今日の一曲!KOTOKO「Heart of Hearts」 ―I've Soundについて― | A Flood of Music

今日の一曲!KOTOKO「Heart of Hearts」 ―I've Soundについて―

【お知らせ:2019.5.22】令和の大改訂の一環で、本記事に対する全体的な改訂を行いました。この影響で、後年にアップした記事へのリンクや、以降にリリースされた作品への言及が含まれる内容となっています。


 本記事は形式的には「今日の一曲!」ですが、当該楽曲以外に関しても網羅的にふれる「旧譜レビュー」と同等の内容量を持つものとご理解ください。そのため、副題として「I've Soundについて」と付してあります。ブログテーマを「KOTOKO」ではなく、「I've」にしているのもこのためです。【追記:2020.5.4】改訂から約1年後にKOTOKO楽曲の特集記事をアップしたのでリンクしておきます。【追記ここまで】

 また、本記事は元々アメーバ側が用意していたブログネタ「今日は何の日?」の2017年8月10日分「ハートの日」を前提に【テーマ:ハート】を掲げ、その下にKOTOKOの「Heart of Hearts」(2001)を選曲して執筆したものでしたが、同曲にも副題にも直接関係の無い記述が長々と続いていたので、2019年の改訂時にネタも含めて不要な部分は丸々削除し、代わりにより詳細な内容になるようにと大幅な加筆を施しました。

 従って、対象曲のレビューに入るのはかなり後です。先に副題たる「I've Soundについて」のセクションから書き出しますし、文章の八割方はこれに費やしているので、自分語りや思い出話も込みの長文を覚悟の上で読み進めていただければと思います。それでも早く本題に入ってくれとお望みの方は、ここをクリックすればスキップが可能です。


I’ve C-VOX 2000-2014I’ve C-VOX 2000-2014
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 さて、ある一定の年齢以上のアニヲタ或いは特定のジャンルのゲーヲタに対しては、KOTOKOや音楽制作集団I'veの存在は説明不要だとの認識でいます。音楽にも興味があればの話ですが、仮にそうでなくとも当時の知名度の高さは群を抜いていたと思うので、I've Soundという唯一無二の形容を聞いたことぐらいはあるのではないでしょうか。

 上に埋め込んだのは、主な音源の入手先がコミックマーケットでの販売に限られていたレア曲をまとめたBOX形式のコンピレーションアルバム『I've C-VOX 2000-2014』(2018)ですが、このディスク名からも歴史の一端は窺い知れます。まさに一時代を築いたと言っていいレベルの功績を世に残した、卓越した才の集う制作プロダクションおよび歌姫たちです。


 2019年の改訂前;つまり初稿の2017年夏の時点では、本記事内でI'veの衰退について述べた「近年ではメインストリームにてお名前を見かける機会が格段に減ってしまったので」との言は、ある意味では正しかったと顧みます。しかし、最近はまた表舞台での活躍も耳にするようになってきているため、復権の兆しがあるのではと希望的観測を主張したいです。この点に関しては本記事の終盤でしっかりとふれますが、後にアップした川田まみの記事にも関連記述はあるので、よろしければ参考にしてください。

 それでもI'veの存在を知らない人からしたら、とりわけ若年層にとってはあまりピンとくる話ではないでしょうから、以下に簡単にではありますが、I'veの紹介とその出会いについて記していきます。後者に比重を置いたので、アーティスト紹介しては中身が薄いかもしれないと、言い訳をご容赦ください。



 元来I'veは、R18ゲーム界隈でその名を轟かせていた存在でした。超有名どころで言えば、『Kanon』や『AIR』など所謂「鍵系」と呼称されるゲームの主題歌を担当したことで多くのファンを獲得し、ハイセンスな音楽制作集団として認知されていったようです。

 この辺りの認識が伝聞調であるのは、僕より若干上の世代にとってストライクな案件だと思うからで、僕自身は年齢制限もあってこれらのゲームをプレイしたことがなく、あまり多くを知らないからです。勿論当時であっても、ゲームの名前や「鍵」「泣きゲー」などの専門用語は当然として、ネタ的もしくはミーム的であれば有名な台詞や場面についての知識も持ち合わせていましたが、はっきりと自分の記憶として思い出せるのは、「鳥の歌」(2000)がネット上で異様に持ち上げられていたことだけです。笑


 記憶が曖昧で申し訳ないのですが、所謂「電波ソング」という言葉と共に、I'veの音楽(主にKOTOKOの楽曲)が使われた二次創作のFLASH動画作品が人気を博し出したのも、ここから数年経った頃だったと思います。動画投稿サイトが登場する前の、FLASH黄金時代のお話。『2ちゃんねる』(現『5ちゃんねる』)発のアスキーアートがふんだんに使われた、コミカルテイストのMVらしい作品が多く、歌詞が同時に掲載されている場合も多かったので、今思えばリリックビデオの先駆けだったのではと遠い目です。これまでに聴いたことのなかった異様な陽性を放つ衝撃的な音楽および歌詞に、ユニークなAAがあわせられているというアングラ感が堪りませんでした。

 この手のムーブメントも、結局のところ背景にはR18ゲームの隆盛があったのでしょうが、当時まだ中学生かそこらの年齢であった僕が、ここまで思い至れるはずもありません。加えて、別段アニメやゲームに年相応以上の興味を示していたわけでもなかったので、上掲のFLASH作品群も単に「ネットで見つけた面白い動画と音楽」ぐらいの理解しかしていませんでした。KOTOKOが一体何者であるかだとか、元々はR18ゲームの曲だとかにはあまり興味がなく、況してやI'veという名前にはそもそも辿り着いていなかったと記憶しています。


 つまり、僕が初めてI've Soundにふれた経験を厳密に語れば、「鳥の詩」か或いはFLASH作品群に使われていた楽曲を挙げることになるのでしょうが、前述のように認識の程度が浅い頃の話なので、ここを出会いとするべきではないかもしれません。

 ちなみにですが、当時お気に入りだったKOTOKOの電波ソングを例示すると、戯画の『カラフルシリーズ』からは「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」(2003)と「きゅるるんKissでジャンボ♪♪」(2004)が、130cmの『Princess Bride!シリーズ』からは「Princess Bride!」(2003)と「Princess Brave!」(2004)が、それぞれお気に入りでした。「プリブレ」はあまり電波ではなく、アニソンっぽいポップなロックナンバーですけどね。I'veの電波曲に関しては、下掲のコンピ盤『SHORT CURCUITシリーズ』がベストを含めて都合4枚出ているので、まとめて蒐集するのは容易です。

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 ※ 上に表示されている価格は定価以上となっています。


 では、僕が本格的にI've Soundにのめり込んでいったのはどのタイミングだったのかというと、TVアニメの主題歌にも進出し始めた頃からであるとの認識です。時期的には2004年からとなるので、前述した「認識の程度が浅い頃」と一部では重なっていたと言えますが、この時点ではまだ「ネット上で馴染みのあったI've Sound」と「TVから流れてくるI've Sound」が、イコールで結び付いていなかったので、文章の上から感じられる齟齬や錯誤はこれに起因するとご了承ください。

 まあ僕の認識はともかく、2004年から所属の歌姫たちのメジャーデビューが続々と決まっていったのは事実で、つまりは門戸を広く開き始めた時期になるため、この頃からのファンは多いと推測します。個人的なことですが、この一連のメジャー新出が僕の第一次アニヲタ期(2004年~2007年)ともちょうど重なっていたので、嗜好の目覚めと共に歩んできた存在という意味でも特別性があったのです。


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 TVアニメでの邂逅は、言わばI'veとのセカンドコンタクトとなるわけですが、その中でいちばん最初にふれたトラックは、KOTOKOの「Re-sublimity」(2004)でした。同曲が収録されているシングルのc/w「agony」および「Suppuration -core-」と共に、いずれも『神無月の巫女』の関連楽曲です。当時一度観たきりゆえ、アニメの記憶は殆ど抜け落ちてしまっているものの、高校生の僕にはかなり衝撃的な内容だった覚えだけはあります。

 しかし、それよりも個人的にインパクトが大きかったのは、音楽の格好良さでした。当時僕は既に海外のダンスミュージックに対する強い興味を持っていて、そんな折だからというのも大いにあったのだとは思いますが、トランスを軸として種々のクロスオーバーを試みたと受け取れる独特のサウンドを鳴らしている人たちが、U局とCSでの放送が中心の深夜アニメの主題歌とはいえ表舞台に上がってきたことに、より一層の革新性を感じたのです。

 ここまで来て、僕は漸くI'veという名前に注目し始めます。そして調べてわかった驚きの事実は、「過去にネット上で楽しんでいたあのFLASH作品群の音楽もI've Soundだったのか!」…です。笑 両者がイコールで等価となった時、現代の用語で言えば、巨大な「沼」が眼前に見えたような気がしたと独り言ちます。


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 こうして音源を集める動機が充分となったのは良しとしても、先述の通り当時は未だI'veがメジャーに進出し始めた頃だったので、広くCDショップに置かれるような作品は限られていました。アニヲタとしても初心者で知識に乏しかった僕は、「こういうR18ゲームの音楽は一体どこに売っているんだ?もしかしてゲームを買わないといけないのかな…」とやきもきしたのですが、幸いにもI'veは『GIRL's COMPILATIONシリーズ』と題された、複数のR18ゲーム主題歌をまとめたアルバムを定期的にリリースしていることを知ります。

 同シリーズは扱い的にはインディーズでしたが、ネット通販のやり方もこの頃同時に覚えたので、その時の最新作たる『OUT FLOW』(2003)までの5枚と、上掲した『SHORT CIRCUIT』(2003)を揃えて、ひたすらに聴きまくっていました。「R18ゲームの主題歌でもCD自体は全年齢」というのは、抜け穴を見つけたみたいな密かな楽しみも内包しており、それ自体で愉悦に浸っていた面も否定は出来ませんけどね。



 こうして過去作への理解を深めていくのと並行して、アニメ趣味も高じてきていたので、新たにリリースされる一般向けのI've Soundにも虜になっていきました。この中で次に印象深かったナンバーは、川田まみの「緋色の空」(2005)です。『灼眼のシャナ』1期の1stOP曲で、これは作品自体も好みであったため、原作も愛読していました。作品の世界観にマッチした主題歌作りは、R18ゲームで培ったものが存分に活かされていると言えます。

 そして、このあたりから作編曲者のクレジットにも意識が行くようになり、その結果どうも僕は高瀬一矢さんか中沢伴行さんが手掛けた楽曲が圧倒的に好みだということがわかってきました。流石代表取締役と初期メンバーといったところですが、両氏による楽曲は非常に人気があるので、僕のようなファンは多いと思います。


 ※ 上に表示されている価格は定価以上です。

 その後暫くのアニメ主題歌界は、I'veの天下だったと言えるのではないでしょうか。少なくとも僕の中では、Love Planet Fiveの「天壌を翔る者たち」(2007)まではそうでした。次々と名曲ばかりが放たれるので、I'veが主題歌を担当していたら、アニメ自体も当たりだとさえ思うようになったほどです。まあその贔屓目を抜きにしても、実際に内容が好きな作品が多かったので、タイアップに恵まれていたとも表せるでしょう。

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 既に名前を出している歌姫以外の楽曲にふれますと、島みやえい子の「ひぐらしのなく頃に」(2006)は、同名の原作ゲームの人気に負けないレベルのハイクオリティなトラックでしたし、『BLACK LAGOON』OP曲・MELL「Red fraction」(2006)の有無を言わさぬクールさも、作品の雰囲気にマッチした良曲でした。メジャーデビューはやや後発だったものの、詩月カオリの「Shining star bless☆」(2007)も大のお気に入りです。同曲のリリース時には既に、僕の第一次アニヲタ期が終わろうとしていたので、提供先の『ななついろ★ドロップス』は観たことがないんですけどね。



 ここから僕の第二次アニヲタ期(2015年~)が始まるまでには、実に8年ものブランクが存在するため、この間にTVアニメ主題歌界に於けるI'veがどのような軌跡を辿ったのかは、リアルタイムの実感としてはわかりません。しかし、当時所属していた歌姫たちの殆どが独立または卒業して今はI'veに居ないことや、表舞台で関係者の名前を見かける機会が全盛期に比べると減ってしまったことを考えると、時代の流れを感じずにはいられませんね。

 しかし、このアニメブランク期にリリースされたものでも、音源の蒐集だけはちまちま続けていたので、お気に入りのナンバーはきちんとあります。ここまでに名前を出していない範囲で挙げれば、Larval Stage Planningでは「Chapter.5」(2012)がフェイバリットですし、黒崎真音×I'veでコンセプチュアルに制作されたアルバム『REINCARNATION』(2014)では「…Because, in SHADOW」が大好きです。非I've歌手へのワークスでも、Rayの「sign」(2012)や、やなぎなぎの「ビードロ模様」(2012)などは、当然ながらI'veらしさが好印象でした。ちなみにやなぎなぎに関しては、その後単体で好きなアーティストになるほどに好みが高じたので、参考までに関連記事へとリンクしておきます。

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 勿論、後発の『GIRL's COMPILATIONシリーズ』も『SHORT CIRCUITシリーズ』も追って揃えていますし、サウンド自体を評価しているため、インスト主体の『CURE TRANCEシリーズ』や『VERVE CIRCLEシリーズ』も愛聴しています。リミックスアルバムの『master groove circleシリーズ』も有意義だと思いましたし、映像作品についても武道館ライブのDVDは3枚(2005年のものが2枚と2009年のものが1枚)手を出しました。

 とはいえ、I'veが手掛けた楽曲の数は非常に膨大で、ゲームの特典ディスクのみであるとか、コミケでしか売られていないなどの理由で、入手が容易でないものもあり、残念ながら世に出た全曲を網羅しているとは言えません。初稿時の2017年に於いては、序盤で紹介した『C-VOX』が未だ発売される前だったのですが、同BOXのおかげで蒐集の手間がかなり省けたことからも、楽曲数の多さを改めて実感出来ました。


 さて、長々と振り返ってきた「I've Soundについて」も、愈々2019年への言及を残すのみです。本記事の序盤でも後述する旨を予告していた通り、「最近はまた表舞台での活躍も耳にするようになってきているため、復権の兆しがあるのではと希望的観測を主張したいです」に繋がるセクションとなります。

 厳密には2018年からだとの認識ですが、示し合わせたのかと思ってしまうくらいに、現所属組の名前も元所属組の名前もアニメのクレジット上で多く目にするようになってきたので、驚きと共に嬉しさに湧くばかりです。再度リンクをしますと、川田まみの「IMMORAL」(2004)を取り立てた記事の中には、この点に関する根拠として、幾つか近年の楽曲を例示してありました。以降に記すのは、当該部の記述の言わば完全版です。


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 2017年にI'veから離れた中沢さんは、翌年に川田さんとのご結婚を報告なさったのですが、同夫婦による共同制作曲(作詞:川田まみ、作編曲:中沢伴行)からは、「Happen~木枯らしに吹かれて~」(2018)と「KODO」(2019)を紹介していました。また、上掲記事内では都合上省いてしまっていたものの、このタッグによるワークスには他に、黒崎さんへの提供楽曲「Gravitation」(2018)および「ROAR」(2019)も存在しますし、更に言えば「Happen~」を除く3曲については、編曲者に尾崎武士さんもクレジットされています。

 その次に挙げていた2曲は現所属組の頑張りで、高瀬さんが手掛けた「Break the Blue!!」(2019)と、後年加入で歌姫(舞崎なみ名義・LSPの元メンバー)からクリエイターへと転身したNAMIが手掛けた「Colorful☆Wing」(2019)は、作詞のRINAも含めてオールI'veによる楽曲提供となっています。

 上掲記事をアップした時点では、未だ2019年の春アニメがスタートしていなかったので、現時点で漸く出来るようになった元所属組への言及を披露しますと、川田さん作詞の「Never Give It Up!!」(2019)は、作編曲を担っているのが井内舞子さんで驚きましたし、「まけるなアル かがやけアル」と「爆笑ぼっち塾 校歌」(共に2019年)には、作曲者に島みやさんの名前があって目を疑いました。笑 特に後者は、I'veとは関係なく編曲者が松田彬人さん(関連記事)である点も驚愕ポイントで、「ネタ曲に豪華過ぎる」と誉め言葉しかありません。


 前置き部の最後にリンク集を載せておきます。本記事は当ブログ上で初めてI've Soundにふれたものであるため、こうしてイントロダクション的な記述に注力したわけですが、2019年の改訂時までに関連記事を数本はアップしているので、以下にそれらへの導線を引いておきますね。一部既に紹介済みの記事もありますが、掲載は更新日時が古い順です。

■ KOTOKO「421-a will-」(2005)
■ 詩月カオリ「Do you know the magic?」(2004)
■ KOTOKO『tears cyclone -廻-』(2018)
■ 川田まみ「IMMORAL」(2004)



 後回しも後回しとなって、もはや本題を忘れてしまったのも已む無しの状態であるため、再度の説明を加えます。本記事は「今日の一曲!」で、レビューの対象とする楽曲は、KOTOKOの「Heart of Hearts」でした。本曲は同名のR18ゲームのED曲に提供されたナンバーで、アルバムとしては『GIRL's COMPILATION シリーズ』のVol.5『OUT FLOW』に収録されています。

 歌唱と作詞をKOTOKOが担い、作編曲が高瀬さん単独であるというクレジットは、個人的に最も鉄板の組み合わせだと思っているので、その例に漏れずI've楽曲全体を比較対象としても、上位に入れたいほどのお気に入りです。


 しかし、実を言うと本曲のことは当初あまり好きではありませんでした。というか、そもそも殆ど印象に残っていなかったのです。今でもメロディラインは正直地味だと感じますし、ともすれば「よくある切ないラブソングを打ち込みでポップにした曲」程度の感想で、軽く流されてしまう気がしないでもありません。

 僕の中でこの評価が逆転したのが、幾度か聴くうちに「トラックの作り込みの深さ」に気が付いてからでした。具体的には、ストリングスとシンセサイザーが相互補完的に生成しているグルーヴに、得も言われぬこだわりを感じたのです。全て打ち込みによるサウンドだと思うので、両者を分けて表示することに難が無いとは言いませんが、ストリングスはそのままクラシックな弦楽器的に振る舞っている音(=イントロで主旋律を刻んでいる音)のプログラミングを、シンセは目立って聴こえる電子音全般を指しているとご理解いただければと思います。

 本曲のトラックメイキングを大雑把に語れば、リフ的にも機能しているシーケンスフレーズのシンプルなビート感を軸としながらも、要所要所で補助的に挿入されるストリングスがメロディ性に寄与しており、全体として単調になるのが防がれているという、割と一般的な編曲であるとの認識です。では美点は何処にあるのかと言うと、シンセとストリングスを主従で表したこの関係性が、曲の進行と共に主張の度合いを逆転させてくるところだとしたく、バックで心地好いグルーヴを刻んでいたのはその実ストリングスであったと、ラストまで全て聴いてから意識に上ってくるようになる点に、技巧性があると見ています。


 ストリングスが単体でリズムを刻んでいるパートとして、わかりやすく2番後の間奏(3:16~3:46)を意識して聴いてみると、ここの旋律はここまでのサビ裏でも奏でられていたことに気が付けるでしょう。換言すれば、間奏部でストリングが追っているラインは、サビバックのアレンジを流用したものだということです。この要素も別段珍しくはなく、編曲の手法としては王道かと思います。サビを多層的に聴かせるために拵えた控えのメロディを、せっかくならと間奏で目立たせてみる発想は至って自然です。

 しかし、「リズムを刻んでいる」と表現したことからも窺えるように、このストリングスが醸すダンサブルな質感には特筆すべきものがあり、キック由来の電子的なビートに馴染んでいる点に魅力があると主張します。こうは言っても、電子音楽的なダンスチューンを彷彿させる風でもないのがまた不思議で、僕の感覚が得たものはワルツらしい優美な舞曲です。三拍子というわけでもないのに。

 これを踏まえた上で、更に巧いと感じたのがアウトロです。ここまでストリングスが刻んでいたこの踊れる旋律を、後奏では意外にもシンセが担い始めるので、今度は何処か現代的に聴こえてきます。微妙にメロディラインが変えられているせいもありますが、ストリングスからシンセへと音のタッチが変化したことで全体的にスタッカート気味になっていて、ダンス終盤の情熱的なモーションを連想させるのが、これまた素晴らしいとの評価です。


 最後は、このサウンドスケープを歌詞と絡めて見ていきましょう。結論から述べますと、本曲の音づくりに影響を与えたファクターには、歌詞上の主人公(女性)の心の内や精神世界に於ける描写の変遷が含まれていると考えています。歌詞解釈という名の妄想を披露するだけなので(原作ゲームは未プレイゆえ)、異論反論あって当然の内容です。

 歌詞のテーマを一言でまとめるならば、「好きな人に抱いてしまう好きゆえの不安な感情について」で、基本的にはいじらしい内容が展開されていると言えます。しかし、ラスサビの歌詞に関しては前向きな面のほうが強く、ここだけは不安が解消された後の世界にフォーカスしていると感じられたのです。"いつの間にか 私を変えてしまってたもの/あなたの話す言葉が創る世界"からは、不安を覚えていた"私"の存在が段々と薄れていき、"あなた"に置き換わったことで気が付くと救われていたといった背景が窺えますが、僕はこの関係性をダンス用語で喩えて「リード&フォロー」だと思いました。結びの一節、"すぐにつまづく私を 支えていて"も、社交ダンスの一場面らしくないですか。

 文脈的には比喩表現としての"つまづく"(注:正しくは「つまずく」ですが、歌詞ママの引用です)の意味合いが優勢でしょうが、敢えて文字通りに捉えてダンスに係る人間模様を思い起こし、アレンジとの整合性を取ってみようじゃないかと妄想した次第です。フェードアウトで終わるクロージングも、永遠性の表現だと受け取れば、なお素敵な締め方となります。