今日の一曲!nonoc「KODO」 | A Flood of Music

今日の一曲!nonoc「KODO」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第十四弾です。【追記ここまで】

 

 

 今回の「今日の一曲!」は、nonocの「KODO」(2019)です。TVアニメ『魔法少女特殊戦あすか』OP曲。

 

 

 当ブログ上で本曲について言及するのは実は三度目でして、初めて曲名を出したこの記事では「あまりの格好良さに痺れました」との感想を載せています。二度目にふれたのはこの記事で、そこでは一度目の内容に対する補足を行いました。前者は川田まみさんと中沢伴行さん(本曲の作詞者および作編曲者)への、後者は彼らが嘗て所属していたI'veへの全般的なプロダクション評を記したものであるところから察せる通り、僕は本曲をI've Soundの流れを汲むものだと認識しています。従って、本記事はブログテーマを「I've」に設定しているわけですが、正確には頭に「元」が付くことに留意していただけると幸いです。ともすれば失礼なカテゴライズになってしまう虞は拭えないものの、便宜的な処置以外の理由はないので悪しからずご容赦ください。

 

 さて、前回の「今日の一曲!」をご覧になった方はここまでの文章を読んで、「二記事続けて似たような書き出しだな」とお思いになったかもしれませんね。共通しているのは同じI'veの記事にリンクを貼っている点で、前回も今回も執筆の動機付けがそこに曲名を挙げていたことに求められるため、言わば伏線回収的な流れを意識しています。加えて、更新予定のネタバレを交えて話しますと、次の記事ではKOTOKOの楽曲を特集しようと考えているので、その前にI'veつながりの布石を打っておくのも悪くないといった計算もあり、本曲を取り立てるなら今だとの結論に至った次第です。なお、当該記事内には他にも【2019年のアニソンを振り返る】企画でピックアップしたい楽曲が複数リストされているのですが、それらについてはもう少しタイミングを空けてから紹介します。

 

 

 

 裏話はこの辺りで切り上げて、ぼちぼち本曲のレビューに入るとしましょう。先に楽曲のイメージないしサウンドスケープを把握しておくために、『魔法少女特殊戦あすか』の内容について語っておきますと、いの一番に出てくるのは「隙あらば手足が欠損するアニメだったな」というリョナ系の感想です。作品タイトルからして普通の魔法少女モノではないことは明らかで、異世界勢力の介入で激化した大戦によるパラダイムシフトを経て、次なる惨禍の火種が燻り続けるアフターウォーの世界と没交渉を許されなかった少女たちの活動記録…と、そんなキャプションを副えたくなる作品でした。

 

 

 

 このリアルとファンタジーが綯い交ぜになった混沌の作風を、主題歌の「KODO」はイントロから雄弁に物語っています。敢えて古い用語を持ち出してきて、デジロックなトラックメイキングとハードなギターサウンドが印象的な冒頭の十秒は、それだけで編曲【中沢伴行、尾崎武士】のクレジットに得心のいくアウトプットです。序奏の勢いはそのままに、お次はアッパーな展開を見せるシンセリフが登場し、音色そのものはキレイめでありながら波形やADSRにエッジィな細工を思わせる手腕は、実に中沢さんらしいセンスであるとこれまた納得に至ります。これらのフュージョンないしギャップが、前出したカオスの理解に繋がるといったロジックです。

 

 OP映像も格好良いリフ(ただの「間奏部」ではなく!)をバックにタイトルが出る自分好みの画面構成で、同じ2019年冬アニメでは『CIRCLET PRINCESS(サークレット・プリンセス)』のOPにも「こういうのでいいんだよ」との視聴感を抱いたほどには、僕の中では王道の観せ方だと言えます。ちなみに、同作のOP曲「HEAT:Moment」(2019)は橋本みゆきさんの楽曲で、思い出補正も込みで個人的には2000年代中頃が黄金期だった方との認識でいるため、2010年代の終わりまで1年を切った時世に於いてなお、ゼロ年代っぽいつくりのOPを提示してきたこと自体を、懐古厨的マインドで評価している節は否めません。笑

 

 

 脱線したので話を音楽に戻します。「KODO」の歌唱を務めるnonocのことは本曲で初めて知ったのですが、楽曲制作を担ったのが中沢川田の両名であるのは必定だと感じたほどには、今のI'veに欲しいタイプのシンガー(北海道出身であることも含めて)だとのファーストインプレッションを持ちました。あまり「ポスト○○」という形容は好かないと言い訳を挟んだうえで、川田まみの瑞々しくも切なげな物語性のある声質と、MELLの歌唱に宿るフェティッシュな魅力と洋楽的なマナーへの親和性を、併せ持っているがゆえの高いポテンシャルを見出せます。

 

 Aメロは中沢さんの作ったラインに川田さんが詞をのせているので当然と言えば当然ですが、川田まみによるナンバーと言われても然して違和感がないくらいにはその作家性が顕著です。ここまでのサウンドの激しさでゴリ押すのではなく、一呼吸置いてきちんとメロディアスなセクションが出てくるところが、中沢ワークスの枢機であると主張します。続くBメロは表記上で括弧書きが大部分を占めていることからわかるように、内なる声と自問自答を繰り返すビジョンが浮かぶ歌詞内容で、"―(I don't wanna lose anymore...)"の英語詞リフレインパートは、バックのギターのコードも込みでMELLっぽいダークなトラックメイキングだと思いました。

 

 サビメロは言うなれば両者の良いとこ取りで、「疾走感がある」とポジティブにも「焦燥に駆られる」とネガティブにも表現可能な、感情は扨措き前進するしかないという背景が聴き解ける、発展性の高いラインに引き込まれます。この両立を一人の歌声で成し得ている点からも、nonocのボーカリストとしての可能性は充分に窺えるでしょう。歌詞内容も好みで、"beat... beat... beat!!/開始のベル/"生きている" と "生きろ" という叫び"には、高校生・大鳥居あすかと魔法少女・ラプチャー☆あすかの二面性が表れていると受け取りました。

 

 

 以上、nonoc「KODO」のレビューでした。冒頭で断っておいた通り、本曲に関してはクリエイター陣を重視して便宜上I've Soundと扱ってきたものの、『彼方のアストラ』にふれた記事では言及の外にやってしまった彼女の2ndシングル曲「star*frost」(2019)について言えば、別の制作陣による楽曲ということもあって本曲とはまた異なる印象を受けたので(比較的素な感じ?)、まだまだ種々の伸び代がある歌手だと期待しています。