今日の一曲!本田華子、オリヴィア、野村香純「スリピス」【'18夏アニメ・アニソン(切ない系)編】
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2018年のアニソンを振り返る】の第十六弾「夏アニメ・切ない系」編です。【追記ここまで】
本記事では2018年の夏アニメ(7月~9月)の主題歌の中から、「アニソン(切ない系)」に分類される楽曲をまとめて紹介します。本企画の詳細については、この記事の冒頭部を参照。
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メインで取り上げる「今日の一曲!」は、『あそびあそばせ』OP曲・本田華子(CV:木野日菜)、オリヴィア(CV:長江里加)、野村香純(CV:小原好美)による「スリピス」(2018)です。
今回の振り返りの第十五弾では同作のED曲を先にレビューしていますが、その中で「詐欺」という言葉を使用しているように、CMに於いて出版社が自ら「表紙詐欺」を謳う漫画を原作としているだけはあって、アニメのオープニング映像は音楽も込みで「OP詐欺」と形容出来る納得の仕上がりでした。
僕は本当に事前に何も知らなくて、OPを観た限りではてっきり「偏差値の高いお嬢様学校に通う浮世離れした女学生達が、古今東西の世俗的な遊びを前にして、新鮮な面持ちでキャッキャウフフする作品」かと期待したのですが、本編が始まって割かし早い段階でオリヴィアが華子に平手打ちをかましたのを前にして;厳密にはその際の変顔と後の下ネタを受けて、啓発CMでの被害者の弁の通り「アレ?おかしいな~って」と、騙されたことに気付いた次第です。笑
上掲の動画はそのOPを元にしてリリックビデオの体裁で作られたMVですが、歌詞が表示されていることで尚一層、勘違いしてしまうのも無理がないとお分かりいただけるかと思います。というわけで、まずは歌詞の可憐さから掘り下げていくとしましょう。
"影踏み"に"かくれんぼ"に"なわとび"と、遊びの名前がそのまま取り入れられていたり、"ふりだし"に"せっせっせーの"に"さいころ"と、遊びに付随する用語が鏤められていたりするところは、(実際の作風はともかく)コンセプトに沿った良い仕事だと言えます。
しかしより素晴らしいのは、これらのワードが文学性に富むフレーズの中に落とし込まれている点で、たとえば冒頭の"影踏みのはやい鼓動 かさねてぼくらはであった/はだしのハートかくれんぼ/はじまりはちいさな嘘"は、遊戯そのものというよりは比喩表現として描写が強く、これによってプラトニックとエロティックの狭間を往来するような危うい趣が醸されていて素敵です。児戯の名前を使って、一歩進んだ関係性を示唆しているのが巧いと感じました。
好みのフレーズを更に挙げていきます。"桜のはなちる窓にからまってくなわとび"から始まる、学校にフォーカスした四季の描写。"ささくれ感度 糸電話 あいことば一緒ね ずっと"に見られる、ふれたら壊れてしまいそうなフラジャイルな感性。"1 2 3 はどうして、ゼロでは割れないの?"といった素朴な疑問から抽出可能な、知的好奇心と理不尽さへの抵抗(ゼロ除算を数学的に納得出来る段階にはないという意味で)。"二限目回した手紙 恋バナは分刻み"から続く、教室という小宇宙内に観測される心模様の記録。この辺りの言葉繰りには、ひと際光るものを感じました。
例示したうちの3/4が2番のAとBに集中していることから察せるかもしれませんが、当該のセクションは歌詞だけでなくサウンドにも卓越した表現力が認められるため、以降ではアレンジ面から言葉の機微について迫っていきます。主に「弦遣いの巧さ」に対する言及です。
1番サビ後の間奏では左で優美な旋律を奏でていたストリングスが、2番のAに入ると右へパンした上で低音が強調された重厚なものへとシフトします。この対比と質感の変化は、歌詞の"晴れの日も雨の日もはじめてみたいでハナウタ/ささくれ感度 糸電話"に寄り添ったものだと捉えていて、続く"あいことば一緒ね ずっと"で示されているような永遠性とは裏腹に、僅かな刺激で移ろってしまいかねない脆さがあることを、音として解釈した結果であるとの認識です。弦(糸)の万能性や可変性に着目した理解だと換言しても構いません。
このレベルの妄想力で続けます。2番A後半("1 2 3 はどうして"~)ではピチカートが印象的ですが、その弾けるような音は宛ら放った小石が水面に起こす波紋を連想させ、これは"ほんとなら教えて、そっと みてて、もっと"と尽きない興味によって、"スリピス"の関係性や均衡に変化が生じていくことの表現だと受け取りました。疑問の連続を小石の投擲に、変わる人間模様を波紋の交差に喩えた;正確にはこれらのファクターを奏法から感じ取ったという、回りくどい解釈です。
そして2番Bへ。俄に勢いを増して楽曲が本格的に走り出す部分ですが、ここでもストリングスが果たしている補助的な効果は大きいと主張します。グルーヴの最大の功労者は鍵盤だろうと前置きした上で、リズミカルな入りからメロディアスに展開していく冒頭部(~"テスト居残り")で存在を顕にし、主旋律と重なることで疾走感に寄与している中盤("心だけ解けない")を経て、シンプルなリピートによってリズム隊に徹し始める後半("教室のうしろの世界"~)へと移行する。この短いスパンで役割を変えながら進んでいくところに、先述した「弦の万能性/可変性」の妙があると絶賛したいです。
加えて、同じ弦でもここまで大きくストリングスとまとめて扱ってきた楽器群とは別口で、ギターによる高度な編曲が披露されているのも2番Bの秀逸な点です。"うしろの世界"の裏で場違いに力強く鳴り響く歪んだエレキを指しての言ですが、この一音に"教室のうしろの世界 すきま風置き去り"のサウンドスケープが過不足なく宿っていると感じます。ED曲のタイトルが「インキャインパルス」であること、ひいては「本曲の詐欺の裏には何があるのか?」といったことに関連させての所感です。
クラス内カーストに於いて所謂陰キャに属す人達ならではのポイント・オブ・ビューを、限りなく美化してセンチメンタルに仕立てたのが当該部の歌詞だと解釈しているので、楽想が求める精美さの中で唯一反抗的な振る舞いを見せているこのギターは、清楚な外面の陰に潜む他意の仄めかしを意識的に行ったものだと言え、楽曲に多層的な趣を与えることに成功していると分析出来ます。
ただし、正道の理解も一応披露しておきましょう。"二限目回した手紙"または"先生もしらない宿題"に描かれているように、大人の目が届かないジュブナイルな世界での秘め事を取り立てているという文脈に目を向ければ、"教室のうしろの世界"は文字通り空間的/時間的なものを指しているとしたほうが自然かとは思います。先に提示した陰キャ云々の感想は、歌詞内容だけから純粋に出てきたものではないことに留意してください。
残るはメロディについてですが、ここまでに示してきた言辞や音遣いに纏わる種々の美点に相応しく、旋律もまた儚さと少女性を兼ね備えた練度の高いものだと評せます。しかしサビメロには思うところがあって、詐欺に気が付いていない初聴時にさえ、その隠しきれないあざとさに対しては「狙い過ぎ」だと、ロリっぽさが鼻に付いてやや苦手という判断をしていたくらいでした。A/Bの積み重ねからすると、もう少し影のあるメロでもよかったのではと。
勿論、作風を正しく認識してからはすぐに評価も一転し、この過剰さは「実に的確なエイミング」である(=視聴者騙しを徹底している)と絶賛するに至るわけですが、聴く側が小恥ずかしくなってしまうほどの攻め方をしているからこそ、歌詞の愛らしさに負けない旋律たりえているのだろうとまとめます。
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続いて紹介するのは『ヤマノススメ サードシーズン』ED曲・あおい(CV:井口裕香)、ひなた(CV:阿澄佳奈)による「色違いの翼」(2018)です。今回の振り返りの第十三弾では同作のOP曲をメインで取り上げており、前のシーズンも含めて主題歌に恵まれ続けている作品だと評価しています。
上掲記事内に書いたことの再掲となりますが、僕はそこで「『ヤマノススメ』の主題歌はどれも明るさの裏に切なさを滲ませるのが上手」や、「稲葉さんの卓越した作詞能力に関しては(中略)同作ED曲のほうがより衝撃的だった」などと述べているため、以降はこの点を中心に読み解いていくとしましょう。
稲葉エミさんによる歌詞の素晴らしさについては、同作『セカンドシーズン』のOP曲「夏色プレゼント」(2014)のレビュー記事も参考になるかと思うのでリンクしておきますが、本曲にも心揺さぶられるフレーズがいくつかありました。通時的に紹介していきます。
一点目は2番A頭の、"夢はときどき錆びた音させて急停止するよ"です。「夢は思い描いた通りには叶わない」といった着眼点自体はごくありふれたものですし、歌詞に落とし込む場合の描き方も個々人で様々でしょうが、"錆びた音させて急停止"という「長期間の野晒し」と「(それに気付かず)唐突に襲い来る不調」を背景にした表現は、夢が時間の経過と共に変質してしまう残酷さを鮮やかに切り取った詞華であると称賛します。
1番のサビには"ブランコ"が登場するので、この軋みが聞こえてきそうな形容はそこに由来していると考えられますが、きちんと気を配っていれば防げたかもしれない夢の失速を、知っていながらも招いてしまう人間の愚かさにフォーカスした、とても含蓄に富む一節だと言えるでしょう。これを受ける"熱い涙もたまに 必要かな"もまさにその通りで、誘発されて目頭が熱くなってしまいそうでした。
二点目は2番サビ後半の、"転びそうなら 支えてあげる/かさぶたは ほっといてあげる"です。一文目だけではともすれば陳腐に響きかねないサポートの姿勢が、二文目の自己修復力を阻害しない表現の補足によって、本質的な意味での「優しさ」へと昇華されていて、尊みがヤバイと語彙力低下で唸るほかありません。
三点目はCメロの全文、"窓を叩く風が あの山の木々を揺らし 帰って来たよ/何を与え、与えられて きたの まだ旅の途中"です。窺える循環への意識が、ここまでの歌詞の集大成として機能しているところに美があります。主にBメロの伏線回収ですが、1番では四季の描写と共に、"なんで地球が丸いか知ってる?"と"この場所に帰ってくるため"が、2番では一日の描写と共に、"空と海の色が違うのは"と"お互いの居場所知ってるから"が、それぞれループに絡む表現ですよね。
他にも"無茶な 足音 鳴らし 駆け出そう"、"ナビは 太陽と 繋いだ手だけ"、"行こう パスポートのいらない頂上(そら)へ"、"あかね雲の粋なはからいで/刹那 ひとつになる世界"等々、素敵な言葉繰りの数々が随所に見られ、改めて稲葉さんの作詞能力には擢んでたものがあるなと思いました。
最後に歌詞以外のツボも挙げておきます。振り返りの第十三弾にもお名前を出した杉下トキヤさんの手に成る作曲面では、ラスサビの途中にBメロの一部が挿入される("「いつもふたりで作戦会議」"~)自由な楽想が好みでした。Bに於いてはラップ調でややダウナーな向きのあった旋律(特に"「夜はスズムシのライブ」"で顕著)が、ラスサビではアッパーなものへと変貌を遂げているところが技巧的です。
ここは鍵括弧で示されているように台詞然としたパートであるため、この印象の差は歌い手の演技によるものかもしれませんけどね。実際、c/wに収録されている個人のバージョンでは当該部の歌詞が異なっており、オリジナルとはまた違った個性のあるテイクを楽しむことが出来ます。
続いてはアレンジ面に対する言及です。編曲者にクレジットされているKanadeYUKは、杉下さんと同じくTaWaRa所属のクリエイター・安田悠基さんとうたたね歌菜さんによるユニット名で、名前こそ出していませんが、一昨年の振り返り記事で紹介したナンバー「Deep in Abyss」(2017)にて覚えはありました。
本曲については、サビ裏の激しいギターサウンドに特筆すべきものがあると感じていて、オフボで聴くとよりわかりやすいのですが、サビに突入した瞬間に過る強大な力に引っ張られるような感覚に、「色違いの翼」を幻視した気がします。
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お次は『音楽少女』のプチ特集です。同作の関連楽曲には複数のお気に入りがあるため、一曲あたりの文章量は控えめとなりますがまとめて紹介します。このような性質上、テーマ「○○系」にはこだわらない選曲にしましたが、殆どは「切ない系」に分類していいであろうナンバーです。
まずは同作の挿入歌/特殊ED曲・音楽少女「お願いマーガレット」(2018)をレビューします。公式にアップされている試聴音源は下掲の「(雪野日陽ver.)」だけで、全員で歌っているバージョンとはまた印象も異なるのですが、往年のアイドルソングらしい切なさを抱いた楽曲の骨子自体が好みなため、雰囲気は伝わるだろうと埋め込み。
今し方出した「往年の~」という形容が、僕の中では本曲の魅力を端的に表したものとなりますが、もう少し具体的に説明しますと、センチメンタルだけれど疾走感のあるキャッチーなサビメロにのせて、"お願いマーガレット 夢のロシアンルーレット"と、意味よりも響きを優先したと感じられる横文字入りの歌詞が登場する点を指して、王道の良さがあると言いたいのでした。
歌詞が意味不明だと主張したいわけではなくて、2番の"儚いマーマレード 一度だけのエスコート"にも同様のエッセンスがあるように、文法的或いは文脈的な理解より先にガーリーなイメージが先行してくるような、そのワードチョイスこそが巧いという賛辞です。偏見や独自研究の向きもあるかもしれませんが、これは大衆に響く女性アイドルソングの特徴のひとつだと考えています。
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二番手で紹介するのは、雪野日陽(CV.大野柚布子)「universe melody」(2018)です。『お願いマーガレット』のc/w曲ですが、表題曲に負けず劣らずの良曲であったため、あわせてふれておきます。
「お願い~」に関しては、音楽少女全員によって歌われているものと比べると、上掲動画の「日陽ver.」は正直良さが薄れていると思うのですが、決して大野さんの声質が嫌いなわけではなくて(その証拠として別作品の関連記事をリンクしておきます)、彼女の儚く甘い歌声は寧ろ「universe~」にて正しく活かされているとの認識です。
スウィートな音遣いによるテクノポップなトラックは、表面的な可愛らしさとは対照的に、聴き込むほどに精緻な音像に心酔していけるような凝った仕上がりとなっていて、とりわけBメロでのフィルター使いやリバーブ周りには強いこだわりが窺えます。そこにウィスパーボイスが心地好く溶け込み、曲名通りのコズミックでミュージカルなフレーズが次々と展開されていく楽想は、聴く者に癒しと安堵を与えながら根源へと誘う、子守唄のような性質を帯びていると表現可能です。
この限りなくユーフォニアスなアウトプットを耳にしては、『音楽少女』という作品題に相応しいだけのポテンシャルを秘めた、隠れた名曲であるとの高評価を下すほかありません。
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ソロ曲の挿入歌では、西尾未来(CV.岡咲美保) 「フライガール」(2018)がいちばんのおすすめです。楽曲自体のクオリティもさることながら、キャラクターとエピソードを踏まえたコンセプチュアルな内容を気に入っています。
アニメを視聴済の人というか未来のキャラを知っている人からしたら、曲名の「フライガール」は'fly'ではなく'fry'のことだと自明であるように(ダブルミーニング的な面もあるでしょうが)、ネタ曲ならではの力の抜け具合と、しっかりとしたサウンドメイキングとのギャップでもって、中毒性が強化されているナンバーです。イントロから受ける正統派の雰囲気にワクワクした後に、"ぼくもキミもね、てれやさん なぜかことばにならなくて/キモチ伝わらないときは"と、順当な歌詞が続いたと思いきや、結びに来るのは"からあげ!からあげ!"ですからね。笑
メロディラインにはもう少し練る余地があるような気はしますが、前述の通りバックトラックは作り込まれている、且つ非常にダンサブルなものであるため、グルーヴを重視したがゆえのシンプルな旋律だと受け取れば得心がいきます。
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ラストはED曲・音楽少女「シャイニング・ピース」(2018)をピックアップ。上掲動画は最終話で披露された、はなこも加えた12人バージョンです。OP曲・小倉唯「永遠少年」(2018)も同じクレジットですが、Time Files, inc所属のクリエイター【作詞:磯谷佳江、作曲:小野貴光、編曲:玉木千尋】によるワークスへの信頼に関しては、過去記事にも言及がある(「湯けむりユートピア」の項)ため、参考までにリンクしておきます。
本曲の中で最もツボだったのは、イントロや曲間に挿入されるコーラス的な側面の強いパート("Shining Dreamer"~)の存在です。この上昇志向のセクションに宿っている煌めきと切なさの畳み掛けによって、アニメのクローザーとしての役割をこの上なく適切に果たせていたと思います。主旋律に対して競うように奏でられているギターも、走り出したくなるような衝動を駆り立てていて素晴らしいです。
Bメロやサビにもコーラスワークによる多層的なアプローチが見られ、大所帯ならではの楽想である点にも好感が持てます。あとはくだらない補足ですが、サビ頭の"今輝き増す"は歌詞を見るまで「今輝きます」と誤解していたので、丁寧に宣言する体にサクセスストーリーの感があるなと、勝手に都合良く解釈していました。笑
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ここからは「中身の濃いレビューには発展させられそうにない曲」をまとめて紹介します。こう書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、スペースを作ってまで紹介しようと思うくらいにはお気に入りの楽曲群であることに留意してください。「発展させられそうにない」のは、僕の技量不足&時間不足によるものです。
『ISLAND』OP曲・田村ゆかり「永遠のひとつ」(2018)。現状では一記事しかないとはいえ、単独でブログテーマを用意してあるくらいには、僕は田村さんのことを歌手としても高く評価しています。従って、リリースされる楽曲の殆どに自然と好意的な感想を抱いてしまうのですが、彼女の長いキャリア・ディスコグラフィーの上で比較しても、本曲は好きの上位に食い込んでくるほどに個人的なヒットを記録したナンバーでした。
離島を主な舞台にしたビジュアルノベルを原作とするアニメの主題歌にぴったりの、夏らしさや恋心や憂いの諸々が(ネタバレになりますがSF的な要素も)全て内包されていて、この雰囲気を音楽ひいては歌声のみでも正しく演出出来ているのは、流石ベテランのなせる業だと絶賛します。若干懐古厨じみた認識もあるのでしょうが、『ISLAND』のアニメには2000年代半ば頃の懐かしさを覚えたので、音楽も含めて安心感がありました。
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『ハイスコアガール』ED曲・やくしまるえつこ「放課後ディストラクション」(2018)。彼女についてもまた、通常時であれば単独にテーマを立てているくらいにはその音楽に馴染みがありますが、同曲に関しては寧ろ彼女らしさが際立ち過ぎているというか、メロディラインにティカ・αっぽさが色濃く表れていて、悪く言えば「過去曲の焼直し」といった後向きの感想を初聴時には抱いてしまうほどでした。
しかし繰り返し聴くうちに…というよりフルで聴いたことで、アレンジも含めた混然一体の味がわかってきたので、評価は次第にプラスへと傾いていきます。とりわけ中盤のボコーダーを通して歌われているセクションは、Aメロの旋律が中抜きされたような変則的なラインが、哀愁を漂わせながら鳴いているギターと相俟って、並行世界もしくは外宇宙を独り彷徨っているかのような、強烈な孤独を感じさせるサウンドスケープで素敵でした。日常から地続きの異世界にトリップするかの如き楽想であるため、最初に感じた既聴感の正体を「基準世界の表現」だと見做せば、敢えてなのではという深読みも可能かもしれません。
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『ゆらぎ荘の幽奈さん』ED曲・湯ノ花幽奈(島袋美由利)・宮崎千紗希(鈴木絵理)・雨野狭霧(高橋李依)による「Happen~木枯らしに吹かれて~」(2018)。振り返りの第十三弾では同作のOP曲をレビューしているので、作品ごと主題歌を気に入ったパターンかと思われるかもしれませんが、本曲の選曲理由はまた別口で、作詞が川田まみさん/作編曲が中沢伴行さんという、元I've(且つ夫婦)による確かなサウンドプロダクションに惹かれてのチョイスとなります。I've Soundについての概説的なことは、過去記事を参照してください。
心地好い跳ね感のあるトラックの上を、切なくも愛らしい旋律が滑っていく点だけを取り立てれば、真面目な方向の中沢さんらしいワークスだという印象ですが、やや電波の趣が滲む"(ドキメキトキメキドキ)"コーラスの挿入によって、そういえばKOTOKO TO AKI「恋愛CHU!」(2001)のような曲も書けるのが中沢さんの凄さだったなと、2017年の振り返り記事にも記したことを再度思いました。笑
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以上、【'18夏アニメ・アニソン(切ない系)編】でした。残すは'18秋アニメの三記事となりましたが、更新ペースを上げるのにも限界があった(+予定より記事数が増えた)ため、二月に食い込んでしまう体たらくですみません。…といっても、'18秋まで来たら今期のひとつ前のクールなので、そこまで過去の話でもないだろうと前向きに考えて、引き続き振り返っていきます。
本記事では2018年の夏アニメ(7月~9月)の主題歌の中から、「アニソン(切ない系)」に分類される楽曲をまとめて紹介します。本企画の詳細については、この記事の冒頭部を参照。
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メインで取り上げる「今日の一曲!」は、『あそびあそばせ』OP曲・本田華子(CV:木野日菜)、オリヴィア(CV:長江里加)、野村香純(CV:小原好美)による「スリピス」(2018)です。
今回の振り返りの第十五弾では同作のED曲を先にレビューしていますが、その中で「詐欺」という言葉を使用しているように、CMに於いて出版社が自ら「表紙詐欺」を謳う漫画を原作としているだけはあって、アニメのオープニング映像は音楽も込みで「OP詐欺」と形容出来る納得の仕上がりでした。
僕は本当に事前に何も知らなくて、OPを観た限りではてっきり「偏差値の高いお嬢様学校に通う浮世離れした女学生達が、古今東西の世俗的な遊びを前にして、新鮮な面持ちでキャッキャウフフする作品」かと期待したのですが、本編が始まって割かし早い段階でオリヴィアが華子に平手打ちをかましたのを前にして;厳密にはその際の変顔と後の下ネタを受けて、啓発CMでの被害者の弁の通り「アレ?おかしいな~って」と、騙されたことに気付いた次第です。笑
上掲の動画はそのOPを元にしてリリックビデオの体裁で作られたMVですが、歌詞が表示されていることで尚一層、勘違いしてしまうのも無理がないとお分かりいただけるかと思います。というわけで、まずは歌詞の可憐さから掘り下げていくとしましょう。
"影踏み"に"かくれんぼ"に"なわとび"と、遊びの名前がそのまま取り入れられていたり、"ふりだし"に"せっせっせーの"に"さいころ"と、遊びに付随する用語が鏤められていたりするところは、(実際の作風はともかく)コンセプトに沿った良い仕事だと言えます。
しかしより素晴らしいのは、これらのワードが文学性に富むフレーズの中に落とし込まれている点で、たとえば冒頭の"影踏みのはやい鼓動 かさねてぼくらはであった/はだしのハートかくれんぼ/はじまりはちいさな嘘"は、遊戯そのものというよりは比喩表現として描写が強く、これによってプラトニックとエロティックの狭間を往来するような危うい趣が醸されていて素敵です。児戯の名前を使って、一歩進んだ関係性を示唆しているのが巧いと感じました。
好みのフレーズを更に挙げていきます。"桜のはなちる窓にからまってくなわとび"から始まる、学校にフォーカスした四季の描写。"ささくれ感度 糸電話 あいことば一緒ね ずっと"に見られる、ふれたら壊れてしまいそうなフラジャイルな感性。"1 2 3 はどうして、ゼロでは割れないの?"といった素朴な疑問から抽出可能な、知的好奇心と理不尽さへの抵抗(ゼロ除算を数学的に納得出来る段階にはないという意味で)。"二限目回した手紙 恋バナは分刻み"から続く、教室という小宇宙内に観測される心模様の記録。この辺りの言葉繰りには、ひと際光るものを感じました。
例示したうちの3/4が2番のAとBに集中していることから察せるかもしれませんが、当該のセクションは歌詞だけでなくサウンドにも卓越した表現力が認められるため、以降ではアレンジ面から言葉の機微について迫っていきます。主に「弦遣いの巧さ」に対する言及です。
1番サビ後の間奏では左で優美な旋律を奏でていたストリングスが、2番のAに入ると右へパンした上で低音が強調された重厚なものへとシフトします。この対比と質感の変化は、歌詞の"晴れの日も雨の日もはじめてみたいでハナウタ/ささくれ感度 糸電話"に寄り添ったものだと捉えていて、続く"あいことば一緒ね ずっと"で示されているような永遠性とは裏腹に、僅かな刺激で移ろってしまいかねない脆さがあることを、音として解釈した結果であるとの認識です。弦(糸)の万能性や可変性に着目した理解だと換言しても構いません。
このレベルの妄想力で続けます。2番A後半("1 2 3 はどうして"~)ではピチカートが印象的ですが、その弾けるような音は宛ら放った小石が水面に起こす波紋を連想させ、これは"ほんとなら教えて、そっと みてて、もっと"と尽きない興味によって、"スリピス"の関係性や均衡に変化が生じていくことの表現だと受け取りました。疑問の連続を小石の投擲に、変わる人間模様を波紋の交差に喩えた;正確にはこれらのファクターを奏法から感じ取ったという、回りくどい解釈です。
そして2番Bへ。俄に勢いを増して楽曲が本格的に走り出す部分ですが、ここでもストリングスが果たしている補助的な効果は大きいと主張します。グルーヴの最大の功労者は鍵盤だろうと前置きした上で、リズミカルな入りからメロディアスに展開していく冒頭部(~"テスト居残り")で存在を顕にし、主旋律と重なることで疾走感に寄与している中盤("心だけ解けない")を経て、シンプルなリピートによってリズム隊に徹し始める後半("教室のうしろの世界"~)へと移行する。この短いスパンで役割を変えながら進んでいくところに、先述した「弦の万能性/可変性」の妙があると絶賛したいです。
加えて、同じ弦でもここまで大きくストリングスとまとめて扱ってきた楽器群とは別口で、ギターによる高度な編曲が披露されているのも2番Bの秀逸な点です。"うしろの世界"の裏で場違いに力強く鳴り響く歪んだエレキを指しての言ですが、この一音に"教室のうしろの世界 すきま風置き去り"のサウンドスケープが過不足なく宿っていると感じます。ED曲のタイトルが「インキャインパルス」であること、ひいては「本曲の詐欺の裏には何があるのか?」といったことに関連させての所感です。
クラス内カーストに於いて所謂陰キャに属す人達ならではのポイント・オブ・ビューを、限りなく美化してセンチメンタルに仕立てたのが当該部の歌詞だと解釈しているので、楽想が求める精美さの中で唯一反抗的な振る舞いを見せているこのギターは、清楚な外面の陰に潜む他意の仄めかしを意識的に行ったものだと言え、楽曲に多層的な趣を与えることに成功していると分析出来ます。
ただし、正道の理解も一応披露しておきましょう。"二限目回した手紙"または"先生もしらない宿題"に描かれているように、大人の目が届かないジュブナイルな世界での秘め事を取り立てているという文脈に目を向ければ、"教室のうしろの世界"は文字通り空間的/時間的なものを指しているとしたほうが自然かとは思います。先に提示した陰キャ云々の感想は、歌詞内容だけから純粋に出てきたものではないことに留意してください。
残るはメロディについてですが、ここまでに示してきた言辞や音遣いに纏わる種々の美点に相応しく、旋律もまた儚さと少女性を兼ね備えた練度の高いものだと評せます。しかしサビメロには思うところがあって、詐欺に気が付いていない初聴時にさえ、その隠しきれないあざとさに対しては「狙い過ぎ」だと、ロリっぽさが鼻に付いてやや苦手という判断をしていたくらいでした。A/Bの積み重ねからすると、もう少し影のあるメロでもよかったのではと。
勿論、作風を正しく認識してからはすぐに評価も一転し、この過剰さは「実に的確なエイミング」である(=視聴者騙しを徹底している)と絶賛するに至るわけですが、聴く側が小恥ずかしくなってしまうほどの攻め方をしているからこそ、歌詞の愛らしさに負けない旋律たりえているのだろうとまとめます。
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続いて紹介するのは『ヤマノススメ サードシーズン』ED曲・あおい(CV:井口裕香)、ひなた(CV:阿澄佳奈)による「色違いの翼」(2018)です。今回の振り返りの第十三弾では同作のOP曲をメインで取り上げており、前のシーズンも含めて主題歌に恵まれ続けている作品だと評価しています。
上掲記事内に書いたことの再掲となりますが、僕はそこで「『ヤマノススメ』の主題歌はどれも明るさの裏に切なさを滲ませるのが上手」や、「稲葉さんの卓越した作詞能力に関しては(中略)同作ED曲のほうがより衝撃的だった」などと述べているため、以降はこの点を中心に読み解いていくとしましょう。
稲葉エミさんによる歌詞の素晴らしさについては、同作『セカンドシーズン』のOP曲「夏色プレゼント」(2014)のレビュー記事も参考になるかと思うのでリンクしておきますが、本曲にも心揺さぶられるフレーズがいくつかありました。通時的に紹介していきます。
一点目は2番A頭の、"夢はときどき錆びた音させて急停止するよ"です。「夢は思い描いた通りには叶わない」といった着眼点自体はごくありふれたものですし、歌詞に落とし込む場合の描き方も個々人で様々でしょうが、"錆びた音させて急停止"という「長期間の野晒し」と「(それに気付かず)唐突に襲い来る不調」を背景にした表現は、夢が時間の経過と共に変質してしまう残酷さを鮮やかに切り取った詞華であると称賛します。
1番のサビには"ブランコ"が登場するので、この軋みが聞こえてきそうな形容はそこに由来していると考えられますが、きちんと気を配っていれば防げたかもしれない夢の失速を、知っていながらも招いてしまう人間の愚かさにフォーカスした、とても含蓄に富む一節だと言えるでしょう。これを受ける"熱い涙もたまに 必要かな"もまさにその通りで、誘発されて目頭が熱くなってしまいそうでした。
二点目は2番サビ後半の、"転びそうなら 支えてあげる/かさぶたは ほっといてあげる"です。一文目だけではともすれば陳腐に響きかねないサポートの姿勢が、二文目の自己修復力を阻害しない表現の補足によって、本質的な意味での「優しさ」へと昇華されていて、尊みがヤバイと語彙力低下で唸るほかありません。
三点目はCメロの全文、"窓を叩く風が あの山の木々を揺らし 帰って来たよ/何を与え、与えられて きたの まだ旅の途中"です。窺える循環への意識が、ここまでの歌詞の集大成として機能しているところに美があります。主にBメロの伏線回収ですが、1番では四季の描写と共に、"なんで地球が丸いか知ってる?"と"この場所に帰ってくるため"が、2番では一日の描写と共に、"空と海の色が違うのは"と"お互いの居場所知ってるから"が、それぞれループに絡む表現ですよね。
他にも"無茶な 足音 鳴らし 駆け出そう"、"ナビは 太陽と 繋いだ手だけ"、"行こう パスポートのいらない頂上(そら)へ"、"あかね雲の粋なはからいで/刹那 ひとつになる世界"等々、素敵な言葉繰りの数々が随所に見られ、改めて稲葉さんの作詞能力には擢んでたものがあるなと思いました。
最後に歌詞以外のツボも挙げておきます。振り返りの第十三弾にもお名前を出した杉下トキヤさんの手に成る作曲面では、ラスサビの途中にBメロの一部が挿入される("「いつもふたりで作戦会議」"~)自由な楽想が好みでした。Bに於いてはラップ調でややダウナーな向きのあった旋律(特に"「夜はスズムシのライブ」"で顕著)が、ラスサビではアッパーなものへと変貌を遂げているところが技巧的です。
ここは鍵括弧で示されているように台詞然としたパートであるため、この印象の差は歌い手の演技によるものかもしれませんけどね。実際、c/wに収録されている個人のバージョンでは当該部の歌詞が異なっており、オリジナルとはまた違った個性のあるテイクを楽しむことが出来ます。
続いてはアレンジ面に対する言及です。編曲者にクレジットされているKanadeYUKは、杉下さんと同じくTaWaRa所属のクリエイター・安田悠基さんとうたたね歌菜さんによるユニット名で、名前こそ出していませんが、一昨年の振り返り記事で紹介したナンバー「Deep in Abyss」(2017)にて覚えはありました。
本曲については、サビ裏の激しいギターサウンドに特筆すべきものがあると感じていて、オフボで聴くとよりわかりやすいのですが、サビに突入した瞬間に過る強大な力に引っ張られるような感覚に、「色違いの翼」を幻視した気がします。
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お次は『音楽少女』のプチ特集です。同作の関連楽曲には複数のお気に入りがあるため、一曲あたりの文章量は控えめとなりますがまとめて紹介します。このような性質上、テーマ「○○系」にはこだわらない選曲にしましたが、殆どは「切ない系」に分類していいであろうナンバーです。
まずは同作の挿入歌/特殊ED曲・音楽少女「お願いマーガレット」(2018)をレビューします。公式にアップされている試聴音源は下掲の「(雪野日陽ver.)」だけで、全員で歌っているバージョンとはまた印象も異なるのですが、往年のアイドルソングらしい切なさを抱いた楽曲の骨子自体が好みなため、雰囲気は伝わるだろうと埋め込み。
今し方出した「往年の~」という形容が、僕の中では本曲の魅力を端的に表したものとなりますが、もう少し具体的に説明しますと、センチメンタルだけれど疾走感のあるキャッチーなサビメロにのせて、"お願いマーガレット 夢のロシアンルーレット"と、意味よりも響きを優先したと感じられる横文字入りの歌詞が登場する点を指して、王道の良さがあると言いたいのでした。
歌詞が意味不明だと主張したいわけではなくて、2番の"儚いマーマレード 一度だけのエスコート"にも同様のエッセンスがあるように、文法的或いは文脈的な理解より先にガーリーなイメージが先行してくるような、そのワードチョイスこそが巧いという賛辞です。偏見や独自研究の向きもあるかもしれませんが、これは大衆に響く女性アイドルソングの特徴のひとつだと考えています。
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二番手で紹介するのは、雪野日陽(CV.大野柚布子)「universe melody」(2018)です。『お願いマーガレット』のc/w曲ですが、表題曲に負けず劣らずの良曲であったため、あわせてふれておきます。
「お願い~」に関しては、音楽少女全員によって歌われているものと比べると、上掲動画の「日陽ver.」は正直良さが薄れていると思うのですが、決して大野さんの声質が嫌いなわけではなくて(その証拠として別作品の関連記事をリンクしておきます)、彼女の儚く甘い歌声は寧ろ「universe~」にて正しく活かされているとの認識です。
スウィートな音遣いによるテクノポップなトラックは、表面的な可愛らしさとは対照的に、聴き込むほどに精緻な音像に心酔していけるような凝った仕上がりとなっていて、とりわけBメロでのフィルター使いやリバーブ周りには強いこだわりが窺えます。そこにウィスパーボイスが心地好く溶け込み、曲名通りのコズミックでミュージカルなフレーズが次々と展開されていく楽想は、聴く者に癒しと安堵を与えながら根源へと誘う、子守唄のような性質を帯びていると表現可能です。
この限りなくユーフォニアスなアウトプットを耳にしては、『音楽少女』という作品題に相応しいだけのポテンシャルを秘めた、隠れた名曲であるとの高評価を下すほかありません。
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ソロ曲の挿入歌では、西尾未来(CV.岡咲美保) 「フライガール」(2018)がいちばんのおすすめです。楽曲自体のクオリティもさることながら、キャラクターとエピソードを踏まえたコンセプチュアルな内容を気に入っています。
アニメを視聴済の人というか未来のキャラを知っている人からしたら、曲名の「フライガール」は'fly'ではなく'fry'のことだと自明であるように(ダブルミーニング的な面もあるでしょうが)、ネタ曲ならではの力の抜け具合と、しっかりとしたサウンドメイキングとのギャップでもって、中毒性が強化されているナンバーです。イントロから受ける正統派の雰囲気にワクワクした後に、"ぼくもキミもね、てれやさん なぜかことばにならなくて/キモチ伝わらないときは"と、順当な歌詞が続いたと思いきや、結びに来るのは"からあげ!からあげ!"ですからね。笑
メロディラインにはもう少し練る余地があるような気はしますが、前述の通りバックトラックは作り込まれている、且つ非常にダンサブルなものであるため、グルーヴを重視したがゆえのシンプルな旋律だと受け取れば得心がいきます。
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ラストはED曲・音楽少女「シャイニング・ピース」(2018)をピックアップ。上掲動画は最終話で披露された、はなこも加えた12人バージョンです。OP曲・小倉唯「永遠少年」(2018)も同じクレジットですが、Time Files, inc所属のクリエイター【作詞:磯谷佳江、作曲:小野貴光、編曲:玉木千尋】によるワークスへの信頼に関しては、過去記事にも言及がある(「湯けむりユートピア」の項)ため、参考までにリンクしておきます。
本曲の中で最もツボだったのは、イントロや曲間に挿入されるコーラス的な側面の強いパート("Shining Dreamer"~)の存在です。この上昇志向のセクションに宿っている煌めきと切なさの畳み掛けによって、アニメのクローザーとしての役割をこの上なく適切に果たせていたと思います。主旋律に対して競うように奏でられているギターも、走り出したくなるような衝動を駆り立てていて素晴らしいです。
Bメロやサビにもコーラスワークによる多層的なアプローチが見られ、大所帯ならではの楽想である点にも好感が持てます。あとはくだらない補足ですが、サビ頭の"今輝き増す"は歌詞を見るまで「今輝きます」と誤解していたので、丁寧に宣言する体にサクセスストーリーの感があるなと、勝手に都合良く解釈していました。笑
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ここからは「中身の濃いレビューには発展させられそうにない曲」をまとめて紹介します。こう書くとネガティブに聞こえるかもしれませんが、スペースを作ってまで紹介しようと思うくらいにはお気に入りの楽曲群であることに留意してください。「発展させられそうにない」のは、僕の技量不足&時間不足によるものです。
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『ISLAND』OP曲・田村ゆかり「永遠のひとつ」(2018)。現状では一記事しかないとはいえ、単独でブログテーマを用意してあるくらいには、僕は田村さんのことを歌手としても高く評価しています。従って、リリースされる楽曲の殆どに自然と好意的な感想を抱いてしまうのですが、彼女の長いキャリア・ディスコグラフィーの上で比較しても、本曲は好きの上位に食い込んでくるほどに個人的なヒットを記録したナンバーでした。
離島を主な舞台にしたビジュアルノベルを原作とするアニメの主題歌にぴったりの、夏らしさや恋心や憂いの諸々が(ネタバレになりますがSF的な要素も)全て内包されていて、この雰囲気を音楽ひいては歌声のみでも正しく演出出来ているのは、流石ベテランのなせる業だと絶賛します。若干懐古厨じみた認識もあるのでしょうが、『ISLAND』のアニメには2000年代半ば頃の懐かしさを覚えたので、音楽も含めて安心感がありました。
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『ハイスコアガール』ED曲・やくしまるえつこ「放課後ディストラクション」(2018)。彼女についてもまた、通常時であれば単独にテーマを立てているくらいにはその音楽に馴染みがありますが、同曲に関しては寧ろ彼女らしさが際立ち過ぎているというか、メロディラインにティカ・αっぽさが色濃く表れていて、悪く言えば「過去曲の焼直し」といった後向きの感想を初聴時には抱いてしまうほどでした。
しかし繰り返し聴くうちに…というよりフルで聴いたことで、アレンジも含めた混然一体の味がわかってきたので、評価は次第にプラスへと傾いていきます。とりわけ中盤のボコーダーを通して歌われているセクションは、Aメロの旋律が中抜きされたような変則的なラインが、哀愁を漂わせながら鳴いているギターと相俟って、並行世界もしくは外宇宙を独り彷徨っているかのような、強烈な孤独を感じさせるサウンドスケープで素敵でした。日常から地続きの異世界にトリップするかの如き楽想であるため、最初に感じた既聴感の正体を「基準世界の表現」だと見做せば、敢えてなのではという深読みも可能かもしれません。
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『ゆらぎ荘の幽奈さん』ED曲・湯ノ花幽奈(島袋美由利)・宮崎千紗希(鈴木絵理)・雨野狭霧(高橋李依)による「Happen~木枯らしに吹かれて~」(2018)。振り返りの第十三弾では同作のOP曲をレビューしているので、作品ごと主題歌を気に入ったパターンかと思われるかもしれませんが、本曲の選曲理由はまた別口で、作詞が川田まみさん/作編曲が中沢伴行さんという、元I've(且つ夫婦)による確かなサウンドプロダクションに惹かれてのチョイスとなります。I've Soundについての概説的なことは、過去記事を参照してください。
心地好い跳ね感のあるトラックの上を、切なくも愛らしい旋律が滑っていく点だけを取り立てれば、真面目な方向の中沢さんらしいワークスだという印象ですが、やや電波の趣が滲む"(ドキメキトキメキドキ)"コーラスの挿入によって、そういえばKOTOKO TO AKI「恋愛CHU!」(2001)のような曲も書けるのが中沢さんの凄さだったなと、2017年の振り返り記事にも記したことを再度思いました。笑
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以上、【'18夏アニメ・アニソン(切ない系)編】でした。残すは'18秋アニメの三記事となりましたが、更新ペースを上げるのにも限界があった(+予定より記事数が増えた)ため、二月に食い込んでしまう体たらくですみません。…といっても、'18秋まで来たら今期のひとつ前のクールなので、そこまで過去の話でもないだろうと前向きに考えて、引き続き振り返っていきます。