content/001309855.pdf

<建物(家屋)>

 https://www.moj.go.jp/content/001309856.pdf

P: PDF文書の右上に、「全部事項証明書」と書いていますね。

S: Pくんも、引っ越しなどのときに、自分の「戸籍全部(個人)事項証明書」を市役所に請求したことがあると思います。

さきほど、「不動産の戸籍のようなもの」と紹介しましたが、不動産の全部事項証明書(登記証明書)は、登記所で誰でも取ることができます

P:え? ぼくが、S家の不動産の登記証明書を請求してもいいんですか?

S:人間の戸籍と違って、第三者でも、問題ありません。

ただし、下記QAに書いているように、請求事項(地番など)を特定する必要があり、所定の手数料も払います。

  https://houmukyoku.moj.go.jp/matsuyama/table/QandA/all/QA_tanin.html

ちなみに、「表題部」・「権利部」(甲区・乙区)の中身については、下記の法務省HP「不動産登記のABC」

  https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html

の説明が分かりやすいので引用します。

『(1)  表題部の記録事項
土地・・・所在,地番,地目(土地の現況),地積(土地の面積)など
建物・・・所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積など (表題部にする登記を「表示に関する登記」といいます。)
 マンションなどの区分建物については,その建物の敷地に関する権利(敷地権)が記録される場合があります。この敷地権についての権利関係は,区分建物の甲区,乙区の登記によって公示されます。 
(2) 権利部(甲区)の記録事項  所有者に関する事項が記録されています。その所有者は誰で,いつ,どんな原因(売買,相続など)で所有権を取得したかが分かります(所有権移転登記,所有権に関する仮登記,差押え,仮処分など)。
(3) 権利部(乙区)の記録事項  抵当権など所有権以外の権利に関する事項が記録されています(抵当権設定,地上権設定,地役権設定など)。』 補足1

PDF文書を印刷して、紙に赤ペンで注釈を書き込むと、さらに理解しやすいでしょう。 

 

B-2)「表題部」の登記は?

P:おおざっぱにいえば、「表題部」が、人間の戸籍でいえば、住所・氏名とか、その不動産を特定するための情報。

「権利部」が、相続や売買などで権利が移転した記録ですよね?

S:実は、 「登記手続き」は、ほとんどが司法書士の独占業務なので、宅建試験では上の法務省の説明プラス@の知識くらいで良いかな? と思っていたのですが、最近の過去問を見ると、かなり詳しい知識が要求されていますね!

下記の令和2年12月・問14の肢1

「表題部所有者が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、当該表題部所有者について相続があったときは、その相続人は、当該表示に関する登記を申請することができる。」

 

 

ここで、「表示に関する登記」とは、表題登記をはじめ、表題部の登記事項の各項目についての変更など、すべての登記手続きを含みます。

不動産登記法では昔、「表題登記」を「不動産の表示の登記」と呼んでいたそうで、まぎらわしいので、平成17年施行の不動産登記法の改正で、「不動産の表示の登記」→「不動産の表題登記」に変わったそうです。

P:「表示に関する登記」と「(不動産の)表題登記」が違うことは分かりましたが、そもそも「表題登記」とは? 

S: 土地については、埋め立て地でもなければ、元々そこにあったものなので、「表題登記」をすることはあまりないと思いますが、建物を新築したときは、「所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積」など、表題部の記録事項を申請して、いわば「建物の戸籍」をつくってもらいます。これが、「建物の表題登記」です。

そして、基本テキスト(105ページ)に書いてあるように、「表題登記」は、建物を新築したり、取り壊してなくなったときは、1か月以内に申請をする義務があります(不動産登記法47条)。

P: 申請義務があるのは、誰ですか?

S: 不動産登記法47条にそのまま書いてます。

『新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない。』

P: 建物の所有権を取得して表題登記をした人が、「表題部所有者」ですね?

S: そうですね。

もしもPくんがマイホームを新築したときは、通常は土地家屋調査士が建物に関する「表題登記」を申請して、これでPくんが、晴れて「表題部所有者」になります。

その後で司法書士が「所有権保存登記」(くわしくはB-3で)を申請すると、Pくんは「所有権の登記名義人」になります。 ※補足2

P:え? 「登記手続きは、ほとんどが司法書士」と、前に聞いてますが?
S: パソコンでいえば、ハードウェアが土地家屋調査士の担当、ソフトウェアが司法書士の担当というイメージです。
両者の違いは、下記の記事をご覧ください。

 

 

P: 上の解説の、『なぜ、表題登記の申請が必要かと言いますと、それは建物が完成しても何もしないままでは、人でいうと「出生届が提出されていない」』というたとえが分かりやすいですね。
S: 上の記事には「住宅家屋証明書」の説明もでてきますが、ここは「税」(登録免許税の減免)にかかわりますので、そのときに。

また、「農地法」(農地転用申請)のときにも、土地家屋調査士のお世話になるんだな、と私も今回初めてしりました。

P: 東京・多摩地区は、まだけっこう畑があちこちに残っていますが、その畑がいつのまにか建売住宅にかわってますしね。

S: 建売住宅の購入と、注文住宅とでは、登記の手続きが違いますので、いったん下記の記事をご覧ください。

  https://iefree.co.jp/column/347/

建物の登記については、通常は

 ・建売住宅→売主が、建物の表題登記と所有権保存登記を終えている→買主と売主が共同で、建物の所有権移転登記
 ・注文住宅の場合→注文主が、建物の表題登記をする。続いて建物の所有権保存登記

 

B-3)所有権保存登記

P:  もしぼくがマイホームを建てたときは、所有権保存登記が必要ってことですね。

そして、「所有権保存登記」は、宅建07で「単独申請できる」、宅建03で、表題部ではなく「権利部・甲区」にする登記だと、聞いていますが。

S:はい、なぜ「所有権保存登記」が単独申請できるかといえば、「基本テキスト」108ページに書いているように、

所有権保存登記ができる者が限定されているためです。

 ・表題部の所有者

 ・表題部所有者の相続人(その他一般承継人)

 ・所有権をもつと、確定判決で確認された者

 ・収用により所有権を取得した者 補足3

登記の際は、それぞれ所定の証明書類を添付します。

そして、先ほど、建売住宅の建物の登記は、最終的には売主と買主の共同で「所有権移転登記」をする必要があるといったのは、いったん売主が「表題登記」をすると、所有権保存登記できるのは、上のケースに限られますので、買主が「所有権保存登記」できないわけです。

 

 

なお、基本テキストの同じページに書いている「区分建物の所有権の保存の登記」は、直近の宅建試験、令和5年問14の肢4で出題されていますので、下記解説を、お読みください。

 

 

P: 建物と土地で登記手続きも違うし、ちょっと整理しきれないんですが…。

S: 実際に不動産(土地・建物)の売買をするときは、多分さらに複雑ですよ?

登記をするタイミングによって民法上の「履行の着手」に当たるか? が判断されるなど、民法のほかの知識ともからんでいますので、民法の他の項目でも、また触れたいと思っています。

 

「不動産登記法」は、宅建試験では50問中1問のウエイトですが、「住み替え」(売買)では、

・売る(S家の土地・建物を買い手に所有権移転登記…その前に相続登記) 

・買う(中古住宅の土地・建物を売り手からS家へ所有権移転登記)

と、ここが最重要といっても過言ではありません

なので、くわしく説明する分、ややこしく思うかもしれませんが、民法のほかの知識の理解がすすむと、もう少し楽になると思います。

…Pくんも大変そうなので、「分筆登記」については、【付録】扱いにしました。

P: 次回は、引き続き「不動産登記法」の「所有権移転登記」を予定しています(1回ですむか? は未定です)。

【付録】土地の「分筆登記」

S: 本文で紹介した過去問(令和2年12月・問14の肢1)の解説記事では、「表示に関する登記の申請人となることができる」例として、「分筆登記」を挙げています。

P:「ぶんぴつ登記」ですか?

S: 動物の数え方は普通1匹とか1頭で、ウサギは1羽というレベルの豆知識ですが、土地の単位は「筆(ひつ)」で、地番ごとに1筆、2筆と数えます。

ちなみに建物は「棟」です。

そして、分筆とは、文字どおり1筆の土地を分けること。

逆に、複数の土地を1筆にまとめるのが「合筆(がっぴつ)」です。

「分筆/合筆登記」を専門家に頼むときは、司法書士ではなく、土地家屋調査士に依頼します。

P:下記の説明が分かりやすかったです(分筆 ↓。合筆はこちら

 

 

S:ちょうど、本文で紹介した宅建試験・令和2年過去問の肢2が、

「所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地については、分筆の登記をすることができない。」(答え:誤)

です。

P:「宅建士は、分筆の登記と合筆の登記との違いも理解しておくべし」という、出題者の親心? なんでしょうかね?

S:肢2の解説をよんでも「所有権の登記以外の権利に関する登記」がそもそもよく分からないという方は、「不動産登記」の「権利部・乙区」に関係するので、宅建10(予定)をご覧ください。

 

補足1 マンションなどの区分建物について、基本テキストでは「13 建物区分所有法」(157ページ~)に載っています。
敷地権(敷地利用権)は、161ページ。

補足2 建物の所有権保存登記などを、自分で申請することも可能ですが…注意点などを含めて、くわしくは 

  https://www.jecom-db.com/column/726/

補足3 土地の収用・確定判決については、過去問で「出たことがある」レベルですので、気になる方は、下記記事をご覧ください。

 

 

【写真】筆者撮影(東京都内)

【BGM】

S選曲:L⇔R「KNOCKIN' ON YOUR DOOR」
P選曲:Martin Garrix & David Guetta「So Far Away 」