今日の一曲!Official髭男dism「FIRE GROUND」【'18秋A・格好良い系編】
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2018年のアニソンを振り返る】の第十八弾「秋アニメ・格好良い系」編です。【追記ここまで】
本記事では2018年の秋アニメ(10月~12月)の主題歌の中から、「アニソン(格好良い系)」に分類される楽曲をまとめて紹介します。本企画の詳細については、この記事の冒頭部を参照。
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メインで取り上げる「今日の一曲!」は、『火ノ丸相撲』1st OP曲・Officail髭男dism「FIRE GROUND」(2018)です。上掲の『Stand By You EP』の2曲目に収められています。
『火ノ丸相撲』は週刊少年ジャンプに連載されている同名の漫画を原作とするアニメで、連載のスタートが僕が同誌を毎週購読していた時期と重なっていたため、単行本こそ持ってはいませんが第1話から途中までは楽しく読んでいた作品です。しかし、確かな面白さがあって、且つ「ジャンプ」というブランドも備えているとはいえ、相撲を題材とした作品がアニメ化に漕ぎ着けたことは驚きでした。
実際の相撲人気とはまた別次元での話だと前置きしておきますが、作中でも示されていたような相撲に対するネガティブなイメージは、メディア化の際にネックとなり得るものだと思いますし、神事としてではなくスポーツとして相撲を見た場合、他の競技より勝敗が決するまでの時間が圧倒的に短いので、単純に描きにくいというのもあるだろうからです。この類のハンデを抱えながらも、キャラ設定や話運びや演出の上手さでもって熱い世界観を提示出来ているのが、順当に評価されているのでしょうね。
そんな作品の顔たる主題歌がダサくちゃ締まらないよなということで、ヒゲダンによって放れたこの「FIRE GROUND」は、ここで英題なのか…といったこと(後程詳しくふれます)は些細に思えてしまうくらいに、聴けば一発でわかる格好良さを宿したナンバーです。
イントロというか最初の一音に引きずり込まれるような重さがある点からして、実に相撲らしいサウンドスケープだと絶賛したい好ましい立ち上がりで、そこから堅実にしかし荒々しく刻まれるギターへと続いていくプレイを魅せられたら、バンドの高いポテンシャルにわくわくせざるを得ません。
そして歌始まり。幕開けの"1つとしてアドバンテージなんてない"は、先の作品評にも通じるところのある困難さが滲む一節ですが、主人公の火ノ丸が置かれた境遇を思えばこそ、一層迫真に響いてきます。続く"「向いてない」「センスない」 誰もがそう言って笑ってる"を、"結果1発で180度 真っ白な歓声に変わるぞ"と跳ね退けていくのが彼の強みですが、この手の「常識に囚われずに自身の信念を貫いていく姿勢」の描写は歌詞の全体に亘って秀でており、火ノ丸のメンタリティやスタンスに関しては勿論のこと、作詞者である藤原聡さんのひいてはバンド自体の決意表明とも取れる内容であるのも燃えポイントです。なお、以降では後者の捉え方を「作品外解釈」と呼称します。
このまま歌詞を掘り下げていきましょう。1番Bの"アイデンティティのイス取りゲームはとっくにオーバー"もお気に入りのフレーズで、並の感性であれば"イス取りゲーム"に挑んでいくこと自体にフォーカスしそうな場面で、パイを奪い合う段階はとうに終わっているのだという現実を突き付けているのが、残酷なれど鮮やかです。肝心なのは「その後の身の振り方」で、"それでも弾かれまいと世界を 両足で握りしめる"と続けられているように、絶望的な状況に活路を見出してこそ本望と言わんばかりの挑戦的な決意に、火ノ丸の心像を自然と重ねてしまいます。これも敢えて作品外解釈をするならば、飽和状態にあるこれからの音楽シーンでどう生き抜いていくかという、次世代のミュージシャンが抱える苦悩と関連付けられそうです。
サビに鏤められている表現もいちいち素敵で、たとえば"難題だらけのジャストザウェイユーアー"は、先に曲名が英語であることに少しの含みを持たせた文章を載せたのと同様に、横文字によることの作品に対するミスマッチが気になりそうなものですが、'just the way you are'が意味する概念は、相当のものを日本語で扱うのにはやや難があるとの理解なので、メロディラインの跳ね感(シラブル言語が合いそうな感じ)とも相俟って、ここは"ジャストザウェイユーアー"が最適解だと得心がいきます。こういった二言語間を往来するセンスが地味に冴え渡っていて、"HI-HEAT UP"を「ひっひーあっ(ぷ)」と日本語の掛け声のように歌い上げているのも、同種の面白みがある部分だと言えるでしょう。ここの結論としては、曲名の件も含めて「相撲モノの主題歌は日本語オンリーで」という発想を抱いていた自分こそが、旧い価値観に染まっていたのだと自虐で〆ます。笑
後は通時的に雑多にふれますが、"貫き通そう 削ぎ落す憎悪"に見られる「歩むのはあくまでも正道」といった清々しさ、相撲用語の取り入れ方が巧い"残ったのはどっちだ?"との暗示的な結び、1番Aと共通の歌詞の後に来る"歴史のストーカーが騒ぎ出す"という独特の比喩表現が言い得て妙である点、通常であれば誉め言葉として響く一切を排して"替えのきかない目で見つめろ"と更に高みを目指す向上心、作品外解釈を補強する攻めた言辞が刺さる"満身創痍のロックンローラー YEAH/誰ぞにけなされたそのセンスで 常識を作り変える"…等々、引用したくなる格好良い言葉繰りのオンパレードです。
最後は作編曲の面にまとめて言及します。"HI-HEAT UP"の項で、音韻の良さを伝えるために「メロディラインの跳ね感(シラブル言語が合いそうな感じ)」という形容を用いましたが、これは全編に適用しても構わないと思っていて、旋律のベクトルが日本に縛られていない点を評価していることを意味します。よりわかりやすく言えば、きちんとロックしているのが素晴らしいといった感想です。
とはいえアレンジまで込みで判断すると、純粋にロック色だけが強められているわけでもなくて、ファンキーなビート感やサビ裏のグルーヴィーなブラスによって醸されている絢爛な雰囲気は、喩えるなら「火」を赤だけでなく金色も混ぜて音として昇華した結果だと解釈しています。煌びやかな焔は黄金を帯びますよね。外部からはアレンジャーを招いておらず、編曲:Official髭男dismとのクレジットなので、バンドサウンド+αの表現幅が広いと今後の展望も自ずと明るいであろうと期待します。
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同作のED曲・オメでたい頭でなにより「日出ズル場所」(2018)も良曲でした。OP曲に対しては和に縛られていない発想を称賛しましたが、こちらは曲名が示しているようにサウンドの随所に日本が感じられ、公式によるキャッチ「日本一オメでたい人情ラウドロックバンド」にも納得の仕上がりです。アニメに使われていた「TV Ver.」では、前奏のどっしりとしたリフとラップセクションの一部にラウドっぽさがあるなと思ったくらいでしたが、その真骨頂は2番以降に展開されている印象で、特に"Hey!! you!!"の後のヘビーなパートには文字通り痺れました。
こうして純粋に格好良い曲として言及を終えてもいいのですが、題材にちゃんこを持ってきていることで歌詞に面白さが滲んでいるのも特筆すべき点です。"オナカとセナカが くっつくstyle"には大きなインパクトがありますよね。笑 また、冒頭の"都会はまるでコンクリートjungle/わけもわからず羅列英単語"もシニカルさが好みの一節で、OP曲の項に書いたような「旧い価値観」もそれはそれで尊重すべきだといった日本語愛を見出せます。ただ、"コンクリートjungle"も含めてその後も横文字が多く登場するので、自虐的な面も多分にあるのが今時らしくてより好印象です。
上にリンクした火ノ丸盤のc/wには「オメでたい知ったかメドレー~HAKEI-TSUNAGI~ DJ飯の種 a.k.a. 赤飯(オメでたい頭でなにより)」と題された、曲名通りのメドレートラックが収録されていたのですが、種々のパロディが際立った非常にユニークなものであったため、原義に近い意味合いでミクスチャー方面の才にも秀でているバンドであると、知ったかを披露しておきます。
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続いて紹介するのは『ゴールデンカムイ(第2期)』OP曲・さユり & MY FIRST STORY「レイメイ」(2018)です。今回の振り返りの第十一弾では、第1期のOP曲を簡単にですがレビューしており、引き続き主題歌に恵まれた作品であると言えます。
アーティスト名が示している通り、女性ソロシンガーソングライター・”酸欠少女”さユりと、ロックバンド・MY FIRST STORYによるコラボナンバーですが、僕は残念ながら両者それぞれのワークスには手を出したことがありません。従って、アーティスト像と絡めた詳細な描写は出来ないのですが、少なくとも本曲の確かな熱量には強く心惹かれるものがありました。
ボーカルはさユりとMFSのHiroの両名によって担われていますが、声質に共通の揺らぎや震えが宿っているからか、混声のツインボーカルとして高いレベルで調和が取れている点を絶賛したいです。どちらにも突き刺さるタイプの鋭さがあり、ぶつかり合って火花が散るようなビジョンも浮かびはするのですが、ふとした瞬間に心地好く響いてくる優しさもあり、この多層的な構造が『ゴールデンカムイ』の作風にかっちりはまっていたと思います。
本曲の中で総合的に最も好きなのは、表題を含む"いつか黎明の元へ帰る時まで 痛む泥濘の中で祈りを描くよ"の部分です。ここまでのエッジィなメロディラインと、MFSによる激しいロックサウンドによる疾走感が、ここで一点に収束して昇天していくかのような限界突破感があって、何故だか泣きたい気持ちに襲われます。旋律自体に潜む仄暗さと、バックで密かに鳴っているややチープな電子音の寂寥感と、"いつか黎明の元へ帰る"という生と死が共に馨る歌詞の衝撃で、魂の奥底に訴えかけてくるものがあったのだろうと自己分析。その後の"心配ないと言い聞かせながら今 歩き出すの"もシンプルに美しくて、この人間味にうるっときてしまった面もあるかもしれませんね。
2番後のC~Dメロ…まとめて大サビとしても構いませんが、さユりの台詞然としたモノローグから始まるシークエンスもお気に入りです。初聴時は「せっかくメロディアスな流れできていたのにここで台詞か…」と後向きに捉えていたくらいでしたが、繰り返し聴くうちにフロウの流麗さがクセになってきて、とりわけ"主題はきっとそれだけで過不足ないから"の詰まるようなリズム感には光るものを感じます。
Hiroのエモーショナルなボーカルがインして、ここからはMFSの領分へ完全にバトンタッチするのかと思いきや、引き続きさユりの独白が続いて重なってくる意外性にもやられ、フルならではの凝った楽想に惚れ惚れしました。
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同作のED曲・eastern youth「時計台の鐘」(2018)も中々に衝撃的でした。邦ロック好きとして名前だけは幾度も見かける機会はあったものの、今まできちんと聴いたことはなくて恐縮ですが、ここまで剥き出しのサウンドを突き付けてくる野晒しの音楽性であったことは想定の外です。しかし、記憶違いかもしれませんし店舗によって異なる可能性もありますが、ディスクユニオンで雑多に邦楽がまとめられている棚ではなく、インディーやオルタナに傾倒した邦バンドの棚に分類されていることには納得がいきました。
北海道出身のバンドであるため、タイトルの「時計台の鐘」及びジャケ写にも説得力がありますし、作中の舞台や文化の面からも『ゴールデンカムイ』に打って付けの存在だと言えますが、歌詞の中身を見ると寧ろ逆説的に描かれているところが印象的で、"本当は雪なんて降っていなかった"に、"時計台の鐘なんて鳴っていなかった"と、先に提示した情景を否定してくる告白にゾクっとさせられます。
演奏面で最もクールに感じたのはアウトロで、クライマックスを彩る力強いバッキングの上を、メロディアスなギターが鳴いてくところが、これまた昇天感のあるクロージングだなと「死」を意識させられました。アニメEDの尺に合わせた短いバージョンにもこのパートは使用されているので、制作サイドも良さをきちんと見抜いていたのだろうと推測します。
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お次は『軒轅剣 蒼き曜』OP曲・水樹奈々「嘆きの華」(2018)をレビュー。上掲のシングル『NEVER SURRENDER』の4曲目に収録。同盤は全曲がタイアップ付きで、且つ表題曲と2曲目はネームバリューのある別作品の関連楽曲であるため、どうにも扱いの不遇さを拭えない気がしますが、個人的には本曲をトップに置く選択もアリだったのではと進言したいほどには名曲であるとの認識です。
先に作品語りを挟みますが、同作は台湾製のゲームを原作としたアニメで、昨年が28周年になる長寿シリーズの中で2004年にリリースされた「外伝 蒼之濤」にリンクする物語としての位置付け…だそうです。この概要だけでもニッチさ加減にくらくらしそうで、あまり期待せずに観始めたのですが、意外と内容が面白かったのとキャラクターが好みであったため、途中からは普通に楽しめている自分が居ました。公式サイトで用語の説明と相関図を見て理解出来た面もありますが、シンプルな対立構造の狭間で主人公サイドが引き裂かれて揺れ動くという、王道の話運びが良かったのだと思います。蒲釗と龍澄の関係性が好みだったので、どちらかと言えば太白帝国寄りの心情で観ていましたが、権謀術数が回る中で徐々に人間模様が悪化していくドロドロも、わかりやすいエンタメ性で評価ポイントでした。あとは地味に声優陣が豪華です。
期間限定だとは思いますが、テレビ東京の公式チャンネルに全話が丸々アップされていたので、音源の紹介も兼ねてサムネの好みで選んだ第7話を埋め込んでおきます。OPは0:17~です。
今回の振り返りで水樹さんが歌唱を務めたナンバーを紹介するのは第十五弾以来となりますが、それ以前の更新分に目を向けると「絶刀・天羽々斬」(2012)のレビュー記事があります。同曲は曲名からも察せるように非常に日本的なトラックでしたが、「嘆きの華」もまたこれに近いエッセンスを持った楽曲です。先述の通り、台湾製のゲームを原作とするアニメ(内容は古代中国・春秋時代)の主題歌ではありますが、共通の文化圏に属している以上、音楽が目指す方向性に多少なりとも似た部分が存在することは理解に難くないかと思います。
つまりは「絶刀~」が好きな人には「嘆きの華」も刺さるであろうと言いたいだけなのですが、もう少し具体的に述べますと、謡(用語の意味はこちら)的な要素を旋律に抱く曲こそ、水樹さんの声質や歌い方が効果的に映えるよねと主張したいわけです。これには、元々演歌歌手志望だったことも多分に影響していると推察します。
加えて、続けざまに外部からの掘り下げとなって申し訳ありませんが、作詞が岩里祐穂さんであることも本曲を甚く気に入った理由のひとつです。岩里さんの書く歌詞の素晴らしさについては、関連記述のある過去記事の数が多いため、気になる方はブログ内検索を活用してくださいと丸投げします。
これらを事前情報として押さえた上で本曲を聴いていくと、まさにツボだらけで好きにならない道理が見当たりません。サビで顕著ですが、儚さと疾走感が綯い交ぜとなった緊張の旋律にのせて、"孤丘の夢 報われぬ愛の、亡骸でいい"と覚悟の極まった強い言葉を放り込まれると、否応なしに激情にかられるような心持になります。アニメ本編への期待値を高めているという点でも、OP曲として優秀です。
また、編曲の面ではやはり胡琴によるサウンドが王道で格好良いですね(文化圏を考慮して二胡と限定したいところですが、楽器の同定に自信がないためざっくり胡琴としました)。先述の「音楽が目指す方向性に多少なりとも似た部分が存在する」というのは、胡琴が指し示す範囲に日本の清楽に使われる楽器も含まれているように、伝来による共通性を考慮しての言となります。
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ここからは「中身の濃いレビューには発展させられそうにない曲」をまとめて紹介します。こう書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、スペースを作ってまで紹介しようと思うくらいにはお気に入りの楽曲群であることに留意してください。「発展させられそうにない」のは、僕の技量不足&時間不足によるものです。
なお、本記事は言及対象が多過ぎ&文章が長過ぎるせいで、字数制限への対策をしなければならなくなったため、以降では容量を食うAmazonリンクの表示を一部省略します。視覚的な仕切りとして使用しているだけなのでレビュー上は問題ありませんが、見づらくなってしまってすみません。
『RELEASE THE SPYCE』OP曲・ツキカゲ(安齋由香里、沼倉愛美、藤田茜、洲崎綾、のぐちゆり、内田彩)による「スパッと!スパイ&スパイス」(2018)。「可愛い系」で紹介しようかとも思いましたが、歌詞の"カワイイだけじゃないのです"を考慮して「格好良い系」への分類としました。
なんと言っても小気味好いブラスを活かしたグルーヴィーなアレンジと、"スパッパッパラッパ"のパートによる中毒性に特筆すべき点があります。スパイモノ或いは探偵・怪盗モノにも似通った傾向がある印象ですが、金管が醸す華麗なイメージがスマートな仕事の演出につながるからか、この手のサウンドは定石ですよね。ヒゲドライバーさんのトラックメイキングにはお気に入りが多く、当ブログでも過去に三度はお名前を出した言及があります(①、②、③)。
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『うちのメイドがウザすぎる!』ED曲・鴨居つばめ(CV:沼倉愛美)&高梨ミーシャ(CV:白石晴香)「ときめき☆くらいまっくす」(2018)。振り返りの第十七弾では同作のOP曲をレビュー済ですが、その中で両名の歌唱分担量についてふれた通り、こちらはつばめがメインのナンバーです。
「格好良い系」の根拠としているのはAメロ裏のギターリフで、既聴感がないと言ったら嘘になるというか、洋楽のリファレンスがいくつか出てきそうではありますが、裏を返せばそれだけキャッチーだということで、否定意図は全くありません。基本形は勿論として、2番Aや2番サビ後間奏の変化形もひたすらにクールで、弾きたい欲に駆られます。睦月周平さんによるトラックを取り上げるのは、振り返りの第六弾および第十五弾に続いて三曲目です。
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『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』OP曲・Coda「Fighting Gold」(2018)。歴代主題歌の中では「ジョジョ ~その血の運命~」(2012)に次ぐお気に入りとなりました。歌唱と作編曲のクレジットは、同作1st Season Part2のOP曲「BLOODY STREAM」(2013)と共通です。
とりわけ好んでいるのはサビ裏のストリングスで、主旋律に呼応するように徐々にボルテージが上がっていくところに緊張感が湛えられていて、バトルが過激な5部の作風にこの上なくマッチしていると評します。良い意味でボーカルラインは地味というか、揺らぎがあって不安定(下手という意味ではありません)に感じるため、弦と合わさって完全体と言えるような相互補完的な楽想を称えたいです。
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『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』ED曲・ビッケブランカ「Buntline Special」(2018)。海外バンドによるナンバーかと勘違いしてしまうほどにサウンドがオーバーシーズですが、日本出身でしかもソロのシンガーソングライターの手に成る曲だと知って驚きました。
英語と日本語の織り交ぜ方が巧みで、譜割りやフロウが悉く計算されているような、将又センスに委ねた自由なものにも映り、どちらにせよ高度なサウンドクリエイション能力が窺えます。全体的にレイジーなラインと、絶妙な力加減の歌い方に心地好さがありますが、最もイヤガズムを覚えたのは、サビの"today"が下降していくところです。
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『ゾンビランドサガ』OP曲・フランシュシュ『徒花ネクロマンシー』(2018)。劇中歌も含めてハイクオリティな音楽が展開されていた作品ですが、その濃い内容を象徴するに相応しいだけのハイエントロピーな主題歌である点を買っています。アニソンらしさ全開というか、ジャケ写およびOP映像からもわかるように、戦隊モノが意識された王道の格好良さが特徴的です。音源では流石にカットされていますが、歌前に口上があるところやSEが曲と重なっても良しとする演出からも、有無を言わせぬ名曲ぶりが伝わってきます。
歌詞は何処を切り取っても鮮やかですが、感動すら覚えた一節は"枯れても走ることを命と呼べ"です。このようにゾンビならではの哀愁が勇壮へと昇華されたフレーズが殊更味わい深く、"唸れ 徒花/朽ち果てても進め"、"傷ひとつ無い 手など愚か"、"心を無くすことが死(おわり)と知れ"、"いつか誰もが散華する捨て石/輝け 刹那無限の火花"、"希望 高らかに打ち鳴らせ/呼吸よりも生きた証"…等々、枚挙に遑がありません。
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『SSSS.GRIDMAN』OP曲・OxT「UNION」(2018)。オクトはオーイシマサヨシとTom-H@ckによるユニットで、振り返りの第十三弾でトムハックが手掛けた楽曲を紹介した際には、本曲のレビューも予告してありました。
90年代前半の特撮を原作とするアニメという特殊性も関係してきますが、本曲もまた王道の格好良さを携えたヒロイックなナンバーで、"目を醒ませ/僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ"という立ち上がりに、わくわくしない人がいるでしょうか。作詞作曲を担ったのは大石昌良さんで、次々とヒット曲を生み出し続けている乗りに乗った現状を見ると、改めてアニソン作りの才に擢んでた方なのだなと感服します。
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『ソードアート・オンライン アリシゼーション』1st OP曲・LiSA「ADAMAS」(2018)。無印の1st OP曲もリサによるものであったため、ⅡでED曲への起用を複数挟んでいたとはいえ、やはり幕開けに据えられていると安定感が違いますね。
ロックサウンドを背にしたアッパーな幕開けから、次第に熱量を増していき、Bで一度クールダウンしてしっかりタメを作った後に、サビでそれらを一気に解き放ってスピーディーに駆けていくという、押さえるべき点は漏れなく押さえてキャッチーに、それでいて曲単体で勝負可能なリスニング向けの格好良さもきちんと兼ね備えられており、アガるアニソンのお手本と言えるでしょう。
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『FAIRY TAIL ファイナルシリーズ』1st OP曲・lol「power of the dream」(2018)。意外と嫌いじゃなかった枠とでも表現しましょうか、長期に亘って放送されているシリーズだけに主題歌の数も多く、同時に当たり外れの差も大きい印象が拭えない歴代のラインナップの中では、ダンサブルなアレンジが好感触でした。
サビ始まり後の間奏部は映像としてもダンスを描いている点がお気に入りで、人間形態のシャルルをメインとした可愛らしい仕上がりが、シンセリフの音自体のキュートさと噛み合い、中毒性を補強していると分析します。このリフはその後のサビ裏にも登場しますが、ボーカルラインに埋没せずにグルーヴィーな存在感を主張し続けているところが気持ち好いです。
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以上、【'18秋アニメ・アニソン(格好良い系)編】でした。本当は『からくりサーカス』1st OP曲・BUMP OF CHICKEN「月虹」も紹介したかったのですが、音源としてのリリースが未だないため見送りました。近年のバンプのナンバーではかなり好きなんですけどね。
本記事では2018年の秋アニメ(10月~12月)の主題歌の中から、「アニソン(格好良い系)」に分類される楽曲をまとめて紹介します。本企画の詳細については、この記事の冒頭部を参照。
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メインで取り上げる「今日の一曲!」は、『火ノ丸相撲』1st OP曲・Officail髭男dism「FIRE GROUND」(2018)です。上掲の『Stand By You EP』の2曲目に収められています。
『火ノ丸相撲』は週刊少年ジャンプに連載されている同名の漫画を原作とするアニメで、連載のスタートが僕が同誌を毎週購読していた時期と重なっていたため、単行本こそ持ってはいませんが第1話から途中までは楽しく読んでいた作品です。しかし、確かな面白さがあって、且つ「ジャンプ」というブランドも備えているとはいえ、相撲を題材とした作品がアニメ化に漕ぎ着けたことは驚きでした。
実際の相撲人気とはまた別次元での話だと前置きしておきますが、作中でも示されていたような相撲に対するネガティブなイメージは、メディア化の際にネックとなり得るものだと思いますし、神事としてではなくスポーツとして相撲を見た場合、他の競技より勝敗が決するまでの時間が圧倒的に短いので、単純に描きにくいというのもあるだろうからです。この類のハンデを抱えながらも、キャラ設定や話運びや演出の上手さでもって熱い世界観を提示出来ているのが、順当に評価されているのでしょうね。
そんな作品の顔たる主題歌がダサくちゃ締まらないよなということで、ヒゲダンによって放れたこの「FIRE GROUND」は、ここで英題なのか…といったこと(後程詳しくふれます)は些細に思えてしまうくらいに、聴けば一発でわかる格好良さを宿したナンバーです。
イントロというか最初の一音に引きずり込まれるような重さがある点からして、実に相撲らしいサウンドスケープだと絶賛したい好ましい立ち上がりで、そこから堅実にしかし荒々しく刻まれるギターへと続いていくプレイを魅せられたら、バンドの高いポテンシャルにわくわくせざるを得ません。
そして歌始まり。幕開けの"1つとしてアドバンテージなんてない"は、先の作品評にも通じるところのある困難さが滲む一節ですが、主人公の火ノ丸が置かれた境遇を思えばこそ、一層迫真に響いてきます。続く"「向いてない」「センスない」 誰もがそう言って笑ってる"を、"結果1発で180度 真っ白な歓声に変わるぞ"と跳ね退けていくのが彼の強みですが、この手の「常識に囚われずに自身の信念を貫いていく姿勢」の描写は歌詞の全体に亘って秀でており、火ノ丸のメンタリティやスタンスに関しては勿論のこと、作詞者である藤原聡さんのひいてはバンド自体の決意表明とも取れる内容であるのも燃えポイントです。なお、以降では後者の捉え方を「作品外解釈」と呼称します。
このまま歌詞を掘り下げていきましょう。1番Bの"アイデンティティのイス取りゲームはとっくにオーバー"もお気に入りのフレーズで、並の感性であれば"イス取りゲーム"に挑んでいくこと自体にフォーカスしそうな場面で、パイを奪い合う段階はとうに終わっているのだという現実を突き付けているのが、残酷なれど鮮やかです。肝心なのは「その後の身の振り方」で、"それでも弾かれまいと世界を 両足で握りしめる"と続けられているように、絶望的な状況に活路を見出してこそ本望と言わんばかりの挑戦的な決意に、火ノ丸の心像を自然と重ねてしまいます。これも敢えて作品外解釈をするならば、飽和状態にあるこれからの音楽シーンでどう生き抜いていくかという、次世代のミュージシャンが抱える苦悩と関連付けられそうです。
サビに鏤められている表現もいちいち素敵で、たとえば"難題だらけのジャストザウェイユーアー"は、先に曲名が英語であることに少しの含みを持たせた文章を載せたのと同様に、横文字によることの作品に対するミスマッチが気になりそうなものですが、'just the way you are'が意味する概念は、相当のものを日本語で扱うのにはやや難があるとの理解なので、メロディラインの跳ね感(シラブル言語が合いそうな感じ)とも相俟って、ここは"ジャストザウェイユーアー"が最適解だと得心がいきます。こういった二言語間を往来するセンスが地味に冴え渡っていて、"HI-HEAT UP"を「ひっひーあっ(ぷ)」と日本語の掛け声のように歌い上げているのも、同種の面白みがある部分だと言えるでしょう。ここの結論としては、曲名の件も含めて「相撲モノの主題歌は日本語オンリーで」という発想を抱いていた自分こそが、旧い価値観に染まっていたのだと自虐で〆ます。笑
後は通時的に雑多にふれますが、"貫き通そう 削ぎ落す憎悪"に見られる「歩むのはあくまでも正道」といった清々しさ、相撲用語の取り入れ方が巧い"残ったのはどっちだ?"との暗示的な結び、1番Aと共通の歌詞の後に来る"歴史のストーカーが騒ぎ出す"という独特の比喩表現が言い得て妙である点、通常であれば誉め言葉として響く一切を排して"替えのきかない目で見つめろ"と更に高みを目指す向上心、作品外解釈を補強する攻めた言辞が刺さる"満身創痍のロックンローラー YEAH/誰ぞにけなされたそのセンスで 常識を作り変える"…等々、引用したくなる格好良い言葉繰りのオンパレードです。
最後は作編曲の面にまとめて言及します。"HI-HEAT UP"の項で、音韻の良さを伝えるために「メロディラインの跳ね感(シラブル言語が合いそうな感じ)」という形容を用いましたが、これは全編に適用しても構わないと思っていて、旋律のベクトルが日本に縛られていない点を評価していることを意味します。よりわかりやすく言えば、きちんとロックしているのが素晴らしいといった感想です。
とはいえアレンジまで込みで判断すると、純粋にロック色だけが強められているわけでもなくて、ファンキーなビート感やサビ裏のグルーヴィーなブラスによって醸されている絢爛な雰囲気は、喩えるなら「火」を赤だけでなく金色も混ぜて音として昇華した結果だと解釈しています。煌びやかな焔は黄金を帯びますよね。外部からはアレンジャーを招いておらず、編曲:Official髭男dismとのクレジットなので、バンドサウンド+αの表現幅が広いと今後の展望も自ずと明るいであろうと期待します。
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同作のED曲・オメでたい頭でなにより「日出ズル場所」(2018)も良曲でした。OP曲に対しては和に縛られていない発想を称賛しましたが、こちらは曲名が示しているようにサウンドの随所に日本が感じられ、公式によるキャッチ「日本一オメでたい人情ラウドロックバンド」にも納得の仕上がりです。アニメに使われていた「TV Ver.」では、前奏のどっしりとしたリフとラップセクションの一部にラウドっぽさがあるなと思ったくらいでしたが、その真骨頂は2番以降に展開されている印象で、特に"Hey!! you!!"の後のヘビーなパートには文字通り痺れました。
こうして純粋に格好良い曲として言及を終えてもいいのですが、題材にちゃんこを持ってきていることで歌詞に面白さが滲んでいるのも特筆すべき点です。"オナカとセナカが くっつくstyle"には大きなインパクトがありますよね。笑 また、冒頭の"都会はまるでコンクリートjungle/わけもわからず羅列英単語"もシニカルさが好みの一節で、OP曲の項に書いたような「旧い価値観」もそれはそれで尊重すべきだといった日本語愛を見出せます。ただ、"コンクリートjungle"も含めてその後も横文字が多く登場するので、自虐的な面も多分にあるのが今時らしくてより好印象です。
上にリンクした火ノ丸盤のc/wには「オメでたい知ったかメドレー~HAKEI-TSUNAGI~ DJ飯の種 a.k.a. 赤飯(オメでたい頭でなにより)」と題された、曲名通りのメドレートラックが収録されていたのですが、種々のパロディが際立った非常にユニークなものであったため、原義に近い意味合いでミクスチャー方面の才にも秀でているバンドであると、知ったかを披露しておきます。
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続いて紹介するのは『ゴールデンカムイ(第2期)』OP曲・さユり & MY FIRST STORY「レイメイ」(2018)です。今回の振り返りの第十一弾では、第1期のOP曲を簡単にですがレビューしており、引き続き主題歌に恵まれた作品であると言えます。
アーティスト名が示している通り、女性ソロシンガーソングライター・”酸欠少女”さユりと、ロックバンド・MY FIRST STORYによるコラボナンバーですが、僕は残念ながら両者それぞれのワークスには手を出したことがありません。従って、アーティスト像と絡めた詳細な描写は出来ないのですが、少なくとも本曲の確かな熱量には強く心惹かれるものがありました。
ボーカルはさユりとMFSのHiroの両名によって担われていますが、声質に共通の揺らぎや震えが宿っているからか、混声のツインボーカルとして高いレベルで調和が取れている点を絶賛したいです。どちらにも突き刺さるタイプの鋭さがあり、ぶつかり合って火花が散るようなビジョンも浮かびはするのですが、ふとした瞬間に心地好く響いてくる優しさもあり、この多層的な構造が『ゴールデンカムイ』の作風にかっちりはまっていたと思います。
本曲の中で総合的に最も好きなのは、表題を含む"いつか黎明の元へ帰る時まで 痛む泥濘の中で祈りを描くよ"の部分です。ここまでのエッジィなメロディラインと、MFSによる激しいロックサウンドによる疾走感が、ここで一点に収束して昇天していくかのような限界突破感があって、何故だか泣きたい気持ちに襲われます。旋律自体に潜む仄暗さと、バックで密かに鳴っているややチープな電子音の寂寥感と、"いつか黎明の元へ帰る"という生と死が共に馨る歌詞の衝撃で、魂の奥底に訴えかけてくるものがあったのだろうと自己分析。その後の"心配ないと言い聞かせながら今 歩き出すの"もシンプルに美しくて、この人間味にうるっときてしまった面もあるかもしれませんね。
2番後のC~Dメロ…まとめて大サビとしても構いませんが、さユりの台詞然としたモノローグから始まるシークエンスもお気に入りです。初聴時は「せっかくメロディアスな流れできていたのにここで台詞か…」と後向きに捉えていたくらいでしたが、繰り返し聴くうちにフロウの流麗さがクセになってきて、とりわけ"主題はきっとそれだけで過不足ないから"の詰まるようなリズム感には光るものを感じます。
Hiroのエモーショナルなボーカルがインして、ここからはMFSの領分へ完全にバトンタッチするのかと思いきや、引き続きさユりの独白が続いて重なってくる意外性にもやられ、フルならではの凝った楽想に惚れ惚れしました。
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同作のED曲・eastern youth「時計台の鐘」(2018)も中々に衝撃的でした。邦ロック好きとして名前だけは幾度も見かける機会はあったものの、今まできちんと聴いたことはなくて恐縮ですが、ここまで剥き出しのサウンドを突き付けてくる野晒しの音楽性であったことは想定の外です。しかし、記憶違いかもしれませんし店舗によって異なる可能性もありますが、ディスクユニオンで雑多に邦楽がまとめられている棚ではなく、インディーやオルタナに傾倒した邦バンドの棚に分類されていることには納得がいきました。
北海道出身のバンドであるため、タイトルの「時計台の鐘」及びジャケ写にも説得力がありますし、作中の舞台や文化の面からも『ゴールデンカムイ』に打って付けの存在だと言えますが、歌詞の中身を見ると寧ろ逆説的に描かれているところが印象的で、"本当は雪なんて降っていなかった"に、"時計台の鐘なんて鳴っていなかった"と、先に提示した情景を否定してくる告白にゾクっとさせられます。
演奏面で最もクールに感じたのはアウトロで、クライマックスを彩る力強いバッキングの上を、メロディアスなギターが鳴いてくところが、これまた昇天感のあるクロージングだなと「死」を意識させられました。アニメEDの尺に合わせた短いバージョンにもこのパートは使用されているので、制作サイドも良さをきちんと見抜いていたのだろうと推測します。
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お次は『軒轅剣 蒼き曜』OP曲・水樹奈々「嘆きの華」(2018)をレビュー。上掲のシングル『NEVER SURRENDER』の4曲目に収録。同盤は全曲がタイアップ付きで、且つ表題曲と2曲目はネームバリューのある別作品の関連楽曲であるため、どうにも扱いの不遇さを拭えない気がしますが、個人的には本曲をトップに置く選択もアリだったのではと進言したいほどには名曲であるとの認識です。
先に作品語りを挟みますが、同作は台湾製のゲームを原作としたアニメで、昨年が28周年になる長寿シリーズの中で2004年にリリースされた「外伝 蒼之濤」にリンクする物語としての位置付け…だそうです。この概要だけでもニッチさ加減にくらくらしそうで、あまり期待せずに観始めたのですが、意外と内容が面白かったのとキャラクターが好みであったため、途中からは普通に楽しめている自分が居ました。公式サイトで用語の説明と相関図を見て理解出来た面もありますが、シンプルな対立構造の狭間で主人公サイドが引き裂かれて揺れ動くという、王道の話運びが良かったのだと思います。蒲釗と龍澄の関係性が好みだったので、どちらかと言えば太白帝国寄りの心情で観ていましたが、権謀術数が回る中で徐々に人間模様が悪化していくドロドロも、わかりやすいエンタメ性で評価ポイントでした。あとは地味に声優陣が豪華です。
期間限定だとは思いますが、テレビ東京の公式チャンネルに全話が丸々アップされていたので、音源の紹介も兼ねてサムネの好みで選んだ第7話を埋め込んでおきます。OPは0:17~です。
今回の振り返りで水樹さんが歌唱を務めたナンバーを紹介するのは第十五弾以来となりますが、それ以前の更新分に目を向けると「絶刀・天羽々斬」(2012)のレビュー記事があります。同曲は曲名からも察せるように非常に日本的なトラックでしたが、「嘆きの華」もまたこれに近いエッセンスを持った楽曲です。先述の通り、台湾製のゲームを原作とするアニメ(内容は古代中国・春秋時代)の主題歌ではありますが、共通の文化圏に属している以上、音楽が目指す方向性に多少なりとも似た部分が存在することは理解に難くないかと思います。
つまりは「絶刀~」が好きな人には「嘆きの華」も刺さるであろうと言いたいだけなのですが、もう少し具体的に述べますと、謡(用語の意味はこちら)的な要素を旋律に抱く曲こそ、水樹さんの声質や歌い方が効果的に映えるよねと主張したいわけです。これには、元々演歌歌手志望だったことも多分に影響していると推察します。
加えて、続けざまに外部からの掘り下げとなって申し訳ありませんが、作詞が岩里祐穂さんであることも本曲を甚く気に入った理由のひとつです。岩里さんの書く歌詞の素晴らしさについては、関連記述のある過去記事の数が多いため、気になる方はブログ内検索を活用してくださいと丸投げします。
これらを事前情報として押さえた上で本曲を聴いていくと、まさにツボだらけで好きにならない道理が見当たりません。サビで顕著ですが、儚さと疾走感が綯い交ぜとなった緊張の旋律にのせて、"孤丘の夢 報われぬ愛の、亡骸でいい"と覚悟の極まった強い言葉を放り込まれると、否応なしに激情にかられるような心持になります。アニメ本編への期待値を高めているという点でも、OP曲として優秀です。
また、編曲の面ではやはり胡琴によるサウンドが王道で格好良いですね(文化圏を考慮して二胡と限定したいところですが、楽器の同定に自信がないためざっくり胡琴としました)。先述の「音楽が目指す方向性に多少なりとも似た部分が存在する」というのは、胡琴が指し示す範囲に日本の清楽に使われる楽器も含まれているように、伝来による共通性を考慮しての言となります。
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ここからは「中身の濃いレビューには発展させられそうにない曲」をまとめて紹介します。こう書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、スペースを作ってまで紹介しようと思うくらいにはお気に入りの楽曲群であることに留意してください。「発展させられそうにない」のは、僕の技量不足&時間不足によるものです。
なお、本記事は言及対象が多過ぎ&文章が長過ぎるせいで、字数制限への対策をしなければならなくなったため、以降では容量を食うAmazonリンクの表示を一部省略します。視覚的な仕切りとして使用しているだけなのでレビュー上は問題ありませんが、見づらくなってしまってすみません。
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『RELEASE THE SPYCE』OP曲・ツキカゲ(安齋由香里、沼倉愛美、藤田茜、洲崎綾、のぐちゆり、内田彩)による「スパッと!スパイ&スパイス」(2018)。「可愛い系」で紹介しようかとも思いましたが、歌詞の"カワイイだけじゃないのです"を考慮して「格好良い系」への分類としました。
なんと言っても小気味好いブラスを活かしたグルーヴィーなアレンジと、"スパッパッパラッパ"のパートによる中毒性に特筆すべき点があります。スパイモノ或いは探偵・怪盗モノにも似通った傾向がある印象ですが、金管が醸す華麗なイメージがスマートな仕事の演出につながるからか、この手のサウンドは定石ですよね。ヒゲドライバーさんのトラックメイキングにはお気に入りが多く、当ブログでも過去に三度はお名前を出した言及があります(①、②、③)。
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『うちのメイドがウザすぎる!』ED曲・鴨居つばめ(CV:沼倉愛美)&高梨ミーシャ(CV:白石晴香)「ときめき☆くらいまっくす」(2018)。振り返りの第十七弾では同作のOP曲をレビュー済ですが、その中で両名の歌唱分担量についてふれた通り、こちらはつばめがメインのナンバーです。
「格好良い系」の根拠としているのはAメロ裏のギターリフで、既聴感がないと言ったら嘘になるというか、洋楽のリファレンスがいくつか出てきそうではありますが、裏を返せばそれだけキャッチーだということで、否定意図は全くありません。基本形は勿論として、2番Aや2番サビ後間奏の変化形もひたすらにクールで、弾きたい欲に駆られます。睦月周平さんによるトラックを取り上げるのは、振り返りの第六弾および第十五弾に続いて三曲目です。
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『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』OP曲・Coda「Fighting Gold」(2018)。歴代主題歌の中では「ジョジョ ~その血の運命~」(2012)に次ぐお気に入りとなりました。歌唱と作編曲のクレジットは、同作1st Season Part2のOP曲「BLOODY STREAM」(2013)と共通です。
とりわけ好んでいるのはサビ裏のストリングスで、主旋律に呼応するように徐々にボルテージが上がっていくところに緊張感が湛えられていて、バトルが過激な5部の作風にこの上なくマッチしていると評します。良い意味でボーカルラインは地味というか、揺らぎがあって不安定(下手という意味ではありません)に感じるため、弦と合わさって完全体と言えるような相互補完的な楽想を称えたいです。
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『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』ED曲・ビッケブランカ「Buntline Special」(2018)。海外バンドによるナンバーかと勘違いしてしまうほどにサウンドがオーバーシーズですが、日本出身でしかもソロのシンガーソングライターの手に成る曲だと知って驚きました。
英語と日本語の織り交ぜ方が巧みで、譜割りやフロウが悉く計算されているような、将又センスに委ねた自由なものにも映り、どちらにせよ高度なサウンドクリエイション能力が窺えます。全体的にレイジーなラインと、絶妙な力加減の歌い方に心地好さがありますが、最もイヤガズムを覚えたのは、サビの"today"が下降していくところです。
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『ゾンビランドサガ』OP曲・フランシュシュ『徒花ネクロマンシー』(2018)。劇中歌も含めてハイクオリティな音楽が展開されていた作品ですが、その濃い内容を象徴するに相応しいだけのハイエントロピーな主題歌である点を買っています。アニソンらしさ全開というか、ジャケ写およびOP映像からもわかるように、戦隊モノが意識された王道の格好良さが特徴的です。音源では流石にカットされていますが、歌前に口上があるところやSEが曲と重なっても良しとする演出からも、有無を言わせぬ名曲ぶりが伝わってきます。
歌詞は何処を切り取っても鮮やかですが、感動すら覚えた一節は"枯れても走ることを命と呼べ"です。このようにゾンビならではの哀愁が勇壮へと昇華されたフレーズが殊更味わい深く、"唸れ 徒花/朽ち果てても進め"、"傷ひとつ無い 手など愚か"、"心を無くすことが死(おわり)と知れ"、"いつか誰もが散華する捨て石/輝け 刹那無限の火花"、"希望 高らかに打ち鳴らせ/呼吸よりも生きた証"…等々、枚挙に遑がありません。
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『SSSS.GRIDMAN』OP曲・OxT「UNION」(2018)。オクトはオーイシマサヨシとTom-H@ckによるユニットで、振り返りの第十三弾でトムハックが手掛けた楽曲を紹介した際には、本曲のレビューも予告してありました。
90年代前半の特撮を原作とするアニメという特殊性も関係してきますが、本曲もまた王道の格好良さを携えたヒロイックなナンバーで、"目を醒ませ/僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ"という立ち上がりに、わくわくしない人がいるでしょうか。作詞作曲を担ったのは大石昌良さんで、次々とヒット曲を生み出し続けている乗りに乗った現状を見ると、改めてアニソン作りの才に擢んでた方なのだなと感服します。
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『ソードアート・オンライン アリシゼーション』1st OP曲・LiSA「ADAMAS」(2018)。無印の1st OP曲もリサによるものであったため、ⅡでED曲への起用を複数挟んでいたとはいえ、やはり幕開けに据えられていると安定感が違いますね。
ロックサウンドを背にしたアッパーな幕開けから、次第に熱量を増していき、Bで一度クールダウンしてしっかりタメを作った後に、サビでそれらを一気に解き放ってスピーディーに駆けていくという、押さえるべき点は漏れなく押さえてキャッチーに、それでいて曲単体で勝負可能なリスニング向けの格好良さもきちんと兼ね備えられており、アガるアニソンのお手本と言えるでしょう。
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『FAIRY TAIL ファイナルシリーズ』1st OP曲・lol「power of the dream」(2018)。意外と嫌いじゃなかった枠とでも表現しましょうか、長期に亘って放送されているシリーズだけに主題歌の数も多く、同時に当たり外れの差も大きい印象が拭えない歴代のラインナップの中では、ダンサブルなアレンジが好感触でした。
サビ始まり後の間奏部は映像としてもダンスを描いている点がお気に入りで、人間形態のシャルルをメインとした可愛らしい仕上がりが、シンセリフの音自体のキュートさと噛み合い、中毒性を補強していると分析します。このリフはその後のサビ裏にも登場しますが、ボーカルラインに埋没せずにグルーヴィーな存在感を主張し続けているところが気持ち好いです。
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以上、【'18秋アニメ・アニソン(格好良い系)編】でした。本当は『からくりサーカス』1st OP曲・BUMP OF CHICKEN「月虹」も紹介したかったのですが、音源としてのリリースが未だないため見送りました。近年のバンプのナンバーではかなり好きなんですけどね。