今日の一曲!宮本佳那子「We can!! HUGっと!プリキュア」【'18・プリキュア編】 | A Flood of Music

今日の一曲!宮本佳那子「We can!! HUGっと!プリキュア」【'18・プリキュア編】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2018年のアニソンを振り返る】の第六弾『プリキュアシリーズ』編です。【追記ここまで】



 2018年のプリキュアシリーズは、その名も『HUGっと!プリキュア』。本放送中の作品であるため、現段階では総括するような記述を控えたく思いますが、まさかの特殊ED回があったり、初代を含む過去作のプリキュアが登場したり、遂には正式に男の子のプリキュアが誕生したりと、従来のフレームワークに囚われまいとする意欲作であることは間違いないでしょう。

 その斬新性に関してはピクシブ百科事典に詳しいので、興味のある方はそちらを参照してくださいと丸投げします。『ハグプリ』に限らず、渋百科のプリキュア関連の項目はどれも内容に富んでいるため、以前から読み物として好みです。Wikipediaだったら「独自研究ガー」と指摘されそうな内容ではありますが、当該項目に明るい書き手ならではの視点や立脚地が窺える文章は読んでいて楽しい。


 去年の振り返り記事では、作品のOP曲および前期/後期ED曲をレビューしたので、今年もこれらに該当する3曲を代表として取り上げることにします。c/wやボーカルアルバムに収録されている挿入歌や、サウンドラックの楽曲もプレイバックの対象とはなりますが、作品の顔と言える通常の主題歌に絞ったほうが、多くのニーズに合致するだろうと考えました。




 ということで、まずはOP曲である宮本佳那子の「We can!! HUGっと!プリキュア」(2018)を、「今日の一曲!」としてメインで大きく扱います。


 歌唱を務めている宮本さんはプリキュアシリーズのファンにとってはお馴染みの方で、去年レビューした『キラキラ☆プリキュアアラモード』の前期/後期ED曲も彼女によるものですし、もっと遡って『Yes!プリキュア5』および『Yes!プリキュア5GoGo!』各ED曲の歌い手だと説明されれば、懐かしく感じる古参も多いことでしょう。『プリアラ』と『GoGo!』は現在もTOKYO MXで再放送されているので、リアルタイムで接している視聴者も居るかもしれませんね。

 彼女は声優としても『ドキドキ!プリキュア』で剣崎真琴(キュアソード)を演じていて、シリーズに於ける貢献度は非常に高い存在です。このあたりのバックグラウンドは去年の振り返りでも簡単にふれていますし、ミュージカル畑出身であることや、その声質および発声の素晴らしさに関しても既に言及済みであるため、それらについては前掲の過去記事を参照していただくとして、本記事では楽曲自体の分析に注力することにします。


 本曲のトラックメイキングはNostalgic Orchestra(作詞:藤本記子・作編曲:福富雅之)によるもので、宮本さんをボーカルに据えた楽曲としては、『プリアラ』前期ED曲「レッツ・ラ・クッキン☆ショータイム」(2017)と同じクレジット(正確には作詞作曲が藤本さん・編曲が福富さん)です。

 またも詳細は過去記事へと丸投げしますが、「レッツ~」に関してはブラスアレンジとボーカルラインが混然一体となった三次元的な編曲を評価ポイントとしていました。この要素は「We can~」にも認めることが出来、ブラスを「ストリングス」に変えて、「サビメロだけを取り立てたら地味」という要素を加味すれば、同様の「三次元的な編曲の妙」が感じられると主張します。


 本曲はサビ始まりですが、頭からではなく後半の旋律を先出しするタイプです。この構成自体は特段珍しくありませんが、初聴の段階では「冒頭のこれがサビの旋律なんだな」と素直に認識するため、アニメのOPでははなによるナレーションを受け継ぐ形で、未来志向に展開していくハイポテンシャルなメロディだと感じ、単純に「ワクワクする立ち上がりだな」と思いました。

 しかし、この意識を持ったままBメロ後の通常サビに入ると少し戸惑います。"Jump!Jump!(ジャンジャン) デッカイ地球も"という新たなパートが登場し、これがサビ前半の旋律にあたるわけですが、【軽快でリズミカルなAメロ → 流麗な立ち上がりからポップに展開していくBメロ →】… を受けるメロディとしては、些か地味ではないでしょうか。

 とはいえ、これは技巧的に配置されたものだと分析していています。ここでワンクッション置くことで、サビ後半のメロディアスさが一層際立ち、先出ししていたことも功を奏して、前述した「ハイポテンシャル」の布石が鮮やかに効いてくるからです。表題を含む歌詞の"We can!! なんだって出来るよ"も、作編曲によって言葉の説得力が底上げされているように聴こえ、ポジティブなメッセージの波及に貢献している点でも良アレンジであると評します。


 より細かく分解していけば、この地味めなサビ前半は「ストリングスを聴かせるためのセクション」でもあると言え、ここまでも間奏やBメロ裏の要所要所で楽曲を下支えしていたストリングスが、サビ前半では省略不可部という意味で助奏(オブリガート)にまで昇格し、主旋律(ボーカルライン)に対して強い寄り添いを見せているところが素敵です。裏に弦がなかったら密度が低過ぎて、先に記したような効果が強く出ていなかっただろうと推測します。

 メインが控えめになることでサブが目立つ、或いは両者でひとつの合算的な旋律であると受け取れる点は、まさに「三次元的な編曲」ではないでしょうか。ボーカルラインのキャッチーさが主に重宝されるアニソン界では;とりわけ子供向けのアニメでは挑戦的ですらあると思うのですが、この「調和」に重きを置いたNostalgic Orchestraのサウンドメイキングは、『ハグプリ』のというかプリキュアシリーズ全般の世界観にマッチしているので、絶妙なラインで聴き易さを保てているのだとまとめます。






 続いて紹介するのは前期ED曲、キュアエール(引坂理絵)、キュアアンジュ(本泉莉奈)、キュアエトワール(小倉唯)による「HUGっと!未来☆ドリーマー」(2018)です。


 本曲で印象的なのはやはりラップ調のパート(職業名の羅列セクション)だと思いますが、この良い意味でわちゃわちゃとしている感じは、作編曲者が睦月周平さんであることで個人的には得心がいきました。

 当ブログでレビュー済の氏のワークスとしては、『ひなこのーと』のOP曲「あ・え・い・う・え・お・あお!!」(2017)での編曲がありますが、同曲は過剰なほどにプログレッシブな楽想が印象的で、それを補助するアレンジ力も高く評価しています。また、『NEW GAME!!』キャラソンの「BUG! BUG! SURVIVAL!」(2017)の編曲者も睦月さんで、過去に曲名だけは出していたのでこれもリンクしておきます。直近のアニメへの提供楽曲だと、『あそびあそばせ』のED曲「インキャインパルス」(2018)や、『うちのメイドがウザすぎる!』のED曲「ときめき☆くらいまっくす」(2018)でも作編曲を担当していて、これらもまた主張の強いアレンジが特徴的なナンバーであるため、この手のアグレッシブさを得意とするクリエイターだという印象です。ちなみにこの二作品に関しては、後にアップする予定のクール別の振り返り記事で、双方のOP曲をメインで立てる気でいるので、ED曲もあわせてレビューの対象になるだろうと予告しておきます。


 作り手の掘り下げで別の作品に飛びまくってしまいましたが、例示した楽曲群に見られるような自由闊達な構成力が「HUGっと!未来☆ドリーマー」にも見られるというのが主張の肝で、ひいてはそれが本曲のテーマと言える「無限の可能性」の演出につながり、これまた適切なアウトプットであるとのロジックで高評価です。

 …こうしてあれこれ難しく考えなくとも、このロッキンなビートに心が躍るならばそれで正解だと、敢えてまとめはシンプルにしておきます。





 最後は追加戦士2名を加えた後期ED曲、キュアエール(引坂理絵)、キュアアンジュ(本泉莉奈)、キュアエトワール(小倉唯)、キュアマシェリ(田村奈央)、キュアアムール(田村ゆかり)による「HUGっと!YELL FOR YOU」(2018)をレビュー。

 個人的には田村ゆかりさんがプリキュアになれた(=作品に出演出来た)ことに感慨深いものがあります。ファンが勝手に騒いでいただけかもしれませんが、昔から彼女の悲願だったみたいな風潮がありましたよね?キングレコード声優の御三家では、水樹奈々さんが早く2010年にキュアブロッサムを、堀江由衣さんが2016年にキュアマジカルを演じたので、近年では殊更「まだなのか」の声が強かったですよね。冒頭の斬新性の箇所ではふれ損ねましたが、正体がアンドロイドであることや、一つのアイテムで二人同時に変身するという要素も革新的で、この満を持した上で只者ではない扱いは、引っ張った甲斐があるなと思います。




 こちらは従来のプリキュアシリーズのED曲らしいというか、ストレートにダンサブルな仕上がりを見せているところがお気に入りです。イントロ("YES!MORE!チアフル!"~)のバックトラックを数秒聴いただけで、「これ好きなやつだわ」と即断出来るほどにはツボのサウンドでした。

 木琴というか鍵盤打楽器系の音だと思いますが、奏で方は鍵盤系ではなくスティールパンに近い感じで、南国っぽい趣のゆるさが醸されている点が心地好いです。この雰囲気はAメロ裏まで続き、途中から挿入されるファイフ系の音(1番では"チャンス"の後と、"ほら、バネが羽根になる!"の裏で)と相俟って、リラックス効果が抜群であると絶賛します。歌い手としてはエトワールおよびアムールの担当と重なる部分で、田村(ゆ)さんに関しては前述の通り昔から好みの歌声の持ち主ですし、この記事に記したように小倉唯さんの声質にも光るものを感じているので、個人的な贔屓目も込みでこのパートは癒しです。


 サビのポップセンスも流石で、そのキャッチーな旋律はそれだけでも聴き易さに直結していますが、繰り返し聴くことで増すタイプのスルメ的な魅力も同時に宿していて、その根源は「音圧のちょうどよさ」に求められると踏んでいます。

 レビュー執筆の際には当該楽曲をヘビロテするが僕のスタイルですが、稀に「延々と流していても全く疲れない曲」が存在し、その場合の結論は「仕上げ方が良いから」に落ち着くことが多く、本曲はこのケースに見事に当て嵌まるという意味でも良曲だとの判断です。普通これだけ何度も応援されたら(=繰り返し聴いていたら)辟易してくると思うのですが、今のところ全くその気配すらありません。笑


 「音圧のよさ」という、ともすれば主観により過ぎた表現に逃げている気もするので、もう少し具体性のある記述でこの点を掘り下げますと、本曲がヘビロテ鑑賞に耐え得るのには、「展開のメリハリによる聴き易さ」もあると分析します。どのようなメリハリかと言うと、エールを解釈したのであろう「チアっぽい部分」と「それ以外の部分」から成る構成のことです。

 本曲のわかりやすいチア要素は、冒頭から幾度か挿入される"YES!MORE!チアフル!"のコーラスセクションで、この類の快活さがまず根底にあるものとします。続くAメロは、それ自体はポップスの範囲の中で綺麗な旋律でありながら、"エイエンに☆エイエイオー!"のような合いの手が入るところはチア的もしくはアニソン的です。Bメロは1番の段階ではあまり意識されませんが、2番ではバックのクラップが目立つ編曲となっており、これもチアらしいファクターだと分析します。ダンスミュージックのマナーだとしても可です。一旦サビを飛ばすと、Cメロ("ヘイ!Are you ready?"~)も直球の応援パートですよね。

 サビにもチアらしい上向きの感があることは、先に出した「ポップセンス」という言葉でまとめて表現したつもりですが、サビはどちらかと言えば「アニメの主題歌としてのわかりやすさ」を取り立てた、素直な解釈に基いているとの理解です。しかしここで一度引いているからこそ、サビの後で再びコーラスセクションに戻った際に、よりチアらしさが際立つという循環が生まれているのでしょう。このように、根底にあるチア/応援歌の要素が良い塩梅で存在を主張したりしなかったりしているので、励まし一辺倒ではなく引くところは引く「真の応援」が実現されていると受け取れ、ゆえに聴き易いのだろうとまとめます。





 以上、本記事までの6本が【2018年のアニソンを振り返るシリーズ】の「アニソン+編」でした。

 厳密にはあと『アイドルマスターシリーズ』が残っているのですが、未だ勉強途中で今年サービス開始となった『シャイニーカラーズ(シャニマス)』まで手が回っていないため見送ります。音楽のみのファンゆえに元より大した記事は書けないのですが、『Tokyo 7th シスターズ』を好いている方が『シャニマス』も推しているパターンを割と見かけるので、作品自体にも興味が出てきているんですよね。


 次回の更新分から漸く「クール別」の2018年アニソンプレイバックに入れますが、本当にクール別で書くかどうかも含めてどういうスタイルにするか悩んでいるので、今後は更新の間隔が開いてしまうかもしれません。そもそも年末年始は予定が不規則ですし、未だ音源として所持していないものをCD・配信・レンタル問わず揃える補完作業も12月の恒例行事として実行途中なので、暫くはインプット期間に充てたいのが本音です。

 更にはこうしてアニソン記事ばかり書いていると、別のジャンルに逃避したくなる欲求も出てくるので、もしかしたらアニソン以外の記事を挟むかもしれないことも可能性として挙げておきます。なるべく幅広いジャンルを扱うブログを目指しているので、バランスは取っていきたいのです。