※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください
※宅建03では、相続登記との関連で、所有権保存登記・〃移転登記について触れています
A) 所有権保存登記と所有権移転登記の違い、不動産登記法の改正点と宅建試験対策
P: 前回の「所有権保存登記」に引き続いて、今回は「所有権移転登記」ですね。
S: ここでも、登記記録(見本)の「権利部:甲区」を見ながら説明します。 ※補足1
この例では、甲野さんが、平成20年に所有権者となったのち、登記原因「売買」で、法務さんへ所有権移転登記をしています。
Pくん、このとき登記の申請をするのは、誰でしょうか?
P:前回、「所有権保存登記」は例外的に「単独申請ができる…」と聞きましたので、逆にいえば「所有権移転登記」は、甲野さんと法務さんの「共同申請」ですよね。
S:「売買」の場合はそうです。
ただし、今年の宅建試験対策上、要注意なのが、「遺贈による所有権移転登記」です。
これまでは、共同申請でしたが、24年4月施行の不動産登記法改正で、相続人に対する遺贈に限り、登記権利者が単独申請できるようになりました。
宅建試験で、直近の改正点は、狙われやすいようなので、下記の記事で確認しておきましょう。
A-1)不動産手続きのオンライン化
P: 上の記事を読むと、所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請は任意だったのが、変更日から2年以内の申請が義務化され、さらに申告を怠ったときは、5万円以下の過料、つまり罰則付きになるんですね。
S: そこも注目ですね。
ただ、実際の試験で、どんな出題の仕方をされるか? 不安があります。
P: といいますと?
最近の令和4年の宅建過去問14で、4肢とも所有権移転登記について出題されているんですが(下図
https://www.retio.or.jp/past/past_ques_ans.html のR4年問題PDFより)
この出題は、
・登記原因を証する情報
・登記識別情報
などのワードの意味を知らないと、正しく回答できないと思います。
P: オンライン申請(電子申請)に関わるということは、見当がつきますが…。
S: そうです。
法務省の下記のページに、「不動産登記の電子申請(オンライン申請)」についての概要がのっています。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji72.html#a01
とはいっても、「登記識別情報」などは、とくに説明なしで使われてますので、ここでも、Google Geminiに説明してもらうと、
●登記原因を証する情報とは
『登記原因を証する情報とは、法務局で登記手続きをする際に必要となる「登記原因証明情報」のことです。
登記の原因となった事実や法律行為、それに基づいて権利変動が生じたことを証する情報で、登記申請をする人が自分で作成または用意します。
<中略>
法定相続による相続登記に関しては、登記原因証明情報という書面はなく、家族関係説明図や戸籍謄本などが登記原因証明情報となります。また、相続放棄をした者がいる場合は、家庭裁判所発行の相続放棄申述受理証明書も添付します。』(24年5月3日)
●登記識別情報とは
『登記識別情報は、不動産の登記名義人であることを公的に証明するために発行される12桁の文字列です。不動産ごとのパスワードのようなもので、本人確認手段の1つとして利用されます。
登記識別情報は、登記の申請がされた場合に、その登記により登記名義人となる申請人に、その登記に係る物件及び登記の内容とともに、登記所から通知されます。登記識別情報通知という書面に二次元コードとともに印字されており、12桁の英数字の組み合わせで構成されています。法務局から交付された登記識別情報通知には12桁の符号部分に目隠しの処理が施されています』(24年5月3日)
P: 筆者は、マイナンバーカードの「電子証明書の更新手続き」で、つい最近市役所に行ってきたばかりなんですが、要するに、「登記識別情報」とは「各不動産ごとのマイナンバー(データ)」というイメージですね。
S: 実をいえば、法務省の下記の「登記申請書」見本(PDF) ※補足2
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365866.pdf
に、あっさり
「登記識別情報」または「登記済証」
と書いてまして、Pくんは実物をみたことがないかもしれませんが、持ち家の方ですと、「権利証」(紙の書類)を仏壇の下の重要書類入れなどに保管していると思います。くわしくは ↓
P: 上の記事を読むと、S家(売主)は、今お住いの家の権利証を司法書士へ提供して、買主への所有権移転登記手続きを行う。
逆に、S家が新居を買って、売主から所有権移転登記の手続きをしてもらった際は、発行された「登記識別情報」(データ)がS家へ届くわけですね。
S: そうなるはずです。
先の令和4年過去問の肢2に、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」というワードが出てきますが、これはほぼ「司法書士」を意味します。
実際の家の売却・購入のときは、「相続登記」とは違って、S家でも司法書士へ所有権移転登記の申請手続きを頼むつもりですが、その際に、
売り主⇔売り手側不動産業者(宅建士)⇔司法書士(ローンの際は銀行関係者)⇔買い手側業者(宅建士)⇔買主
と、売主/買主と司法書士との間に入るのが、宅建士なので、「この用語くらいは覚えておくべし」ということで、令和4年のような出題がされたと思います。
A-2)かんたん登記申請
S: そして、話がA-1)冒頭の、「所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請」に戻るんですが、この申請手続きが、PCのWEBブラウザなどから、オンライン申請できるようになりました。
P: 一覧の中の「 登記名義人の表示変更の登記申請」ですね?
S: そうです。電子証明書(マイナンバーカード)等と、 住民票・戸籍事項証明書(戸籍謄抄本)とがあれば、申請できるので、e-Taxを利用された経験がある人なら、問題なく使えると思います。
また、「相続人申告登記」(不動産の相続が開始した旨と、自らが相続人である旨を、申し出る手続)は、宅建03で取り上げた今年4月からの「相続登記の義務化」に関連しています。
P: 宅建03では
『24年の4月から、相続登記が義務化されて、
・不動産を相続した方は、取得を知ってから3年以内
・複数の相続人がいて、遺産分割で不動産を相続した方は、遺産分割が成立したから3年以内
に、正当な理由なく、相続登記の手続きをしないと、10万円以下の過料(いわゆる罰金)になります。』
とありましたね。
相続人が自分一人だけなら普通に「相続登記」をすればよいし、複数の相続人がいて遺産分割が難航しているときでも「遺産分割が成立してから3年以内」なので、「相続人申告登記」をする必要はなさそうな気がしますが?
S: そもそも「相続登記」が義務化された背景に、「空き家問題」があります。
田舎の負動産が、手入れもされず、相続登記も放置され…4月末の新聞報道では、放置が385万戸だそうです。
そこで、たとえばPくんの親類に、独身の大叔父さんがいて、その方が亡くなった後の空き家の「相続」が、突然、P家にふりかかってきたらどうしますか?
P: 甥姪が10人くらいいて、誰も空き家を相続したくないとなると、逆の意味で「遺産分割協議」がもめそうですね~。
S: そういう場合に、『とりあえずオンラインで、この「相続人申告登記」をしておけば、P家は過料(罰金)を支払わなくてよい。書類も少なくて済みますよ~。電子証明書も不要です! 』というのがうたい文句(メリット)なんですが、デメリット(固定資産税の支払い問題など)もありそうなので、もし実際にP家に問題がふりかかったときは、下記の記事などを見て、慎重に検討してください。
P: Sさんとしては、今後の宅建試験で、これらのオンライン申請が出題されるかも? と気になるわけですよね?
「登記・供託オンライン申請システム」自体は、平成の時代からあったが、専用アプリ(ソフト)をインストールする形式だった。
それが、WEBブラウザ版(かんたん登記申請)サービスが始まって、確かに一般ユーザーは便利になったとは思いますが…。
S: ここでも、宅建士(と受験生)に、「こういう便利な方法があると、お客様にも勧めてくださいよ~」と知らしめる意味で、今後、出題されるかも? と思うわけです。
実際に出題されるかどうか? は、例年、宅建試験の直前期に、インターネット記事やYoutubeなどで、宅建受験のプロが、直前予想をいろいろ出されるようなので、私もそちらをチェックの予定です。
P: 所有権移転登記については、Sさんも、実際の売買取引の際は、プロ(司法書士)に頼む予定ですので、今回は、主に、今後の宅建試験に関連しそうな事項を取り上げたそうです。
所有権移転登記の方法自体は、下記の記事をはじめ、ネットで読めます。
「不動産登記法」には、ほかに「仮登記」という学習テーマもありますが、こちらは、保証/債務・連帯債務/抵当権・根抵当権を学習した後(たぶんかなり後)に、触れる予定です。
次回以降は、筆者のリクエストで「時効」、「代理」、「意思表示(詐欺・脅迫、虚偽表示、錯誤、心裡留保ほか)」などの民法の基礎ワードについて順に説明してもらいます。その後、借地借家法、建物区分所有法を学習予定です。
補足1 前回(宅建08)をはじめ、過去記事でおなじみの法務局の見本(PDF)から。
補足2 こちらのPDFも1~4ページを印刷して、書き込みすると、理解しやすいはずです。4ページが、「登記原因証明情報」の例です。
【写真】上 提供:Pixabay 中(府中法務局へと続く「学園通り」)・下(新宿区) 撮影:筆者
【BGM】
S選曲:Fieled of View「突然」
P選曲:BUMP OF CHICKEN 「GO」