※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください。

 

A) 民法と特別法の「契約」

P: 前回は、これまで当ブログの「就活S」シリーズでレギュラーだったD君(社会人4年目)との対談記事だったんですが、実は入社するときの「雇用契約」も民法(623条)の守備範囲だったんですね!

S: 正社員に限らず、大学生のときのアルバイトなども、民法623条の条文

『雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。』

にあてはまるので、Pくんも昔から民法623条のお世話になってきたわけです。

ただし、雇う方(使用者)と雇われる方(労働者)とでは、力関係に大きな差があることが多いので、「労働契約法」などの規定で、労働者の保護をはかっています。「雇用契約は書面で」というのも、労働契約法の規定です。

詳しくは ↓

 

そして、同じような。民法の上に「特別法」が載るという構図が、賃貸を含む「宅地建物取引」にも当てはまります。

P: 特別法というのは、宅建試験のジャンルで言う「宅建業法」のことですよね?

S: 他にもありますが、やはり「宅建業法」はとても大事です。

宅建01でも簡単に触れましたが、宅建業法の「三大書面」(契約書)

 ・宅建業法35条書面(重要事項説明書)
 ・同 34条書面(媒介契約書)
 ・同 37条書面(契約書)

の攻略が、当ブログのヤマ場になります。

 

その前提として、民法の「契約」に関連する知識は当然必要になります。

とくに、宅建14,15で取り上げた、認知症高齢者の不動産取引がらみの事件は、同じ民法の「制限行為能力者/成年後見制度」との関りも深いですが、同時に「詐欺・強迫」など、契約の取り消しができる例外規定の理解も重要です。

さらに「(不動産)売買契約の解除または無効の主張」ができるかどうか? には、たとえば2021年12月試験の過去問4のように、

 ① 手付解除(民法557条1項)

 ② 買戻し特約(民法579条)

 ③ 他人物売買(民法561条)

 ④ 契約不適合責任(民法562条~第564条)

なども関わってきます。

ちなみに、過去問の解説は ↓

 

 

D:上の①~④は、それぞれ独立した項目として取り上げるそうで、今回はまず、

 ・民法の(売買)契約とは? (基本テキスト対応ページ:2 以下、同)

 ・詐欺/強迫 (4)

 ※関連して「不法行為」(204)

を。次回以降は、

 ・(通謀)虚偽表示 (10)

 ・心裡留保 (12)

 ・錯誤 (16)

 ・公序良俗に反する契約 (18)

続いて「債務不履行」など。その後で「契約不適合責任」(上記肢④)を予定しているとのことです。

S: 宅建試験の場合は、上に挙げたどの項目でも、契約の解除/無効/取り消しができるかどうか? が大事なポイントになります。

B)そもそも民法の「売買契約」とは?

S: 基本テキスト(2ページ)にも、『「契約の成立」そのものについて宅建試験で出題されることはない』と書いていますが、宅建試験に出題される「契約」の大部分は「売買契約」(賃貸借契約はいずれ別個で)なので、売買契約に関する民法の条文を紹介しておきます。 ※補足1

第555条「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」

D:「不動産売買」でいえば、土地・建物などの財産権と代金とが「等価交換」される約束ということですよね?

S: 基本テキスト3ページに、シンプルな図(A:土地⇔B:代金)が載っているので、参考にしてください。

この図の関係を、もう少し法律的な言葉で表現すると、

  Aは、Bに土地を渡す義務(債務)がある/Bは、Aに代金を渡す義務(債務)がある

さらに、

  Bは、Aに対して土地の引き渡しを請求する権利(債権)がある/Aは、Bに対して代金の引き渡しを請求する権利(債権)がある

P: 債務の概念は、先に挙げた「債務不履行」などでも大事そうですが?

S: 「債務不履行」だけでなく、この後も、いろいろと債権/債務関係は出てきますよ。「債権」を基準に(矢印)を書いて関係を整理する方法がおすすめです。

 債権を基準にすると、 A→代金(引き渡し)債権→B / A←土地引き渡し債権←B ですね。

C)詐欺・強迫と善意の第三者

S: 刑事事件の「詐欺・脅迫」は、毎日のように新聞でも報道されていますので、Pくんも、詐欺と脅迫の違いはご存じと思います。

P: イメージはつかめてますが、説明は難しいので、今回は筆者が生成AI(Google gemini)に、「詐欺と脅迫の違い 分かりやすく」できいてみました。

『詐欺とは、相手方を騙して意思表示をさせる行為です。たとえば、オレオレ詐欺のように、お年寄りを騙して孫が困っているとう錯覚に陥らせお金を支払わせる行為などが詐欺に該当します。
脅迫とは、相手方に恐怖心を生じさせる目的で、相手方やその親族の生命、財産、身体、名誉、自由などに対して害悪を加える旨を告知することをいいます。たとえば、「取引をしないとひどい目に遭わせる」などと害悪を告知して、畏怖を感じさせる場合などが脅迫に該当します。
詐欺と脅迫に基づく意思表示は、民法第96条第1項により取り消すことができます。ただし、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することはできません。また、詐欺による意思表示の取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないとき、または、詐欺による意思表示をした時から20年を経過したとき時効によって消滅します。』(24年7月7日)

S: この答え方だと、大学生の法学レポートとしてもけっこう、通用しそうですね!

ただし、3か所? なところがありました。ちょうど今回のテーマにも関わるところですので、詳しく言います。

(1)民法96条1項の条文は「 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」なので、刑法の脅迫(罪)と、民法の強迫とは使い分けてほしかった。

(2)民法96条2項「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。」 

同3項「 前二項の規定による詐欺の意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

とを、うまくまとめてますが…。Pくん、何か気づきました?

P:生成AIの回答は「ただし、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することはできません。」でしたが、今の96条3項は、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」でしたね。

S:実は、この箇所は2020年の民法改正で、変更されたんですよ。

下記のページの解説では、『詐欺の被害者であるXが、注意すれば詐欺の事実を知ることができた(過失がある)Zに負けてしまうという結論は、不合理ではないかと考えられ、今回改正がされた』とのことです。

 

(3)『詐欺による意思表示の取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないとき、(中略)時効によって消滅します。』の5年間について。

改正民法(2020年施行)の724条

不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする」

と、

724条の2

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。」

とをミックスしたことには感心したんですが、「詐欺」は、『人の生命又は身体を害する不法行為』にはあてはまらないので、

『また、詐欺による意思表示の取消権は、追認をすることができる時から3年間行使しないとき、または、詐欺による意思表示をした時から20年を経過したとき時効によって消滅します。』 *補足2

になるはずです。

P:すみません! 724条の「不法行為による損害賠償の請求権」というのが、そもそも? なんですが…。

S:「不法行為」については、基本テキスト204ページ~で、独立した項目として説明されていますので、「不法行為による損害賠償の請求権」と併せて、次のD)でまとめて説明します。

C-1)詐欺による契約は、原則、取り消せるが…。宅建試験で要注意!!

P:そういえば、宅建07 でも、「善意の第三者」や「詐欺・強迫」について、触れていましたね。

 

 

S: そうでしたね。

宅建07でも言いましたが、宅建試験では売主、買主、第三者間の取引で、本来は〇〇だが、例外として、△△を理由にした契約の取り消しができるか? のひねりを加えるパターンがみられます。

詐欺の場合、たとえば2019年の宅建過去問・問1では、

『AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。 ※①②とも(正)
 肢① AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
 肢② AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。』

ここで、肢①では、問題文のとおり、AはBの詐欺を理由に取り消せる。

その後は、C,B間の対抗問題になるので、宅建07をご覧ください。

P :肢①の、取り消し後の第三者Cについて、問題文でわざわざ「背信的悪意者ではないC」としているのは?

S:「背信的悪意者」も宅建07で触れていますが、「詐欺・脅迫により登記申請を妨げた者」に対しては、Aは登記がなくても対抗できるので、「Cは背信的悪意者ではない」と加えたわけです。

一方で、肢②は、「Bの詐欺について悪意のC」なので、こちらは、民法第96条3項の

「③前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」

により、詐欺について悪意のCは、そもそもAの取り消しに対抗できません。

ちなみに、この問題は2019年の出題なので、今後は「注意すれば詐欺の事実を知ることができたC」のような表現で出題があるかもしれません。

なお、基本テキストの8ページに、詐欺・強迫で取り消しを第三者に対抗できるか? のまとめ表が載っています。

D)不法行為と、不法行為の損害賠償請求権

D-1)不法行為とは

S: 基本テキストの204ページでは、不法行為とは「故意または過失によって他人に損害を与えること」としています。

P:今回の「詐欺・強迫」以外にも、いろいろありそうですね~。

S:そのとおりです。

下のページでは、

 ・他人を殴ってけがをさせる行為
 ・誹謗中傷をして他人に精神的損害を与える行為
 ・交通事故を起こして被害者にケガをさせる行為

などを、挙げています。

P: もし、誰かが、当ブログについての誹謗中傷をネットに書き込んだら、筆者に精神的損害を与えたことになるわけですね?

S: 実際には「不法行為に当たるか?」の立証は難しいので、もしも被害にあったら次の「損害賠償請求」とセットで、弁護士に相談ですね。

D-2)不法行為の損害賠償請求権

S:そして、Pくんが、ネットで中傷をうけたら、民法709条の『故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。』によって、加害者への損害賠償請求権(被害者→加害者に対する債権)をもちます…もちろん、裁判で請求権が認められれば…ですが。

P:損害賠償請求権の消滅時効は、先のC)に出てきた

改正民法(2020年施行)の724条
『不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする』

ですよね?
S:そのとおり。詐欺や、Pくんの精神的損害などの消滅時効は、3年ですね。

そして、「他人を殴ってけがをさせる行為」(ただし、正当防衛は除く)などだと、724条の2
『人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。』

によって、5年間になるわけです。

ちなみに、「損害賠償権の相殺」は、宅建試験で過去何度もでているテーマですが、いまPくんに説明しても混乱すると思いますので、「債務不履行」の後で触れます。

D-3 特殊不法行為

S: D-2で説明した(一般)不法行為の他に、民法の条文で規定された、いわゆる「特殊不法行為」があります。

基本テキストにも、

 ・使用者責任(205ページ 民法715条)

 ・共同不法行為(205ページ 民法719条)

 ・工作物責任(206ページ 民法717条)

が載っていますし、下記ページに分かりやすい説明が載っていますので、それぞれご覧ください。

 

 

P:「共同不法行為」というのは、「不法行為」を共同で行ったということですか?

S: ここは、民法の条文を見た方がてっとり早いですね。

民法719条

『・1項 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 

・2項 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。』

たとえば、大学構内で3人でキャッチボールをしていて、ボールがそれて研究棟の窓ガラスを割った…というときは、その3人が連帯して、損害賠償しなくてはなりません。

P: 実際に投げた本人だけでなく、3人が共同で責任を負うわけですね?

S:そうです。もし、3人以外に、グループで教唆(ここでキャッチボール平気だよねと、そそのかす)や幇助(ほうじょ:ボールひろい?)した者も、同様に責任を負います。

被害者(大学当局)は、加害者全員に、損害の全額を請求できます。

P:全員に一斉に請求していいんですか?

S:被害者が取りはぐれのないように、わざわざこういう条文があるわけです。

たとえば、5万の請求だとして、どうやってお金をだしあうか? は3人の間の問題で、被害者の関知するところではないですよね。

P: 確かに、ぼくが被害者の立場なら、やっぱり「とにかく、さっさと全額はらえ!!」と言いますね。

S:宅地取引の例は、上の不動産保証協会(埼玉)の記事に載っています。

 

P:次回は、
 ・心裡留保 (12)
 ・錯誤 (16)
 ・公序良俗に反する契約 (18)

を予定しています。

 

【補足】
補足1:民法の「典型契約13種類」と非典型契約について。

 

 

補足2 民法126条 『取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。』

【BGM】

S選曲:My Little Lover 「Hello, Again 〜昔からある場所〜」

P選曲(D推奨):神はサイコロを振らない 「1 on 1」