『The Bible』発売記念!KOTOKOの深みにハマった結果 Vol.1 | A Flood of Music

『The Bible』発売記念!KOTOKOの深みにハマった結果 Vol.1

 今回の更新は記事タイトル通りの特別編です。メジャーデビュー15周年のメモリアル作品『KOTOKO's GAME SONG COMPLETE BOX 「The Bible」』(2020)のリリースを祝して、KOTOKOの音楽を全般的に特集します。同作の概要は下掲したティザームービーの通りで、彼女がこれまでに歌唱を務めてきたゲームソングのほぼ全曲を収録した、CD10枚組のコンプリートボックスです。

 

 

 当ブログでKOTOKOの音楽を取り扱うのは本記事が初というわけではなく、ブログテーマも既に作成してありましたし、嘗ての所属先であるI'veに関してもイントロダクション的なエントリーを過去にアップしています。従って、アーティスト紹介に相当するような記述は省略して、さっそく楽曲レビューに入るとしましょう。言及の対象とするのは、個人的なフェイバリットナンバー十数曲です。本記事の執筆動機が『The Bible』にあるのは事実ですが、ゲーム関連の音楽だけでなくアニメの主題歌やノンタイアップの楽曲にもふれたいので、レンジを広く設定しておきます。ただ、それでもメインはやはりゲームソングとなるため、ボックス購入(予定)者に役立つ内容に仕上がっているとの認識です。

 

 

 

 ここでI'veとアニメに纏わる小話を挟んでおきますと、現クールではMXで『とある科学の超電磁砲T』の本放送および『ひぐらしのなく頃に』のセレクション放送が、前クールまではJ:COMで『灼眼のシャナ』が再放送されていて、「2000年代後半にタイムスリップしたのかな?」と思ってしまうほど、地上波に懐かしい作品が揃い踏みしています。いずれもI'veによる主題歌が顔と言えるアニメで(『とある~』は正確には『禁書目録』のほうがですが)、前出したイントロ記事の中で振り返ったI'veとの出逢いの軌跡を、2020年の今再び歩むような気持ちでいられることは、レビュー意欲の向上にも寄与しているはずです。

 

 以上の事由に鑑みて、本記事ではKOTOKOが歌い手として関わっているナンバー(単独名義ではないものも含む、他アーティストへの歌詞提供楽曲は除く)から、お気に入りの上位にあるものを順不同で紹介していきます。なお、これまでに詳細なレビューを行ったことのある「Heart of Hearts」(2001)「421-a will-」(2005)『tears cyclone -廻-』(2018)に関しては、ここでは言及の対象外とするので各リンク先を参照してください。

 

 

■ I-DOLL ~Song for eternity~ (2002)

 

 

 トップバッターに据えて紹介するのは、R18ゲーム『I-DOLL ~アイドル~』のOP曲「I-DOLL ~Song for eternity~」です。歌っているのは勿論KOTOKOでありながら作中キャラクターの汐音愛名義で発表されたナンバーで、気合の入ったOP映像でも愛が本曲を歌うシーンが描かれていました。収録先はゲームに同梱されていたCD(以降はこの類のものを「同梱CD」と表記)か、ビジュアルアーツ社のブランド「IMAGE CRAFT」のコンピ盤『Song for eternity』(2003)で、『The Bible』ではDISC 3の2曲目に収められています(以降は『B:3-02.』のように表記)。【作詞:KOTOKO、作編曲:高瀬一矢】の、俺得鉄板クレジット楽曲です。

 

 本曲最大の魅力は、少しチープなところに打ち込み感がありありながら最低限はエッジィな質感を携えている王道のシンセサウンドと、対照的に温かみのある音色で流麗なラインを奏でているピアノの美しさとの調和にあると捉えています。前者は各番Aメロ前の間奏部やアウトロでリフ的に振る舞っているものや、2番後間奏のリード(3:15~3:44)のことを、後者はサビ始まり裏の伴奏;ピアノのパートとしてはイントロ部分や、落ちサビ裏で役割が副旋律まで昇格しているとしたいセクション(3:45~3:59)のことを指し、両者の調和とはサビの後半(1番は1:31~、2番は2:45~、ラストは4:00~)でのバッキングを、もしくは前述のリード+副旋律(3:15~3:59)のシークエンスをまとめて便宜的に呼称したものです。

 

 上記の説明で僕が言わんとしているシンセとピアノがそれぞれどの音なのかは理解可能と期待しますが、「両者の調和」についてはもう少し解説を加えます。先程落ちサビ裏のピアノに「役割が副旋律まで昇格」という表現を宛がったのは、即ち「昇格前の段階が存在する」という意味です。それは1番/2番の各サビに於いて伴奏の役割を果たしていた時のことを指すので、要するに落ちサビの裏でピアノが奏でているラインは、それよりも前に二度登場している既出のものとなります。その開始位置は1番なら1:16~/2番なら2:30~で、つまりサビの前半から後半まで通して鳴り続けているわけです。サビの後半とは前段落の内容に照らせばシンセによるバッキングのスタート地点なので、サビの前半から続くテンダーなタッチのピアノ伴奏と、跳ねたグルーヴを刻む電子的なサウンドが重なるこの逢瀬の瞬間を、「両者の調和」と形容したのでした。

 

 もう一方の「リード+副旋律」に関しては調和の意味合いが異なり、3:15からインするシンセリードが文字通り主役となるキャッチーな進行の後に、3:45からのピアノが既知のメロディアスな旋律をなぞっていくというリレーが、本曲を構成するアレンジ上の二大要素へと最大限意識が向くように提示されたものに聴こえ、楽想全体を見渡した場合に「均整がとれている」と得心のいくつくりになっているといった文脈での調和です。過去記事のレビュー文から補足をしますと、本曲を好む方はおそらく「Heart of Hearts」も好きなのではと考えていて、同曲について述べた「ストリングスとシンセサイザーが相互補完的に生成しているグルーヴに、得も言われぬこだわりを感じた」との言は、ストリングスをピアノに置換すれば本曲に適用しても構わない感想ですし、「サビを多層的に聴かせるために拵えた控えのメロディを、せっかくならと間奏で目立たせてみる発想」も、間奏を落ちサビに置き換えれば共通するテクニックとなります。

 

 あとはボーカルに施されたエフェクトないしコーラスワークにもこだわりが窺え、本曲を聴いた際に何となく覚えるであろう「全体的にぽわんとした曲だな」といった感覚は、ボーカルトラックの処理にその理由を求められると主張したいです。常に弱めのリバーブがかかっているのか歌声の輪郭が少しくぐもっていて(敢えて言えばKOTOKOっぽさに乏しい印象)、残響のさり気無さからは「お風呂場でやや上機嫌の歌唱」ぐらいの聴覚空間イメージが浮かびます。それによってレゾナントになった歌声は更にコーラスの部分で補完され、特にサビは小節頭に来る音にのみ強めのエコーが重なるため、設定上はアイドル志望の愛が歌うソロナンバーなのに、ユニットの楽曲のようなフォーメーションの趣があるんですよね。ちなみに、同じくキャラ名義として七瀬舞(詩月カオリ)と実際にユニットが組まれてのリリースとなったED曲「君と夢を信じて」(2002)は、『The Bible』の「ほぼ全部」から漏れたゲームソングの一例と言えます。

 

 

■ はじめまして、恋。 (2003)

 

 

 前項は一曲目だからと我ながらかなりガチったレビューを認めてしまったので、次は比較的ライトにいきたいと思います(短いとは言っていない)。二番手に選んだのは「IMAGE CRAFT」つながりで、R18ゲーム『淫妹BABY』のOP曲「はじめまして、恋。」です。収録先は同ブランドのコンピ盤2nd『Precious』(2004)か、I'veの電波ソング中心のコンセプトアルバム第2弾『SHORT CIRCUIT Ⅱ』(2007)、或いは『B:4-01.』でも聴くことが出来ます。本曲もまた鉄板クレジットです。

 

 電波系アルバム(意訳)に収められているだけはあって、確かにカテゴライズするならそれで間違っていないとは思うのですが、トラックの骨子がしっかりとしているからか、ノーマルなアニソンのレベルと受け取れなくもない仕上がりのため、電波曲に興味はあるけど聴くとまだむず痒さが勝ってしまうような、ビギナーでも鑑賞し易い一曲であるとおすすめします。冒頭と末尾のあざとい英語詞パートと、Bメロ裏の甘いラララコーラスと、ウィスパーボイスが最大の難所と化すCメロ"アナタトワタシデヒミツノオハナシ/kiss me baby hold me darling 教えてね"のゆんゆん(オノマトペ)さえ乗り切れば、疾走感を持ったセンチメンタルなメロディラインが光るただの良曲です。ニッチなツボを挙げるとすれば、Aメロに挿入されるピロピロ電子音(e.g. "ごめんなさい…も"の後)と、1番サビの"ねぇ"と2番サビの同位置"今"がモーラ数の違いによって旋律にまで変化が生じている点と、2番後間奏で唐突にアホっぽくなるサウンド(実際は1番Aメロ前半のアレンジが流用されているだけなのに新規セクションらしさがある)が予感させるCメロの電波っぷりが、それぞれ聴きどころだと推してみます。

 

 R18ゲームの主題歌ゆえに歌詞内容はどうしても一歩進んだ展開を連想してしまうのですが、敢えて全年齢のラブソングだと解釈してみますと、ピュアピュアでキュンキュン(年齢が察せる表現)なフレーズのオンパレードは、まさに「はじめまして、恋。」の看板に偽りなしです。殊更に気に入っている一節は、"find! 桃色の吐息が触れ 雲に乗った気分/これが たぶん恋。。。/ねぇ 何もかも初めてなの どうぞ 優しくして/揺れたその瞳の魔法で"と、"あと少しだけ大胆に奪って/迷子みたいに会えただけで泣きたくなるの"で、ファンシーな比喩表現と本能的な欲求との対比が鮮やかに決まっています。

 

 

■ Re-sublimity / agony / Suppuration -core- (全て2004)

 

 

 お次は一旦ゲームソングから離れまして、TVアニメ『神無月の巫女』関連のナンバー(OP曲/ED曲/挿入歌)を3曲まとめて語るとしましょう。収録先は全てシングル『Re-sublimity』で、表題曲だけはKOTOKOのメジャー2ndアルバム『硝子の靡風』(2005)にも収められています。詳しい経緯は本記事の冒頭にリンクしたイントロ的エントリーに書いてあるので色々省きますが、いずれもKOTOKO延いてはI'veの沼に沈む意識的なきっかけとなったナンバーです。

 

 

 「Re-sublimity」は、イントロ記事の中に述べた僕のI've Soundに対するファーストインプレッション(実質的にはセカンドコンタクトなのですが)を象徴するようなトラックで、「トランスを軸として種々のクロスオーバーを試みたと受け取れる独特のサウンドを鳴らしている人たち」と下したクリエイター評が、そのまま本曲の感想としても当て嵌まります。この文脈下での「種々のクロスオーバー」とは、イントロ記事の内容を令和の大改訂で一新した際に削除した文章の言わば名残なので、バックアップから関係のある記述を以下に復活させますね。鍵括弧の部分が直接的なセルフ引用です。

 

 軸はあくまで電子音楽としたうえで、「そのくせ曲の構成にはロック的な手法が入っていたりしっかりJ-POPらしさも備えていたりしたので、アニメ主題歌としてきちんとキャッチーでもあるというのが今までありそうでなかった」と書き、同時にこれは高校生の時分らしい浅い認識であったことを顧みて、「とはいえI'veの革新性を否定する根拠としては乏しい」と結んでいました。加えて、ここで唐突に小室哲哉氏へのディスを挟み(改訂時に削除した理由もこれ)、「僕がTKサウンドに感じていた物足りなさや冗長さが解消された」楽曲制作術が、I've Soundにはあると主張していたのです。その後には小室氏へのフォローを続け、TKサウンドが好きで聴いてきた過去があるからこそ(関連記事)I'veにも馴染みやすかったのであろう点と、I'veも含めて日本の音楽シーンに氏が与えた影響の大きさは計り知れない点を、それぞれおさえておきました。

 

 外周をなぞるような妙なレビューの仕方で恐縮ですが、二つ前のパラグラフから鍵括弧で囲った文章だけでも最低限拾って読んでいけば、僕はそれが自身の音楽遍歴も込みの「Re-sublimity」の感想になると考えています。また、先にレビューした2曲とは異なり、楽曲の内容について分析的な聴き解き方を披露しないのは、「本曲の良さは聴けばわかる!」と感性に委ねたほうがベターだと認識しているからです。ちょうど公式がYouTubeにShort ver.とはいえMVをアップしているので、懐かしく感じた方や新しく興味を持った方への導線も引きやすいと勘案しました。

 

 …が、引用がメインで終わるのも流石にどうかと思ったため、併せて「agony」と「Suppuration -core-」もレビューの対象とします。前者は中沢伴行さんが手掛けたトラックで、川田まみの記事nonocの記事にも記したような作家性が本曲でも実に顕著です。憂いを帯びた鍵盤遣いとセンチメンタルなメロディラインに人間味が感じられる一方で、トラックそのものの無機質さはしっかり維持されており、基調となるサウンドはあくまでテクノ寄りであるところが、個人的な嗜好にも合致しています。細かい点で好きなのは、2番Aメロ直前の間奏に表れる効果的なミュートです。後者は表題曲と同じく高瀬さんによるナンバーで、ダーク且つトランシーな質感の電子音とハードなギターサウンドが融合したトラックの上を、KOTOKOのディストーションされたボーカルが這いずり回ったのも束の間、一転してクリアな処理が施された抜けの好い歌声への変化を見せ、それらが交互に顔を覗かせるという二面性に、歌詞にある"その目で見て来た憂いの境界"を意識させる魔力があります。

 

 

■ HALLUCINO (2003)

 

 

 再びゲームソングに戻りまして、続いてはR18ゲーム『夢幻の迷宮3 TYPE S』のOP曲「HALLUCINO」を紹介します。収録先は同梱CDか、GIRL'S COMPILATIONシリーズの第7弾『EXTRACT』(2010)、そして『B:3-10.』です。'low trance assembly'を自称するだけはあって、I'veがトランス系の楽曲を得意としていることは前項でも主張してきた通りですが、別けても本曲には最高傑作の座が相応しいと強く推します。中沢ワークスの中でも随一です。

 

 哀愁漂うサウンドにのせられた情緒纏綿な一節"あの焼けた雲に残る影追って..."から壮大なバックグラウンドが想像出来る意味深な導入部を経て、じわじわと電子的な趣が増大していくタメのセクションに期待を煽られ、それに確かに応えてみせる0:30~のトランス全開のシーケンスフレーズを聴くだけでも、途轍もない名曲の予感を覚えることでしょう。カスタネットっぽい音が刻むパッショネイトなグルーヴも相俟って、気味が悪いほどの朱に塗れた空のビジョンが脳内にフラッシュバックし、目にした予兆から連鎖していく後の凶事にまで怯えてしまうような、「これまで」と「これから」を同時に提示するサウンドスケープです。ゲームは未プレイなので想像もとい妄想ですが、一片の歌詞と音だけで重厚な世界観が演出されている点を高く評価しています。

 

 作詞者として素直に(電波ソングや萌えソングの歌詞に対する驚きとは別にという意味)KOTOKOさんの凄さを感じたのも本曲がきっかけと記憶していて、非情なまでに現実的なポイント・オブ・ビューに根差した思考回路が窺えるのに、それをファンタジックな強い言葉の連なりに変換してアウトプットしているところに衝撃を受けました。1番A/Bメロの"空をわけた声を頼りに 眠りに似た道を歩く/飛び方など誰も知らない 辺に散らばった不条理/渦巻いた大地なら きっと会える/美しく着飾った道化顔の 正体[ルビ:real]"は、内にあれこれと溜めこんでいる人ほど刺さる表現でしょう。続くサビでは"なぜ ここに生まれ そこを歩くのか?"と根源的な疑問が呈され、それを受ける"積み上がる壁に 限りのない夢幻 群れをなす"で真の答えなどないと悟り、表題の「HALLUCINO」から儚さと偽りの要素を抽出した"姿は見えない 記憶を掠めた影追って/誘い水の香の中 今が続くのなら"に虚構と現実の混淆が見て取れ、それでも"逃れられぬこの夢を 纏いながら/明けの陽を見つけにゆこう"とあくまで前向きに結ばれるという着地点。1番だけとはいえ全文の引用も已むなしと思ってしまったほどには、どのフレーズも神懸っていると感嘆します。

 

 

■ 乙女心+√ネコミミ=∞ (2004)

 

 

 お次は趣向を変えまして、可愛い系のナンバーとしてR18ゲーム『王立ネコミミ学園 ~あなたのための発情期♪~』のOP曲「乙女心+√ネコミミ=∞」を取り立てます。収録先は「はじめまして、恋。」と同じく『SHORT CIRCUIT Ⅱ』で、『The Bible』には未収録です。老舗&有益ファンサイト・I've Sound Explorerではフルコーラス版の項にゲーム本体も記載されていますが、同梱CDに類する記述はないためこれはおそらくゲーム内で鑑賞可能ということでしょう。メーカー公式サイトの商品ページにも、音楽CDが付属している等の文言はありませんでした。

 

 本曲はKOTOKO & 島みやえい子名義でのリリースで、その確固たるアーティスト性が反映された深みのある持ち歌が多いえいこ先生の、貴重な一面を堪能出来るレアなナンバーです。と言っても、僕は本曲のことをあまり電波ソングだとは認識したことがなく、初めて聴いた時から正統派の名曲だと捉えています。どこを切り取ってもメロディラインは甘酸っぱく、題材である猫の目線で描かれた切ない恋心と合わされば、その愛おしさはなるほど「=∞」です。先生の隠し切れない嫋やかさを感じられる歌声で、"三角に立てた耳で あなたの声を聞いたの/もしかすると誰かに恋をしているの?"とソワソワされると、シンプルにグッときますよね。これに続くKOTOKOのボーカルには電子的な厚みが出るコーラスが重ねられていて、"三毛猫 アメ・ショー シャム猫/みんなが振り向くあの子"の高価値が圧で表現されている一方、自身を卑下する"けれど私 捨てネコみたいね…"ではコーラスが外れて、一層の侘しさが滲むという対比が行われており、歌詞に合わせた中沢さんのニクいアレンジに脱帽です。

 

 上記の歌詞も好例ですが、「乙女心」の中にこれでもかと鏤められた猫要素には感心します。猫の行動にも亭主関白の関係性にも取れる"あなたの二歩後ろ どこまでもついてゆく"、スケールの小ささに意識が向く"からだいっぱいに感じてるよ 泣き出しそうな優しさを/小さな爪痕を残すよ"、あざとさの裏に潜む本音にドキっとさせられる"猫なで声は裏腹 本当は強くなれたら…/あなたのこと守れるくらいに"、出逢いの先に待つ高い物語性を予告する"迷子の子猫を拾ったあなたの運命は/うたた寝みたいな魔法で 予想も出来ないほうへ動き出すよ"等々、どれも男性の目線からは出て来ない言葉繰りだと思います。とりわけ"うたた寝みたいな魔法"は、それ単体でも惚れ惚れするほどの名句です。

 

 

■ La clef ~迷宮の鍵~ (2007)

 

 

 なんとなく「二度ゲームソングにふれたら、その次はそれ以外のものを」といった流れが作れそうなので、そのマイルールに従ってお次は漫画『異国迷路のクロワーゼ』のイメージソング「La clef ~迷宮の鍵~」をピックアップします。収録先は雑誌『ドラゴンエイジPure Vol.8』に付録のCDか、「HALLUCINO」と同じく『EXTRACT』です。当時富士見書房のホームページ上で聴けた試聴音源だけで虜になり、付録目当てで雑誌を買った覚えがあります。所持していることの証明のためにプチ情報を挟んでおきますと、当該ディスク3曲目のショート版は1番Bメロまでとラスサビ以降を繋ぎ合わせたものです。

 

 ここまでに紹介した楽曲は高瀬さんか中沢さんが作編曲を担ったものに偏っていましたが、本曲を手掛けたのは井内舞子さんなのでここに新たなクリエイター評を載せておきます。彼女もまたI've Soundの多彩さに寄与する重要人物との理解で、例えば過去にお名前を出してレビューした詩月カオリの「Do you know the magic?」(2004)は、厳密には羽越実有名義ですが井内ワークスのフェイバリットソングです。同じく詩月カオリのナンバーではいちばんの好みと言っていい「Shining stars bless☆」(2007)も井内さんによるものですし、MELLの「Virgin's high!」(2007)も最上位レベルのお気に入りで(羽越名義では「Egen」(2005)も相当に好き)、ボーカリストの魅力を効果的に引き出す能力の持ち主だと認識しています。KOTOKO楽曲に限れば、羽越名義且つ編曲のみですが「Mighty Heart ~ある日のケンカ、いつもの恋心~」(2005)の赤面しそうな中毒性も、編曲だけRichと共作の「↑青春ロケット↑」(2006)の天井知らずのポップさも、共に納得の電波具合です。前者は『B:5-04.』に、後者は『B:5-13』でひとつのディスクに収められています。

 

 こうしてリストアップしてみると、高瀬中沢の両名であればもう少し複雑な音遣いにしそうな場面で、それよりもキャッチーな響きを優先した結果のノリが良い楽曲が多い気がしますが、対照的に「La clef~」は精緻なつくりが特徴です。「異国」に異世界の意味合いが含まれず、そのまま「外国」(フランス)を指す点がまだ2000年代の作品だと安心する懐古主義も込みで、文字通り異国情緒あふれるサウンドが楽曲を通して印象に残ります。とりわけAメロの弦遣いが、西欧的な鳴らし方で好みです。一方で、作品の舞台が19世紀後半のパリとはいえ主人公は日本から渡仏してきた少女であるからか、歌詞には随所に古風な趣が織り込まれています。"見上げた異国の空へ 玉響小さく祈り"から感じられる控えめな姿勢、"辿り着いた十字路で/ふと出逢う すれ違う/石畳が泣いた…"という繊細さが極まった擬人法、"古時計は語らない/臆病に止まる心は色褪せた硝子細工"に見られるいじらしい比喩、"三つ指付いて傅く思い/届きますか ひとつだけ…"の大和撫子精神と、和の心を忘れずに異国で頑張る少女の姿が健気です。旋律の美麗さも本曲の聴きどころで、特にCメロは「これぞ異国迷路のクロワーゼ」と太鼓判を捺したい眩惑的なラインに心奪われます。

 

 

 

 記事の途中ですが、字数制限の影響でVol.1はここまでです。今月の2日から商品リンクの埋め込み方法が大きく変わり、どれだけHTMLタグで字数を食ってしまうかの感覚がまだ掴めていないため(ついでに言うと最新版エディタにも不慣れなので)、本記事のフォーマットは今後の参考とします。今のところは次のVol.2で終わらせるつもりでいますが、筆が乗ったらVol.3まで更新するかもしれません。幸いステイホーム週間で時間はたっぷりあるので、なるべく早く続きを執筆したいと思います。【追記:2020.5.3】 Vol.2をアップしました。