組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISOマネジメントシステム認証制度がある。

 

このISOマネジメントシステムについて、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。

 

今回のテーマは、「ISO14001認証を返上する理由」について。

 

国際標準化機構(ISO)は、マネジメントシステム規格の認証件数の調査「ISOサーベイ」を実施しています。

少し情報が古いですが「2016年」の世界の認証件数は、1,644,357件と、2015年(1,520,368件)を少し上回り、約8%増加しています。

(調査対象のマネジメントシステム認証:ISO 9001、ISO 14001、ISO/TS 16949、ISO 13485、ISO/IEC 27001、ISO 22000、ISO 50001、ISO 22301、ISO 20000-1、ISO 28000、ISO 39001)

 

この中でも、多くの人になじみの深い「品質マネジメント」(ISO9001)、「環境マネジメント」(ISO14001)、「情報セキュリティマネジメント」(ISO/IEC27001)の2016年の具体的な数字は以下の通りです。

 

【2016年の世界の認証件数(国別トップ5と日本)】

ISO9001

1位:350,631件 中国

2位:150,143件 イタリア

3位:66,233件 ドイツ

4位:49,429件 日本

5位:37,901件 イギリス

 

ISO14001

1位:137,230件 中国

2位:27,372件 日本

3位:26,655件 イタリア

4位:16,761件 イギリス

5位:13,717件 スペイン

 

ISO/IEC27001

1位:8,945件 日本

2位:3,367件 イギリス

3位:2,902件 インド

4位:2,618件 中国

5位:1,338件 ドイツ

【世界の認証取得件数(全世界の件数)】

ISO9001

2015年:1,034,180件

2016年:1,106,356件(前年比約7%増)

 

ISO14001

2015年:319,496件

2016年:346,189件(前年比約8%増)

 

ISO/IEC27001

2015年:27,536件

2016年:33,290件(前年比約21%増)

 

直近データではありませんが、マネジメントシステム認証件数は、全てのマネジメントシステム規格を世界レベルで捉えると、上昇傾向にあるようです。

また、規格の初リリースから20年以上経過した老舗規格ともいえるISO9001(1987年)、ISO14001(1996年)も微増ですが、いまだに取得件数が増えているということは、ISO認証制度度が「組織経営の仕組みの信頼性を保証する役割」として世界的に定着している証といえるのかもしれません。

 

ただ、一般的には、日本国内では、この10年近く、ISO9001や14001に限っては、認証件数が「横這い」あるいは「下降気味」という認識で各認証機関は捉えています。

実際、国内認証機関に勤務する知人たちに聞いても、QMS、EMSは「新規登録もわずかにあるが、認証を返上するところもあるので、件数的には、ほぼプラマイゼロ」と口を揃えます。

したがって、多くの認証機関は、

・他のマネジメントシステム規格(例:食品、自動車、航空宇宙)を伸ばす

・グローバル企業の各国のQMS、EMS認証を取りまとめ一括で認証する

といった方向で売り上げを伸ばす戦略を取っています。

 

さて、EMS認証ですが、「認証返上」する組織の主な理由を挙げてみます。

・省エネ、省資源が組織内に定着し、数字的にも伸び(削減)が望めない

・認証維持に対する労力、コストがかかり費用対効果がない

・EMSの認証に対する世間的な認知が低い

・審査のマンネリ化から認証機関を変更してみたが、あまり変化がない

・・・

といった理由が多いようです。

 

《省エネ・省資源はやり尽くして、もうやることがない》

これは、よく聞く話です。

確かに、10年以上、環境に組織として取り組んでいれば、「総量を減らす」ということに関しては「もうやることがない」となっているでしょう。

「環境対応型商品を設計する」、「環境負荷削減につながる製品やサービスを企画する」、といった業態の組織なら「環境負荷削減としてやるべきネタ」はありますが、ルーティンワークが多ければ、「もうネタがありません」というのは当然かもしれません。

 

「業務のミス・ロスを減らし、業務改善により効率を上げる」活動も「環境活動」ではありますが、「品質改善」、「安全管理」、「顧客満足度向上及び苦情対応」として実施しているので「これも環境活動ですよ」と組織に伝えても「なかなかピンと来ない」ようです。

 

《認証のための活動に労力が掛かる》

大企業であれば、環境経営は「コンプライアンスの一環」として、CSR部門や環境部門として専門部署があり、環境経営を促進するノウハウも引き継がれていきます。

しかし、中小零細企業では、専門部署は無く「兼務」あるいは「万年事務局員」という方が多く、その方が異動や退職すると引き継いだ人は、管理ノウハウがなく「お手上げ」なのです。

そもそも、マネジメントシステムは「属人的な業務をできるだけ標準化する」ことが基本ですが、「環境事務局業務の属人化」により、担当者がいなくなると「もう誰も環境事務局業務がわからない」という事態が起きるのです。

 

《ISO14001など環境マネジメントシステムに対する社会的認知が低い》

これは、業界として「頭の痛い問題」です。

大企業は、前述したとおり「コンプライアンスの一環としてISO14001に取り組むのは当たり前」という状況が醸成されています。

実際、例えば、環境事故を発生させた場合「仕組みがない組織」、「仕組みがある組織」では、その後の社会の捉え方や警察・消防など関係行政の組織に対する行政指導の程度が変わってくるようです。

しかし、中小零細の場合は、例えば、「公共調達の基準になる」、「取得していることで顧客や消費者からの信頼が高まり売上が伸びる」といった「現世利益」に繋がらなければ、どうしても「認証を維持する意味があるんだろうか」という発想に経営者はなるのでしょう。

 

以前、公認会計士の方と話をしていたら、「証券市場の世界では、上場審査の条件にISO認証を導入するかもしれない」という話が出ていた時期があったそうで、個人的には、相当期待していました。

しかし、その後、この話題はあまりあがって来ないようで残念です。

 

話題は全く変わりますが、多くの人が、他人から褒められてやる気が出るように、ISO認証も、世間からの認知度が高く成れば、中小企業も「よし頑張ってみよう」となると思います。

しかし、私の知る限り、国内のISOマネジメントシステムの関係者は、政治家、経済界、中央官庁あるいは、国際戦略としてIAF(国際認定フォーラム)とのパイプが薄いんです。

なんとかならないものかな、と思います。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ708号より)

 

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