今日の一曲!川田まみ「IMMORAL」【平成16年の楽曲】
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第十六弾です。【追記ここまで】
平成16年分の「今日の一曲!」は川田まみの「IMMORAL」(2004)です。同名のR18ゲームの主題歌で、初出年もそれに基いています。音源として入手しやすいのは、後にリリースされたI'VE GIRLS COMPILATION 6『COLLECTIVE』(2005)か、もしくは川田まみ名義での1stアルバム『SEED』(2006)、あるいは2作目のベスト『MAMI KAWADA BEST “F”』(2016)です。コンピにもファーストにもベストにも収録されているということで、本曲への自信の程と人気の程が窺えます。
今回の振り返りに僕自身のキャリアを重ねると、本記事からが高校生編です。第一次アニヲタ期の始まりから終わりまで(詳細はリンク先の2.3を参照)と重なる期間であるため、その一発目には二次元趣味からのトラックを引っ張ってこようと思い至りました。
川田さんというかI've Soundとの出逢いに関しては過去にこの記事で詳しく述べてあるので、その音楽性や当時代性などの全般的なことはそちらに丸投げします。その後もいくつかI'veの記事は更新していますが、川田さんの楽曲をメインに立てたことは未だなく、今回はそれゆえの選曲です。
先に本曲のクレジットを見てみましょう。トラックメイキングを務めた中沢伴行さんは、後に川田さんの夫となる方です。未来の夫婦という波長の一致が無意識に伝わってくるからか、音楽的な観点でもこの組み合わせは自分の中で鉄板のひとつだと認識しています。これは上掲の記事に於いて、歌唱と作詞がKOTOKOさん・作編曲が高瀬一矢さんのタッグを鉄板と表現したことを踏まえての言です。
一昨年の夏に更新した同記事の中で僕は、「近年ではメインストリームにて名前をお見かけする機会が格段に減ってしまった」と、I'veの衰退を嘆く記述をしました。しかし、最近は表舞台での活躍も再び耳にするようになってきたので、復権の兆しがあると考えています。正確には'元'が付くのでI'veと言うと語弊がありますが、中沢さん×川田さん(作詞)のワークスでは、2018年のアニソン振り返り記事でもふれた「Happen~木枯らしに吹かれて~」(2018)はお気に入りでしたし、前期のアニメ主題歌では「KODO」(2019)のあまりの格好良さに痺れました。一方で現所属組も負けてはいなくて、「Break the Blue!!」(2019)の高揚感を煽るようなスピーディーなラインにはしっかりと高瀬節が感じられましたし、後年からの加入で唯一の女性クリエイターでもあるNAMIさんが手掛けた「Colorful☆Wing」(2019)も、サウンドに確かなI'veらしさが宿っていて懐かしくなりました。
【追記:2019.5.22】
この点に関しては、先にもリンクした「I've Soundとの出逢いに関して」の記事に、更なる詳細があります。これは、後に行うこととなった令和の大改訂時に、当該記事への大幅な加筆修正を施したことによる時期のズレです。
【追記ここまで】
「IMMORAL」に話を戻します。作詞を手掛けたのはKOTOKOさんで、学園不道徳ADVと公称されているR18ゲームの主題歌に相応しい、表題通りのインモラルな情景を思わせる歌詞が素敵です。ゲームは未プレイゆえに突っ込んだ解釈は出来ませんが、纏わる背徳感を露骨にではなく、文学的として差し支えない上品さでもって言葉に落とし込んでいる点を評価します。
キーとなるのは"日記帳"です。サビ始まりの幕開けには、"締め付けた思いが 閉じ込めたページを開く"との一節があり、これは内に秘めていた"君"への届かぬ想いが、徐々に苛烈になっていく様を予言した立ち上がりだと表せます。1番サビは"内気な夢に溢れた 雫が落ち汚してく/白い日記帳に 許されぬ文字増えてゆく"と結ばれ、潔白が濁っていく様はなるほどふしだらです。他のI've楽曲を例に出すと、MELLの「さよならを教えて ~comment te dire adieu~」(2001)の歌詞、"情欲を書き込むタブラ・ラサ"を連想しました。
この段階では、"日記帳"を汚しているのは未だ自分由来の成分(="内気な夢"~)が強いと言えますが、その前の"傷つけて 心が触れるなら/君の欠片に刺された 痛みなら構わない"が布石となっているように、次第に"君"に求める闇が色濃くなっていきます。それは落ちサビのフレーズにも反映されていて、"傷つけて 言葉交わせるなら/ありきたりな甘い囁きなんていらない/書きなぐるような思いを/痛くしたって構わない 私に焼き付けて…"は、無難な関係性で終わるよりかは暴力的な主従関係でも良しとするような美学の芽生えに映ります。
これだけだとマゾヒスティックな面が際立つ印象を受けますが、続くラスサビの歌詞で攻守の逆転が見られるのが一層に意味深長です。またも"君の欠片に刺された"~の部分が伏線的に働きますが、刺される立場にあった自分が最終的には、"届かせて 泣きじゃくる思いを/君のページを切り裂く欠片 それになれたら…"と、攻撃性を伴ったものに変質していきます。それに続くは、"一瞬でいい 記憶の深い場所に触れたら/君の日記帳で 永遠の面影になる"で、当初は存在していたであろう純粋さが、堕ちて真っ黒に穢れたことがわかるクロージングです。
ただし、これが必ずしもバッドエンドではなさそうなところがミソで、この歌の主人公的には"君"に"自分"を刻み込めたのであれば、過程や手段は問わないのでしょうね。元からそういう思考を抱いていたわけではなくて、非情で残酷な現実(※婉曲表現)に誘導された結果でこうなってしまった向きがあると感じられるので、曲名およびゲーム題の「IMMORAL」にも納得です。
最後に作編曲の面をざっとレビューします。メロディにもアレンジにも中沢さんの得意とするマナーがきちんと窺え、前者はセンチメンタルな趣とポップセンスが高い次元で調和を果たしている馴染みやすい旋律(+それを感情豊かに歌い上げる川田さんの声質)に、後者はテクノやトランスを基調としたトラックの冷静さに生の手触りと温かみを付与するギャップを活かした鍵盤使いの妙技に、それぞれ'らしさ'が表れていると主張したいです。
平成16年の本記事で紹介し得る楽曲としては他に「eclipse」(2004)も候補で、将又1年ずらして「緋色の空」(2005)を取り上げるプランもあったのですが、いずれのトラックも上述したような中沢サウンドの強みが、川田さんのボーカルによって昇華されている点を好んでいるため、クリエイタータッグとしての優秀さにも特筆性があるハイスキルな夫婦の存在を稀有に思います。
平成16年分の「今日の一曲!」は川田まみの「IMMORAL」(2004)です。同名のR18ゲームの主題歌で、初出年もそれに基いています。音源として入手しやすいのは、後にリリースされたI'VE GIRLS COMPILATION 6『COLLECTIVE』(2005)か、もしくは川田まみ名義での1stアルバム『SEED』(2006)、あるいは2作目のベスト『MAMI KAWADA BEST “F”』(2016)です。コンピにもファーストにもベストにも収録されているということで、本曲への自信の程と人気の程が窺えます。
![]() | SEED(通常盤) 1,400円 Amazon |
今回の振り返りに僕自身のキャリアを重ねると、本記事からが高校生編です。第一次アニヲタ期の始まりから終わりまで(詳細はリンク先の2.3を参照)と重なる期間であるため、その一発目には二次元趣味からのトラックを引っ張ってこようと思い至りました。
川田さんというかI've Soundとの出逢いに関しては過去にこの記事で詳しく述べてあるので、その音楽性や当時代性などの全般的なことはそちらに丸投げします。その後もいくつかI'veの記事は更新していますが、川田さんの楽曲をメインに立てたことは未だなく、今回はそれゆえの選曲です。
![]() | MAMI KAWADA BEST “F”(通常盤) 5,130円 Amazon |
先に本曲のクレジットを見てみましょう。トラックメイキングを務めた中沢伴行さんは、後に川田さんの夫となる方です。未来の夫婦という波長の一致が無意識に伝わってくるからか、音楽的な観点でもこの組み合わせは自分の中で鉄板のひとつだと認識しています。これは上掲の記事に於いて、歌唱と作詞がKOTOKOさん・作編曲が高瀬一矢さんのタッグを鉄板と表現したことを踏まえての言です。
一昨年の夏に更新した同記事の中で僕は、「近年ではメインストリームにて名前をお見かけする機会が格段に減ってしまった」と、I'veの衰退を嘆く記述をしました。しかし、最近は表舞台での活躍も再び耳にするようになってきたので、復権の兆しがあると考えています。正確には'元'が付くのでI'veと言うと語弊がありますが、中沢さん×川田さん(作詞)のワークスでは、2018年のアニソン振り返り記事でもふれた「Happen~木枯らしに吹かれて~」(2018)はお気に入りでしたし、前期のアニメ主題歌では「KODO」(2019)のあまりの格好良さに痺れました。一方で現所属組も負けてはいなくて、「Break the Blue!!」(2019)の高揚感を煽るようなスピーディーなラインにはしっかりと高瀬節が感じられましたし、後年からの加入で唯一の女性クリエイターでもあるNAMIさんが手掛けた「Colorful☆Wing」(2019)も、サウンドに確かなI'veらしさが宿っていて懐かしくなりました。
【追記:2019.5.22】
この点に関しては、先にもリンクした「I've Soundとの出逢いに関して」の記事に、更なる詳細があります。これは、後に行うこととなった令和の大改訂時に、当該記事への大幅な加筆修正を施したことによる時期のズレです。
【追記ここまで】
「IMMORAL」に話を戻します。作詞を手掛けたのはKOTOKOさんで、学園不道徳ADVと公称されているR18ゲームの主題歌に相応しい、表題通りのインモラルな情景を思わせる歌詞が素敵です。ゲームは未プレイゆえに突っ込んだ解釈は出来ませんが、纏わる背徳感を露骨にではなく、文学的として差し支えない上品さでもって言葉に落とし込んでいる点を評価します。
キーとなるのは"日記帳"です。サビ始まりの幕開けには、"締め付けた思いが 閉じ込めたページを開く"との一節があり、これは内に秘めていた"君"への届かぬ想いが、徐々に苛烈になっていく様を予言した立ち上がりだと表せます。1番サビは"内気な夢に溢れた 雫が落ち汚してく/白い日記帳に 許されぬ文字増えてゆく"と結ばれ、潔白が濁っていく様はなるほどふしだらです。他のI've楽曲を例に出すと、MELLの「さよならを教えて ~comment te dire adieu~」(2001)の歌詞、"情欲を書き込むタブラ・ラサ"を連想しました。
この段階では、"日記帳"を汚しているのは未だ自分由来の成分(="内気な夢"~)が強いと言えますが、その前の"傷つけて 心が触れるなら/君の欠片に刺された 痛みなら構わない"が布石となっているように、次第に"君"に求める闇が色濃くなっていきます。それは落ちサビのフレーズにも反映されていて、"傷つけて 言葉交わせるなら/ありきたりな甘い囁きなんていらない/書きなぐるような思いを/痛くしたって構わない 私に焼き付けて…"は、無難な関係性で終わるよりかは暴力的な主従関係でも良しとするような美学の芽生えに映ります。
これだけだとマゾヒスティックな面が際立つ印象を受けますが、続くラスサビの歌詞で攻守の逆転が見られるのが一層に意味深長です。またも"君の欠片に刺された"~の部分が伏線的に働きますが、刺される立場にあった自分が最終的には、"届かせて 泣きじゃくる思いを/君のページを切り裂く欠片 それになれたら…"と、攻撃性を伴ったものに変質していきます。それに続くは、"一瞬でいい 記憶の深い場所に触れたら/君の日記帳で 永遠の面影になる"で、当初は存在していたであろう純粋さが、堕ちて真っ黒に穢れたことがわかるクロージングです。
ただし、これが必ずしもバッドエンドではなさそうなところがミソで、この歌の主人公的には"君"に"自分"を刻み込めたのであれば、過程や手段は問わないのでしょうね。元からそういう思考を抱いていたわけではなくて、非情で残酷な現実(※婉曲表現)に誘導された結果でこうなってしまった向きがあると感じられるので、曲名およびゲーム題の「IMMORAL」にも納得です。
最後に作編曲の面をざっとレビューします。メロディにもアレンジにも中沢さんの得意とするマナーがきちんと窺え、前者はセンチメンタルな趣とポップセンスが高い次元で調和を果たしている馴染みやすい旋律(+それを感情豊かに歌い上げる川田さんの声質)に、後者はテクノやトランスを基調としたトラックの冷静さに生の手触りと温かみを付与するギャップを活かした鍵盤使いの妙技に、それぞれ'らしさ'が表れていると主張したいです。
平成16年の本記事で紹介し得る楽曲としては他に「eclipse」(2004)も候補で、将又1年ずらして「緋色の空」(2005)を取り上げるプランもあったのですが、いずれのトラックも上述したような中沢サウンドの強みが、川田さんのボーカルによって昇華されている点を好んでいるため、クリエイタータッグとしての優秀さにも特筆性があるハイスキルな夫婦の存在を稀有に思います。