6月3日 第8講
大学院の担当授業もこれで第8講、半分を超える。
芸大の大学院は意匠設計者の養成所みたいなものだから、果たして彼女達の興味を持続させることができているのか気になるところでもある。
とりあえず、先週までの授業で、鉛直荷重に対する梁断面の決め方や、柱断面(圧縮に対して)の決め方は教えてあるので、今日の授業は、設計断面力を決定するための荷重の決め方を教えることに。
荷重は、おおざっぱに、
(1)強制的に決められている内容
(2)外的要因で決まってしまう内容
(3)自分で自由に決めることができる内容
の3種に分かれている。
(1)は、いわゆる法令。これは基本的に守らねばならない。
(2)は、スラブ厚さや梁断面サイズに伴う構造自重。これらはスパンの大小で必要剛性が左右されるので自由気ままには決めることはできない。
(3)が唯一、設計者が自由にその裁量で決めることができるといっていいだろう(もちろん、耐火性能・遮音性能などから必要な構成が決まる場合もあり、必ずしも自由気ままに決めれるものではないのだが・・・)
素材や構成を決めることができ、その結果として荷重が決定する、という意味である。
固定荷重を決めるということは、仕上げの構成を決めるということであり、つまりは矩計図を意識できているかどうかということになる。
こちらから、いわゆる例題を与えてその荷重表を作成してみる、ということでも授業としては成立するのだが、それでは自己の問題に置き換えることができないので、自分の設計課題を持参させてみた。
学会の荷重指針には、断面構成の絵が付いた荷重例があるので、それを見せながら、自分の建物にはどういう仕上げであるのがふさわしいかを考えさせ、そこから仕上げを決定(=仕上げ荷重を決定)させてみることにした。
学生の設計した美術館は、2階建て。1階に120平米無柱のレクチャーホール、2階には喫茶室がある、という部分で考えることに。構造的には、きちんと梁や柱の位置を考えられた耐震壁つきラーメン構造のRC造。
2階喫茶室の床はフローリング(モルタルt20の上に捨板12mmをしき、その上にナラのフローリング15mm)にすることに。
1階の天井は吸音版(軽鉄吊り天にパーティクルボードをはり、吸音版で仕上)という構成に。
まずは、スラブの厚さを150ミリとして仮定し、構造自重は3600(N/m2)
そこに、先ほど決めた仕上げ荷重を足して、固定荷重が決定。
積載荷重については、喫茶室を使って立食パーティー等の利用もあるかな、ということだったので、不特定多数の人が利用する集会所の積載荷重を採用させることに。
その荷重に対し、スパン4mのスラブとして設計できているかを確認させる。
剛性も問題なし、配筋もD13@200 で済む内容だったので、それで確定。
続いて、8mスパンの大梁の設計。支配幅は4m。
T型梁の剛性増大効果は使わないことにして(それを言うとややこしくなるので)、
手順を追って計算した結果、梁せいは700がちょうど良い(常識的な寸法)、ということに。
で、断面が決まったので、めでたしめでたし。。。
といいたいところではあるが、そうではない。
それを意匠にフィードバックしてこその設計である。
もういちど、断面に戻らせる。
先ほど決めた仕上げの構成がポイント。
床は約50mm、天井も梁下頑張っても50mm
梁成が700であれば、意匠としての床厚は800である。
が、生徒の図面では1階床GL+100、2階床GL+3550である。
ということは、CH=2650となる。
120平米無柱のレクチャーホールのCHとしてそれが駄目であるとまでは僕は言わないが、少なくとも、生徒自身がイメージしていたものと相違ないかは生徒本人が自覚せねばならない。
聞くと、そういうイメージではなかったです・・・、と。
無論、構造でボイドスラブなどを用いた無梁版として設計すれば、8mスパンなら300厚で済ませることもできなくはないので、頑張ればCh=3000くらいまでもっていくことはできるだろうけれども。
でもそういう構造的なテクニックを用いた小さな引き出しを一つ覚えることよりも、まずは矩計レベルで断面構成を意識でき、仕上げが決まれば同時に荷重も決まってくる、ということが意識できるようになってもらいたいところ。
そんなに難しい話ではない。
推奨図書追加
いよいよ明日5月29日(土)、アーキフォーラム第2回講演です。
講師:山梨知彦氏(日建設計)
演題:BIMは誰のためのツールか?
会場:TOTOテクニカルセンター大阪
時間:17時~19時(開場は16時30分)
当ブログの前エントリーで、山梨さん本人やBIMに関連する書籍を4冊紹介しましたが、
あと1冊追記しておきます。
この中の76~85ページ
PLOT 「W-Project」編
にて、山梨さんの座談会が収録されています。
非常にレベルの高い内容が、高い密度で語られております。
もちろん、BIMのことにも触れられてます。
あらかじめこれ位を読んでおかないと、明日の講演会では
度肝を抜かされることになるかもしれませんよ(笑)。
レベルの違いにショックを受けて打ちひしがれるか、「俺関係ねぇや」と強がるか、のどちらでもなく
動じることなく、前半の山梨さんの講演、そして、後半の議論、どちらもお楽しみいただきたいと思います。
ご来場、心よりお待ちしております。
それでは、明日、会場にて。
アーキフォーラム予習のための推奨図書
コーディネータの独断ではありますが、ここでは、これを見ておくと、より深く講演や議論を楽しめるであろう数冊をご紹介したいと思います。
特集:「最強」の設計集団
にて日建設計山梨設計室が紹介されています。
伊東豊雄建築設計事務所と並び合計22ページに渡り紹介されており、非常に読み応えある特集です。
山梨知彦さんの人物像を予習するのに最適な一冊です。
- 業界が一変する BIM建設革命/山梨 知彦
- ¥2,100
- Amazon.co.jp
BIMをとても簡潔に述べてくれている一冊。
2009年2月に発売された本で、BIMを用いた事例を紹介するということよりも、BIMを使うことで建築ビジネスがどのように変りうるかということに重きがおかれ書かれています。逆にこの本を通して、建築ビジネスの全体像が見えてくる一冊でもあり、建築家の作る建築しか知らない学生さんにとっては、社会を見つめる勉強にもなる一冊と言えるかもしれません。
- a+u (エー・アンド・ユー) 8月号臨時増刊 「広がるデザインの可能性―BIM元年」 200.../著者不明
- ¥2,500
- Amazon.co.jp
BIMを用いた事例紹介が豊富な一冊で、事例を通してBIMを理解するのを手助けしてくれます。
各事例の先頭ページに、建設プロジェクトの流れの中で、BIMを、設計初期から建設に至るどの段階でどのように用いているかが、共通のフォーマットで記されています。逆に、このフォーマットがあることで、BIMの用い方あるいはBIMの可能性を簡潔に読み取ることができ、その一方で、BIMがまだまだ模索の段階にあることがわかります。
建築ジャーナル2010年4月号
特集:BIMは住宅設計の何を変えるのか
BIMはどちらかといえば、大規模な建築を扱う場合に有用なツールとして語られている印象が強く、住宅を得意とするような小規模事務所にとってはBIMを用いる価値を見出しにくいとされる中、BIMの本質を明らかにしていくことで、住宅に対するBIMの適用の可能性を探ろうとする画期的な特集が組まれている一冊です。
今回のアーキフォーラムでは、この特集の編集担当責任者である建築ジャーナルの山崎泰寛氏をゲストコメンテータにお迎えし、より質の高い活発な議論を行うための触媒としての役割を担っていただきます。
より多くの方々の会場へのお越しをお待ちしております。
アーキフォーラム第2回/山梨知彦講演会
今週末5月29日(土)は、
アーキフォーラム2010-2011シリーズ
シリーズテーマ「誰がために建築は建つか」
の第2回講演です。
講師は日建設計の山梨知彦さん。
講演タイトルは
『BIMは誰のためのツールか?』
会場:TOTOテクニカルセンター大阪2F
時間:17:00~19:00(開場は16:30)
日建設計の山梨設計室と言えば、
今年の日経アーキテクチュア2月22日号
特集:「最強」設計集団のつくり方
で伊東豊雄建築設計事務所と並んで合計22ページにわたり紹介された、日本を代表する大手組織の中でも注目度抜群のチームです。
たまたま僕が現在、山梨設計室OBで現・日建スペースデザインの勝矢武之さんと一緒にプロジェクトをさせてもらっていたり、豊橋技科大でのプロジェクトでご一緒している竹中司さんが山梨さんと同じプロジェクトをしていたり、といった関係からスムーズに山梨さんにお声がけすることが出来まして、今回のアーキフォーラムでご講演していただけることとなりました。
前回の中山英之さんは「スケッチ」という、真似できそうで出来ない彼特有のデザインメソッドを実演しながら紹介してくださいましたが、山梨知彦さんといえば、やはり今話題の最先端設計ツールであるBIMではないでしょうか。
BIMって一体何なの?
組織の人といわゆる建築家ってどう違うの?
組織の中での作家性って?
等々、
様々な角度から楽しめるレクチャーになるのではないかと、コーディネータも期待に胸を膨らませております。
アーキフォーラムの歴史をたどってみると、日本の組織の方にご登壇いただくのは、2002年の林昌二さん以来8年ぶりのことです。
普段会場に脚を運ばれない組織事務所・ゼネコン設計部の方々も、是非、会場まで脚を運んでいただき、会場の熱気を楽しんでいってください。
明日のこのブログでは、山梨さんの著書を含めたBIM関連の図書など、当日までに読めばレクチャーがより楽しめる図書を紹介する予定です。
5月20日 第6講
第6回目
テーマは「梁と床」。
長期鉛直力に対し、曲げ抵抗する部位のお話。
といっても実際のところ床の説明はせず単純梁を中心に解説。
δ=5wl^4/384EI
の式について、ホームセンターで買った12×10の細長い棒を用いた簡易実験を行いながら解説。
Eは材料の話なので、大体の場合が変更不可。
lのスパンなので、先に設定されている場合が多いのでこれも変更不可。
とすると、変更可能なのは、wとIだけ。
wは一般的には支配幅(=梁ピッチ)に左右されるので、最終的にはIが設計対象。
これは固さ(剛性)の話。
一方、力が作用しすぎると壊れるという場合もあるので、
許容応力度fbと断面係数Zについて説明し、
許容曲げモーメントM=fb・Zであることから、wやlが既知の場合の設計対象がZであることを説明。
これは強さ(強度)の話。
プロの建築家であっても、剛性と強度をごちゃ混ぜにして話している人を時々見かけるが、
基本的にこれらは別モノで、きちんと区別して話せなくてはいけない。
無論I=Z・h/2なので、両者に関連はあるのだけれど、剛性は剛性、強度は強度なのである。
ここまで話したところで、学生の表情はあまり冴えない。
シングルラインで描かれた単純梁の曲げモーメント図に何の意味があるのか?
IとZの関係は説明を聞いてわかったが、だから一体何なのだ?
と言わんばかり。
そこで、6m×7.5mの平屋屋根を設計する例題を与えてみる。
小梁を架ける際の流儀などもセットで教える。
さっき教えたやり方で、必要なIと必要なZの組み合わせが求め、それを満足する梁をH形鋼から3パターンほど選び出す。
何らかの試験であれば、その3つのどれかにしてあれば正解として○をつける。
が、3つのどれでもOKと喜ぶのではなく、そこから1つに決めるのが設計なのでココで終わらずにもう少し教える。
ワタシはナゼこれに決めたか
が答えられなければ設計したとは言えない。
教える側としては、その中のどれでなければいけない、ということは決して言わない。
生徒が判断する際の判断材料を提供するところまでが教員の仕事。
とりあえず、
#総鋼材量で選ぶ
#梁成で選ぶ
#柱との取り合いで選ぶ
といった、決定要因の候補だけ説明。
多少鋼材量が増えても、梁成の小ささを活かしたカッコイイ建物をデザインできていれば許されます。
逆に、自分のデザインに自信がないのであれば、鋼材量が一番小さいものにしておけば、一番リーズナブルです、という強力な免罪符がもらえます。
要するに、設計者は最後、自分の決めた内容で相手を説得するわけで、それは説得力の問題なわけです。
5月17日 構造系見学会
京都の同世代構造家仲間3名を苦楽園の現場と梅田スカイロビーへご案内。
工務店にも車を出してもらい芦屋川駅から現場へ。
屋根打設完了後すでに1ヶ月半。すべての支保工もはずれ、内装工事が進んでおりました。
テクニカルな質問を受けながら、下から上へぐるっと。
![だから構造家は、楽しい。-@苦楽園](https://stat.ameba.jp/user_images/20100520/14/mscblog/49/08/j/t02200293_0768102410550300689.jpg?caw=800)
約1時間半、じっくりと現場見学。
終了後、車で芦屋川駅まで送っていただき、阪急で梅田へ移動。
80人乗りのエレベータでスカイロビーまでご案内。
ベンチはすこぶる好評。3人ともいたく感心してくれました。
デザイナーから依頼を受け一番最初に思ったこと、途中苦しみながら考えたことの変遷、最終判断の根拠などを実物を前にしながら解説。
同じエンジニアとしてこちらが何に苦しんだのかもすぐに理解してくれるのは流石です。
ごまかせない相手だけにこちらも多少は緊張しますが、こうした相互批評の場は重要。
見学終了後、スカイロビーの眼下にある新阪急ビル屋上のビアガーデンへ移動し懇親会。
この習慣は継続していきたいところ。
5月16日 京都アクアリーナ
あまりの暑さのせいか、子供に
「プールへ連れてけ」
とせがまれ、西京極の京都アクアリーナへ。
![だから構造家は、楽しい。-軽快な張弦梁構造](https://stat.ameba.jp/user_images/20100520/16/mscblog/e2/ae/j/t02200293_0600080010550399423.jpg?caw=800)
建築:仙田満+團紀彦、構造:構造計画プラスワン(と日大斉藤研も絡んでいたハズ)
メインプールでは関西学生大会が行われており、無料でスタンドに入ることができた。
プールのサイズから推定すると、スパンはおよそ60mぐらいか。
張弦梁による屋根の軽量化に加え、確か屋根免震もしていたんじゃないかな。
いわゆる壁やブレースを耐震要素とするのではなく、外周に一定間隔で配置したバットレスを耐震要素とすることで、閉じがちな大空間を上手い具合に抜けの良い空間にしてくれています。
免震化してるなら、バットレスの頂部を繋ぐリングは剛床化されていないことになるので、どういう挙動をするのか興味のあるところ。
で、肝心の子供とは、サブプールで2時間半ばかり遊び、多少なりは泳ぐ。
そんな長時間いたらさすがにぶよぶよ。
お父さん疲れましたよ。
5月14日 AF打合せ
夜、事務所にて、山口陽登くんとアーキフォーラムのコーディネータ会議。
流行のおにぎりせんべいを食べながら、未定事項をどんどん決定していく。
次回のレビュアーは、建築史家の倉方俊輔さんに決定いたしました。
当日は関西にいらっしゃる情報をキャッチしていたこともあり、お願いをしたところ、快諾いただきました。
第4回講師の佐藤敏宏さんにも電話して日程確認など。お元気そうで何よりです。
第5回講師も決定。近日発表いたします。
未決事項が決まっていくと、少しですがホッとします。
次回は5月29日(土)、講師は山梨知彦さん(日建設計)です。
講演タイトルは「BIMは誰のためのツールか?」です。
今話題のBIMを中心にレクチャーしていただき、議論を進めます。
詳しい情報はこちら
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5月13日 第5講
当初予定では、力学を前回までで済ませ、今回は「床・梁」がテーマ。
が、前回の力学の理解が覚束無い感じだったので、とりあえずは一級の過去問レベルの演習問題を解かせる。
僕の満足できるレベルのスピードと正確さではなかったので、今日は、演習問題中心に予定を切り替える。
部材断面力(軸力、曲げモーメント、せん断力)の正の向きをきちんと意識して書くことさえできれば、釣合い式は必ず正しく書ける。マイナスの結果が出たら、その矢印の向きと反対方向の力が作用しているだけ。
こういうことは口酸っぱくいうしかない。
耳にタコができたとしても、もうちょっと我慢してついてきてください。
必ず報われますから。