tears cyclone -廻- / KOTOKO | A Flood of Music

tears cyclone -廻- / KOTOKO

 KOTOKOの7thアルバム『tears cyclone -廻-』のレビュー・感想です。前作『空中パズル』(2013)から約4年半ぶりと、久々のリリースになります。

tears cyclone -廻-tears cyclone -廻-
3,240円
Amazon


 本作最大の特徴は、帯にも書いてある通り「KOTOKO×I've高瀬一矢 初の完全コラボレーション・アルバム」だということです。両者の素晴らしさというかI've Soundついては、過去に網羅的な記事を書いているので参考までにリンクしておきます。ここでは「まさに俺得のコラボで発売が待ち遠しかった!」ということだけでも抑えていただれば大丈夫です。


 KOTOKOは2011年にI'veから独立したため、以降に発表された5thと6thは「(一応)脱I've期の作品」として扱っていいと思います。一応と付けたのはその二作にもI'veのクリエイター陣は参加しているからで、この観点で言えば今作も前作に引き続きI'veサウンドを楽しめる一枚であることに変わりはありません。しかし今作では全作詞をKOTOKOが、全編曲を高瀬一矢が、作曲は曲ごとにどちらかが担当しているという、「完全コラボ」の看板に偽りのないサウンドプロダクションであるため、I'veファンとしては4th以来の期待値の高さだったのではないでしょうか。

 従って、クレジットの上では便宜上今作をI've Soundとしてもあまり異論はないのではと思います。しかし「コラボレーション」というワードチョイスが物語っている通り、あくまでもシンガーソングライター・KOTOKOと、I'veのクリエイター・高瀬一矢の共作アルバムだということは念頭に置く必要があるとの認識です。所属が分かたれている以上は従来よりも緊密な協力関係が必要となるので、それはともすればI've所属時よりも濃厚な両者の化学反応を楽しめる作品が出来上がることにも繋がるのではと捉えています。




 以上が本作を聴く前の雑感です。リリース前にTVCMで本作のリードトラックである12.「廻-Ro-tation」をちらっと聴いたのですが、それだけで名盤の予感を覚えるほどに大きな期待を寄せていました。これに果たしてどのように応えてくれたのか、1曲ずつ見ていくことにしましょう。

 なお、上に埋め込んだ全曲試聴動画内には『tears cyclone -廻-』というタイトルに込められた意味についての言及が確認出来(サムネでも可読でしょう)、これはアルバムのストーリーを読み解く際のヒントとしても機能するため、この点を意識しながら聴くとよりよいと思います。


01. nonfiction~悪魔が棲む惑星~

 1曲目からハードな世界観が浮かぶタイトルに、KOTOKOらしさをまず感じました。電波ソング歌手としての側面が大きく取り立てられることの多い彼女ですが、それと同じレベルでダークな感情を炸裂させるのも相変わらず上手だなと懐かしくなります。

 歌詞に"悪魔"が登場するのは、"大きな声で叫び現れた/そう 小さくて儚いモノのふりした悪魔"と、"それでも少女は過程を遂げた/そう 大人になってすぐに気付いた悪魔"の二ヶ所で、「内なる存在が目覚めた」といった趣を匂わせるものです。それだけならまだパーソナルな話でとどめることも出来ますが、"方舟に残ったのは/美しい命だけだったはずなのに"や、"神様が創ったのは/美しい色の惑星(ほし)だったはずなのに"などの嘆きのフレーズを考慮すると、もっとマクロな;あけすけに言えば「人類と地球の話」ではと解釈しました。


 この哀感を伴う暗さに疾走感を与えて、一層鮮明にしているのが高瀬さんによるアレンジです。トランシーなイントロの格好良さは、僕がまさに求めたそれでした。1分近く時間を割いているのも実にらしくて、この焦らしこそ高瀬サウンドの真骨頂ではないでしょうか。

 本曲の作曲も高瀬さんの担当ですが、こちらにも彼の個性がよく出ているなと思いました。サビ前半のメロが顕著ですが、平坦な旋律になっているというか上下への振れ幅が想定(=ここまでの曲の流れから予想されるもの)より少なく、「サビにしては少し地味じゃない?」という感想が出そうなラインを攻めている点がお気に入りです。

 僕はここから「メロディアスなだけが作曲じゃない」との主張を勝手に聞き取りましたが、テクノやトランスを土台にしたボーカル曲だと、主旋律で敢えて引き算を披露してもトラックがそれをフォローしてくれるので、この手法は現在でもたとえばEDMのドロップで音数を減らすタイプのメイキングなんかにも受け継がれているのではと分析します。逆説的な称賛でややこしいですが、高瀬さんというかI've Soundは古くからデジタルなサウンドによるダンスミュージックに挑み続けていて、2018年でも過度に音圧を上げたり安易なEDM路線に走っていないところが好きです。


02. 雲雀

 このタイトルでヘビーなギターサウンドから幕を開けたのが少し意外でしたが、続いてセンチメンタルなシンセサウンドが顔を覗かせてからは、曲名的にもKOTOKO楽曲的にも納得のいくアレンジだったので安心しました。

 "春を追いかける雲雀のように"と歌詞にもある通り、春の鳥として有名な雲雀がモチーフの曲ですが、その内容は暗いものとなっています。"こんな小さな箱に/何もかもが支配され/いつか空もいらなくなった/小さな羽 もらったのに/飛べなくなったのは誰のせい?"と、歌われているのは逸れ鳥の心情です。この一節の前に"画面の中の無数の文字"や、"声のない影たちが叫ぶ劇場"などと出てくることを考えると、"小さな箱"はパソコンやスマートフォンなどのデバイスのことで、ネット世界との関わりが意識されていると考えるのが据りがいいと思います。

 メロディも切なく或いは痛々しく、絶望感の滲む歌詞内容を更に強めていると言えますが、その最後に表れる感情はあくまでもニュートラルである点にはっとさせられました。いくつかの問い掛けを経てからの結びの歌詞は、"言わなくていいよ/神様も解ってない/ただ青い惑星(ほし)がまわってる"というものですが、自己の認識の拠点が現実だろうとネットだろうと、存在が続くことに明確な答えなどありはしないとの悟りで終わっているのは、無理にどちらかを選ぶのとはまた違った結論ですよね。


03. 夏恋

 本作の中でいちばん気に入っているナンバーです。初聴時からかなりのストライクだったのですが、その後繰り返し聴いていたらますます虜になってしまいました。イントロの数音を聴いて一瞬Rayの「sign」(2012)が始まったのかと勘違いしましたが、そちらも同じく高瀬さんが編曲した楽曲であるため、氏の好きな入り方なのだろうと推測します。

 特に絶賛したいのはサビで、思わず涙目になってしまうほどの儚さをはらんだメロディの美しさが第一の高評価ポイントです。KOTOKOさんの作曲センスに惚れ惚れします。それだけでも充分に素敵なのですが、グルーヴやビートの心地好さに係る点にまで傾聴していくと、バックでポンポン鳴っている音に凄まじい中毒性があることがわかってきて、この音の存在こそがサビを高く評価する第二の理由です。

 身近なもので喩えると、「卒業証書等を入れる筒を思いっ切り開ける時の音」に近い気がするのですが、仮にこの音がなかったら本曲の魅力は半減すると言ってもいいくらいに心地好い響きを宿していると感じます。他のKOTOKO楽曲を引き合いに出すならば、「BLAZE」(2008)のイントロやサビ後半裏で鳴っている音もこれに近いという認識ですが、これもまた高瀬さんによるナンバーなので、やはり嗜好が反映されたサウンドなのだろうとの感想に至りました。


 夏の情景を鮮やかに切り取った歌詞も素晴らしく、"空へ伸びてく入道雲/どうか消えないで/焼け付く草原/二人ただコントラストの中にいた/近づいて行く二つの指先/夏が焦がしてく/白い逆光の中 浮かぶシルエット/陽炎が揺らした"は、一分の隙もない美しさだと思います。

 その後の展開もドラマチックで、2番サビでは"二人はきっと同じだと/あの日気付いてしまった"や、"夏は悲しいくらいに光を集めて/二人の影 隠すよ"などのフレーズで距離が一段と近くなったことが示され、ラスサビでは"廻る季節が繋げた指先/もうほどけないね/白い逆光の中 揺れたシルエット/一つに重なった"とゼロ距離で描かれるので、これは確かに「夏恋」だわと得心がいきました。

 これだけならハッピーエンドかなという気になりますが、最後の最後に"君は今も胸に…"と意味深な一節が登場し、君の実存が否定された(=少なくとも今目の前に物理的に存在するわけではない)と受け取ることが出来、この短期間で燃え尽きたような背景を想像させるあたりも、まさに「夏恋」だと言うほかありません。

 これだけストーリー性のある曲なので何かの主題歌では?と思ったのですが、どうやら普通にアルバム曲みたいです。「何か」というかそれこそ泣きゲータイプの作品に本曲が使われていたら、おそらく僕は泣いてしまうことでしょう。笑


04. Onyx

 タイトルは『ジーニアス英和辞典 第3版』によると「シマメノウ」のことだそうですが、そのまま「オニキス」でも宝石名としては定着していますよね。この機会に軽く調べたところ、縞の方向がどうとかカルセドニーがどうたらと、鉱物としての学術上の位置付けと宝石としての扱われ方に差異があるのかよくわからなかったので、詳しくは各自で調べてくださいと丸投げします。

 歌詞には"真っ黒な心映す宝石"という形で登場し、先に出した縞瑪瑙の他に「黒瑪瑙」も呼び名としてはメジャーなので、このあたりの色彩感覚を捉えた表現でしょうね。"そっと闇に解き放ったジョーカー"や、"漆黒が手招く夜に 身を委ねた"などの表現も、「黒」が強く意識されているからこそだと思います。


 フォーカスしている色の性質と同じく、サウンドもダーク路線を取っていて非常に格好良いトラックです。01.のような派手さを持ったタイプではありませんが、ジワジワと侵食していく毒のような魅力を宿した本曲もまた、KOTOKO楽曲らしさ(もっと言えばハードな内容のR18ゲームの主題歌っぽさ)に満ちていると感じて懐かしくなりました。

 ベースラインのうねりとシーケンスフレーズの緊張感だけでも評価に値するほどに自分好みのサウンドなのですが、その上をエッジィなメロディが切り裂いていくというのが更に堪らないです。この類の鋭利さはサビで顕著で、叫びや悲鳴のニュアンスを含んでいると感じさせるようなKOTOKOボーカルの表現力の高さには感動さえ覚えます。特に"許されるはずない者"の[る]("許"のほう)で裏返り気味の発声になるのが好きで、嗜虐的なイメージを連想させる趣が楽曲によく馴染んでいると上乗せ評価です。

 他に細かいツボを挙げると、Bメロバックのピアノの美しさ、2番後間奏のチョップされたようなシンセアレンジ、Cメロのメロディアスさあたりにも、高瀬節を見出せたような気がするのでお気に入りです。ひとつだけ意外だったのはラスサビの前半部が落ちサビになっていなかったことで、サビ裏のピアノの素敵さを前面に出した編曲も聴いてみたいと欲が出ました。


05. effacer

 イントロのグルーヴィーでダンサブルなパート(0:20まで)には、2000年前後のI've Soundっぽさが感じられて少し驚きました。その後のキラキラしたシンセリフまで来ると、2000年代中頃まで進んだなという気がしましたが、いずれにせよ良い意味で最先端の音に縛られていないところに好感を持てるのは、01.にも書いた通りです。

 "一人きり待った雨の土曜日"と歌詞にあるように「雨」がテーマのナンバーですが、サウンドの煌びやかさから何となく「雪」を連想してしまいました。「雪華の神話」(2006)の音作りに引き摺られたのかもしれません。まあそれはそれとして、雨の描き方がとてもロマンチックな点を気に入っています。

 "窓を叩く透明な音符/後悔も想い出も消して/サヨナラを弾くような雨"というサビの歌詞に関しては、この一節が表現しているサウンドスケープがまさにアレンジにも反映されていると思いましたし、"それぞれがきっと 傷つけぬように繰り返す小さな嘘/雨音はそっとスタッカート重ね隠してゆく"も、雨と音楽と心模様を巧くまとめていて鮮やかです。


06. Sign of Suspicion



 戯画のR18ゲーム『BALDR HEART』の主題歌で、過去作ではコミックマーケット90で販売された『戯画セット'16夏 ~BALDR HEART セット~』(2016)内のCDおよび、I've GIRL's COMPILATION Vol.10『ALIVE』(2017)にも収録されています。

 「サイバーパンクアクションアドベンチャー」を公称するゲームの主題歌ということで、わかりやすく格好良いトラックですね。アレンジの主張は比較的控えめ;あくまでもバックトラックに徹していて、キャッチーなメロディラインのほうが立てられているとわかります。この疾走感を帯びた旋律こそが本曲の魅力で、Aメロの険しさもBメロの陶酔感もサビの勇ましさも全てがクールです。

 歌詞内容はゲームをプレイしていればより深い理解が出来るのでしょうが、"全てを さあ疑え!/いっそ全部信じて/疑問符の道標で/まだ見ぬ世界へと 脳が開いていく"というフレーズは、ゲームのキャッチコピー?の「見えるものを疑え。見えないものを信じろ。」にも通ずるところがあるので、この唯物と唯心が鬩ぎあっているような感覚が世界観を構築しているのだろうと妄想します。"目に映るものに揺らぐ/そんな弱さが 僕らの強さ"は、矛盾を抱えながらも前に進もうとする意志が感じられて好きな一節です。


07. a-gain

 Rayの楽曲のセルフカバーで、オリジナルはTVアニメ『蒼の彼方のフォーリズム」のED曲でした。1話だけは観た覚えがあり、なんか『エア・ギア』っぽいなと思った記憶もあるのですが、この頃(2016年冬クール)は僕がアニヲタに出戻りつつある言わばリハビリ期間で、視聴本数の上限をかなり絞っていたがゆえに切ってしまったのでしょう。

 従って、またも歌詞内容については浅い理解でしか語れないのですが、(架空の)スポーツを題材とした作品の主題歌らしい爽やかな表現がお気に入りです。"今日はあんな上手くやれたのに/今は追いつけない"や、"大きく放った夢/自由なフォームで追いかけてゆく"などの青春の輝きにスポットライトをあてた一節は、シンプルな言葉遣いであればこそ響くという感じですね。

 アレンジやメロディもこのスポーティーなイメージに寄り添った気持ちの好いものになっていて、瑞々しい音作りが披露されています。一言で表せば「青のサウンド」で、それは大空の抜けるような青さだったり海の透き通った青さだったり若いエネルギーに満ちた青さだったりするのですが、特定の波長だけが目に飛び込んでくるような感覚を、音でもって鮮明に浮き彫りにしているところがひたすらに美しいです。音楽的な観点から補足するなら、これにはシーケンスフレーズの妙もあるのだろうと分析します。


08. 回転木馬

 歌詞の世界観の独特さとメロディの面白さで、本作の中では異色に思えます。サビメロは何処かで聴いたことがあるような気がしないでもありませんが、Bメロ終わり("迷いもなく"~)から続く畳み掛けの旋律には遊び心を感じました。ラスサビで平坦に変化するのもユニークで、歌詞内容とあわせて狂気が増大していくようなアレンジに少し怖くなります。

 そのラストの歌詞;ストーリー上はオチになる部分を引用しますが、"そうさ 君が愛した男は/あの日 石にへばりついてたワーム/そして君はドブネズミ/なんて綺麗になったもんだ"は、なかなかに衝撃的な"本当のこと"でした。結びの"心から愛してるよ"も、ウィスパーボイスに空恐ろしさを覚えます。

 地味に好きなのは2番サビ後の間奏で、入り部分の過度にも聴こえるシンセの圧(強めのアタック)に、細かいこだわりを見た思いです。


09. ミュゲの花束を、君へ

 「鈴蘭」のことをフランス語では「ミュゲ」と言うそうで、特にメーデーに親しい人に贈る文化があることを調べて知りました。「君影草」という別称があることもついでに知り、この由来がポジティブなものかどうかはわかりませんが、ともかくミュゲを贈ることには特別な意味があるのだと言えそうですね。歌詞にもこの背景は意識されていて、"チャペルの鐘 鳴り響く"とダイレクトなワードも出てくるように、「結婚の歌」だとするのが自然な解釈かと思います。

 気になったのは冒頭のスタンザで、"レモネード"が出てくることから直接浮かんだのですが、もしかして詩月カオリ「レモネード」(2003・作詞はKOTOKO)の続編にあたる内容ですかね?同曲はメール恋愛を描いたものでしたが、本曲の"二人を繋ぐ画面のアドレスは/もうそこに無いと 今頃 気付いた"という歌詞は、共通の世界線に基く表現だと受け取りました。気になって「レモネード」の歌詞も確認したところ、"花束も口づけもないけれど"や、"そしていつかあなたに会いにゆきます"などの言わば「伏線」を認めることが出来たため、これはもうアンサーソングだとしていいのではないでしょうか。

 こう思うとアレンジも似ているような気がする、というか意図的に似せていると感じます。同じ高瀬楽曲ですしね。素直な編曲と言いましょうか、良い意味で普通のアレンジが出来るところも高瀬さんの強みであると再認識しました。


10. dusty days

 一転して今度はロックなナンバーです。剥き出しの歌詞と荒っぽいメロディに相応しいアレンジを考えて、電子音を控えめにした感じでしょうか。少年漫画原作アニメの主題歌にあってもおかくなさそうな印象を受けます。

 歌詞では"作った笑顔は悲しい防御だった/クラッシュしないのが最大の攻撃"が最も好きで、弱さと強さが綯い交ぜになっているような感情の交錯に機微が表れていると評価します。

 そこから"そうだ 未熟な賭け 笑われても/そのまま腐ってくよりは良い"や、"自分のため生きることが/誰かを照らす一歩ならば/這いつくばって前に進むよ"などと、"埃の中"でも未来を志向する姿勢に転じているところが尊いです。


11. SA*KU*RA 白書

 タイトルを見た時は、「もしかしてこの曲だけ電波ソングか?」と密かに期待していたのですが、そんなことはなく正統派の楽曲でした。…いや、オリジナルアルバムだからそれはないとわかってはいたのですが、曲名に記号があるとバイアスがかかってしまうのは共感していただけるのではないでしょうか。笑

 「桜」がモチーフなこともあり、テーマ「春/卒業・別離」の「今日の一曲!」で紹介したKOTOKOの楽曲「421-a will-」っぽいナンバーだなと感じました。英語詞コーラスから始まるところや、切なくも希望に満ちたメロディラインなんかは共通のエッセンスだと言えますよね。ただこちらはタイトルに「白書」とあるように、学生時代にフォーカスしている点が異なります。『ビバリーヒルズ高校/青春白書』や『あすなろ白書』的な使用例でしょう。

 歌詞では"どこに暮らしてるとしても/着る服が違っても/ここで見た季節/それが座標/(何か失っても 思い出せる)"が好きで、帰れる場所を培っておくことの掛替えのなさを改めて噛み締める思いです。


12. 廻-Ro-tation-



 アルバムタイトルそのままの曲名ではありませんが、表題曲としていいでしょう。MVもあり、本作をリードするに相応しいキラーチューンだと言えます。前置きで「CMで少し聴いただけで名盤の予感を覚えた」という趣旨のことを書きましたが、「これぞまさにKOTOKO×高瀬一矢だ!」と喧伝したいくらいに僕の嗜好にマッチしたトラックでした。

 CMで流れていたのはサビの部分ですが、とりわけ"運命なんて人間が名付けた幻"のところのメロディが、この上ないほどの高瀬節或いはI've Soundだったため、このパートだけでも「完全コラボ」に嘘偽りはないと判断するのに充分でした。"名付けた"のバックで急に顔を出すピロピロサウンドも好みです。イントロ~Aメロバックのシーケンスフレーズとビートメイキングが醸す疾走感も大好物で、近年の高瀬楽曲だと黒崎真音の「...Because, in SHADOW」(2014)を聴いた時と同じぐらいの高揚感を覚えました。こちらは『REINCARNATION』(輪廻)と題されたアルバムに収録されていたため、『廻-Ro-tation-』にも似たようなファクターを忍ばせたのかなと妄想します。


 歌詞も個性的で読み解き甲斐がありました。Aメロの一部のフレーズには頭文字がついているというか、実際の歌い出しの最初の一音がアルファベットで表示されている(e.g. "K+ きっかけはちっちゃな事だった")のですが、これを繋げると"KAI"はそのまま「廻」に、"END"と"START"は「Ro-tation」を表していると解釈出来るので、表題をバラバラして潜ませるという技巧に感心しました。

 "平行へ…垂直へ…と蠢きながら"や、"陰と陽の列の中で"、"SとNの狭間に現わるelectricity"など、対となる概念が多く登場するのも特徴で、「循環」を意識した語彙選択でコントラストを一層鮮烈にしている点が上手です。この観点では、"人はきっと背中合わせ/真相は時に影となり/舞い戻る光/あえて強く反射して 笑う"が堪らなく好きで、あまりに格好良い言葉繰りに痺れました。



 以上、全12曲です。KOTOKOと高瀬一矢双方の手腕が遺憾なく発揮された、懐かしさと同時に新しさも感じさせる見事なコラボアルバムだったと評します。

 最も気に入ったナンバーはレビュー本文中にも書いた通り03.「夏恋」で、長いキャリアを経てもなお全盛期を思わせるサウンドをアウトプット出来ることは、素直に称賛に値します。次点は本文中のテンション的には12.「廻-Ro-tation-」だと言いたいところですが、レビューのために繰り返し聴いているうちに04.「Onyx」の魅力に取りつかれてしまい、順位が入れ替わりました。05.「effacer」、07.「a-gain」、11.「SA*KU*RA 白書」あたりの、天候や季節の切り取り方が上手いナンバーも結構好みで、全体的に粒揃いだったという感想です。

 
 なお、本作には早期購入特典として「sign -KOTOKO Ver. Remix- (Tomoyuki Nakazawa Remix)」が収められたCDが付属していたので、最後にこれについても簡単にですが言及しておきます。

 括弧内にも書いてある通り、元I'veの中沢伴行さんによるリミックスです。オリジナルは03.の項で奇しくも名前を出しているようにRayの楽曲で、TVアニメ『あの夏で待ってる』のOP曲でした。こちらはより可愛らしいアレンジになっていて、ポップで聴き易いアプローチを仕掛けたのだろうと推測します。