ゴルフ直線打法 -24ページ目

「腕がヘッドを後ろから押す」

部屋に散乱するネットの情報を印刷した紙を整理する中に、「ゴルフは押しのゲーム、引きのゲームではない」という、ジョニー・ミラーの短い文章を「再発見」しました。この文章はもともとGolf Digest, April, 2001に載ったものです。一年余り前の印刷で、すっかり忘れていたものです。

その内容の大要は、ダウンスイングは左腕先行の引きの動作とされて来たが、それに疑念を抱き始めたというものです。ダウンスイングの終期には、スイングアークを最大化してクラブを目標線に添って運ぶために、両腕はできる限り遠くへ早く伸ばされる、としています。

最後に、これは押しの動き(pushing motion)であり、引きの動き(pulling motion)ではない、と締めくくっています。(COPY RIGHT 2001 New York Times Company Magzine Group, Inc. COPY RIGH T2001 Gale Group)
(http://findarticles.com/p/articles/mi_m0HFI/is_4_52/ai_72006634)

これは前回の「左前腕スピネーションの功罪」(08-02-18)の中の、「両脚腰の踏ん張りでダウンを実行すれば、グリップが右脇前に引き下ろされ、左グリップの背中がボールを狙う体勢でインパクトに入ります。この形の動きでインパクトに入ると、伸び切った両腕がヘッドを後ろから押す体勢に入ります。昔のスイング理論では、考えられない動きです」という記述を裏書きします。

ジョニー・ミラーが如何に優れたゴルファーであったかは、インターネットで検索すればすぐ分かります。1996年には「世界ゴルフ殿堂」(World Golf Hall of Fame)に入っています。手許にある「普及版 アメリカ打法」(ジム・フリック ディック・オールトマン共著 金田武明訳・解説 実業之日本社1979年)には、彼のスイングの連続写真が良い例として掲げられています。

ところが、この本の著者らは、ボールを投げる形の右手、右腕の動きを嫌い、ミラーのスイングは左手、左腕の引きの動きが支配する、教科書的な例であるとしているのです。連続写真では、ミラーのバックスイングは、両足踵が地面を押す「螺旋」型の動きに見えます。しかしダウンでは両膝の横移動が大きく、両足は「回転」の動きに入っています。これは引きの動きを生みます。

ゴルフの解説者あるいは指導者としての経験を重ねる中に、時代とともにミラー自身のダウンスイングの見方に変化が生じたのかも知れません。前述の2001年の記事でも、「それに疑念を抱き始めた」(I’ve begun to wonder about that.)と、過去形ではなく現在完了形が使われています。

このように見ると、この「押しの動き」を構造の視点から確定した「核心打法」は、まさしく現代の打法と言えるのではないでしょうか。それとも、これも我田引水なのでしょうか。そこで次回は、マクリーンのフラット・スポットの話を検討しながら、更に「核心打法」の特徴を明らかにする話を続けることにします。

左前腕スピネーションの功罪

体の横回転でクラブを振ると、クラブはこれに引かれて動きます。この形のダウンでは、フェースが外を向いてボールに近づくことになります。そこで、遅れて来るヘッドをインパクトに向けて加速する必要が生まれます。アル・ガイバーガーの動きでは、足の「回転」の動きがこの加速を実現することを見ました。

これをリスト(手首)の動きと見ると、いわゆるリスト・ターンになります。リスト・ターンの動きは、前腕の左回りの動きが生み出します。この時、左腕の動きに注目すると、インパクトで左前腕を外向きに回す、スピネーション(回外)の動きが重視されることになります。「モダン・ゴルフ」ではこの動きが詳しく議論されています。

さて、「左前腕スピネーションの功罪」という今回の話題ですが、スピネーション自体に功も罪もないわけで、左前腕回外の動きをインパクトと結び付ける見方に、疑問を投げかけているわけです。この見方は、一時代前のスイング理論を特徴づけるものと考えられるのです。

そもそも、遅れて来るクラブを、リスト・ターンの動きで加速してインパクトに入る、という基本的な考え方が問題なのです。スイングの目的から見れば、ジェイコブスの指摘の通り、インパクトでは、フェースを目標方向に向けて保つことが最重要の動きなのです。

このように考えると、ダウンでヘッドの加速を実現し、インパクトでは、このヘッドのスピ-ドを維持しながら、動きの方向確保を確保すると考える方が、遙かに合理的です。この考えに従えば、ダウンの最初にリスト・ターンを実行すればよいのです。結局、ダウンに入る時に、両前腕を左回りに回せばよいことになります。

そこで、この両前腕左回しの動きを実行しながら、ダウンに入る動きを作ってみます。すると、例のオーバー・ハンド型の右腕の動きが現れます。これと同時に、左の手首が外側に反る形になり、グリップがボールを狙う体勢に入ります。ここから両脚腰の踏ん張りでダウンを実行すれば、グリップが右脇前に引き下ろされ、左グリップの背中がボールを狙う体勢でインパクトに入ります。

この形の動きでインパクトに入ると、伸び切った両腕がヘッドを後ろから押す体勢に入ります。昔のスイング理論では、考えられない動きです。もちろんインパクトではリストが固定されて振り抜かれます。難しいインパクトのリストの動きが消え、極めて単純な、しかも脚腰が生む力強い動きでヘッドが押されます。

こうして、固くて重いシャフトのクラブの特性が完全に生きる形のスイングになります。引いて打つ動きには、シャフトの撓る動きが望まれるわけですが、押して横から打つには、重くて固い木刀のようなシャフトでもよいわけです。クラブの力学的な見方にも影響することになります。

「左前腕スピネーション」侮るべからず、です。

ジェイコブスのスイング論

ワシントンD.C.で働くアメリカの友人が送ってくれたThe SECRET of GOLF(George Peper, Workman Publishing, 2005)という本が手許にあります。この本では過去百年間の様々なゴルフ習得法が紹介されています。久しぶりに開くと、著名なゴルファー、ジョン・ジェイコブス(John Jacobs)のPractical Golf(Quadrangle New York 1972)という本の解説が目に入りました。

このジェイコブスは、例の「一平面型」「二平面型」の議論を展開したジム・ハ-ディーが学んだ教師でもあります。この紹介記事では、「秘密」としてフェースの角度、スイング軌道、ボールに近づく時の角度、ヘッド・スピードなどインパクトの幾何学を理解せよ、という言葉が掲げられています。、これでボールの飛び方を読み、ミスを分析し、欠点を修正できると言うのです。

更に、この幾何学はメンタルなもので、ひげを剃りながらでも、通勤途上でも、自分がボールを打つ時に、ボールがどう飛ぶかを考えればよいのだ、としています。これはまさしくイメージの重要性の指摘です。クラブを振るだけでなく、動きのイメージを固める必要があることを指摘しているわけです。

この指摘と共に、ヘッドの様々な軌道の図があり、ストレート・ショットでフェースが正しく目標方向に一致する様子も描かれています。しかし、このインパクトの動きを実現する、ヘッドの直線的な動きを生む仕組みの説明は見当たらず、まず各人のスイングの軌道の型を実験的に確認せよとしています。その上で対応を考えよということでしょう。

最終的には、ヘッドの軌道を、インサイドから真っ直ぐ、次いでインサイド、という形にすることが勧められています。直線的な走りの区間は何インチというような、ごく短いもの(a matter of a few inches)であり、いくつかの本が示唆するように、何フィートも目標線に沿って振る必要はないとしています。肩と腕の二つの動きが生み出す軌道が交叉する一点でボールを打つという、ハーディーの「二平面型」の動きは、この見方を具体化するものですが、タイミングが問題になります。

インサイドからインサイドへの軌道上の一点でインパクトの方向性を確保するには、安定したスイングの構造が固まっている必要があります。その意味では、上手なゴルファーには有効な指摘ではあっても、スイングを固めることに苦労している普通のゴルファーには難しい話になります。これが一時代前のスイング理論の特徴です。

これからおよそ四半世紀後に、著名なゴルフ教師ジム・マクリーンが、ドライバーのインパクトを成功させるために、フラット・スポット(平坦箇所)の議論を展開しています(GOLF MAGAZINE April 1998)。その内容は機会を見て検討しましょう。

真っ直ぐヘッドを押す「核心打法」は、これより更にパワフルなスイングを実現します。次回にはその特徴的な動きの構造を確認します。

膝の動きの重要性:続

前回の話は、これまで避けて来た、「反魔法型」の動きで振るスイングの構造を固める試みでした。これと対比することで、「核心打法」の特性も一段と明確になります。伝説の59打者アル・ガイバーガーや、歴史的に権威のあるベン・ホーガンの打法に対立する形の「核心打法」ですから、動きの構造の詳しい議論が必要になります。

腕と脚腰を固め、足の「螺旋」の動きで振る「核心打法」の場合にも、「深いトップ」への動きで膝の状態に変化が生まれます。それまで右に引かれていた膝に、左に引かれる動きが現れます。この体勢からのダウンとインパクトの直線的な左への引き抜きの動きが、膝の動きで決まります。これは微妙な動きですから、推測と実験の組み合わせで話を進める以外に方法はありません。

ダウンの動きはグリップを右脇前に引き下ろす動きで、これには両脚を踏ん張って踵を押します。この動きで右に下りる腕にバランスする形に腰が左に引かれ、ここで膝がロックします。この動きで腰が引き止められ、膝が僅かに前に引かれてグリップが前に押し出されます。これで足先に力が掛かり、両足が地球を右に押す動きに入りこれで腕が左に引かれてヘッドを押し抜きます。

これらの動きでは、踵で地面を押す動きと共に緊張する腸脛靱帯や、尻の下背部の緊張で背骨を正面向きに固定する深層外旋六筋の活動があることは既に見てあります(「脚腰の動きの微細構造」(08-02-13))。前回に検討した、両足の「回転」の動きで実行する「反魔法型」のダウンでは、これらの筋群の緊張は感じられません。

「核心打法」の動きでは、刻々の動きの転換点(一つの動きの限界)で、両膝の動きに伴う脚腰の反射的な動きが現れ、最後に腕の左への引き抜きの動きが現れます。「火事場の馬鹿力」が効果的に利用されるわけです。こうなれば、少ない筋力の持ち主でも、予想以上の飛びが期待できることになります。

この動きの転換点では、一種の不連続性が現れるわけで、「反魔法型」のスイングのように、滑らかに腰を回し切る動きではこの力は発生しません。

話がうますぎると思う人は、ゆっくりそれぞれの膝の動きの転換点と、対応する両腕の動きを確認してみて下さい。明確な動きの仕組みと、これによる腕の動きが確認できる筈です。こうして予期した効果が実際に得られることを、実際にクラブを振って確認すれば、これらの動きの説明も納得できる筈です。

ここで注意すべき点があります。これらの細かな動きの確認に熱中する中に、陰の主役、背骨の動きが意識から消えることです。これにつては、また機会を見て検討することにします。

膝の動きの重要性

一頃前のゴルフ雑誌には、膝を使う動き、いわゆるニー・アクションの話がしばしば登場しました。この場合も、スイング面と同様に、ニー・アクションとは何かが明瞭に定義されないまま、それぞれの人が適当に解釈していたように思われます。そこで、成功する人もいれば、これを考えることで却って上手く振れない人も出るわけです。

ニー・アクションでクラブが振れるわけではありません。クラブを強く振るには、脚腰の動きでクラブを振る上体の動きを作る必要があります。膝の動きの重要性は、これが脚腰の動きと地球との繋がり方を決めることにあります。膝の体勢によって、脚腰の動きの効果が変るわけです。

アル・ガイバーガーは、脚はボディーの回転と腕の振りができるように動くと言っています。ボディーの回転となれば腰も回ります。腰を回す動きでクラブを振ると、自然に足の「回転」の動きが現れ、両膝がバックで右にダウンで左に引かれ、バックで左足踵、インパクトで右脚踵が浮きます。この動きの感覚に慣れると、今更膝の動きを考える必要があるのかと思うかも知れません。

ところが、この場合でも、トップの切り返しの動きに注目すると、ここで膝の体勢の切り換えが起きることに気がつきます。よくよく注意して見ると、インパクトの辺りでも、膝に微妙な動きの変化が現れることが分かります。

足の「螺旋」の動きで振る「核心打法」の膝の動きは次回に回し、ここではこれまで避けて来た、腰の回転すなわち足の「回転」の動きで振る、アル・ガイバーガー型の、いわば一時代前の、スイングの構造を追ってみます。まず明瞭になるのは、足の「回転」で振ると、腕の動きが「反魔法型」になることです。

これを確認するには、アドレスの構えから、左足先内側で地面を左に押してみます。これで左足が縦の軸回りに右に回る「回転」の動きが現れます。この動きで右足先も右に回る「回転」の動きが現れます。この動きが強まると左足踵が浮き上がって腰が右に回ります。この動きで、右足先内側で体重を受ける形になり、トップに入れる動きと共に両膝が左に引き戻されます。

ここまでのバックスイングの動きでは、両腕が「反魔法型」に右回りに回り続けます。ここから、足先を左回りに回す「回転」の動きでダウンの動きを実行すると、インパクト時点で右足先内側と左足先外側に力が掛かる「回転」の動きが現れ、両膝が左に引かれると共に一瞬両前腕が左回りに回ります。注意して見ると、足の「回転」の動きで、この前腕の動きが現れることが分かります。

この観察結果から、ホーガンの重視した、インパクト圏での左前腕のスピネーション(回外)の動きは、このインパクト時点での両足の「回転」の動きが生むことが分かります。結局、アル・ガイバーガー型のスイングでは、両足の「回転」という基本的な動きが、「反魔法型」の腕の動きと、インパクトの膝の動きを引き出していると見ることができます。

ゴルファーは科学者?

1977年に1ラウンド59という記録的なスコアで回った、アル・ガイバーガーの著書TEMPO(Golf Digest/Tennis, Inc, 1980)が手許にあります。その第六章には、脚の動きが他の何ものよりも先行する。足の動きは本能的なもので、そうでなければ倒れてしまうと指摘しています。これは全く正しい指摘ですが、もちろんこれだけではゴルフのスイングにはなりません。

そこで、体の他の部分の動きと繋げて、スイングの動きの流れの中での、脚の動きが詳しく説明されています。ここでは腕や胴体を含む体全体の動きが関係します。こうなると、体全体の動きの作り方が分からなくては、脚の動きが決まらないことになります。

ベン・ホーガンの「モダン・ゴルフ」の他に類例を見ない優れた点は、スイングの研究法をゴルファーの立場から科学的に論じていることです。その基本的性格は、脚の構えと姿勢を論じた第二章の出だしの説明に良く現れています。そこではスイングの追求を、手懸かりを見つけてはこれを検討するという努力の積み重ねで仕事をする、探偵の仕事に例えています。

「目が人を騙す」(08-02-10)に登場した、優れた探偵の典型シャーロック・ホームズの活動は、T.A.シ-ビオクによって、科学的な推論法の先駆的研究者C.S. パースの動きに対比されています。ホーガンはまさしく探偵の活動を引き合いに、スイングの研究は科学的に進めなくてはならないと言っているのです。

グリップの決め方を始め、一つの動きに関係する体の各部の動きを、詳しく検討し記述することで話を進めています。これはまさしく「構造的」にスイングを捉える試みです。ホーガンの言うように、ゴルフは人間の中に潜む科学者を表に引き出し、手懸かりになる動きを一つ一つ検討し、その実用性を確認して進むようにするのです。

ところが、ここで最も重要な仕事は、これはと思われる手懸かりを見つけ出すことです。これは、その辺の草むらを探し回って見つけ出すような探し方ではなく、こうではなかろうかと自分でそれらしい「仮説」を作り出す必要があります。一旦仮説が出来上がれば、その実用性の検討に進むことになります。

スイングの場合には、対象になる体の動きの仕組みがあまりにも複雑で、このような「仮説」をイメージの形で提示しなくてはなりません。この場合には、実用上十分に明確な「部品」の組み合わせでスイングを構成し、全体としての働きを調整し確認する、という手順が必要になります。

実験的に動きを確認できる「部品」を確定し、これらの組み合わせでスイングを作る、というのがスイング構成の科学的方法でしょう。検討して来た「微細構造」は、このような「部品」の役割を果たします。アル・ガイバーガーのスイングの構造も、その構成要素を確定すれば明瞭になります。次回にはこれを試みます。 

脚腰の動きの微細構造

ダウンからインパクトの動きの話を続けます。「反魔法型」の腕の振りはタイミングが問題になる難しいスイングの動きに導くことが分かったので、今回は「魔法型」の話に限定します。

以前の検討では、ダウンからインパクトの動きの中で、体の正面を引き戻す動きは腸脛靱帯の働きで捉え、正面固定の動きは深層外旋六筋の働きで捉えていますが、これは面倒な仕組みの動きの話になります。(「主なパワー源:背骨を右後方に押し伸ばす動き」(08-01-26)、「尻で振ると腹で振るの違い」(07-12-26))。

そこで今回は、この腸脛靱帯と深層外旋六筋の働きを体感的に簡単に捉えることを試みます。もちろん素人の思い込みで捉えたものですから、「客観性」の保証はありません。その上実際の脚腰の動きにはこれら以外の沢山の筋が関係します。しかし、これらを一々考えていては動けません。そこで誰にも簡単に確認できる動きを体感的に捉え、これをダウンからインパクトの動きの中で確かめることを試みます。

腸脛靱帯の働きについては、脚の側面に手の平を当てて歩けば、踵で地面を押す動きと共に緊張するのが感じられます。深層外旋六筋は骨盤や背骨の下背部を大腿に繋ぐ深部の筋ですから、簡単に手で触れることはできないと思われまが、左手を左尻の下背部に当てて歩くと、ここが瞬間的に緊張するのが感じられます。

そこで、この尻の部分を緊張させないようにして踵で地面を押してみると、上体が左に動いてしまうことが分かります。これに対して、尻の下背部の緊張を加えると、背骨が正面向きに固定される形になります。

これらの動きの感覚は、ダウンの足腰の動きや、インパクトの振り抜きの両脚腰の踏ん張りの感覚とよく対応します。というわけで、この簡単な実験で、腸脛靱帯の緊張と足の「螺旋」の動きとの繋がりの仕組みが体感的に捉えられます。何よりも、インパクトの瞬間の「体の正面」を固定する両脚腰の踏ん張りを体感的に確認することができます。

散歩の折に尻に手を当て、その緊張感を試してみるのは如何でしょう。直接の実効性はなくても、これで「違いの分かるゴルファー」に一歩近づくのでは?

構造的知識の有効性

前回に続くアメリカ人将校と会話ができた理由の話ですが、英語の先生がネイティブな発音をしていたわけではなく、英語の発音記号とこれに対応する口の形のエックス線写真を示すカードを使い、当時中学2年生の発音を全面的に矯正したのです。これで、おぼろげながらもアールとエルの発音の違い、あるいはアップルのアは口を平らに拡げるなどのことを覚えました。

この構造的な知識を実際の発音動作になじませることで、戦前の日本で育ちながらも何とかアメリカ人と話の通じる英語の力が身に付いたのです。まさしく人工英語です。子供の頃からゴルフに親しむ環境に育った人以外の普通のゴルファーは、同じように体の動きの構造的な知識をベースにして、動きを作る努力が必要なのだろうと思われます。

そこで例の「体の正面」を捉える問題です。話が固くなりますが、そもそも「体の正面」とは何でしょう。目標線に合わせるアドレスの構えでは、体の正面はクラブを振る方向に直交します。クラブを振る方向が決まらなければ「体の正面」も決まりません。結局、一定の方向にクラブを振る体の仕組みが「体の正面」を決めることになります。

アドレスの構えで右手を握り、拳を固めて肘を伸ばすと、腕が固まって脚腰が緊張し、膝が固まります。この体勢で拳を右に引こうとすると、体が右回りに回り、腕が内側に回りながら右脇前まで引かれて止まります。ここから脚腰の踏ん張りで拳を左に引き戻そうとすると、拳が一旦前に押し出されてから左へ直線的に引かれます。面倒ですがこの動きを確認して下さい。拳から足先までしっかり繋がり、体には少しの緩みもありません。

この微小スイングの動きを注意深く観察すると、バックで体の正面が僅かに右に回り、これを正面に引き戻す動きで拳が右脇前に突き出され、そこで体の正面を前向きに固定する脚腰の踏ん張りが現れて、拳が左へ直線的に引かれる仕組みが見えます。詳しい話は次回に回し、これらの動きを纏めて体感的に捉えると、両足の「螺旋」の踏ん張りで振る、となります。そのつもりで動きを試してみて下さい。両脚腰の踏ん張りが体の正面を作り出すことが分かります。

これに対し、右腕を外側に回してバック、内側に回してダウンからインパクトの振り抜きの動きを実行すると、右拳は体の右側でループを描き、バックの動きと対称なインパクトの振り抜きになります。この時足の動きは「回転」になり、体の正面を固定する動きは現れません。タイミングが問題になる難しい打法になります。

山勘でクラブを振り続けていると、通じない流暢な英語と同じ形の危険が生まれます。人のスイングを見て動きを勝手に解釈しても、実戦では通じない動きになる危険が生まれます。面倒でも、エックス線写真を通して見るように、脚腰背骨の動きの仕組みをイメージで捉え、これに繋がる肩や腕の動きとの対応を確認するのが近道になります。

耳も人を騙す?

前回の「目が人を騙す」の話では、体の正面から左拳(こぶし)を右の遠くへ伸ばし、ここから左の遠くへ一気に振ると体の正面に相当する位置が左に移ることから、左右対称の教えも目の騙しではないかという疑問が浮かび上がりました。この疑問に答えるには、動きの理解の仕方について考える必要があります。

そこで今回は「耳も人を騙す」という話を取り上げて、この問題を解く鍵を提示します。「目が人を騙す」と同様、甘い話し方には騙されるわけで、この場合も自分の思い込みが生み出す誤解が関係します。この誤解の危険を避ける方法の話が今回の目的ですが、まずこの問題を身近に感じさせる経験について書きます。

ある国際研究集会で、日本人研究者の発表を聴く機会がありました。もちろん英語での話です。立て板に水を流すように流暢な発音で話し続けます。聞いていると、これに比べ自分の英語は何とみすぼらしいことかと、情けない気分になります。

ところが、隣に座っていたアメリカの友人が突然顔をのぞき込み、お前は彼の話が分かるかと聞きます。ますます情けない気持ちになりながら、分からないと答えると、彼がニヤッと笑い、俺にも分からないと言うのです。これで納得しました。この日本人の英語は日本人風、あるいは日本語風の流暢さだったのです。これは嘘のような本当の話です。

日本人が初めてアメリカに出かける時に苦労するのが発音です。中でも「思い込みの怖さ」(08-02-06)のオペラの話のように、日本語風に使われている言葉が問題になります。バニラ・アイスクリームのバニラが、殆ど通じないのです。逆に、英語の表現を輸入して日本人がゴルフの話をしても、その内容が正しく捉えられない場合もあり得るわけです。

「思い込みの怖さ」(08-02-06)に続き、何故ここでまた英語の話が出たのかと、納得できない気分の人がいるかも知れません。それ以前に、そもそも戦時中の日本に育って、戦後初めてアメリカの将校と話した時に、英語が通じたという話は本当かと疑う筈です。これは全く恩師であった英語の先生のお陰だったのです。

一般に言葉の曖昧さの困難は、言葉の指し示すものの内容を、誰にも分かるものを使って表現することで避けることができます。英語の発音を確認する場合にもこの考え方が役に立ちます。同じ考え方はゴルフの動きの確認にも適用できる筈です。

次回は、先生が英語の発音を「構造的」に教えたこと、同じ構造的な見方が「体の正面」を保つ仕組みを明瞭に捉えることなど、具体的な内容について話します。

目が人を騙す

データから有効な情報を見つけ出そうとする人達に対する警句として、これまで「目が人を騙す」という言葉を言い続けて来ましたが、前回の「円周イメージを打ち破る」(08-02-09)も、目の騙しの効果を打ち破る方法の話だったのです。

物を見る時の危険として、「目が人を騙す」以上に、「人は見たいものを見る」ということがあります。こうではなかろうかと思うと、それを裏付けるように目に入るデータを扱ってしまうのです。ゴルフの場合もこれが多く、何かの「理論」を聞いたり読んだり思い付いたりすると、人のスイングをこの見方で解釈するようになります。

「目が人を騙す」という危険をこのブログで強調しても、テレビの「有名人」の言葉とは違い、多くの人の注意を引くことはなさそうです。そこで虎の威を借りる狐の諺に従い、この言葉を裏付ける有名な人の発言を引用することにしました。この人はシャーロック・ホームズです。

コナン・ドイルが生んだ、優れた探偵の典型シャーロック・ホームズには、「明白な事実ほど人の目を欺くものはない」(”There is nothing more deceptive than an obvious fact.”)という言葉があります。科学的な推論法の議論を展開したC.S. パースとホームズの話を対比した「シャーロック・ホームズの記号論」(T.A.シービオク J.ユミカー=シービオク著 富山多佳夫訳 岩波書店1994年)に、この話が取り上げられています。まさしく「目が人を騙す」というわけです。

スイングの「左右対称イメージ」もその一例です。レッドベターの「100パーセント・ゴルフ」(塩谷紘訳 新潮社)には、バックとインパクトの動きについて、「体を捻る動作とコイルをほぐす動作は、驚くほどの左右対称図を描く」とあります(58頁)。左腕は左右、右腕は上下、という「革命的イメージ」は、これに真っ向から対立しますが、これを具体化しようとすると、左右対称イメージが忍び込みます。

体の正面から、左拳(こぶし)を右の遠くへ伸ばすバックの動きでは、腕は自然に外側に回ります。左の肩と腕の「魔法の動き」です。問題はここから拳を左の遠くに運ぶ動きです。拳を左の遠くへ一気に振ると、肘が伸びて左腕が外側に回ります。この時、拳の動きはバックの動きとは対称にはならず、体の正面に相当する位置が左に移ります。微妙な動きですから、自分で実際に試してみて下さい。

ボールを打つ動作としてこの左腕の動きを実用化するには、「左右対称イメ-ジ」を打破する必要があります。これは大変な仕事で、これが「核心打法」実用化の鍵になります。この鍵を「体の右側で振り切る」というイメージが与えるのです。スイングは円周とは言わなくても、インパクトを左右対称の動きと見るのは、多くの指導者が教えて来た見方です。今の実験の立場からは、これも「目は人を騙す」実例になりそうです。