『The Bible』発売記念!KOTOKOの深みにハマった結果 Vol.2 | A Flood of Music

『The Bible』発売記念!KOTOKOの深みにハマった結果 Vol.2

 本記事は「『The Bible』発売記念!KOTOKOの深みにハマった結果 Vol.1」の続きです。『KOTOKO's GAME SONG COMPLETE BOX 「The Bible」』(2020)の発売を記念して、KOTOKOの音楽を全般的に特集しています。Vol.1では以下にリストした6項目で8曲をレビューしたため、企画の説明や用語の解説も含めて興味のある方は上掲リンク先をご覧ください。

 

■ I-DOLL ~Song for eternity~ (2002)

■ はじめまして、恋。 (2003)

■ Re-sublimity / agony / Suppuration -core- (全て2004)

■ HALLUCINO (2003)

■ 乙女心+√ネコミミ=∞ (2004)

■ La clef ~迷宮の鍵~ (2007)

 

 上記8曲を楽曲制作者(I'veのクリエイター)別に振り分けると、高瀬一矢さんが手掛けたものが4曲、中沢伴行さんが3曲、井内舞子さんが1曲です。左記に鑑み、お次は既出のお三方以外のトラックメイカーに言及したいので、まずは「中坪淳彦さんが作編曲を担ったKOTOKOのナンバー(アレンジのみは除く)」を3曲続けて紹介します。

 

 

■ Lupe (2003)

 

 

 その一番手に据えるのは、R18ゲーム『凌辱制服女学園 ~恥蜜に濡れた制服~』のED曲「Lupe」です。収録先は同梱CDか、GIRL'S COMPILATIONシリーズの第6弾『COLLECTIVE』(2005)、或いは『B:3-13.』でも聴くことが出来ます。ゲームタイトルから明らかなように所謂陵辱モノの主題歌で、元はドイツ語ながら外来語として馴染みのある「ルーペ」という曲名も、囚われの胡蝶を観察するための虫眼鏡のことと解すれば、途端に意味深長なアイテムへと早変わりです。

 

 "細く尖った針が 身体を突き刺し/硝子に横たえた翅 最後の光を放つ"と、仰けから絶望的なフレーズが出てくるところは流石陵辱ゲーといった趣で、"優しい指と硝子の箱が これから唯一の世界/空を忘れて 動きを止めて 慟哭に溺れて"に描き出される昆虫標本の残酷さが、"もう探せない… 無駄に広げた翅が夢に見てた世界"や"繭の中で見てた幻は/眩く… 卑しく… 儚く……"などの描写で更に浮き彫りとなり、それでも"締め付けられた鈍い痛みに いつしか酔いしれて"と快楽に傾き始め、"見られて… 目醒めて… 迷って……"に遅疑逡巡が窺えるも、完璧な状態でパッケージされることを是とするような"永遠の美と硝子の部屋が これから唯一の世界"に落ち着くという流れには、官能小説を思わせるストーリー性が宿っています。色んな意味で個人的にいちばんゾクっときた一節は、"あれは昨日の扉 開けてはいけない"です。

 

 このように一般の楽曲では中々お目にかかれないハードな世界観が印象的ですが、それを彩るサウンドにテクノないしダンスミュージックが選ばれている点が技巧的で、音の無機質さや楽想のシステマティックさは加虐性を、反復の美学に根差した恍惚感や享楽的なグルーヴが織り成す多幸感は被虐性を、どちらも嗜虐の文脈で提示するには打って付けのジャンルと言えます。中坪さんはこの二面性を捉えるのが特に上手な方だと認識していて、普段から電子音楽を好んで聴く立場からの評を述べるとすれば、I'veの中で最も前出の界隈に造詣が深いのではと考えさせられるトラックメイキングです。高瀬・中沢・井内三名の楽曲からも勿論同様のルーツは感じ取れるけれども、彼らはあくまでゲームやアニメの主題歌である点を重視しているからか、聴き易さや訴求力といったキャッチーな要素を取り入れる傾向にあるのに対して、中坪さんはストイックに電子音楽のマナーに則ったアウトプットを披露してきていると分析出来ます。

 

 本曲はまさにその好例で、細やかなビート構築と絶妙にうねるベースラインを基底に、装飾的でありながらリズムにも寄与している空間支配力の高いピアノが適宜挿入され、Bメロ裏のシンセフレーズが間奏部ではリフ的に振る舞うという連続性にも耳を傾ければ、リスニング志向では延々と聴き続けられる、フロア志向では途切れることなく踊り続けられるといった感想を抱け、敢えてネガティブに表現して展開に乏しいと言えるこのつくりは、元よりターゲットがポップスを好むような層にはないと解釈すれば納得です。

 

 

■ cross up (2004)

 

 

 上述したクリエイター評の補足のために、続いてR18ゲーム『OL姉妹』のOP曲「cross up」をレビューします。収録先はSelenの別ゲーの補完盤『燐月 MINI FANDISC』(2005)か、コミケ会場限定販売の『I've MANIA Tracks Vol.Ⅲ』(2010)、もしくはレアトラック集『I've C-VOX 2000-2014』(2018)と限定的な作品が多かったものの、今般『B:4-12.』にも収められたので入手が容易になりました。

 

 またも陵辱モノの主題歌ということで、曲調は「Lupe」と似ているところがあります。基底をなすリズム隊のつくりやピアノの効果的な利用であったり、お気に入りなのであろう近しい音色のシンセであったりと、中坪さんの作家性を理解しやすい仕上がりです。本曲のほうが鍵盤のグルーヴィーさがより際立っているので、フロア向けにプレイするならばこちらをおすすめします。個人的にツボなセクションは1番サビ後の間奏で(その開始位置が2:49~という遅さも実に非ポップス的で好感触)、特に2:57から始まるご機嫌な短めのフレーズを挟んでリフパートに戻るところのユーロっぽいノリが素敵です。

 

 中坪ワークスには他のI'veクリエイターが制作した楽曲のリミックスが多いのも特徴で、そのことも考慮してニッチにニッチを掛け合わせた所感を載せますと、Underworldに対するDarren Priceのような御仁だと勝手に思っています。プライシーはメンバーではないものの、ライブパフォーマンス時のサポート要員およびオフィシャルDJとしてバンドに欠かせない存在で、アンダーワールド楽曲のリミックスでも優れた手腕を見せているアーティストです。在籍期間が短いとはいえ中坪さんは歴としたI've所属のクリエイターなので、厳密には比較対象としておかしくはあるものの、少し離れたところに確固たる地位を築いていた点で、共通するものがあるのではと考えています。Vol.1にリンクしたI'veのイントロ的記事の中で軽くふれたインスト主体の作品に於いても、中坪さんのソロプロジェクト名義であるfish toneのトラックが鑑賞可能であるため、一歩進んだ理解を得たい方は手を出すと良いでしょう。『CURE TRANCEシリーズ』なら「Vol.1 Psychedelic」(2002)収録の「Birth」が、『VERVE CIRCLEシリーズ』なら「002 beat spellbound-agitation mix」(2003)収録の「60's motors」がお気に入りです。

 

 

■ DuDiDuWa*lalala (2004)

 

 

 中坪さん特集の3曲目には意外性のあるものをということで、TVアニメ『魔法少女隊アルス』のED曲「DuDiDuWa*lalala」を紹介します。収録先はメジャーデビューシングル『覚えてていいよ/DuDiDuWa*lalala』です。同アニメはNHK教育テレビの番組『天才ビットくん』の枠内で放送されていたもので、陵辱ゲーと公共放送への楽曲提供が同年内にあるというカオスっぷりに驚かされます。笑

 

 本曲は作曲のみKOTOKOとの共作で、加えてWikipediaにも記述がある通り「美しく青きドナウ」(1866)を彷彿させるラインが取り入れられているので(クレジットにヨハン・シュトラウスの名があるわけではないけれども)、純粋に中坪さんが作編曲を担ったナンバーとは言いにくいかもしれません。実際、僕は今まで本曲のことを中坪ワークスとしてはあまり意識しておらず(井内さんか中沢さん作だと思っていた)、今回レビューするにあたって情報を整理している最中での意外な発見でした。アレンジが全くポップス的であるからというのがこの勘違いの最たる理由でしょうが、かと言ってストレートにJ-POPらしいかと問われるとそうでもないプログレッシブな楽想を有していて、I'veの全曲を相手取っても本曲の異質さは顕著であるとの認識です。両A面の片割れゆえ扱いはシングル曲、且つアニメの主題歌なので通常はわかりやすい楽想が正解であろうところに、本曲は何処がサビだとかを規定しにくい複雑さを突き付けてきます。

 

 以下に登場する不可解な用語に対しての疑問は説明書が解消してくれるはずと丸投げしたうえで、本曲のメロディを素直に区分するなら表題を含む英語詞のパートをサビと置くのが定石でしょう。その場合は【"さぁ~"がAメロ、"目指すは~"がBメロ、"Hey!~"がサビ、"どんな~"がCメロ、"背高~"がDメロ】となります。しかし、個人的には英語詞部分をコーラス(β)で処理するのもアリだと考えていて、その場合は【"さぁ~"がAメロ、"目指すは~"がサビ、"Hey!~"がコーラス(β)、"どんな~"がBメロ、"背高~"がCメロ】、もしくは用語の置き換えで【"さぁ~"がヴァース、"目指すは~"がコーラス(α)、"Hey!~"がコーラス(β)、"どんな~"がブリッジ(原義的使用)、"背高~"がフック(ラップ的理解)】となり、説明書にも例示していない特殊ケースを設定するほかありません。ただ、書き方の差異はその実どうでもよくて、後者の枢機は"目指すは~"をサビと捉えた点です。これは「美しく~」の構成に合わせた解釈で、そもそものスタイルがクラシック音楽なのだとして分析にあたれば、ポップスの形式から逸脱するのは寧ろ当然であると得心がいきます。

 

 僕が本曲でいちばん好んでいるのは、歌詞で言えば"背高"~のセクションです。三つ目の区分例に「(ラップ的理解)」と注釈を付けたように、「美しく青きドナウ」よろしくメロディアスなラインが連続する展開のクロージングで、俄に旋律性が乏しくなるというギャップにはっとさせられました。人間同士どころか種族を超えたダイバーシティについて考えさせられる歌詞内容も愛おしく、"背高でもちびっころでも 恐い人も優しい人も/みんな遠くの星から来て/おんなじ海で生まれて/羽根はなくても心の空を飛んでるんだ"や、"8本足、4本足も、2本足も根っこだけでも/みんなおんなじ空気を吸って/大っきな空を見るのが大好きで 大切な夢がある"は、シンプルな言葉繰りの中に無限の可能性が込められている天才的なフレージングです。クワイアっぽい"We're laughing always..."のフェードアウトで曲が閉じられる点も、合唱曲らしさの演出だとすれば原曲の巧い取り入れ方と評せます。

 

 

■ Absurd (2003)

 

 

 続いて特集するクリエイターはC.G mixです。「Face of Fact」(2002)や「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」(2003)を筆頭にKOTOKOの代表曲を数多く手掛けている方で(ちなみに「Face~」の編曲は中坪さんとの共作)、現在もI'veに所属し高瀬さんとの二枚看板を張っていらっしゃいます。それらの有名楽曲を今更語っても面白みに欠けると判断したため、ここでは僕の嗜好に基いて選んだ3曲にフォーカスさせてください。最初にレビューするのは、R18ゲーム『まいにち好きして』のOP曲「Absurd」です。収録先は『まいにち好きして ORIGINAL SOUND TRACK』(2005)か、『I've MANIA Tracks Vol.Ⅱ』(2009)および『I've C-VOX 2000-2014』、そして『B:4-04.』になります。

 

 上掲サントラの可愛らしいジャケ絵またはイチャラブなゲームタイトルからは想像しにくい、切なさと仄暗さを孕んだサウンドスケープにまず意外性を感じますが、「常識に反した」ないし「理性に反する」などと訳される不穏な曲目を冠していること自体がそも示唆的です。ネタバレなしのプレイ記を書いている方のブログを見るに後半から展開がシリアスになるようですし、公式サイトのキャラ・ストーリー紹介の文章にも布石になりそうな部分はあったので、鑑賞後にOP曲の内容が真に迫って来るタイプなのだと推測します。歌詞内容は有り体に言えば「友情と愛情の狭間で揺らぐ気持ち」がテーマの普遍的なものですが、その関係性が「一対一」ではなく「二対一」且つ「二は姉妹」ゆえにシチュエーションは複雑です。おまけに主人公は記憶喪失ときたものだから、各々の打算が渦巻くのも已むなしでしょう。

 

 アレンジ面を語りますと、全体としてはバンドテイストの音作りが印象的で、ギターやドラムスの音像もリアル路線に思えます。しかし、ディレイの心地好いピアノや何処か艶っぽいコーラス(この使用は説明書で言うところのγです)の挿入、またはサビ前のフィル的な電子音遣いなどの装飾が豊かなおかげで、総合的には打ち込みっぽいともそうじゃないとも断定しにくいサウンドになっていて、この曖昧さに揺れ動く感情が表現されていると結べそうです。

 

 

■ Just as time is running out (2002)

 

 

 しじみ(愛称)特集の2曲目は、R18ゲーム「ぎりギリLOVE」のOP曲「Just as time is running out」です。収録先はこれまで同梱CDだけという稀少さを誇っていた楽曲ですが、この度『B:3-04.』でも聴けるようになりました。本記事は一応全年齢向けに書いているためゲームの商品リンクを貼るわけにもいかず、字数制限(HTMLタグ)対策も兼ねて埋め込みは省略とします。

 

 またも他のアーティストを引き合いに出す独り善がりな感想をご容赦いただければ、wataさんが手掛けた「Jumping Note」(2003)と併せて、昔から僕の中で「90年代のEvery Little Thingっぽいナンバー」との認定が下っているのが本曲です。かなり昔に某掲示板にこの私見を投稿したところ、「お前は俺か」とレスを貰った記憶があるので、一定程度は共感が得られる視点ではないかと期待します。なお、古い投稿が残ってやしないかと改めて検索してみたところ、「Jumping~」に対する言及にELTの名が含まれる投稿を多く確認出来たので、皆思うことは同じかと安心しました。笑

 

 一方で、「Just~」にまでELTみを見出している人は少数派なようです。喩えとして、「Jumping~」がギターの伊藤さんがしっかりと存在を主張するタイプのポップロックだとしたら、「Just~」はキーボードの五十嵐さんを主役に鍵盤によるノリを重視したavexらしいナンバーに感じられるため、当時のELTを好んでいた人なら両曲とも気に入るはずだと結び付けたくなります。ともすれば双方に失礼な比較をしているかもしれませんが、類似点を指摘して悦に入りたいだとかパクリと騒ぎ立てたいだとかの他意は一切なく、「僕はこういうサウンドで育ってきたから、近しい要素を発見すると嬉しくなってしまう」というだけの、ある意味条件反射なのです。本曲に関しては要するに、I've SoundでありながらJ-POPのマナーが優勢なところを逆説的に評価していて、キャッチーなメロディラインと【Aメロ → Bメロ → サビ】を繰り返すだけの王道の楽想に、懐かしさが込み上げてくるといった立脚地を大切にしています。純粋にトラックとして好きなポイントは2番後間奏のピアノソロで、思わず心が弾んでしまうグルーヴィーさが今風に言ってエモいです。

 

 

■ Lilies line (2007)

 

 

 Vol.1で「二度ゲームソングにふれたら、その次はそれ以外のものを」というマイルールを提示してここまで遵守してきましたが、しじみ特集で紹介したい個人的上位3曲はいずれもゲーム主題歌だったので本項のみ例外とします。というわけで、続いてのレビュー対象はR18ゲーム『チアフル!』のOP曲「Lilies line」です。収録先は同梱CDか、電波コンピ第3弾『SHORT CIRCUIT Ⅲ』(2010)、ブランドのベスト盤『GIGA BEST ALBUM -戯画ベストアルバム-』(2018)、更に『B:5-11.』でも鑑賞可能と、定期的に再録の機会に恵まれています。

 

 実は本曲は過去に軽くレビューしたことがありまして、関連記述があるのはこの記事です。リンク先でメインで取り上げた楽曲が「チア」をテーマにしたもので、そのサウンドを分析する過程で一例として紹介しました。その内容を掻い摘んで説明すると、チアからイメージされる溌溂さやポップさが窺えるセクションを甲、それとは対照的に切ない印象を抱くようなセクションを乙として、両者を掛け合わせた楽想でチアらしさを表現するケースが散見されるとの持論です。具体的には、甲はホイッスル&クラップによるビートメイキングや英語詞によるコールなどを指し、チアのモーションで表せばラインダンスに代表される横の動きの表現と解釈しています。一方の乙は甲のカウンターとしての存在で、甲乙の移行時に感じられる「突き抜け」のビジョンが、チアに於ける縦方向へのアクション【スタンツを組む → トップがトスで舞う → ベース/スポットの補助で着地する】を表現しているとの理解です。

 

 本曲は全体的には乙のサウンドスケープが優勢で、終始センチメンタルなメロディラインが前面に来ていると言えますが、間奏部("Let's GO☆"~)とBメロのバックに据えられたコールがしっかりと甲の役割を担っているため、上記の「突き抜け」を複数回味わえる実にチアらしい楽曲に仕上がっています。歌詞内容の健気さも相俟って、応援される側の努力や決意に想いを馳せている(応援する側の自己満足ではない)ことがありありと伝ってくるので、軸を切ない旋律に委ねていてもエールソングとして違和感なく成立している点が技巧的です。青春描写が光るストーリーラインも美しく、"ずっと何故か忘れない/君の瞳に会った日の/悪戯な風吹く不安定な午後/何気なく触れたって/気付いてはくれないね/みんなにするように笑って逃げた"の甘酸っぱい幕開けから、"君が苦しむ時は声も嗄らせるよ"や"もうちょっと…だとか 悔しいとか/もどかしさ全部 私に投げて!"の献身にグッときて、"素肌が汗ばむくらいに/心もカラダも絶対 君を想ってる"といつしか芽生えた恋愛感情(控えめな表現)に落ち着くのもお約束で、R18ゲームの主題歌だからこその踏み込んだ関係性のほうが、実はリアルを切り取っているということは得てしてあると思います。

 

 

■ Undying Love (2003)

 

 特定のクリエイター縛りはここまでとし、ここからはまた雑多に紹介を続けます。本項でピックアップするのは、R18ゲーム『ALMA ~ずっとそばに…~』のOP曲「Undying Love」です。収録先は同梱CDか、『ALMA Sound Track ~ずっと聴いて♪~』(2004)、Vol.1から数えて三度目の登場となる『EXTRACT』(2010)、そして『B:3-06.』でも聴けます。『EXTRACT』はVol.1と商品リンクがかぶるので除外するとして、ゲームのサントラもAmazon上にページは存在するのに取り扱い不可だからかピック出来ないので、またも埋め込みは省略です。

 

 本曲は編曲だけ高瀬さんで、作詞と作曲はそれぞれ魁さんとF-ACEさんというゲームのシナリオと音楽を担当した方が務めています。挿入歌の「ずっとそばに…」(2003)と、Bonbee!の別ゲーのOP曲・AKIの「新しい恋のかたち」(1999)も同様のクレジットです。ちなみに、KOTOKOが歌う「新しい恋のかたち -SHORT CIRCUIT Ⅱ EDIT-」(2007)ではC.G mixによるアレンジ(厳密にはこちらのほうが原盤楽曲扱い)を楽しめます。非I'veクリエイターの両名が手掛けた歌詞およびメロディの出来が悪いわけでは決してありませんが、僕が本曲を好む最大の理由は編曲の格好良さにあるので、高瀬さんによるトラックメイキングの妙を殊更に味わえるナンバーとして個人的に評価が高いです。

 

 とりわけ惚れ惚れするのが間奏部のシンセ遣いで、1番サビ終わりの"あの空に届け"に宿る深遠な伸びの好さを引き継ぐように文字通りアッパーに展開していったかと思えば、2:06で唐突にカメラが地上まで引き摺り下ろされて素に戻ってしまったかの如き虚無感に襲われ、一応は小刻みなビートによる予告がある(2:04~2:05)とはいえ、半ば強引な変化の付け方が琴線に強くふれます。「不滅の愛」と題されているだけはあって、盲目な恋愛感情だけではない相応の覚悟が背景にあると読み解けるため、上述のクールダウンパートは後者の表現ではないでしょうか。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、ゲームの内容に照らせばこの編曲の意図が一層理解しやすくなると期待します。

 

 

■ ねぇ、…しようよ! (2004)

 

 お次は中沢ワークスの電波ソングとして、R18ゲーム『姉、ちゃんとしようよっ!2』のOP曲「ねぇ、…しようよ!」を取り立てます。収録先は同梱CDか、『SHORT CIRCUIT Ⅱ』(2007)、そして『B:4-10.』です。Vol.1との重複回避目的で、商品リンクの埋め込みはまたまた省略とします。そのVol.1でレビューした「はじめまして、恋。」(2003)の項では、同曲のことを「電波曲に興味はあるけど聴くとまだむず痒さが勝ってしまうような、ビギナーでも鑑賞し易い一曲である」と評しましたが、対する本曲は洒落が効きつつもド直球の曲名が象徴している通り、赤面ポイントがいくつも鏤められているわかりやすいナンバーです。

 

 その一例として合いの手に中毒性があるフック部分の内容を語りますと、歌詞というか台詞の"お姉ちゃんにまかせなさい♪"は、今やすっかり『ご注文はうさぎですか?』のモカないしココアにお株を奪われてしまった感のある言い回しで(余談ですが「お姉さんに~」だったら『アイカツフレンズ!』のエマが思い浮かびます)、だとしても「自分的にはこっちが元祖なんだけどなぁ」と、業界に姉萌えの新風を呼び込んだゲームの主題歌に相応しいキャッチフレーズである点を遠い目で振り返りたくなります。クロージングの歌詞は字面だけでも強烈で、"可愛さあまって(もう、うきうっき~☆) いじめたつもりが(やっちゃえ×2)/手玉にとられた? ! (それってがっくり…) お姉ちゃん もうくらくらです/突然のちゅ~も(へっちゃら×2) しらーんぷりでも(へっちゃら×2)/ぎゅーってされても(へっちゃら×2)/………んなわけないでしょぉ~~~~~"を見れば、KOTOKOのヤバさがおわかりになるでしょう。笑

 

 前出のフックは「フロウの良い台詞回し+合いの手」で構成され、言わばリズムの補助的な役目があるため、(恥ずかしさを乗り越えられれば)聴いていて気持ちが好いのは当然です。加えて、メインメロディのポップさにも特筆性があり、ノリの良さを第一義に据えたのであろうラインが非常にクセになります。別けてもサビメロは、1番の"キミのハートはマッハで翔る白いジェットのように自由で"、もしくは2番の同位置"キミのハートはマジックテープ いつの間にかぴたんこ☆くっついて"に於ける、旋律の動きに合わせた長音・促音・濁音・半濁音の効果的な出現(特殊例ながらライミングの一種)が口遊みたくなる魅力を生み、これらに続く"たまにムチャでうぶでヤワで常にシャイで"(1番)|"私 なぜかうぶで無知でまさにシャイな"(2番)では、くどいほどに単純で覚えやすい旋律が深く考えるのを放棄させ、電波になされるがままでいるのが大正義と言わんばかりの快楽性にこちらも"くらくら"くるのです。

 

 

■ RETRIEVE (2005)

 

 

 最後に紹介するのは、ノンタイアップからの選曲で「RETRIEVE」です。収録先はKOTOKOの2ndアルバム『硝子の靡風』(2005)のみとなります。俯瞰的な着眼点が冴え渡る達観した歌詞からはKOTOKOの大人なモノの見方が窺え、痛みを振り撒きつつも決して脆弱ではない疾走感のあるメロディと、ロック的なアプローチを基本としながらも電子的な趣が巧く塩梅されたアレンジには高瀬節が垣間見え、「これぞKOTOKO×高瀬一矢の鉄板クレジット楽曲」と評するほかありません。アルバムの幕開けを飾る曲にしては暗いなと思う気持ちもありますが、無根拠な前向きさよりも現実を見据えた決意のほうに重きが置かれているということで、上記のようなアウトプットになっているのだと、延いては表題の英単語が持ついくつかの意味「取り戻す、救う、思い出す」に繋がるのだろうと考えています。

 

 1番サビの"信じれば波の奥に探してた場所が現われる?/もがく指からこぼれて空を彷徨う/真実はたった一つと遠くから記憶が叫んでる/もがき疲れた手足が覚えている/眠る森の匂い"はまだ暗示的と言いましょうか、ハードな現実とテンダーな思い出が鬩ぎ合っているんだなとの理解を得られますが、2番サビの"のまれた波の奥で見つけた幻想の花の群れ/そこに混じって咲くのもいいと迷った/そっとただ待っているのは 変わらぬ故郷の青い空/まだ間に合うと濁った水を蹴った/いつか還る場所へ"でストレートにホームタウンを指す語が登場してからは、「新天地で頑張る人の歌」というテーマ性が明確になり、ラスサビの"信じれば波の奥に永遠の揺りかご現われる/泳ぎ疲れて求めた愛の偶像/真実はたった一つと遠くから記憶が叫んでる/失うのなら思いをそっと休めて/再び飛び立つ日まで…"で行き着くところまで行ってしまった人の内面が暴かれ、再起の模様は次曲の「Wing my Way」に描かれているとの解釈です。過去曲のリアレンジをわざわざこの位置に収録しているのも、同曲の歌詞内容で「RETRIEVE」の世界観が救われるからだと受け取っています。

 

 編曲上の細かいツボとしては、タイムで表示すれば1:06から鳴り出す残響でリズムを刻むようなシンセが、サビ裏にも短く切られて出現することでボーカルラインの疾走感を補助している点が好みです。あとはイントロの環境音について、ドヤ顔で書いて間違っていたら恥ずかしいので具体名は伏せておきますが、某映画からのサンプリングではないかと踏んでいます。というのも、その映画を何気なく鑑賞していた際に、「あれ?なんかRETRIEVEのイントロ流れてない?」と思った覚えがあるからです。この記憶自体がかなり昔のものなので、似たようなサウンドスケープを誤解しているだけかもしれませんけどね。もしくは共通のサンプリング元が存在するとかでしょうか。

 

【追記:2022.4.8/更に追記:2023.8.22】

 

 確認が取れたので作品名を明かしますと、上記の環境音についてその元ネタと推測していた映画は『フライトプラン』です。直近のテレビ放送を録画して観返したところ、「RETRIEVE」冒頭の女性ボイスと同じものを作中から聞き取れました。具体的にはカーソンが飛行機から降りようとするシーンで、状況的に機外に待機している警察無線のSEだと思われます。同作の公開日は本曲のリリースより後なので、サンプリング対象になるわけがありませんでしたね。ただどちらも2005年の作品なので、共通の音声素材が当時流行していたのかもしれません。今でも「Police Radio Sound Effect」等のワードで検索をすれば、近しいフリー音源にアクセス出来ます。/その後たまたま鑑賞した『ザ・ファン』でも同じ音声に遭遇しました。こちらは誘拐犯と交渉しようとする場面で流れるため、やはり警察絡みのSEで間違いなさそうです。出現を1996年まで遡れたので、想定よりも古くからある定番素材なのかもと思い始めています。

 

【追記ここまで】

 

 

 

 以上、Vol.1から通してKOTOKOの個人的フェイバリットナンバー都合17曲のレビューでした。このラインナップは当ブログが「今日の一曲!(バージョン2.0)」のルールに従って更新を行っていた時期に、サイコロの出目による選曲のために使用していたプレイリストに基いています。詳細はリンク先の2.2~2.2.1を参照していただければと思いますが、KOTOKOはnの値を最大の20に設定しているアーティストなので、お気に入り序列の1~20位が含まれる「1st」のプレイリストから選曲すれば、自ずとハイレベルな楽曲が揃い踏みするだろうと意図したわけです。

 

 と言いつつ、実は「agony」と「ねぇ、…しようよ!」は「2nd」(21~40位)に割り振っていたため、「1st」から取り立てたのは17-2で実質15曲となります。残る5曲の内訳には、過去にレビュー済みの「Heart of Hearts」(2001)と「夏恋」および「Onyx」(共に2018)が含まれるので、今回「1st」から選外としたナンバーは「SAVE YOUR HEART -Album Mix-」(2003)と「BLAZE」(2008)の2曲です。このまま更新をVol.3以降も続けていくとしたら(今回は取り敢えずVol.2までで一旦終了です)、この2曲と「2nd」および「3rd」(41~60位)からピックアップすることになるであろうことを見越して、参考までに現時点でのプレイリストの内容を以下にネタバレしてみます。初出年は省略して、昇順【数字 → アルファベット → あいうえお(ひらがな・カタカナ・漢字の区別なし)】での表示です。

 

 

 Excelの当該部をスクショしただけの手抜きですみませんが、いちばん左がアーティスト名と曲数(nの値;敢えて文字列にしていません)を表示するセクションで、後は順にブロック分けされた「1st」「2nd」「3rd」です。上記のような表をアーティスト毎に作成してあり、頃合いを見て内容の入れ替えを行っています。やはり僕の中での黄金期は2000年代ゆえ、本企画での紹介分も含めて偏りが出てしまっている感は否めませんね。今回のレビューにあたっても、やたらと懐かしいつくりのウェブサイトを多く訪問することになったので、常にノスタルジックな気分で文章を認めていました。笑