[大和国宇陀郡] 宇太水分神社 中社(上の宮) 




■表記

*紀 … 速秋津日命(ハヤアキツヒノミコト)
*記 … 速秋津比古神・速秋津比売神
記においては速秋津比古・速秋津比売とが対で記されるが、紀では「水門神 速秋津日命」として一くくりにする。
*「先代旧事本紀」陰陽本紀 … 総称して水門神(ミナトノカミ)、速秋津彦神(速秋田命、兄)、速秋津姫神(妹)
*「延喜式」祝詞 六月晦大祓 … 速開都咩
*「大祓詞」 … 速開津比売


■概要
イザナギ、イザナミ神による国生みのあとの神生みによって生れた神々のうちの一柱。「水門神(ミナトノカミ)」。

◎紀の第五段 一書 第六の記述
━━又生海神等號少童命 山神等號山祇 水門神等號速秋津日命 木神等號句句廼馳 土神號埴安神 然後 悉生萬物焉━━

伊弉諾尊と伊弉冊尊は大八州国(おほやしまのくに)を生んだ後、それが朝霧に包まれていることを嫌い級長戸邊命(級長津彦命)を生んで吹き飛ばしました。そして伊弉諾尊はお腹が空いたと言って倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)を生み、その後に続くのがこの記述。大八州国の「国生み」に対して、これ等は「神生み」として一般に理解されています。
そしてこの場面では「悉く万物の神が生まれた」と記しています。
*海神 → 少童(ワタツミノカミ)
*山神 → 山祇(ヤマツミ)
*水門神 → 速秋津日神

◎「大祓詞」(神社本庁による例文より)
━━荒󠄄潮󠄀(あらしほ)の潮󠄀の八百道󠄁(やほぢ)の八潮󠄀道󠄁(やしほぢ)の潮󠄀の八百會(やほあひ)に坐ます速󠄁開都比賣と云ふ神 持ち加加呑みてむ━━ 

「たくさんの激しい潮流の水路の会するところに坐す速開津比売という神が、すべてを飲み込む」といった意味合いでしょうか。


◎以下Wikiから引用。
━━「水戸神」とはすなわち「港」の神の意味である。古代の港は河口に作られるものであったので、水戸神は河口の神でもある。川に穢を流す意味から、祓除の神ともされる。神名の「ハヤ」は川や潮の流れの速さを示し、かつ、河口の利用は潮の流れの速さに左右されることから出た神名とみられている。また、「アキツ」は「明津」で、禊によって速やかに明く清まるの意とする解釈もある━━

「國學院大學 古典文化事業 神名データベース」が示す梗概を付加すれば…
・「速」は神威の盛んな、潮流の速いこと
・「開」(秋)は河口が開いていること、口を開けて呑み込むこと
・「津」は「港」の意
以上の説を列挙しています。

これについては祓戸四神(瀬織津比賣・速󠄁開都比賣・気吹戸主・速佐須良比賣)による、一連の「禊」を「祓」流れによって解釈されねばならないかと思います。

即ち、高山低山の頂から勢いよく流れ落ちるすべての罪を瀬織津姫比賣が海原へと流し、荒潮に揉まれるそのすべての罪を速󠄁開都比賣が呑み込み、海底の根の国・底の国の門番の気吹戸主がそれを地底へ吹き祓い、それを悉く速佐須良比賣が受け取りどこへともなく持ち去り封じる…四段階に渡る華麗な連携プレーが行われるという観念がそこには成立しています。

「水門神」について細部まで突き詰めると、河口に坐す神であるのか、「大祓詞」にあるように水路の会するところに坐す神であるのか、差異がみられます。
「住吉大社神代記」(天平三年・731年)には「六月解除(げじょ) 開口水門姫神社」(開口神社)と、「解除」即ち後の「大祓」に繋がる記載があります。この事から「水門神」とはやはり「祓」にまつわる性格を持つ神であると捉えてよいのかと思われます。


■系譜
上述のようにイザナギ神とイザナミ神の間に生まれました。
◎速秋津比古神と速秋津比売神の間には、河口に関係のある四対八神が生まれています。
*沫那藝神(アワナギノカミ)・沫那美神
*頬那藝神(ツラナギノカミ)・頬那美神

*天之久比奢母智神(アメノクヒザモチノカミ)・国之久比奢母智神
◎孫として櫛八玉神(クシヤタマノカミ)が記され、杵築大社(きづきのおおやしろ=出雲大社)の膳夫(かしわて)を務めたとされる


■祀られる神社(参拝済み社のみ)
[伊勢国度会郡] 宇治神社(記事未作成)
[近江国栗太郡] 佐久奈度神社
[大和国山邊郡] 都祁水分神社

[河内国若江郡] 彌刀神社
[河内国渋川郡] 都留彌神社
[紀伊国名草郡] 鳴神社


*配祀・相殿、主な境内社など
[大和国宇陀郡] 惣社水分神社(上社)

*その他関連社等
[和泉国] 開口神社


*その他各社境内の祓戸社で多数祀られています。


[近江国栗太郡] 佐久奈度神社


[河内国若江郡] 彌刀神社





*誤字・脱字・誤記等無きよう努めますが、もし発見されました際はご指摘頂けますとさいわいです。