今日の一曲!五島潤、紅葉谷希美、金城そら「HOWLING」 | A Flood of Music

今日の一曲!五島潤、紅葉谷希美、金城そら「HOWLING」

 長文記事を認めていたため久々になってしまった「今日の一曲!」は、五島潤(CV:大野柚布子)、紅葉谷希美(CV:遠藤ゆりか)、金城そら(CV:古賀 葵)の「HOWLING」です。収録先は『TVアニメ『天使の3P!』Three Angels Complete Album♪』(2017)で、ディスク名の通り『天使の3P!』の関連楽曲となります。

 補足:記事タイトルでは字数制限に伴い声優名を省略しました。また、CDの表記に従ってアーティスト名は作中キャラクターの名前を連ねる形で表示しましたが、作品の設定を反映させて「リヤン・ド・ファミユの楽曲」と書いても間違いではないと思います。厳密にはこのバンド名に決まる前から披露されていたナンバーですが、後に持ち曲として演奏されているので問題ないでしょう。



 アニメの次回予告が懺悔室スタイルだったことに託けて、まずは謝罪から入ります。『天使の3P!』にというかこのアルバムについては、実はこの記事の中で一度言及を行っています。その一部を引用しますと…

 音楽好きとしてというかDTMerとして、もっと言えばCubaseユーザーとして『天使の3P!』には驚かされました。しっかりとDAWを描写していたところに好感が持てます。(中略)/ただ『天使』に関してはひとつ不満点があります。それは情報発信に関わる問題です。作中の楽曲が良かったので挿入歌アルバムを買おうか検討していたのですが、発売日になっても公式で収録曲目が明かされておらず(中略)「売る気あるのか」と正直思ってしまいました。/(中略)実際僕は詳細が不明なせいで両作とも買うのを躊躇ったため、これは機会損失ですよね。

 …となり、アニメとその音楽に対しては好印象ながら、広報の姿勢には文句を付けてしまいました。近年はTwitterを利用した公式によるコンスタントな情報発信も一般化していますが、そちらにばかり力を入れて公式ホームページへの情報集約という基本が疎かになっているケースが散見されるので、問題提起の思いを抑え切れずに槍玉に挙げた次第です。すみません。




 このような経緯があったため、当該のアルバムを聴いたのは発売から結構な日数が経ってからでした。元々買おうと思っていただけに、ある程度のクオリティの高さは予想の範疇でしたが、いざ聴いてみたら想像以上の名盤だったので、これはいつか記事にしようとストックしていたのです。作品自体をディスったわけではありませんが、このままだとブログの上ではネガティブな印象を抱いたままに映ってしまうので、それも避けたいと思い筆を執りました。

 ちなみに当時のお目当ては09.「大切がきこえる 双龍島アレンジ」で、ほのかに沖縄民謡風というか和のエッセンスが感じられる編曲を気に入っています。勿論オリジナル(04.)のストレートな聴き易さも魅力です。02.「モノクローム果樹園」もツボで、可愛らしいビジュアルとキュートな声質から繰り出される、アグレッシブな演奏とレイジーな歌い方とヘビーな歌詞とのギャップに痺れました。




 これらの楽曲も素晴らしいのですが、それを抑えて最も好きになったのが今回紹介する03.「HOWLING」です。アニメで聴いた段階ではそこまで印象に残っていなかったものの、きちんと向き合ってみたらとても良い曲だと気付けました。

 ざっとですが録画を確認したので曲のバックグラウンドを解説しますと、初披露されたのは第4話にてです。不登校の主人公が久々に学校に赴き、クラスの前で弾き語るためのナンバーとして選ぶという実に鮮烈なデビューで、マスター曰く「これが本当のロックだ」にも頷けます。この奇行はライブの宣伝が主ですが、同時に感謝と自己紹介と決意表明の気持ちが犇々と伝わって来るものであったため、結果リヤンのライブでも演奏される運びとなり、同話の特殊ED曲として昇華されました。続く第5話は本曲のMV撮影の話で、再び特殊EDとして最後に完成形が流れるという万全の構成です(上に埋め込んだ動画がそのノンクレジット版)。

 リヤンの3人も児童養護施設に身を置く立場なので、引きこもりの少年が作った楽曲を、特殊な環境を日常とする少女達が歌い上げ、そこにオーディエンスが集うという構図自体に、可能性の美しさが宿っていると感じます。


 こうして背景情報を掘り下げたのには理由があって、本曲はとにかく歌詞が素敵だと考えているので、キャラの出自を踏まえた上でレビューをしたほうが、それが伝わりやすいと思ったからです。

 まず好きなのは、1番Aの"巣立ったハズなのに飛べなかった"という残酷な一節。一般的に「巣立ちの時」という言葉は、門出を祝うようなポジティブな文脈で使われることが多いでしょうが、その後のことは割と知らんぷりというか、「そこから先は自己責任」の意味合いもありますよね。実際、巣立った瞬間に天敵に捕食されてその生涯を終える若鳥も居るわけですから、"巣立った"でめでたしめでたしにせずに、"ハズなのに飛べなかった"逸れ鳥の存在に言及している点に、主人公の境遇をオーバーラップさせてしまい切なくなります。


 この状況から如何に前に進んで行くかが本曲の趣旨であるため、その後は未来志向の歌詞が続くのですが、無責任に肯定するばかりではない言葉繰りであるところが、次なる評価ポイントです。サビは"とにかくやれるだけ 歩いてみればいいさ"から始まり、このフレーズだけでは陳腐に響くかもしれませんが、その前に動機付けとして"何億倍の寂しさに泣いて/やっと見つかるモノだらけだから"とあることで、ハードな環境に在ることを捨て置かない姿勢が読み取れ、言葉のシンプルさ以上の重みが伝わってきます。

 "とにかく生きてみて 感情を色付けて"に見られるフォローも上手くて、単に「生きていればいいことがある」的な手垢のつきまくった表現に、"感情を色付けて"という条件を付すだけで、説得力が段違いです。感動なく生きていても、果たしていいことをいいことだと認識出来るかどうかは、甚だ疑問ですからね。自身の視界を彩ることで初めて、続く歌詞"世界はこんなに素敵だよって吠えてみたい"の願いも叶うのだと思います。


 続いては歌詞というか楽想の巧さに対する称賛ですが、"吠えてみたい"の後に表題の"Say HOWLING!"のセクションが来る展開が地味に好きです。冒頭の段階では「よくある盛り上げ要素」として特に気に留めていなかったのですが、ここまでの歌詞を受けてからの"Say HOWLING!"は、意味を伴って響いて来ますよね。こう煽ることの挑戦的なスタンスは、先述の「生への希望」をリスナーに問いかけることにも繋がりますし、同時に鳴音としての「ハウリング」とのダブルミーニングにもなっていると捉えているので、ハウってでも「存在を主張する」ことの重要性が説かれている気がするからです。

 ラスサビでの視点移動と時制変化も技巧的で、"とにかく生きてみた 感想を聞かせてよ/世界はこんなに素敵だったって吠えてほしい"には涙を誘われます。そこからまた表題のセクションを経て、結びに来る"How about TODAY WORLD?"は、本曲を聴き続けていつか世界に対する見方が変わった時に、その気持ちをそっと思い出させるためのフックとして機能することでしょう。


 最後にもう一点、今度はアレンジ面で気に入っている箇所に言及しますと、2番A前のギターが非常に表情豊かで素敵だと思います。曲のエンディング部分によく出てくるような、段階的に下降していくものを指していますが、これが不思議と「神聖性」があるように感じられるんですよね。教会の礼拝堂で演奏されることを意識した編曲なのか、或いはこのイメージが先行しているせいかもしれませんが、ともかく『天使の3P!』という題に相応しいギターサウンドである点を評価します。

 作編曲者は佐伯高志さん。個人的には『ラブライブ!』シリーズの楽曲にて存じ上げていた方で、とりわけ「Dancing stars on me!」(2014)と「WATER BLUE NEW WORLD」(2018)はお気に入りです。キャッチーとセンチメンタルを両立させることに長けていらっしゃるなと感じます。作品のイメージを考慮してブログテーマは「可愛い系」にしていますが、同時に「格好良い系」でも「切ない系」の曲でもあることを補足して、記事を終えます。