今日の一曲!Study「Can now, Can now」 | A Flood of Music

今日の一曲!Study「Can now, Can now」

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第十三弾です。【追記ここまで】

 

 

 今回の「今日の一曲!」は、Studyの「Can now, Can now」(2019)です。TVアニメ『ぼくたちは勉強ができない!』のOP曲で、同作のために結成されたユニットが歌唱を務めています。メンバーは作中ヒロインズ(のCVを担った声優陣)により構成され、1期の時点では古橋文乃(白石晴香)・緒方理珠(富田美憂)・武元うるか(鈴代紗弓)の3名が、2期から桐須真冬(Lynn)・小美浪あすみ(朝日奈丸佳)の2名が加わり、都合5名が現メンバーという変遷です。

 

 

 当ブログでStudyの楽曲に言及するのは実は二度目でして、この記事に於いて音楽制作プロダクションI'veの元所属組による近年のワークスを紹介する流れの中に、1期ED曲「Never Give It Up!!」(2019)の名前だけは出していました。同曲に対してはex-とはいえI've贔屓の心理が働いているため、純粋にStudyのみを評価した結果で好きなのかと問われると怪しくなってしまうのですが、I'veが絡まない1期OP曲「セイシュンゼミナール」(2019)も中々のお気に入りではあったので、歌詞通り"わたしの可能性"を感じさせるだけのポテンシャルは有していたとの評価です。

 

 この煮え切らない主題歌評はそのまま個人的な作品評にも繋がる部分があって、1期を視聴し終えた段階では正直「ジャンプっぽいラブコメだなぁ(男子中高生には刺さりやすいだろうなぁ)」ぐらいのニュートラルな感想しか持ち合わせていませんでした。しかし、2期から本格的な参戦となったあしゅみぃ先輩のキャラクターがとってもストライクで(1期の頃から好みではあったのですが、OGの2人はサブヒロイン=攻略対象外と誤解していたせいで、一歩引いた観方になっていました)、それを皮切りに他のキャラも全員魅力的に映り始め、2期の視聴中には「ええラブコメや…」との愛着が芽生えていたのです。すると、今度は反対に作品内容から主題歌へと高評価の橋渡しが起こり、2期はOP曲もED曲も文句なしに素晴らしいと思うようになりました。相互作用的と書けば方向はその実どうでもよくはあるけれども、2期の主題歌;とりわけ「Can now, Can now」の名曲っぷりには特筆性があるとの結論に至ったため、こうして単独記事を立てた次第です。

 

 心の声で口調が荒れても律儀に「だよ!」を語尾に付すことでモダリティへの配慮が万全とわかる文乃の可愛さだったり、下掲のOP映像でシャープペンシルと芯ケースで形作られた飛び込み台から英語のプールにダイブするうるかの画が暗示する成長性であったり、キャラや内容についてもう少しだけ語りたい気持ちを抑えつつ、音楽レビューブログらしく楽曲の良さにフォーカスしていくとしましょう。

 

 

 

 本曲最大の美点は、ずばりメロディラインの技巧性にあると考えています。本記事はブログテーマを「アニソン(可愛い系)」にして更新していますが、この分類は半ば便宜的なもので、僕がいちばん評価しているのは構成力の高い旋律に耳を奪われてしまった事実です。目下進行中の企画【2019年のアニソンを振り返る】の範疇に於いて、僕が「さいかわ認定」を下した楽曲および次点の楽曲(左記リンク内を参照)に迫るほどには本曲にも確かなキュートさが備わっているとの認識の中で、敢えて可愛いだけじゃないプラスアルファの部分に注目していきます。

 

 先にクレジットから紹介しますと、本曲の作詞と作曲を手掛けたのは園田健太郎さんです。過去の企画【2018年のアニソンを振り返る】でも氏による作品を「今日の一曲!」に据えてレビューしたことがあり、そこに僕なりのクリエイター評も載せてあるので、併せて参考にしていただければと思います。それは面倒だという方のためにポイントを絞って書くなら、『本曲でも「園田さんの幅広いトラックメイキング力」に驚かされることになった』というのが、これから言わんとする内容の全てです。以下、通時的に楽曲の諸要素にふれていきます。

 

 

 イントロはなく、表題を含むサビ始まりで幕開け。正確を期する表記に改めれば、サビの後半部のみを先出ししてフック的な役割を持たせたサビ始まりです。「サビ後半?フック?なにそれ?」と疑問を抱いた方には、当ブログ上で機能するメロディ区分のルールを記載した説明書をご覧くださいと丸投げしますが、真の意味で当該記事の内容が参考になるであろうセクションは、歌詞で表せば"A to Z の方程式/知らない世界"のスタンザになります。マイルールに従えば、ここは「コーラス(β)」で処理する部分で、説明書内に例示してある楽曲のそれより原則的且つ理解しやすい好例と言えるでしょう。掻い摘んで解説すると、当該の二行を「コーラス(β)」と区分するのは、それが「異なる主旋律を繋ぐ役割を持った歌ありの短いセクション」だからです。

 

 共感を得られるだろうと期待して主張を続けますと、この部分を「サビの一部」ないし「Aメロの一部」と見做すことには、何処か抵抗がありませんでしょうか。サビメロは"笑顔で受け取るよ"で綺麗にオチていますし、Aメロの入りは"春夏秋冬の中で"に設定するのが自然ですよね。となると、その間に挟まれたメロディは一体どう扱えばいいんだといった壁にぶつかるわけですが、まさにこういう時のために用意してあったのが「コーラス(β)」なので、区分にレアケースを持ち出す必要がある楽想そのものに、僕は賛辞を呈したく思います。ただ、「コーラス(β)」を規定する枢機は「主旋律を表す流れの中に組み込むのは不適格」という要素であるため、前出した説明書内の二例のようにリフ的な使われ方でそれが複数回登場するという形であるなら、然して珍しいと取り立てるまでもなくなります。

 

 本例の「コーラス(β)」が何よりわかりやすいのは、全体を通して一度しか登場しないセクションである点です。次に来る楽想上の同位置、つまり1番サビと2番Aメロの間は格好の再出現ポイントですが、1番サビ終わりのメロディ展開が異なること("だから一緒に前を向いてこう Ah")で入り込む余地がありません。Aメロには繋がらないけれど、それ以降に再出現の蓋然性がある2番サビ終わりとラスサビ終わりについても、前者は直後にCメロが始まること("二度と来ない毎日を")で封じられ、後者は変則的なアドリブ("君の可能性が 胸の中弾みだす")からの1番サビ終わりと同じ展開("明日の自分は今日より素敵 Ah")で二重にブロックされるので、「コーラス(β)」は本当にサビ始まりと1番Aメロを繋ぐためだけに用意されたものだとの帰結を得るのです。ここに儚さの美学が見出せると言いましょうか、結合力のある旋律(リフやフィルとして使いやすいメロディ)を一度の使用で済ませる潔さに、園田さんのこだわりが宿っている気がします。

 

 

 長々とラスサビまで通して言及したものの、タイムで表せばまだ0:17までの展開を語っただけに過ぎないため、ここで視点を1番Aメロまで戻してください。実直さの中に少しの切なさが滲む情緒纏綿なAメロは、メンバーが3人から5人に増えたことのお披露目の意味合いが込められているとわかるパート割りが印象的です。限られた時間の共有に想いを馳せるフレーズを経て、"それぞれ選ぶ道が/間違いじゃなかったら/答え合わせしよう"と前向きな約束を交わすことは、銘々が現状を頑張る大きな動機付けとなります。

 

 これを受けるBメロはベクトルがポップに振れ、わかる人にしかわからない喩えをしますと、同じくBメロでサザンオールスターズが得意とするような、カスタネットの効果的な挿入と跳ねたリズム感がツボでした。この辺りは編曲者である鈴木Daichi秀行さんのセンスだと見受けられ、氏についてもこの記事を代表的に過去に幾度かお名前を出したことがあるので、興味のある方は参考にしてください。振り返って使用楽器に傾聴してみると、サビ始まりのセクションにも膜鳴楽器らしい音が使われていますし("信じれば"の裏)、後に控えるサビでも引き続きカスタネットが小刻みなビートを奏でていて、グルーヴにさり気なく諸外国の要素が鏤められているのも好感触です。

 

 Bメロは歌詞についても注目したくて、"少し遅すぎた成長期"という言い回しが良い意味で引っ掛かりました。「稀によくある」に近い使用法だと思うのですが、各語の意味を厳格に適用すると矛盾が生じてしまうようなコロケーションでも、例えば「稀な現象が一度発生すると癖になる」との解釈を行えば(e.g. 流星群, 誘発地震, 発作)、そこまでおかしくない表現に感じられるといった類の妙味があると主張します。"少し遅すぎた成長期"は、『「成長期」というカテゴリーの中では「遅すぎ」の部類に入るけれども、「遅すぎ」の中では程度が「少し」である』と解釈すれば、語用論的には「まだ挽回可能」というメッセージを伝えることになるので(続く"大器晩成な日々"で補足もされています)、大きなビハインドを感じつつも勉強を頑張る登場人物だらけの本作に対して、この上なく適切にテーマ性を捉えた歌詞だと絶賛するほかないのです。

 

 

 サビもまたメロディの表現力に光るものがあります。"全てが正解な答えなんかなくても"の旋律とそれに続くコードだけでクロージングを迎えそうなフェイントの後に、歌詞通りにレイヤードな音符の動きを見せる"積み重ねてきた毎日が"が来ることで、その流麗さを一段と際立たせているところが素晴らしいです。この旋律の美しさだけでも、名曲と断じて構わないと考えています。着実に研鑽を積んできた者だけが浴びる多幸感をメロディに起こしたなら、このような未来志向のアウトプットになるのも然りと得心がいきました。

 

 "Can now ! Can now !/きっと叶う"で表題の掛詞がわかりやすくなるのと同時に、ここで初めてサビ始まりがサビ後半部を利用したものだと気付けます。厳密には1番サビ後半と2番サビ後半のメロディはサビ始まりのそれとは異なり、同じと言えるのはラスサビ後半だけなのですが、この微妙な差異がリスナーを最後まで飽きさせない肝にもなっているため、神は細部に宿るの精神が窺える園田さんのコンポーズ力には、ただ脱帽するばかりです。

 

 

 

 1期OP/ED曲と2期OP曲にふれておいて2期ED曲だけ省くのは不公平なので、最後にごく簡単にですがhalcaの「放課後のリバティ」(2019)もレビューしましょう。個人的には『Tokyo 7th シスターズ』関連の楽曲でお馴染みの本田正樹さんが作編曲を担っているというだけでも、全幅の信頼を寄せるほかないと贔屓目が発動してしまうのですが、氏の得意とするポップセンスがhalcaの快活な歌声とSDキャラが可愛いED映像によくマッチしているため、なるたけ客観的に聴いても主題歌として申し分ない出来だと思っています。"ヤ・メ・テ"の連呼で幾度もキャッチーなポイントを作ってあることの面白さだったり、"きっと夢みることは放課後のリバティ"と勉学の外に目を向けたフレーズに懐かしさを覚えたりと、細かく聴くよりもノリやメモリーを重視したほうが良さに迫れるタイプのナンバーです。

 

 以上、「Can now, Can now」をメインに据えた『ぼく勉』主題歌プチ特集でした。コロナ禍に伴う諸々の影響で、現在はリアルに「ぼくたちは勉強ができない!」状態かもしれない学生諸子に、本記事が僅かばかりのエールとなれば幸いです。