※宅建Tシリーズと「基本テキスト」については「序章」をご覧ください

宅建03では、相続登記との関連で、所有権保存登記・〃移転登記について触れています

A) 所有権保存登記と所有権移転登記の違い、不動産登記法の改正点と宅建試験対策

P: 前回の「所有権保存登記」に引き続いて、今回は「所有権移転登記」ですね。

S: ここでも、登記記録(見本)の「権利部:甲区」を見ながら説明します。 ※補足1

 

この例では、甲野さんが、平成20年に所有権者となったのち、登記原因「売買」で、法務さんへ所有権移転登記をしています。

Pくん、このとき登記の申請をするのは、誰でしょうか?

P:前回、「所有権保存登記」は例外的に「単独申請ができる…」と聞きましたので、逆にいえば「所有権移転登記」は、甲野さんと法務さんの「共同申請」ですよね。

S:「売買」の場合はそうです。

ただし、今年の宅建試験対策上、要注意なのが、「遺贈による所有権移転登記」です。

これまでは、共同申請でしたが、24年4月施行の不動産登記法改正で、相続人に対する遺贈に限り、登記権利者が単独申請できるようになりました。

宅建試験で、直近の改正点は、狙われやすいようなので、下記の記事で確認しておきましょう。

 

 

A-1)不動産手続きのオンライン化

P: 上の記事を読むと、所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請は任意だったのが、変更日から2年以内の申請が義務化され、さらに申告を怠ったときは、5万円以下の過料、つまり罰則付きになるんですね。

S: そこも注目ですね。

ただ、実際の試験で、どんな出題の仕方をされるか? 不安があります。

P: といいますと?

最近の令和4年の宅建過去問14で、4肢とも所有権移転登記について出題されているんですが(下図

 

この出題は、

 ・登記原因を証する情報

 ・登記識別情報

などのワードの意味を知らないと、正しく回答できないと思います。

P: オンライン申請(電子申請)に関わるということは、見当がつきますが…。

S: そうです。

法務省の下記のページに、「不動産登記の電子申請(オンライン申請)」についての概要がのっています。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji72.html#a01

とはいっても、「登記識別情報」などは、とくに説明なしで使われてますので、ここでも、Google Geminiに説明してもらうと、

●登記原因を証する情報とは

『登記原因を証する情報とは、法務局で登記手続きをする際に必要となる「登記原因証明情報」のことです。

登記の原因となった事実や法律行為、それに基づいて権利変動が生じたことを証する情報で、登記申請をする人が自分で作成または用意します。
 <中略>
法定相続による相続登記に関しては、登記原因証明情報という書面はなく、家族関係説明図や戸籍謄本などが登記原因証明情報となります。また、相続放棄をした者がいる場合は、家庭裁判所発行の相続放棄申述受理証明書も添付します。』(24年5月3日)

●登記識別情報とは

『登記識別情報は、不動産の登記名義人であることを公的に証明するために発行される12桁の文字列です。不動産ごとのパスワードのようなもので、本人確認手段の1つとして利用されます。
登記識別情報は、登記の申請がされた場合に、その登記により登記名義人となる申請人に、その登記に係る物件及び登記の内容とともに、登記所から通知されます。登記識別情報通知という書面に二次元コードとともに印字されており、12桁の英数字の組み合わせで構成されています。法務局から交付された登記識別情報通知には12桁の符号部分に目隠しの処理が施されています』(24年5月3日) 

P:  筆者は、マイナンバーカードの「電子証明書の更新手続き」で、つい最近市役所に行ってきたばかりなんですが、要するに、「登記識別情報」とは「各不動産ごとのマイナンバー(データ)」というイメージですね。

S:  実をいえば、法務省の下記の「登記申請書」見本(PDF) ※補足2

  https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365866.pdf

に、あっさり

 「登記識別情報」または「登記済証」

と書いてまして、Pくんは実物をみたことがないかもしれませんが、持ち家の方ですと、「権利証」(紙の書類)を仏壇の下の重要書類入れなどに保管していると思います。くわしくは ↓

 

 

P: 上の記事を読むと、S家(売主)は、今お住いの家の権利証を司法書士へ提供して、買主への所有権移転登記手続きを行う。

逆に、S家が新居を買って、売主から所有権移転登記の手続きをしてもらった際は、発行された「登記識別情報」(データ)がS家へ届くわけですね。

S: そうなるはずです。

先の令和4年過去問の肢2に、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」というワードが出てきますが、これはほぼ「司法書士」を意味します。

実際の家の売却・購入のときは、「相続登記」とは違って、S家でも司法書士へ所有権移転登記の申請手続きを頼むつもりですが、その際に、

 売り主⇔売り手側不動産業者(宅建士)⇔司法書士(ローンの際は銀行関係者)⇔買い手側業者(宅建士)⇔買主

と、売主/買主と司法書士との間に入るのが、宅建士なので、「この用語くらいは覚えておくべし」ということで、令和4年のような出題がされたと思います。

 

A-2)かんたん登記申請

S: そして、話がA-1)冒頭の、「所有権の登記名義人(所有権者)に、住所変更や氏名等があったときの、変更申請」に戻るんですが、この申請手続きが、PCのWEBブラウザなどから、オンライン申請できるようになりました。

 

 

P: 一覧の中の「 登記名義人の表示変更の登記申請」ですね?

S: そうです。電子証明書(マイナンバーカード)等と、 住民票・戸籍事項証明書(戸籍謄抄本)とがあれば、申請できるので、e-Taxを利用された経験がある人なら、問題なく使えると思います。

また、「相続人申告登記」(不動産の相続が開始した旨と、自らが相続人である旨を、申し出る手続)は、宅建03で取り上げた今年4月からの「相続登記の義務化」に関連しています。

P:  宅建03では

『24年の4月から、相続登記が義務化されて、
 ・不動産を相続した方は、取得を知ってから3年以内
 ・複数の相続人がいて、遺産分割で不動産を相続した方は、遺産分割が成立したから3年以内
に、正当な理由なく、相続登記の手続きをしないと、10万円以下の過料(いわゆる罰金)になります。』

とありましたね。

相続人が自分一人だけなら普通に「相続登記」をすればよいし、複数の相続人がいて遺産分割が難航しているときでも「遺産分割が成立してから3年以内」なので、「相続人申告登記」をする必要はなさそうな気がしますが?

S:  そもそも「相続登記」が義務化された背景に、「空き家問題」があります。

田舎の負動産が、手入れもされず、相続登記も放置され…4月末の新聞報道では、放置が385万戸だそうです。

 

 

そこで、たとえばPくんの親類に、独身の大叔父さんがいて、その方が亡くなった後の空き家の「相続」が、突然、P家にふりかかってきたらどうしますか?

P: 甥姪が10人くらいいて、誰も空き家を相続したくないとなると、逆の意味で「遺産分割協議」がもめそうですね~。

S:  そういう場合に、『とりあえずオンラインで、この「相続人申告登記」をしておけば、P家は過料(罰金)を支払わなくてよい。書類も少なくて済みますよ~。電子証明書も不要です! 』というのがうたい文句(メリット)なんですが、デメリット(固定資産税の支払い問題など)もありそうなので、もし実際にP家に問題がふりかかったときは、下記の記事などを見て、慎重に検討してください。 

 

 

P: Sさんとしては、今後の宅建試験で、これらのオンライン申請が出題されるかも? と気になるわけですよね?

登記・供託オンライン申請システム」自体は、平成の時代からあったが、専用アプリ(ソフト)をインストールする形式だった。

それが、WEBブラウザ版(かんたん登記申請)サービスが始まって、確かに一般ユーザーは便利になったとは思いますが…。

S: ここでも、宅建士(と受験生)に、「こういう便利な方法があると、お客様にも勧めてくださいよ~」と知らしめる意味で、今後、出題されるかも? と思うわけです。

実際に出題されるかどうか? は、例年、宅建試験の直前期に、インターネット記事やYoutubeなどで、宅建受験のプロが、直前予想をいろいろ出されるようなので、私もそちらをチェックの予定です。

 

P: 所有権移転登記については、Sさんも、実際の売買取引の際は、プロ(司法書士)に頼む予定ですので、今回は、主に、今後の宅建試験に関連しそうな事項を取り上げたそうです。

所有権移転登記の方法自体は、下記の記事をはじめ、ネットで読めます。

 

 

「不動産登記法」には、ほかに「仮登記」という学習テーマもありますが、こちらは、保証/債務・連帯債務/抵当権・根抵当権を学習した後(たぶんかなり後)に、触れる予定です。

 

次回以降は、筆者のリクエストで「時効」、「代理」、「意思表示(詐欺・脅迫、虚偽表示、錯誤、心裡留保ほか)」などの民法の基礎ワードについて順に説明してもらいます。その後、借地借家法、建物区分所有法を学習予定です。

 

補足1 前回(宅建08)をはじめ、過去記事でおなじみの法務局の見本(PDF)から。

補足2 こちらのPDFも1~4ページを印刷して、書き込みすると、理解しやすいはずです。4ページが、「登記原因証明情報」の例です。

 

【写真】上 提供:Pixabay 中(府中法務局へと続く「学園通り」)・下(新宿区) 撮影:筆者

【BGM】

S選曲:Fieled of View「突然」

P選曲:BUMP OF CHICKEN 「GO」

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)そもそも「不動産登記」とは?

P:前回は、Sさんに民法の「不動産の二重譲渡と対抗問題」ついて説明してもらいました。

ある不動産が自分のものだと主張できる根拠が「不動産登記」だと、ぼくは理解したんですが。

S: そうですね、基本テキスト104ページでは、不動産登記を『どういう不動産で誰のもの(所有)かを記録している、「不動産の戸籍のようなもの」』と説明しています。

ちなみに、これまで(宅建07まで)の記事でも、「不動産」とひとくくりにしていましたが、「不動産の戸籍=登記簿」は、「土地」と「建物」に分かれています。中古住宅の売買など、登記の手続きを同時にすることが多いですが、借地上の家(登記された建物)だけを売買して、移転登記をすることもできます。

下の過去問の肢3には「借地権者が借地上の建物にのみ登記」している例がでています。

ただし、借地や借家については、やはり「借地借家法」(基本テキストでは権利関係15・16)の知識が不可欠なので、今のペースでいけば宅建12くらいで、また触れます。

 

 

B)新築住宅の所有権保存登記

B-1)登記記録の「表題部」と「権利部」

P: ここでは、いちばん普通のケース、つまり土地を買ってそこに新居(一戸建て)を建てたときの「土地」と「建物」登記手続きについて説明してもらいます。

S: 前提知識として、土地と建物の登記記録には、それぞれ「表題部」と「権利部」があり、権利部はさらに、甲区(所有権に関する記録)と、乙区(所有権以外の記録)に分かれています。

ここは、実物(見本)を見た方が分かりやすいと思いますので、法務局HPのPDFをみてください。

<土地>

 https://www.moj.go.jp/content/001309855.pdf

<建物(家屋)>

 https://www.moj.go.jp/content/001309856.pdf

P: PDF文書の右上に、「全部事項証明書」と書いていますね。

S: Pくんも、引っ越しなどのときに、自分の「戸籍全部(個人)事項証明書」を市役所に請求したことがあると思います。

さきほど、「不動産の戸籍のようなもの」と紹介しましたが、不動産の全部事項証明書(登記証明書)は、登記所で誰でも取ることができます

P:え? ぼくが、S家の不動産の登記証明書を請求してもいいんですか?

S:人間の戸籍と違って、第三者でも、問題ありません。

ただし、下記QAに書いているように、請求事項(地番など)を特定する必要があり、所定の手数料も払います。

  https://houmukyoku.moj.go.jp/matsuyama/table/QandA/all/QA_tanin.html

ちなみに、「表題部」・「権利部」(甲区・乙区)の中身については、下記の法務省HP「不動産登記のABC」

  https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html

の説明が分かりやすいので引用します。

『(1)  表題部の記録事項
土地・・・所在,地番,地目(土地の現況),地積(土地の面積)など
建物・・・所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積など (表題部にする登記を「表示に関する登記」といいます。)
 マンションなどの区分建物については,その建物の敷地に関する権利(敷地権)が記録される場合があります。この敷地権についての権利関係は,区分建物の甲区,乙区の登記によって公示されます。 
(2) 権利部(甲区)の記録事項  所有者に関する事項が記録されています。その所有者は誰で,いつ,どんな原因(売買,相続など)で所有権を取得したかが分かります(所有権移転登記,所有権に関する仮登記,差押え,仮処分など)。
(3) 権利部(乙区)の記録事項  抵当権など所有権以外の権利に関する事項が記録されています(抵当権設定,地上権設定,地役権設定など)。』 補足1

PDF文書を印刷して、紙に赤ペンで注釈を書き込むと、さらに理解しやすいでしょう。 

 

B-2)「表題部」の登記は?

P:おおざっぱにいえば、「表題部」が、人間の戸籍でいえば、住所・氏名とか、その不動産を特定するための情報。

「権利部」が、相続や売買などで権利が移転した記録ですよね?

S:実は、 「登記手続き」は、ほとんどが司法書士の独占業務なので、宅建試験では上の法務省の説明プラス@の知識くらいで良いかな? と思っていたのですが、最近の過去問を見ると、かなり詳しい知識が要求されていますね!

下記の令和2年12月・問14の肢1

「表題部所有者が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、当該表題部所有者について相続があったときは、その相続人は、当該表示に関する登記を申請することができる。」

 

 

ここで、「表示に関する登記」とは、表題登記をはじめ、表題部の登記事項の各項目についての変更など、すべての登記手続きを含みます。

不動産登記法では昔、「表題登記」を「不動産の表示の登記」と呼んでいたそうで、まぎらわしいので、平成17年施行の不動産登記法の改正で、「不動産の表示の登記」→「不動産の表題登記」に変わったそうです。

P:「表示に関する登記」と「(不動産の)表題登記」が違うことは分かりましたが、そもそも「表題登記」とは? 

S: 土地については、埋め立て地でもなければ、元々そこにあったものなので、「表題登記」をすることはあまりないと思いますが、建物を新築したときは、「所在,地番,家屋番号,種類,構造,床面積」など、表題部の記録事項を申請して、いわば「建物の戸籍」をつくってもらいます。これが、「建物の表題登記」です。

そして、基本テキスト(105ページ)に書いてあるように、「表題登記」は、建物を新築したり、取り壊してなくなったときは、1か月以内に申請をする義務があります(不動産登記法47条)。

P: 申請義務があるのは、誰ですか?

S: 不動産登記法47条にそのまま書いてます。

『新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない。』

P: 建物の所有権を取得して表題登記をした人が、「表題部所有者」ですね?

S: そうですね。

もしもPくんがマイホームを新築したときは、通常は土地家屋調査士が建物に関する「表題登記」を申請して、これでPくんが、晴れて「表題部所有者」になります。

その後で司法書士が「所有権保存登記」(くわしくはB-3で)を申請すると、Pくんは「所有権の登記名義人」になります。 ※補足2

P:え? 「登記手続きは、ほとんどが司法書士」と、前に聞いてますが?
S: パソコンでいえば、ハードウェアが土地家屋調査士の担当、ソフトウェアが司法書士の担当というイメージです。
両者の違いは、下記の記事をご覧ください。

 

 

P: 上の解説の、『なぜ、表題登記の申請が必要かと言いますと、それは建物が完成しても何もしないままでは、人でいうと「出生届が提出されていない」』というたとえが分かりやすいですね。
S: 上の記事には「住宅家屋証明書」の説明もでてきますが、ここは「税」(登録免許税の減免)にかかわりますので、そのときに。

また、「農地法」(農地転用申請)のときにも、土地家屋調査士のお世話になるんだな、と私も今回初めてしりました。

P: 東京・多摩地区は、まだけっこう畑があちこちに残っていますが、その畑がいつのまにか建売住宅にかわってますしね。

S: 建売住宅の購入と、注文住宅とでは、登記の手続きが違いますので、いったん下記の記事をご覧ください。

  https://iefree.co.jp/column/347/

建物の登記については、通常は

 ・建売住宅→売主が、建物の表題登記と所有権保存登記を終えている→買主と売主が共同で、建物の所有権移転登記
 ・注文住宅の場合→注文主が、建物の表題登記をする。続いて建物の所有権保存登記

 

B-3)所有権保存登記

P:  もしぼくがマイホームを建てたときは、所有権保存登記が必要ってことですね。

そして、「所有権保存登記」は、宅建07で「単独申請できる」、宅建03で、表題部ではなく「権利部・甲区」にする登記だと、聞いていますが。

S:はい、なぜ「所有権保存登記」が単独申請できるかといえば、「基本テキスト」108ページに書いているように、

所有権保存登記ができる者が限定されているためです。

 ・表題部の所有者

 ・表題部所有者の相続人(その他一般承継人)

 ・所有権をもつと、確定判決で確認された者

 ・収用により所有権を取得した者 補足3

登記の際は、それぞれ所定の証明書類を添付します。

そして、先ほど、建売住宅の建物の登記は、最終的には売主と買主の共同で「所有権移転登記」をする必要があるといったのは、いったん売主が「表題登記」をすると、所有権保存登記できるのは、上のケースに限られますので、買主が「所有権保存登記」できないわけです。

 

 

なお、基本テキストの同じページに書いている「区分建物の所有権の保存の登記」は、直近の宅建試験、令和5年問14の肢4で出題されていますので、下記解説を、お読みください。

 

 

P: 建物と土地で登記手続きも違うし、ちょっと整理しきれないんですが…。

S: 実際に不動産(土地・建物)の売買をするときは、多分さらに複雑ですよ?

登記をするタイミングによって民法上の「履行の着手」に当たるか? が判断されるなど、民法のほかの知識ともからんでいますので、民法の他の項目でも、また触れたいと思っています。

 

「不動産登記法」は、宅建試験では50問中1問のウエイトですが、「住み替え」(売買)では、

・売る(S家の土地・建物を買い手に所有権移転登記…その前に相続登記) 

・買う(中古住宅の土地・建物を売り手からS家へ所有権移転登記)

と、ここが最重要といっても過言ではありません

なので、くわしく説明する分、ややこしく思うかもしれませんが、民法のほかの知識の理解がすすむと、もう少し楽になると思います。

…Pくんも大変そうなので、「分筆登記」については、【付録】扱いにしました。

P: 次回は、引き続き「不動産登記法」の「所有権移転登記」を予定しています(1回ですむか? は未定です)。

【付録】土地の「分筆登記」

S: 本文で紹介した過去問(令和2年12月・問14の肢1)の解説記事では、「表示に関する登記の申請人となることができる」例として、「分筆登記」を挙げています。

P:「ぶんぴつ登記」ですか?

S: 動物の数え方は普通1匹とか1頭で、ウサギは1羽というレベルの豆知識ですが、土地の単位は「筆(ひつ)」で、地番ごとに1筆、2筆と数えます。

ちなみに建物は「棟」です。

そして、分筆とは、文字どおり1筆の土地を分けること。

逆に、複数の土地を1筆にまとめるのが「合筆(がっぴつ)」です。

「分筆/合筆登記」を専門家に頼むときは、司法書士ではなく、土地家屋調査士に依頼します。

P:下記の説明が分かりやすかったです(分筆 ↓。合筆はこちら

 

 

S:ちょうど、本文で紹介した宅建試験・令和2年過去問の肢2が、

「所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地については、分筆の登記をすることができない。」(答え:誤)

です。

P:「宅建士は、分筆の登記と合筆の登記との違いも理解しておくべし」という、出題者の親心? なんでしょうかね?

S:肢2の解説をよんでも「所有権の登記以外の権利に関する登記」がそもそもよく分からないという方は、「不動産登記」の「権利部・乙区」に関係するので、宅建10(予定)をご覧ください。

 

補足1 マンションなどの区分建物について、基本テキストでは「13 建物区分所有法」(157ページ~)に載っています。
敷地権(敷地利用権)は、161ページ。

補足2 建物の所有権保存登記などを、自分で申請することも可能ですが…注意点などを含めて、くわしくは 

  https://www.jecom-db.com/column/726/

補足3 土地の収用・確定判決については、過去問で「出たことがある」レベルですので、気になる方は、下記記事をご覧ください。

 

 

【写真】筆者撮影(東京都内)

【BGM】

S選曲:L⇔R「KNOCKIN' ON YOUR DOOR」
P選曲:Martin Garrix & David Guetta「So Far Away 」

3月から残業が増えた!?

3年前の3月に、首都圏国公立大学・工学系修士を修了。同年4月から某大手メーカーのエンジニアとして働き始めたZくん。

これでもかと言わんばかりの「コンプライアンス研修」のおかげで、仕事の中身についての話はNGですが、これまでは、「どう聞いてもホワイト企業」という働き方でした。が…。

 

P: 今年の4月で、いよいよ入社4年目ですが、3月からいきなり、忙しくなって、残業も増えたそうですね。

Z: ぼくの部署では、再任用のベテランエンジニアが3月末で1人抜けて、4月下旬には、新人が配属予定(合同研修後。3年前のぼくもそうでした)。

なので、その間、部内での引継ぎとか、新人に教える準備とかで、部署全体の業務量が増えるのは当然ですが、ぼくへの仕事配分が、明らかに増えたんですよ。

P: で、仕事場で夕食を食べることが、週2~3回になったと。え? 夜食じゃなくて夕食でしょ? と、筆者の業界の面々なら言うけど。

Z: ぼくの会社の同期エンジニアでも、1年目からがんがん残業させられた部署もあったらしいですが。

新卒3年以内の離職率とは

P: 筆者の職場でも事務系(非管理職)は、繁忙期以外は残業なしと聞いてますので、部署や管理職かどうか(管理職は裁量労働制)などでも違いはありますが、入社3年満了前から、いきなり業務配分量が増えたというなら、「新卒3年以内の離職率」の数字を意識しているかもしれません。

下記は、厚労省が令和5年10月に発表したデータです。

 

 

Z: 大卒、1000人以上の事業所で、26.1%って、予想以上に多いですね!!

P: さらに、大卒でも「宿泊業,飲食サービス業」に就職した人は51.4%が離職。つまり、2人に1人は、会社などを辞めているわけですね。

逆に、電機、機械、情報通信、食品業界やインフラ業界などは、離職率が低いようです。

 

 

Zくんの会社の新卒3年内離職率を調べたら、ほぼ業界平均値でしたね。  ※補足1

さすがに、業界の水準より悪かったり、雑誌の「大手○百社 離職率ワースト・ランキング」記事には載りたくないという、配慮が働いているのかも?

Z: なぜ、3月からなんですかね?

P:  法律上は、退職する2週間前までに、退職届を提出する必要があるらしいですが、会社の就業規則で「1か月前」などとしている会社がおおいようです。…Zくんも気になるなら、自社の就業規則を確認しておきましょう。

そして、もしZくんが3月中に退職届を出したとしても、実際の退職は4月になりますから、「3年以内離職率」にはカウントされないわけです。

まあ、あくまでも筆者の憶測ですが。

そして、Zくんの話だと、今度の仕事はいままでより高度で、その分大変だけどやりがいがある業務らしいので、単純に仕事のステップが一段あがった(あと給与のランクも)だけかもしれません。

【追伸】

Zくんの会社のゴールデンウィークは10連休だそうで!

大企業(1000人以上)でも、10連休は3割くらいですね(下記)。

 

 

ちなみに筆者の職場は、「〇連休だ・か・ら、連休初日は休日出勤でも平気だよね~」…でした。

 

 

都立自校問題作成高校と、雷電×稲荷のコラボ

 

P:つい先日、新宿に行ったときに、マップにあった「雷電稲荷神社」を「電電稲荷神社」と見間違えて画像拡大してみたら、隣が、東京の自校問題作成高校のひとつ、都立新宿高校でした。※上の写真で、背景に写っている建物が新宿高校

Zくんには10年以上前から、都立・自校問題作成高校の受験~国公立大受験・理系大学院・就活のネタを提供してもらってましたので、「十年ひと昔」という感慨もあり、写真に撮りました(ちゃんとお賽銭を納めましたよ)。

Z: イケア新宿店の目と鼻の先の場所で、新宿御苑にも近いですね~!

新宿高校を目指す中3生は合格祈願に。そして、工学部電気電子工学系の大学受験を志す方、メーカーや電力業界などを志望する就活生も、お参りして良いかも。

 

 

補足1 :「トヨタ 新卒離職率(定着率)」などと、ご自分が気になる有名企業名を検索すると、たいていデータが手に入ります。定着率が高い業界、企業は、ホワイトな職場の可能性がたかいので、就活生は要チェックです。

写真撮影:筆者

【BGM】

Z選曲:Yama+キタニ タツヤ 「憧れのままに」

P選曲:ブライアン アダムス+Chicane 「Don't Give up」

 

 

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(A)二重譲渡と対抗問題

(A-1)二重譲渡と対抗問題の復習

P: 今回は、前回(宅建06)に引き続き「物権変動」、とくに「共有持ち分」の二重譲渡での「対抗問題」についてからですよね。

S: そうです。

「二重譲渡」と「対抗問題(対抗要件)」については、前回の復習もかねて、まず下記の解説記事をお読みください。

 

個人住宅の買い替え(住み替え)で、信用ある不動産業者相手に売買取引をするときは、この「二重譲渡」のような「お金を払ったのに不動産が手に入らない」等のトラブルの心配はないでしょうが。
逆にいえば、宅建業者は、こんなトラブルを未然に防ぎ、無事に売買を成立させるのが仕事なので、宅建試験でもよく出題されるんでしょうね。

P:上の記事の事例

 「買主がAとBの2人いたとして、所有権移転登記により不動産を取得できた買主を、Aとする」

では、売主Cが買主AとBへ二重譲渡したとき、「所有権移転登記」を受けたAさんが(契約日に関係なく)所有権を主張できると思いますが、もしCからBへの不動産自体の「物件の引き渡し」は済んでいたときは、どうなるんですか?

S: まず、不動産業界用語としての「引渡し/引き渡し」は、下記の記事を読んでください。

 

 

建物と土地とで、引き渡し方法は違いますが、動産(たとえば自転車)と違って、不動産の場合はあくまでも「登記」が対抗要件になりますので、たとえば、Bさんが売主Cさんから家の鍵を渡されていたとしても、Aさんが「持ち主」です。 ※補足1

A-2)登記がなくても対抗できる第三者

P: 前回の話だと、たとえBさんが売主Cさんから不動産の「所有権移転登記」を受けていなくても、Aさんに対抗できる場合があるんですよね。

S:「基本テキスト」の96・97ページには、3パターン・4例が紹介されていますね。

 ①無権利者(そもそも権利がない/(通謀)虚偽表示)

 ②不法占拠者=土地を不法に占拠している者

 ③背信的悪意者=詐欺・脅迫により登記申請を妨げた者

P:②と③は、なんとなくイメージできますが、①の無権利者と「(通謀)虚偽表示」は?

S: そもそも「売主Cさんが無権利者」だと、Cさんから「不動産移転登記」を受けたAさんも「無権利者」になりますが、では売主Cさん自体が「無権利者」というのはどんなケースか? 宅建の過去問でみましょう。

 

 

上記、宅建の過去問・平成20年問2の肢1のように「乙は丙との間で売買契約を締結して所有権移転登記をしたが、甲土地の真の所有者は丁であって、丙が各種の書類を偽造して自らに登記を移していた場合」(原文のABCを筆者が置き換え)の、丙が「無権利者」ですね。

P:そして、無権利者・丙から甲土地をゆずり受けた乙も「無権利者」なので、丁に対抗できないと? ※補足2

S: そうです。

ほかにも「登記がなくても対抗できる第三者」については、下記記事に例がのっていますので、参考にしてください。

 

また、基本テキストの101ページには、相続放棄したB(無権利者)から譲渡を受けたCの事例が載っています。

P: 相続放棄については、宅建04で解説されてますので、参考にしてください。

A-3) 民法の基本用語としての、(通謀)虚偽表示、詐欺・脅迫。そして第三者との関係

S:つぎに、意思表示/契約時の「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」ですが、これらは民法学習の基本ワードとして、「基本テキスト」のそれぞれ

  「(通謀)虚偽表示」10ページ

  「詐欺」 4ページ

  「脅迫(強迫)」5ページ

に載っています。

宅建試験では、売主D,買主E、第三者Fの取引で、本来は〇〇だが、例外として、上記の「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」があった場合を設定して、問題に「ひねり」を加えているパターンが多いように見受けられます。

たとえば、上記と同じ宅建の過去問・平成20年問2の「肢2」の問題文

「丁は乙との間で売買契約を締結したが、甲乙間の所有権移転登記は、甲と乙が通じてした仮装の売買契約に基づくものであった場合、丁が甲乙間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失であっても、丁が所有権移転登記を備えていなければ、甲は所有者であることを丁に対して主張できる。」(原文のABCを説明のために、筆者が置き換え)

にある、

  「甲乙間の所有権移転登記は、甲と乙が通じてした仮装の売買契約に基づく」

が、「(通謀)虚偽表示」の典型例です。

P: 基本テキストの10・11ページをよむと、

  甲 ⇔ 乙間の取引(仮装の売買)は、(通謀)虚偽表示なので、本来は「無効」。

  ただし、甲乙間の取引が仮装であることを知らない丁は、気の毒なので、保護される。

  つまり、甲 →乙 →丁の取引は有効。甲は所有者であることを丁に対して主張できない

ですよね。

S:そうです。ちなみに、基本テキストにかいてあるとおり、

  甲→乙→丁(悪意)→戊(善意)→己(悪意)

のケースで、たとえ丁が「悪意」つまり、甲乙間が仮装売買と知っていても、善意の戊さんに譲られたあとは、その後の己さんに対して、やはり甲は所有者であることを主張できません。

さらに、「肢2」では、問題文に「丁が甲乙間の売買契約が仮装であることを知らず、知らないことに無過失」として、いわゆる「善意の第三者」の要素を加えています。

P:今度は「善意の第三者」ですか…。

S:ここも生成AI(Google Gemini)に「善意の第三者 宅建」で聞いてみたら、

『宅建では「善意の第三者」というワードがよく出題されます。

善意の第三者とは、特定の内容を知らない(善意)当事者間の以外の人(第三者)といった意味です。
たとえば、甲の所有物を乙が盗んで丙に譲渡した場合、盗品であることを知らなければ丙は善意の第三者であり、乙の共犯者とはみなされません。
また、民法第94条第2項(虚偽表示)では、第三者が保護されるためには第三者が善意であること(事情を知らないこと)を要件としており、第三者が無過失であることまでは要求していません。』(2024年4月6日)

と、まっさきに「宅建試験でよく出題される重要ワード」だと回答してくれています。

 

先ほども言ったように、宅建試験で、出題者が問題文に「ひねり」を加えるための重要アイテムとして「(通謀)虚偽表示」や「詐欺・脅迫」などが使われますが、これ以外でも、出題文で、第三者が善意かまたは善意無過失か? 悪意か?で、結論が変わるケースは多いので、要注意です。 ※「無過失」については、補足2を参照

P: Sさんは、大学で民法を勉強されていたので、民法の「基本概念」がある程度わかっている状態で試験勉強を進められますが、筆者のような初心者だと、次々に「基本ワード」が出てきて、くじけそうなんですが…。

S: この記事の時点で、4月上旬。

これから、試験勉強をスタートする方も多いと思いますので、宅建08「不動産登記法」のあとは、「時効」「代理」などの重要ワードを、取り上げましょうか。

P: お願いします。

(B)共有持ち分の二重譲渡と「所有権移転登記」の手続き

B-1)所有権移転登記の単独申請/共同申請

S:続いて、前回記事で予告した、「共有持分と第三者への二重譲渡」についてです。

基本テキスト101ページのケースでは、

  「甲土地をA,Bが相続。いったん共有状態になったが、遺産分割協議の結果、甲土地はAが単独所有になった…はずが、Bが自分の持ち分を、Cに売ってしまった」

この場合、Bの持ち分の所有権は、AとCどちらのものでしょうか?

P:売主が複数人に不動産を譲渡した場合は、まっさきに「所有権移転登記」を受けた人が、所有権を主張できるわけですから、AとCのどちらでも、先に「所有権移転登記」を備えた方ですかね?

S: そのとおりです。

ただし、「所有権移転登記」の申請方法が、

 ①B→A

 ②B→Cでは違います。

まず①は、法定相続人AとBが、「遺産分割協議書」を作成して、甲土地がAの所有になったと書類で証明ができれば、Aが単独で、被相続人からの「所有権移転登記」(相続登記)を、法務局(登記所)に申請できます。

ただし、申請時に、相続人全員の印鑑証明書なども必要です。

一方、②のBからCへの所有権移転登記は、BとCが共同で申請します(共同申請)。

P: あれ? Bは「遺産分割協議書」がなくても、登記ができるのですか?

S: 法定相続人が、持分どおり(この場合Aが1/2,Bが1/2)で申請するなら、B単独での申請ができます。

そして、Bの持分(1/2)をCに売って、その所有権移転登記ができます。

逆に、相続人全員で共同申請する必要があるのは、

 ・法定の持ち分と異なる割合(例:A1/3,B2/3)で、申請するとき

 ・遺言による遺贈があったとき(後述)

です。

P: たとえば、A,Bの叔父Dさんが、遺言でAに乙土地を遺贈してくれたとして、だれとだれが共同申請するのですか?

S:遺贈を受けるA(受遺者)が登記権利者、そして登記義務者はDの相続人全員(遺言執行者がいればその人)です。

 「遺贈による所有権移転登記は、登記権利者と登記義務者が共同して行う」(原則)

ただし、令和5年度の改正

 「相続人に対する遺贈に限り、登記権利者の単独申請が可能」(例外)

となりました。

なので、もし独身の叔父Dさんが、甥のA,B(法定相続人)のうち、Aさんに遺言で乙土地を贈ったなら、単独申請できる可能性があります。

実際に単独申請できるか? は、遺言書の文面によっても左右されるようなのですが、宅建試験対策の観点からいえば、「共同申請の例外」としての「単独申請」で、覚えておく事項がひとつ増えたことになりますね。

B-2)不動産登記法での共同申請と単独申請の違い

P: 不動産登記の手続きは、原則が「共同申請」で、例外が「単独申請」ということですか?

S: はい。

ちなみに、基本テキストの107ページに

 ・申請主義

 ・共同申請主義

の説明が載っています。

そして、ここも生成AI(Google Gemini)にきいたところ、

『不動産の登記は、原則、当事者の申請か官庁もしくは公署の嘱託がなければすることができません。 これを「申請主義の原則」といいます。 
また、不動産の権利に関する登記は、原則、登記権利者と登記義務者が共同して申請しなければなりません。 これを「共同申請主義」といいます。
共同申請主義は、登記簿上の利害が対立する当事者を共同申請させて、登記の真正を担保しようとしています。
例外としては、登記権利者・義務者が存在しない所有権保存登記や判決による登記の場合などが挙げられます。
また、相続による登記、登記名義人の表示変更の登記のように登記の性質上共同申請が考えられない場合においては、登記名義人が単独で申請をすることができます。』(24年4月14日)

と、整理された答えが返ってきました。

P:  「登記の真正を担保」をやさしく言い換えるとどうなりますか?

S: 法務局は、税務署などのように調査する権限はもっていないため、提出書類がととのっていれば、登記します。

もしも、さきほどの例の

 B(持ち分)→C 

のケースで、Cが単独申請で所有権移転登記ができるとなると、あれ? BはOKしてるの? って思いますよね。

そこで、B(登記義務者)とC(登記権利者)の共同申請として、B→Cの移転が真正であることを、担保(保証)するようにしたわけです。

B-3)単独申請できる理由

S: 逆にいえば、「単独申請」でも問題ないとか、相手がいないなど、登記の性質上、単独申請するしかない登記もあります。

基本テキストの108ページに、

 ①所有権保存の登記

 ②登記名義人の指名・住所の変更登記

 ③相続または合併による登記 ※相続登記で単独申請できるのは、法定の共有持ち分 ※補足3

 ④登記すべきことを命じる確定判決による登記

 ⑤仮登記義務者の承諾がある場合の「仮登記」

そして、B-1で紹介した「相続人に対する遺贈による所有権移転登記」です。

P: ①の所有権保存の登記(所有権保存登記)については次回、仮登記については、抵当権との関りが深いので、Sさんが記事のまとめ方を検討中とのことです。

 

 

補足1:「賃貸物件」の場合は、「賃借権の登記」または「建物の引き渡し」が、対抗要件になります。たとえ、賃借権の登記がなくても、建物の引き渡しが済んでいれば第三者に対抗できます。「賃貸借/賃借権」の記事で触れる予定です。

補足2:今回紹介した過去問(平成20年問2・肢1)解説の注意書きに、「本来の所有者丁に、登記を無権利者乙名義にしていたことに関する過失がある場合」の判例が紹介されています。

補足3:直近の宅建試験・令和5年度問14の肢3
「共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記の申請は、当該権利の共有者である全ての登記名義人が共同してしなければならない。」
は、下記の解説記事のように、

 

「単独申請」に続く、例外Ⅱとでも呼べそうな「合同申請」です。

「合同申請」については、抵当権がらみの事案が多いので「抵当権」の記事のあとに触れるか、「買戻し特約」(Sさんが家を売るときに検討したいと言ってます)で、また触れる予定です。

 

【写真提供】Pixabay

【BGM】

S選曲:槇原敬之 「遠く遠く」

P選曲:Coldplay(feat. Richard Ashcroft)  「Bitter Sweet Symphon (Verve カバー)」

※宅建Tシリーズと、宅建の「基本テキスト」については、序章をご覧ください。

(1): 共有制度の見直し(23年施行・民法改正)

P:前回(宅建05)の話を聞いて、「相続人同士が遺産分割でもめて、分割協議がずっと進まない間、不動産(家・土地)の所有権はどうなるのか?」と思ったんですが。

S: 遺産分割協議がまとまるまで、相続不動産は相続人全員の共有になります。

「共有」は、基本テキストでも独立した項目として触れていますし、下記のように、23年の民法改正(2023年4月1日施行)で重要な変更がありましたので、今回はまず「共有」から。 ※補足1

 

 

P: なお、上記ページに書いてあるように、23年の改正点はほかにもありまして、遺産分割や共有物の管理に重大な影響のある変更も含まれていますが、23年の改正で23年度宅建試験で未出題の箇所は、24年度試験の前(9月ころ? )に、Sさんが、試験対策用にまとめるか、そのころにはネットやYouTubeでも、直前対策のコンテンツがいろいろ出るはずなので、その紹介をするそうです。

1-① そもそも共有とは?

と規定していますので、兄妹3人が、時間ごと/日ごとに交代で使うように話しあってスケジュールを決める(①)。

もし、Pくんが、とある日に長時間使いたければ、妹さんにお小遣いをあげて、妹さんの持ち時間を譲ってもらう(②)と、丸く収まるでしょう。

P: 妹と交渉するくらいなら、さっさと自分の自転車を買いますが…。

S: 自転車なら別に自分で買えますが、これが、相続した家(建物・土地)だとどうですか? 

両親AとCが相次いで亡くなって(遺言はなし)、子のE、F、Gが実家(建物・土地)と、預貯金300万円がのこされました。

このケースでは、宅建04で話したように、法定相続人E、F、Gが1/3ずつ相続しますね。

P: 預貯金は簡単に分けられますが、家(建物・土地)は、E、F、Gがそれぞれ持ち分1/3ずつの「共有」になり、どう分けるか? が問題になりそうですね。

1-② 民法改正(2023年4月1日施行:以下”23年改正”)で、共有物の管理・変更に関する規定が変わった

S: 民法では、共有物の管理や変更について、これまで

 ・保存行為(家の修繕など)→各共有者が単独でできる

 ・管理行為(短期の賃貸借権の設定など) →共有者の持ち分価格の過半数の同意でできる ※補足3

 ・変更行為(共有物の売却や、共有建物の増改築など) →全員の同意が必要

としていましたが、23年改正で、「軽微な変更」も、共有者の持ち分の価格の過半数で決定できるようになりました。

P:「軽微な変更」ってどんなものですか?

S:「軽微な変更」とは、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」で、たとえば、家の外壁の塗装や屋上防水などの大規模修繕、砂利道のアスファルト舗装などです。

ちなみに、「共有者の持ち分」の扱いについても23年の改正によって、

「共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。」(民法252条2-2)

と、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所が決定(裁判)すれば、その共有者以外の共有者全員の同意で、変更ができるようになりました。

上の例でいえば、E、F、Gが不動産を相続したけれど、Gがずっと行方不明のときなどは、「共有物の管理者」が、裁判所に請求して、裁判所がOKすれば、EとF、残る2人の共有者(全員)の同意で、「変更」行為ができる=不動産の売却ができるようになるわけです。

P:「共有物の管理者」は、「宅建士」のように特別な資格を持つ方ですか? 

S:いえ、こちらも23年改正で明文化されて、共有者の持分の価格の過半数で選任/解任ができます。「共有者」などに限定されませんし、特別な資格もいりません。

つまり、EとFが、Pくんを「共有物の管理者」に選任しても良いわけです。

1-③ 共有物の分割の決着は、最後は裁判(共有物分割請求訴訟)

P: E、F、Gが三つどもえで、相続(とくに実家の処分)の話し合いがまとまらないときは、どうすればよいですか?

S: 相続財産の額にもよりますが、私だったら弁護士に相談をして、さっさと裁判(共有物分割請求訴訟)をしますね。

ちょうど、全日本不動産協会のHPにわかりやすい説明が載っています。

 

 

裁判所の判断で、
 ①現物分割
 ②競売して、売却代金を持ち分に応じて分配
 ③価格賠償による分割(1人の所有物として、ほかの共有者には金銭が支払われる)
のいずれかの方法で分けることになります。
 

(2)共有持ち分の譲渡と「物権変動」

2-① 共有持ち分の譲渡

P: 共有の不動産の分割協議がまとまるまえに、たとえばEさんが、義弟のHさんに自分の「持ち分」を譲ることはできますか?

S:できます。先ほどの、自転車の例でいえば、Pくんは友人のRくんに、自分の持ち分(使用できる時間)を譲って、お礼をもらってOKです。ほかの兄妹の同意はいりません。

これは、兄妹3人が、自転車という財産を共有しているときに、それぞれが「部分的な所有権」を1/3ずつ持っている状態のためです。

P:自分の持ち分内なら、遠慮なく使えるわけですね。

S:大学の授業などでは習った記憶がないですが、「(共有)持分権」いう呼び方で、不動産関係ではよく使われる用語になってるようです。

宅建試験では、「持分権」という言い方までは出題されてませんが、次回以降に説明する「物権変動の対抗問題」の論点のひとつに、「共同相続と第三者」がありまして、私は「部分的(それぞれ独立した)所有権」としての「(共有)持分権」で、整理した方がすっきりするため、ご紹介しました。

2-② 物権変動とは?

P: 「物権」という言葉は、以前の記事(60代からの宅建02)で、「債権」と対で出てきた、民法の基本ワードですよね。
S: そうです。ここも、Google Geminiに、「物権 債権 違い わかりやすく」できいたら、下記のように、かなり分かりやすい回答をしてくれました。
やはり、民法を勉強するうえで、この二つの違いは意識しておくとよいと思います。
『物権と債権は、財産を支配する権利の2つの類型です。
物権は、すべての人に対して権利を主張できる絶対的な財産支配権 [絶対排他性]で あるのに対して、債権は、特定の人にある要求をする権利であって、第三者には権利を主張できない相対的な請求権である。
<中略>
物権の代表例は、所有権・地上権・質権・抵当権 [担保物権]などです。
債権の例としては、賃借権、利息債権などがあります。』(2024年3月31日:部分。[]内は筆者追加)
ただし、宅建試験の勉強で「物権変動」といえば、「所有権(とくに不動産)の移動をしたら、誰が所有権を主張できるか?」を指すようです。
P: 不動産だと、自転車などとは違って、現物を空間的に移動はできませんよね。家の鍵を渡すなどはできそうですが?
S:そこで登場するのが、「不動産登記」です。
以前の記事(60代からの宅建03)の③で、家(土地・建物)の所有権と登記について、「相続登記」との関係で、簡単に説明しましたが、「物権変動」で「(不動産の)所有権の移動」の証になるのが、「所有権移転登記」です。 ※補足4
P: 60代からの宅建03では、

『Pくんが法務五郎さんから、家を買ったら、

  順位番号3 に、所有権移転登記、令和6年2月〇日 原因 令和6年2月△日売買 所有者 P

などと追加される』

とありましたが、この移転登記によって、ぼくが法務五郎さんに代わって、家の持ち主になったと証明できるわけですね。

S: そうです。

「物権変動」では、基本的には、

  ①登記を先に備えた方が

  ②第三者に対して

 対抗要件を備える=不動産の持ち主と主張できる

ことになります。

P:  この例で、②「第三者」が、法務五郎(売主)とぼく(買主)以外の人というのはわかりますが、①の「登記を先に備えた方」というのは?

S: これが、宅建試験でもよく出題される「二重譲渡の対抗問題」のケースですね。

下記のような

2012年問6の③では「Aが、甲土地をFとGとに対して二重に譲渡して、Fが所有権移転登記を備えた」と、

売主Aが、甲土地を、買主F、Gへそれぞれ売ったときに、GとFどちらが所有権を主張できるか? といえば、ここでは、所有権移転登記を先に備えたFになります。たとえ、Gが先に契約して、代金を支払っていてもそれは、A⇔G間の問題で、FとGでは、Fの勝ちになります。

ただし、買主Gが「登記がなくても対抗できる相手」もいます。

例としては、上にあげた2012年問6の、④が「背信的悪意者」のケースですので、解説をお読みください。

ほかには、

 無権利者 宅建過去問2017年問2② 

 不法占拠者  宅建試験過去問2019年問1①

などですね。

P:リンク先の過去問の他の肢にも、いろいろなケースがのってますね。

2-③ 対抗問題のまとめ

S: 宅建試験対策としては、「対抗問題」については、過去問でいろいろな出題例を把握したほうが、理解しやすいと思います。

なお、全日本不動産協会の埼玉県本部の下記HP

 

 

に、対抗問題について、図入りの分かりやすい記事が載っていますので、ご覧ください。

P:次回は、「対抗問題」の続きと、「不動産登記法」の予定です。

S: 「共有持分と第三者への二重譲渡」については、「基本テキスト」の101ページに解説されていますので、気になる方は、この前後の「第三者への対抗」のいろいろな事例と併せてお読みください。

 

補足1 23年の試験では、23年民法改正のうち「相隣関係」(問2)が出題されました。残る改正点はまだまだあるので、24年度の試験対策上、要チェックです。

補足2: 「善良なる管理者」も民法の基本用語の一つで、いずれ記事でふれる予定です。

補足3:共有者の持ち分価格の過半数の同意で設定できる権利。カッコ内は上限。

 (1) 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
 (2) (1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
 (3) 建物の賃借権等 〔3年〕
 (4) 動産の賃借権等 〔6か月〕

補足4:宅建試験では、毎年「不動産登記法」で、1問出題されるようです。

 

【BGM】

S選曲:Greeen(GRe4N BOYZ) 「桜Color」

P選曲:シンプルマインズ 「Don’t You (Forget About Me)」

【写真】上:筆者、中・下 提供:Pixabay