メラミンによる卵巣のダメージ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、メラミンによる卵巣のダメージをマウスで検討したものです。

Hum Reprod 2015; 30: 1643(中国)
要約:マウスにメラミンを含んだ食餌(0、10、50 mg/kg/日)を与え、卵巣機能を調べました。メラミン食を摂取したマウスでは、卵巣重量減少、卵胞発育減少、極体放出率減少、卵子の異常細胞骨格増加、卵子ミトコンドリア異常分布、早期アポトーシス、メチル化異常、出産児の体重低下が認められました。

解説:メラミンは有機化合物で、ホルムアルデヒドと反応しメチロールメラミンを生成します。メチロールメラミンはメラミン樹脂の原料となり合成樹脂として利用されています。メラミン樹脂は耐熱、耐水、機械強度などの点で優れるため、ラミネート、プラスチック、コーティング剤、フィルター、のり、食器、台所用品などに使用されています。しかし、食品のタンパク質含有量を意図的に増加するためにメラミンが使用され、メラミンが混入された中国製ペットフードがアメリカ等に輸出され、犬や猫が主に腎不全で死亡する事件が2007年に起きました。また、2008年には中国でメラミン混入粉ミルクが原因で乳幼児に腎結石や腎不全が多数発生する事件が起きています。世界保健機関(WHO)は、メラミンが牛乳に添加された理由を「増量の目的で生乳に水が加えられていた。水が加えられて希釈されると、たん白質含量は低くなる。牛乳のたん白質含量は、窒素含量を測定する方法で検査されるので、窒素含量の多いメラミンを添加すればたん白質含量を高く偽ることができる」としています。日本でも、中国産の乳・乳製品及び食品添加物、またそれらを使用した食品からメラミンが検出されているほか、中国産の卵・卵製品からもメラミンの検出が報告されており、2008年に食品安全委員会はメラミン混入の注意喚起を行ない、輸入時及び国内流通輸入食品の検査等の対策強化が図られ、メラミンが検出された食品については食品衛生法に基づき回収措置が取られました。

メラミンは、腎臓以外にも、肝臓、脾臓、膀胱、脳などに蓄積することが知られており、胎児や赤ちゃんのこれらの臓器からもメラミンが検出されています。メラミン摂取により、男性では精子のDNA損傷が生じることが最近報告されましたが、女性の生殖機能に関する論文はこれまでありませんでした。本論文は、メラミンによる卵巣のダメージを初めて示したものです。

環境ホルモンや環境汚染物質の生殖機能におよぼす影響について、これまで多くの論文を紹介してきました。メラミンは環境ホルモンではありませんが、プラスチックの製造に必要な物質です。人類の日常生活を快適にするために考案された物質が、人類の生殖機能を低下させているという事実に目を向けなければならないと思います。

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)については、下記の記事を参照してください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」
2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?」
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク」
2014.11.4「環境ホルモンは黄体機能不全の原因」
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症」
2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?」
2015.5.22「トリクロサンによる妊孕性低下」