※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

 

P: 前回(宅建22)、お金が返せない場合についての民法の規定を知って、世間のみなさまは、よく「住宅ローン(=数千万円の借金)」を組む決心ができるな~と感心しました!

S:そこは、着実に返せるように(Pくんも)ライフプランを考えることですね。

先日も、知り合いの40代の女性が、〇千万の新築マンションの契約をしたそうですが、彼女は実家住まい(両親、兄夫婦・甥と同居)でお金をためて、全額キャッシュ…とまではいきませんが、定年までにローン返済が終わるようにしたそうです。

そして、今回のテーマは「弁済」。つまり、お金などを返せる場合ですね。

基本テキスト66ページでは『債務の履行をして債務を消すこと』と簡潔に説明しています。

民法473条も
『債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。』
と、シンプルです。
お金を返すのも弁済ですが、『債務者が土地を売ったのならその土地を引き渡すこと』も弁済です。
P: ぼくが、友人Rくんから中古自転車を買ったとして、代金を払えば、Rくんの債権=ぼくの債務は消滅。

一件落着で、試験に出題されるような問題点はなにもないのでは?
S: 不動産売買などでは、金額が大きいこともあって、現実にはいろいろなトラブルがあります。

A) 「弁済」の論点

S: 実際に過去問をみてみましょう。

2019年宅建試験問7で、「Aを売主、Bを買主として甲建物の売買契約が締結された場合における、BのAに対する代金債務」についての問いです。

  A(家の売主)⇔B(買主)

A-1)受領権限がない者への弁済

S:まず肢②

『肢② Bが、Aの代理人と称するDに対して本件代金債務を弁済した場合、Dに受領権限がないことにつきBが善意かつ無過失であれば、Bの弁済は有効となる。』(正)

基本テキスト67ページに、「弁済を受ける者」の説明があって、
  B(買主)が、A(売主)ではなく別人Dへ弁済したら、基本的には「無効」。
  ただし、Dが「受領権者としての外観を有する者」で、Bが善意無過失でCへ弁済したときは「有効」。

P:「受領権者としての外観を有する者」も、聞きなれない言葉ですね…。
S:「受領権者としての外観を有する者」という表現は、2020年の民法改正で変更された、
478条
『受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。』 ※補足1
基本テキストでは、「外観を有する者」の例として、債権証書や受取証書を持ってきた人、をあげています。

P: この肢②のように、「Aの代理人と称するD」が本物の証書を持参してきたら、さすがにBが、Dを(Aの)代理人と信じるのも無理ないですよね。

ちなみに、肢③が、

『肢③ Bが、Aの相続人と称するEに対して本件代金債務を弁済した場合、Eに受領権限がないことにつきBが善意かつ無過失であれば、Bの弁済は有効となる。』

で、「Aの相続人と称するE」に対してBは善意無過失。

…なんだか、同じパターンですね…。

S: では、次は? 前後しますが、肢①です。
『肢① Bが、本件代金債務につき受領権限のないCに対して弁済した場合、Cに受領権限がないことを知らないことにつきBに過失があれば、Cが受領した代金をAに引き渡したとしても、Bの弁済は有効にならない。』(誤)?

P: でも、この問題文では、わざわざ「Bに過失あり」としてますから、やはり無効では?

S: さらにもうひとひねりあって、問題文に「Cが受領した代金をAに引き渡した(としても)」とあります。

つまり、お金は 

  B (→C)→A

と、結果的にAへ渡っています。

実は、478条に続く、民法479条 ※説明のためABCを補足

『前条(478条)の場合を除き、受領権者以外の者(C)に対して(Bが)した弁済は、債権者(A)がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。』

によって、Aが利益=お金の返済 を受けたら、そこは有効になります。

P:この出題は、①がいきなり難問? という感じですが、2,3は分かりやすいので、消去法で解けそうな。

S: …では、最後の肢④を見ましょう。

『肢④ Bは、本件代金債務の履行期が過ぎた場合であっても、特段の事情がない限り、甲建物の引渡しに係る履行の提供を受けていないことを理由として、Aに対して代金の支払を拒むことができる。』(正)

P: この④は、①から③と違って、B⇔A間の問題ですね。

S: ①から③は、「受領権限のない者への弁済」が論点でしたが、④のポイントは「代金債務の履行期が過ぎた場合」でも、B(買主)は、売主Aに代金の支払いを拒めるか? ただし、Bはまだ、Aから甲建物の引き渡しを受けていない。

実は、「宅建20 債務不履行①」の知識で解けますよ。

P:  債務不履行で真っ先に聞いた、「同時履行の抗弁権」ですね?

この場で、記事を読み返すと、なるほどと思いますが、試験会場で、この問7の①-④のならびで出題されると、たぶん焦りますね!

S: この過去問について、詳しくは、下記のリンク記事が参考になります。

 

A‐2)第三者による弁済(第三者弁済)

S: A-1は受領権者以外への弁済についてでしたが、次は、債務者からの弁済ではなく、第三者からの弁済です。

P: 子どものサラ金からの借り入れ金を、親が払った…というのは、ドラマなんかでもよくありますよね。

S: 本人が、第三者に弁済してもらうのを望んでいる、少なくとも反対しないときは、第三者からの弁済もOKです。

民法の条文では、474条 
『①債務の弁済は、第三者もすることができる。
 ②弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
 ③前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
 ④前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。』

P: ②の「弁済をするについて正当な利益を有する者」は、先ほどの「受領権者としての外観を有するもの」と同じくらい? 分かりにくい表現ですね~。

S: ここは、基本テキスト(66ページ)にあげられた具体例が、分かりやすいと思います。

 〇 借金の保証人

 × 親・兄弟・友人

ちなみに、「恋人」や「配偶者」も×ですね。

「弁済をするについて正当な利益」とは、言い換えると「弁済しないと自分が困る」立場の人で、保証人がまさにそうですね。

あとは、「借地上の建物の賃借人」なども、家を追い出されると困るので、〇です。

ちょうど、宅建試験の過去問2005年問7が、このケースなので、見ていきます。

前提『Aは、土地所有者Bから土地を賃借し、その土地上に建物を所有してCに賃貸している。』

  A(土地の借主/借地上の建物の貸主)、B(土地の貸主)、C(借地上の建物の借主)

という関係ですね。

『肢① Cは、借賃の支払債務に関して正当な利益を有しないので、Aの意思に反して、債務を弁済することはできない。』(誤)

P: この肢①は、2019年の肢①と違って、素直? な設問ですね。肢②も(A)でみた478条の条文どおりですし。

『肢② Aが、Bの代理人と称して[土地の]借賃の請求をしてきた無権限者に対し債務を弁済した場合、その者に弁済受領権限があるかのような外観があり、Aがその権限があることについて善意、かつ、無過失であるときは、その弁済は有効である。』 (正)※[ ]や下線は補足。

 

S: 肢③は、「個人振り出し小切手」についての知識がないと正解できないと思います。

『肢③ Aが、当該借賃を額面とするA振出しに係る小切手(銀行振出しではないもの)をBに提供した場合、債務の本旨に従った適法な弁済の提供となる。』(誤)

が、今後、同じような設問がでるか? 疑問ですので、気になる方は下記のリンク先の記事をご覧ください。

また、肢④の

『肢④ Aは、特段の理由がなくとも、借賃の支払債務の弁済に代えて、Bのために弁済の目的物を供託し、その債務を免れることができる。』(誤)

「供託制度」については、宅建業法の「弁済業務保証金」などで、説明の予定です。 ※補足2

 

 

B)  弁済による代位

P: A-2)の474条①~④は、債権者⇔債務者以外の人の弁済に、ずいぶんいろいろな条件/制限を付けていますね。

S: ひとつには、第三者が弁済することで、「債権者」が入れ替わるためでしょう。

民法499条に、

『債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。』

とあります。

P:Aがお金の貸主、Bが借り手で、第三者CがBに代わってAへお金を払ったら、Cが新たな貸主(債権者)になる…というわけですね。

S: そうです。

474条 
『②弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。』

によって、逆に言えば、Cが正当な利益を有する第三者なら、債務者Bの意思に反しても弁済ができるわけです。

また、債権者Aが、債務者Bの意思に反して、Cが弁済することを知らずに受け取ったら、弁済したことになり、やはり債権者がA→Cになるわけですね。

P: ぼくが友人Eにお金を貸した立場で、Eの兄Fが、お金を返すと言ったら、Eに確認なんかせずに、喜んで払ってもらいますね。

S: ちょうど、民法474条

『③前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。』

を、債権者Pくんに当てはめると、

  Pくんは受け取りをNoということもできます

が、もし兄Fが弟Eから委託を受けて弁済することを、Pくんが知っていたときは、

  Pくんは受け取りをNoといえない

わけです。

また、Pくんは、「友人Eくんに確認せずに、Fからお金を受け取る」と言いましたが、その場合、Fが債権者Pくんに代位したことを、Eくん(債務者)や第三者に主張するためには、

  (あ)債務者(Eくん)への通知

または、

  (い)債務者(Eくん)の受諾

が必要です。

そして、第三者に対抗するためには、(あ)(い)どちらも、確定日付のある証書である必要があります。

P:「確定日付のある証書」とは、たとえば内容証明郵便などですか?

S:「時効」の説明のときに、内容証明郵便について触れましたが、「公正証書」についてはまだでしたね。

 

宅建の過去問では、2011年 問5(テーマ:債権譲渡)

『肢4 AがBに対する代金債権をDに対しても譲渡し、Cに対する債権譲渡もDに対する債権譲渡も確定日付のある証書でBに通知した場合には、CとDの優劣は、確定日付の先後ではなく、確定日付のある通知がBに到着した日時の先後で決まる。』

のように、今後も試験で「確定日付のある証書の中身」まで、問われることはないでしょう。

が、実際の不動産契約、とくに高額の取引で「公正証書」を利用する可能性はけっこうあると思います。

https://o-uccino.com/front/articles/58437

 

P:「公正証書とは 分かりやすく」で、生成AI(Google Gemini)にきいてみたところ。

『公正証書とは、公証人が私人(個人や法人)の依頼を受けて作成する公文書で、高い証明力と執行力を持つ書類です。

公証人は法務大臣から任命された法律の専門家(元裁判官など)で、公証役場という国の機関で執務しています。
公正証書には、次のような特徴があります。
・裁判になったときも証明力が高く、金銭債務については裁判をしないでいきなり相手の財産に強制執行できる。
・裁判をするお金、手間、時間が要らない。
・契約のとおりにお金が支払われなかったとき、債務者の給与などの差し押さえをしてお金を回収する手続を進めることができる。
公正証書は、離婚や遺言、金銭の貸し借りの契約など、さまざまな場面で利用されます。』(2024年9月20日)

S:公証役場や公証人について、もっと知りたい方は、

 

 

公証人になれるのは、原則として裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に携わった方です。

 

P:次回は、「債務不履行」全体の復習もかねて、以前から紹介している「2020年の民法(債権関係)改正」についての文書から、改正のポイントをいくつか説明する予定とのことです。 

https://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf

S:「債権譲渡」にもふれる予定です。


【補足】

※1 改正後の478条の「受領権者としての外観を有する者」という表現は、旧民法の「債権の準占有者」をやさしく!? 言い換えたものだそうです。

【参考説明記事 ↓】

 

 

https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202208_10.pdf
※2 供託業務は、不動産登記などと同じく、法務省・法務局の業務です、

https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/goannai_index_kyoutaku.html

また、「供託による弁済」については、基本テキスト69・70ページをごらんください。


【BGM】
S選曲:Flumpool 「花になれ」

P選曲:MAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」